おいらのご主人様日記 -3-



  

「本当に何でもないったら!」

「嘘付けよ。馬鹿。変な顔して何気にしてんだよ。」

「変な顔とは何よ!変な顔とは!」

「こんな顔してよ〜。」

みょ〜〜んと自分の頬を引っ張って快斗はふざけて見せる。

そうしながら青子をじっくりと観察し、その隠している事を見抜こうとしている。

こいつ、変な所で強情で意地っ張りだかんな。

はぁっと気づかれないように溜息を一つ吐いて、快斗は「所で」と切り出した。

「うちのハトは?」

「青子の部屋で待ってるよ。」

さらりと言われた内容に眉を顰めた。



青子の部屋。

今快斗が近付きたくても近付けない、禁断の花園のような場所である。



ポケットに手を突っ込んで快斗は青子に顎をしゃくった。

「連れて来てくれよ。」

「ちょっと待ってて。」

踵を返して青子が2階へと上がっていく。

とたとたと軽い足音。

惜しかったかなぁとちらりと考えつつ、今の自分の辛抱の無さを考えると無謀過ぎて、とてもじゃないがそんな行為を自分に許してやれそうになかった。

しばらくして再び青子の足音。

しかし先程と違い忍び足で音を殆ど立てないで戻ってくる青子に、快斗は疑問を持った。

「んだよ?」

「し〜!あのね。ハトさん寝てるみたいなの。すっごく可愛いの〜vv」

快斗の耳にこそばゆい青子の吐息が掛かる。

潜められた声はくすぐったくて、快斗は思わず肩を震わせた。

「・・・良いよ。叩き起こしてくれよ。」

この状態はあんまり長く我慢出来ないと情けない事を考えて、快斗は少々乱暴に青子を突き放した。

青子は気を悪くした風もなく、またしてもぐっと身体を快斗に寄せて、肩口に両手を乗せた。

勢い良く近付けられた唇は、目測を少々誤ってその柔らかな感触を快斗に耳朶に教えることとなる。

「うわぁっ!」

「ん?どうしたの?」

自分がどれくらいの衝撃を与えたかなんて露ほども分かっていない青子が不思議そうに快斗の赤い顔を覗き込む。

格好悪い事この上ない。

快斗は仏頂面で誤魔化して青子をもう一度自分の体から引き剥がそうとした。

しかし青子はむしろその細い身体を快斗の身体に押し付けるようにくっついてくる。

「ねぇねぇ。すっごく可愛いんだよ!寝てるハトさん。ね。こっそり見に行こう?」

「別にどうでも良いよ。俺はいっつも見てんだぜ?そんなの。」

「絶対アレは見ておくべきだよ〜。ぽすんって感じで布団に埋もれてるんだよ〜〜vvvv」

青子は動こうとしない快斗に焦れて、腕を絡めて自分の部屋へと快斗を引っ張っていこうとする。

実力行使にぎょっとした快斗がそれを嫌がると、青子はぷぅっと膨れて快斗を軽く睨んだ。

大きな目が快斗へとまっすぐに向けられる。

快斗はコレに滅法弱い。

「んも〜!青子の言う事少しは素直に聞いてよ〜。見て損はさせないから!ね!」

「・・・だから〜。俺はハトが寝てるのなんて珍しくも何ともねーし・・・」

「良いから!早く!でも静かにね!」

ぐいぐいと問答無用で引っ張られていって、階段を半ばまで登った段階で快斗は諦めの境地に至った。



相変わらず、ハトの寝姿はどうでも良い。

でも久し振りの青子の部屋に・・・実はとても興味がある。

ようするに、快斗は自らのちょっと下心有りの好奇心に負けたのだ。

最近はどうなっているのだろう?

どんなカーテンを使っているのだろうか?

ベッドはどんな風なんだろうか?

考え出すとキリがない。

そのうち、どうにも我慢できなくなって忍びこむ羽目になる前に、ココら辺で自らの欲求を少し満足させておいてやらなければ。



快斗はそこまで考えて未だ反対の意を唱えている自分の一部を納得させると青子に連れられて、とうとう青子の部屋の扉を潜った。

果たしてソコには・・・

快斗が密かに『青子』と読んで可愛がっている一番賢く快斗の意思を一番汲んでくれるハトが丸まってベッドの上で寝ていた。

白い羽毛がふわんっと膨らんでいて丸まるとしている。

つぶらな瞳は今は閉じられていて、整ったくちばしが顔の真ん中に配置されている。

確かに青子が騒ぐ通り、滅多に拝めない可愛らしいと感じられる寝姿だった。

青子は羽毛布団を使っているらしく、ブルーの基調の大ぶりな花柄の布団に半ばまで埋もれるように丸々とした『青子』。

こいつ・・・青子の布団で気持ち良さげに・・・

ちょっとだけハトに嫉妬してしまった快斗だった。



「ったく、こいつはご主人様をこんな所まで迎えに来させてのんきにぐーぐーと。」

「え〜。快斗が苛めたんじゃないの?」

「俺は乱暴者の青子と違ってハトを可愛がってるんだよ。ンな事あるか!」

「酷い!何ソレ!青子だってハトさん可愛がってるもん。」

二人でいつもの口喧嘩をしつつ、快斗の目は青子の部屋の中を一通り観察する。

机の上に有る写真立ては丁度快斗の死角になっていて見ることが叶わない。

誰の写真が入ってるんだ?

気になるがあからさまに行動を起こして確かめるのも憚られて、燻る気持ちを持て余す快斗。



「ねぇ快斗?このハトさん、何て言う名前なの?」



突然青子がとんでもない質問を快斗に投げ掛けた。



† TO BE CONTINUED †

  


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