Delo Truda


アナキスト総同盟組織綱領(案)


 このパンフレットは、1926年6月20日に、アルシーノフ・マフノ・イダ=メット・ヴァレフスキー・リンスキーといったパリに亡命中のロシア人アナキストのグループによって「デロ=トルーダ(労働者の大義)」誌に発表された。発表当時からマラテスタを筆頭に多くのアナキストから批判されてきたが、綱領主義アナキズム基本文献であるにも関わらず、テキスト全体の邦訳は今だにされておらず、テキストの検証をせずに批判だけをもって論じられていることが多い。このパンフレットの序文・その背景・綱領主義全般については、アナキズム誌第二号で日和佐隆氏が解説しているため、参照していただきたい。
 本邦訳は、英訳からの重訳であり、英文の原文はネストル=マフノ アーカイヴで読むことができる。これまでの英訳は仏語のテキストからの翻訳だったが、この英訳は露語から直接翻訳されており、翻訳に際しては仏語のテキストと露語のテキストを比較したものだという。(訳者)

組織論(Organizational Part)


アナキスト組織の諸原則

 上で提示した全般的な建設的立場は、革命的アナキスト諸勢力の組織綱領をハッキリと示している。

 この綱領は、特定の理論的・戦術的見解を中心に構築される。これは、組織的アナキズム運動の闘士全員が結集しなければならない最低限のことである。

 綱領の課題は、アナキズム運動の健全な諸要素全てを活動的で継続的に運営される一つの組織、アナキスト総同盟へと結集することである。アナキズムの活動的闘士は皆、自分の手腕をこの組織の創造へと向けねばならない。

 アナキスト総同盟の基本的な組織諸原則は以下の通りである。

1.理論の統一

 理論は、特定の目標に向けて特定の道筋に沿って、個々人と個々の組織との活動を導く力である。当然、これは、総同盟に参加した全ての人・全ての組織が共有しなければならない。アナキスト総同盟の活動は、大まかな部分であれ、詳細な部分であれ、同盟が公言する理論的諸原則と完全に一致していなければならない。

2.戦術の統一、もしくは集団的活動方法

 同盟内部の個々人やグループが用いる戦術上の様々な方法も同様に統一され、同盟全体の理論・戦術と一貫しているだけでなく、戦術それぞれも互いに厳密に一貫していなければならない。

 運動内部で全般的(共通の)戦術的指針を共有することは、組織と運動全体の存在にとって非常に重要である。相互に対立する様々な戦術の存在のために生じる混乱を運動から取り除き、特定の目標に至る共通の方向性に運動の全勢力を集中させるのである。

3.集団的責任

 個人の責任において行われる実践は、アナキズム運動集団の中では、厳格に糾弾され、拒絶されねばならない。

 革命的・社会的・政治的生活の領域は、現実に、大いに集団的である。こうした領域における公的な革命的活動が、単独の闘士の個人的責任に基づくことなどあり得ない。

 全般的アナキズム運動の執行機関−−アナキスト同盟−−は、無責任な個人主義戦術に決定的に反対の立場をとり、集団的責任の原則をその集団に導入する。同盟全体が、個々の同盟メンバーの革命的・政治的活動に対する責任を持つ。同様に、そのメンバー個々人は、同盟全体の革命的・政治的活動に責任を持つのである。

4.連合主義

 アナキズムは、常に、大衆の社会生活に関わる部分と政治的活動領域との双方において、中央集権型組織を拒否してきた。中央集権システムは、個々人の批判・発意・独立の精神を窒息させることに依存し、「中央」に対する大衆の盲目的服従に依存している。このシステムによる自然で必然的な結果は、一般的な生活と様々な集団での生活双方における奴隷性と機械化である。

 中央集権主義とは逆に、アナキズムは常に連合主義の原則を擁護し、防衛してきた。この原則は、個々人や組織の独立性を、共通の大義に対するその発意・貢献と組み合わせる。

 個々人の権利の独立性と十全性という考えを、社会的要件と本能のために行うことと組み合わせることで、連合主義は個々人の持つ能力全てを健全に表明できるようにする。

 だが、アナキスト集団において、連合主義の原則が歪められていることが余りにも多い。自分のエゴを表明し、組織に対する義務を無視する権利を主として意味していると受け取られていることが非常に多いのだ。

 この歪みは、過去、我々の運動の中に莫大な無秩序を引き起こしてきた。今や、きっぱりとこれに終止符を打つときである。

 連合主義とは、共通の目標を達成するために、集団的活動に対して個々人と組織全体とが自由合意することを意味する。

 従って、こうした合意とそれに基づく連合的同盟とは、いかなるものであれ、必須条件が満たされて初めて、現実のものに(紙の上だけではなく)なり得る。その条件とは、合意と同盟の関係者全てが、共に達した決定事項を担い、それを順守する義務を十全に引き受ける、ということである。

 いかなる社会的計画においても、それが構築される連合主義的基盤の大きさがどれほどであろうと、責任のない権利などあり得ない。丁度、使用される人々を抜きにして意志決定を行うことなどできないのと同じである。労働者とその社会革命に関して義務だけを自身に課すなど、アナキスト組織ではなおさら受け入れられはしない。

 その結果、連合主義型のアナキスト組織は、組織の全メンバーの独立性・見解の自由・私的発意・個人的自由の権利を認めながら、特定の組織的義務を個々のメンバーに一任する。こうした義務を正当に行い、共に決定した事項を実行するよう求めるのである。

 このようにして初めて、連合主義の原則は本領を発揮し、アナキスト組織は適切に機能し、自身が設定した目標に向けて動くのである。

 アナキスト総同盟の考えは、アナキズム運動の諸勢力全ての活動を調整するという問題を引き起こす。

 同盟に加入した個々の組織は、有機的組織体全体の一部の生細胞を意味する。それぞれの細胞は、その活動を促し、理論的・実践的誘導を行う事務局を個々に持つことになろう。

 同盟の加盟組織全ての活動を調整するために、特別な機関が同盟実行委員会という形で確立されることになる。この委員会に割り当てられる機能は以下のものとなろう:同盟の決定事項を委任されたとおりに遂行すること、同盟の理論的・戦術的方針全体に従って個々の組織の活動と理論的発展を監督すること、運動の全般的状態を監察すること、他の組織とだけでなく同盟の全組織間の機能的組織的結び付きを維持すること。

 実行委員会の権利・責任・現実的課題は、総同盟大会で規定される。

 アナキスト総同盟は特定の充分定義された目標を持つ。社会革命成功のためには、何にもまして、労働者と農民の中から、それに参加する最も重要かつ最も革命的な分子を選ばねばならない。

 階級社会の即時の破壊を求める社会革命を促す組織(同時に、反権威主義組織)として、アナキスト総同盟は、現行社会の二つの基本的階級−−労働者と農民−−に等しく依拠し、これら二つの階級の解放に向けた探求を公平に手助けする。

 都会の労働者による革命的労働者組織に関して言えば、アナキスト総同盟は、その先駆者・理論的助言者になるべく最大限の努力をしなければならない。

 アナキスト総同盟は、農民大衆に関わる際にも同じ課題を自身に課す。都会の労働者階級による革命的労働組合と同じ役割を果たしながら、基盤をなすために、革命的農民経済組織のネットワークを、そしてさらに、反権威主義の諸原則に基づいて構築される具体的な農民組合を作り上げるべく努力しなければならない。

 労働者大衆から生まれたが故に、アナキスト総同盟は、労働者の生活の全側面に参加し、常にそして至る所で、組織・忍耐・戦闘性・攻撃に出る意志という精神をもたらさねばならない。

 このようにして初めて、同盟は、その役割を全うし、労働者の社会革命におけるその理論的・歴史的使命を貫徹し、解放のプロセスにおいて最先端を切り開く組織になることができるであろう。


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