Hide and Seek --side S--










「俺の馬鹿。」



蘭が今大変な状態だって分かってんのに。

俺って本当に考えなしで、時々嫌になる。

考えて考えて、蘭が行きそうな場所を片っ端から探し回る。

家には絶対居ない。

俺んちも阿笠博士んちも、とにかく知り合いの家には居ない。

一人になりたがってるあいつは、誰かの家を頭で考えても拒否したに違いないのだ。

知り合いに遭いそうな場所にも、きっと行かない。

賑やかな場所にも行かない。



「あいつ・・・隠れんぼなんてどうしてしたがるんだよ。」



隠れんぼは元を辿れば悲しい遊びだと思う。

隠れてる人間は鬼に見つけて貰えなければ、ずっと一人で怯えながら隠れ続けなければならないから。

怖がりで、今一人になるのをあんなに恐れている蘭がやる遊びじゃない。

なんであいつは隠れんぼなんてやりたがったんだろう。

「一緒に隠れんぼしよう?」と誘われた時、俺は真っ先にその疑問が浮かんで思わず蘭の顔を真剣に凝視してしまった。

隠れんぼなんかより、大勢でわいわい楽しめるサッカーの方が今の蘭の気持ちをちょっとでも浮上させられると思ったから、普段誘わないサッカーに誘ったのに。

あいつは一度決めたらなかなか考えを曲げねーし、俺の言い方が拙かったのかもしれないけど、うんと頷かなかった。

俺の一言が、蘭を追い詰めちまったんだろうか?

表情を強張らせ、蘭は俺から逃げるように走り去った。



傷付けたんだ。

俺が馬鹿だから。



蘭が意図しないまま、結果的に俺達は隠れんぼをする羽目になった。

絶対見付けてやらないと。

あいつ、また傷付いちまう。

何処だよ、蘭。



・・・なぁ。

俺の事、ちゃんと呼べよ。





















「蘭!」



不意に近くではっきりと聞こえた声に、私はびくりと身体を竦ませた。

新一の声・・・?



「居るんだろ?蘭!返事しろよ!」



段々近付いてくる声は間違いなく幼馴染の声で、私は思わず左右を見回し隠れられる場所を探した。

既に自分が隠れているというのに、だ。

心臓が急に壊れちゃうんじゃないかと思うくらい、ばくばく鳴り出す。

身体から飛び出しちゃいそうなくらいそれは私の胸を叩いて、上手く息が出来なくなった。



「蘭?なぁ、蘭?」



新一の足元で小枝が鳴る音がする。

確実に私の方に歩いてくる足音。

身体が勝手に後退り、壁にぶつかる。

私、どうして逃げようとしてるんだろう。



「蘭?オメー、まさか。また水の中に居るんじゃ・・・?」



新一の声がビルの壁に反響して、普段とちょっぴり違って聞こえる。

足音が遠ざかって、暫く立ち止まっているようだ。



「川の中には居ねーよなぁ?」



戻って来る足音。

川べりに立って水の中を本当に探したのかな。



「・・・この辺?」



錆びてぼろぼろのトタンが捲られる音。

入り込む光は、夕焼け色で、覗き込んだ新一の顔を紅く染めて居た。



「ここに居たのか。蘭。」



泣き顔を見られたと気付いたのは、大分後になってから。

新一は私に腕を伸ばして強引に隠れ場所から掴み出すと、泥で汚れたおでこを人差し指で弾いた。

「ったくよ〜。オメー、どーせ見付かるんだから俺から隠れようとすんなよ。」

ぐいぐい引っ張られて表通りに出る。

「使われてないとはいえゴミ捨て場なんかに隠れるから、オメー真っ黒じゃん。取り敢えず俺んちな。」

「・・・新一。」

涙声で呼び掛けると、新一はちょっと困ったように眉を寄せてこちらを振り返った。



「ちゃんと見付けてやっただろ。だから泣くなよ。」

「・・・うん。」























何一つ解決してない。

何も変わってないけど、その一言で憑き物が落ちたようにすぅっと気持ちが楽になった。

新一は私を見つけてくれた。

それだけで、もう大丈夫だと思ったから。



「蘭は隠れんぼしない方が良いんじゃねーの?俺が絶対オメーを見付けちまうんだから、勝ち目ねーじゃん。」



そうやって笑う新一が、なんだかとても眩しくて、ほんのちょっとだけ泣きたくなったのは未だ内緒にしておこうと思った。











2008/03/05 UP



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