Dancin on the moon 【9】





「本当は分かってたの?」

小さく胸元で囁かれる声が羞恥に滲んでいる。

新一は蘭のほっそりとした手を握りながら一回体をターンさせ、首を傾げた。

「何が?」

二人の身長差は理想の15cmには多少足りないもののこうやって内緒話をするには丁度良い距離で新一の吐息混じりの低い声が耳に心地良い。

蘭は一瞬躊躇してそれでも新一に告白する事にする。

「本当は・・・私がダンスやりたかった事。」

「ああ・・・半分当たりで半分ハズレ。」

新一が笑って蘭をぐっと引き寄せる。

よろけた蘭は新一に体当たりしそうになってステップを乱した。

その隙におでこに羽のようなキス。

ちょうどステップを踏み間違えた女性が男性の顎先にぶつかったようにしか周囲からは見えなかった。

「やだ!新一・・!」

周囲に人が居る状況でされたソレに蘭が焦って声を上げる。

「大丈夫。バレて無いって♪」

楽しそうにダンスを続けながら新一が軽やかに笑う。

時々蘭が焦る様を楽しんでいる節が見受けられる新一は、その為なら少々社会常識や羞恥心を忘れてしまうらしい。

「『半分』ってどういうこと?」

話を戻して蘭が上目使いに新一を見上げる。

長い睫毛がすぐ近くにあって、その繊細な陰影が彩る愛しい瞳が真っ直ぐに新一に向けられるのがとても嬉しい。

「ここに連れてきたのは蘭が踊りたいだろうなぁってのが半分。」

「後の半分は?」

「俺が蘭と踊りたかったから。」

「え・・・」

戸惑うように揺れる瞳が次第に歓喜の色に染まっていくのを間近で見た新一は、耐え切れなくなって蘭の濡れたように光る唇にそっと自身の唇を落とした。

びくんっと跳ねる肢体が愛しい。

強く手を握って蘭が逃げ出せない様にすると、ステップがおろそかになっていた蘭を強引にリードする。

「し・・新一!!」

「わりぃ。つい我慢出来なくって・・・」

「!・・ば、馬鹿っっ!」

かぁっと頬を薔薇色に染めて俯いた蘭の仕種がやっぱり可愛くて、またしても忍耐能力を試される羽目となる新一。



分かってないのだ。

この幼馴染は。

自分がどれだけ強力な魅力を放っているかなど。

それがどれだけ自分を狂わせるかと言う事を。



軽快なリズムは未だ未だワルツを踊れと二人を誘い掛けているようで、繋いだ手のぬくもりを離す事なんて本能がさせてくれなくて、二人は周囲の人のさざめくような暖かな笑いに包まれてワルツを踊り続けた。





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