Wanted!【1】





新聞を賑わしたあの事件から数ヶ月。

俺は実に平和な日常生活を送っていた。

俺の部屋に飾ってある父さんのパネルはもう回転する事はなく、白き怪盗は予告状を送り付けることはなく、そして俺も授業中に居眠りをする事が無くなった。

青子を無用に悲しませる事は少なくなったし、俺自身精神的にキツイ思いをする事はなくなった。





平和ボケしてしまいそうなそんな日々に一発の爆弾が落ちてきたのは、退屈を持て余し始めた俺への神様からの贈り物だったのかもしれない。











「は?新歓で鬼ごっこぉ??」

「やっぱり江古田の良い所ってったら、お祭り大好き体質だろ?そこでだな。今年は新歓で『全校生徒参加型プレゼント盛り沢山鬼ごっこスペシャル』なんつーもんをやろうと思ってだな。」

にこにこと実に食えない笑顔を浮かべて、生徒会役員が俺の目の前で力説なんかしてる。

そぅっと逃げ出そうとした白馬は、気配を察知した副会長にがしっと腕を掴まれてあえなく逃亡に失敗。

昼休みにずかずかと教室に入って来たと思ったら、俺達二人は早々にこの生徒会役員に掴まりとんでもない事を依頼されてしまったのだ。

江古田史上最強と囁かれる生徒会に抵抗出来る人間はそうそういない。

俺もまぁ取り敢えず話を聞くだけ聞くかという気になっていた。

「それでその『鬼ごっこ』ってどんなの?」

ひょこっと俺の方から顔を出して青子がきょとんっと口を挟む。

さらさらの髪の毛が俺の頬に掛かって、くすぐったいやら嬉しいやら・・・

「一見ごく普通の『鬼ごっこ』さ。ただ、まぁフィールドは江古田高校敷地内、鬼は11人、追う人間はざっと900人っていう大規模な物だけど。」

「ちょっと待て。なんだよ?『追う人間』ってのは。普通鬼が追い掛けるんだろ?」

「そこら辺がスペシャルなんだ。この鬼ごっこの特徴は鬼が追われるゲームなんだよ。黒羽君。」

「うわぁ・・・大変そう。」

青子が素直な反応を返して俺の顔を覗き込んだ。

桜色の唇が近い。

「それで快斗が鬼なんだ?逃げるの得意だからぴったりだね!」

「おいおい・・・」

「それで白馬君も鬼なの?」

視線の先では白馬が苦虫でも噛み潰したかのような表情で腕を組んで唸っていた。

「僕はあまりそういう子供っぽい事には興味が無いのですが・・・」

「んだよ。白馬。もう怖じ気付いてんのか?」

「失礼な。僕はただそういう騒がしい事が好きではないんです。」

「まぁまぁそう言いなさんな!折角江古田に入って来てくれた新入生を力一杯持て成してやるのは、在校生の勤めだろう?黒羽も白馬も一肌脱いでくれよ!」

寒い言い争いを始めつつあった二人の中に割って入って副会長が手を合わせる。



其処まで言われて断るのも角が立ちそうで、二人は結局周囲の人間に押されるまま『鬼』を引き受けた。







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