続・恋せよ乙女(前編)
あぁ、来ちゃったよ・・・
青子の目の前には目が潰れそうな程派手なネオンに彩られたイマドキのお店。
『イマドキ』がどういうものか、青子自身良く分かってないけど、多分『イマドキ』って言って構わないんじゃないかな、と思う。多分。ちょっと弱気。
隣に視線を動かせば、イマドキの美少女、蘭ちゃんの姿。
この前買っていた、シルバーの胸繰りの開いたトップ、千鳥格子のミニスカート、ヒールの高いサンダルを組み合わせて、びしっと着こなしている。
ああ、雰囲気は『美少女』じゃなくて、『美女』かもしれない。
もう大学生だもんね。
「さ、青子ちゃん。行こう!」
楽しげにスキップでもしそうな勢いで蘭ちゃんが店の中に入っていく。
青子の右手は蘭ちゃんの左の手に取られて、繋がっている。
逃げるつもりは無いけど、ちょっとドナドナの気分・・・
***
結局、青子は心配でお節介心を発揮して、蘭ちゃんにくっついて合コン会場に行く事になった。
一応、止めようとはしたんだけど、考えてみたら悪の巣窟に突っ込む訳でもないし、たまには蘭ちゃんだって羽目を外しても良いんじゃないかって気分になったから。
それに、ほんのちょっぴり・・・工藤君の驚く顔が見たかったのも要因の一つ。
だって、あの格好良くて何事にもクールな工藤君が、どんな反応をするのか、凄く気になる。
蘭ちゃんの話を聞く限り、随分工藤君はヤキモチ妬きだ。
「大変なんだよ?もう、所構わず拗ねて子供みたいなんだから」
なぁんて、蘭ちゃんは盛大にのろけてくれるんだけど、青子の想像力は貧弱だから、いまいちピンとこない。
今日は生でそんな工藤君が拝めるかもしれないので、やっぱりチャンスは逃さないが信条の青子としては、蘭ちゃんにくっついていくべきでしょう?
それに・・・
ちらりと蘭ちゃんを見れば、普段とは違う合コンを意識したばっちり細部までやり込んだメイクが施されている。
青子も手伝って、なんと2時間も掛けたのだ。
雑誌を一杯図書館で借りてきて、お化粧道具も全部揃えて、何度もやり直して、ここまで完成させた時には、達成感と充実感で手を取り合って飛び跳ねた。
お化粧って大変だけど、面白い。
青子も蘭ちゃんと一緒に今日はフルメイクしてある。
やり慣れないから変な感じ〜、と言ったら蘭ちゃんも「そうだよね!」と苦笑してた。
そんな訳で蘭ちゃんは今日はとても危険だと思う。
どう危険って、それは男の人の猛攻がって事。
だって今日は特別にキラキラしててすっごく目立つし、蘭ちゃんレベルの美女だと男の人が放っておかないって事が、経験上良く分かってるから。
青子が付いてきたのは、そんな蘭ちゃんをガードする為なの。
さすがにモップは卒業したけど、いざとなったらこの角っこに金具が入ってるハンドバッグで戦うから大丈夫!
店内に入ってきょろきょろする二人組は慣れっこなのか、店員さんがさりげなさを装って、「お待ち合わせですか?」とすぐさま対応してくれる。
教育が行き届いているお店だなぁと感心する青子を余所に、蘭ちゃんは「いいえ」と断って新規の客を装っている。
未だ早い時間だからか、店内は未だがらがらで、好きな場所が選べそうだった。
お店の一角に大人数の予約席が設けられていて、蘭ちゃんはその席が良く見えるけど向こうからは植木があって見え難い、まさにベストポジションのテーブルに座りたいと店員に告げる。
小首を傾げて可愛らしくお願いする蘭ちゃんに、逆らえる人はまず居ない。
青子達は無事そのテーブルをゲット出来た。
「この席なら、新一達が良く見えるね!」
「うん。でも、向こうからは一応見え難いとはいえ、工藤君が何処に座るかによっては危険だよ?」
「見付かったらその時!大丈夫、青子ちゃんには迷惑掛からないようにするから。」
「そんな事気にしなくて良いよ、蘭ちゃん。第一迷惑なんてこれっぽっちも掛かってないし。」
「そう?」
メニューを広げてフ
ァーストドリンクを選ぶ。
見知らぬ名前のカクテルばかりで、凄く迷っちゃう。
それは蘭ちゃんも同じなのか、視線があっちでうろうろ、こっちでうろうろして、「うーん」ってずっと悩んでいる。
「青子ちゃんどうする?」
「悩むー。甘いの好きだから、ここら辺のシリーズも気になるけど、こっちのオリジナルカクテルにも惹かれちゃう。」
「あ、同じ所で悩んでるかも。私もこっちか、季節限定モノのカクテルか・・・どうしようって思って。」
ちらりと腕時計を確認すると、未だ時間はたっぷりありそうだった。
蘭ちゃんも青子も、張り切り過ぎて、二人の待ち合わせ時間の15分前には会えちゃってたし、そもそもの待ち合わせ時間も工藤君達の合コンの開始時間から30分も早かったから。
「カクテルって軽いのが多いし。どっちも飲めるかな?」
「そうだよね!気になるからどっちも頼めば良いよね!」
意見が一致して、蘭ちゃんが右手を上げて待機していた店員さんを呼ぶ。
蘭ちゃんが手を挙げる気配を察知してすぐに飛んできた店員さんは、すっごくイケメンだった。
黒いロングエプロンがめちゃくちゃ似合ってて格好良い。
思わず見惚れちゃってから、あれれって首を傾げる。
イケメンだとは思うけど、青子の好みじゃないんだけど、どうしてか惹かれたから。
大きくなって突然好みが変わったのかなって、自分の事なのに何だか変な気分。
「これと、これ、お願いします。」
蘭ちゃんはそつなく自分が頼む分と、青子が頼む分を注文してくれて、これで間違いないよねって言うようににこっと青子に笑い掛ける。
こくこく頷くと、イケメン店員さんはメモも取らずに一礼してすっと下がって行った。
「身のこなし方が綺麗な人だったね。」
こそりと蘭ちゃんが耳打ち。
蘭ちゃんって武道を嗜んでる所為か、見る所違うなーって青子は感心してしまった。
「新一が来るまで、折角だから楽しんで飲もうね!青子ちゃんの話、一杯聞かせてね?」
「あんまり面白い話ないよー?」
そんな事を言った割りに、青子がほとんど喋りっぱなしで時間が過ぎていった。
***
そろそろ時間かなーって顔をして、蘭ちゃんが時計を確認する。
頬が仄かに色付いて、蘭ちゃんがお酒にあんまり強くない事が見て取れる。
だって青子達、未だカクテル3杯目だもん。
・・・あれ?4杯目だっけ?
「もうすぐ時間だね。・・・何だか凄く眠いの。どうしよう。」
「え?大丈夫?あおこもねー・・・呂律、回ってない・・・かも。」
思ったより酔ってる?!
蘭ちゃんが生あくびを一つ。
お店は盛況みたいで、知らない間にほとんどのテーブルにお客さんが座ってる。
青子達の周りは、女性客で一杯で、賑やかで華やかな笑い声で満たされていて、それだけで楽しくなっちゃった。
「このお店、おしゃれな雰囲気だから、女性に人気なんだね〜。見て、殆ど女の人だよ。」
「わー。本当だー。」
「このチーズ、美味しいね。頼んで大当たりだったかも。」
クラッカーにチーズを乗せて、蘭ちゃんは美味しそうにソレを頬張りながら、また小さくあくびを零してる。
青子も目蓋を何度も指先で擦って、眠気を一生懸命我慢してるんだけど、時間の問題で落ちそうだ。
マズイよねー。
今日の目的は工藤君の合コン参加の様子を観察する事なのに、事が始まる前に眠いとか言っちゃってたら…
ちらりと見ると、いつの間にか蘭ちゃんが崩れるようにテーブルの上に伏せっていた。
多分蘭ちゃんも工藤君が来たら目が覚めるだろうから、青子が頑張って起きてて、工藤君が来たら起こして教えてあげよう。
「うん、頑張れ、青子。」
自分にエールを贈って、青子は氷が解けて水っぽくなったカクテルをぐっと一口であおった。
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