Dancin on the moon 【6】





ダンパ当日。



江古田高校は外部のお客様を迎えると言う事で大掃除がされた為いつもの1.5倍ほど綺麗になっていた。

まぁ長年の汚れが一夕一朝で落ちる訳はないのだが、そこは色とりどりの生花や凝った飾りによってカバーされていた。

反対する教諭の心配を先回り先回りで潰していった快斗&新一コンビの暗躍のおかげで、学校ぐるみの大規模なイベントになった合同ダンスパーティは午後5時から7時までの2時間江古田高校の体育館に別空間を作り上げていた。

思い思いのドレスを身に纏った女子高生は常よりも輝いて見え、ぱりっとしたタキシード又はスーツに身を包んだ男性陣は頼もしく見える。

今日ばかりは先生も生徒も無しで、楽しむ気の有る人間が多いに楽しめるように配慮されたイベントは特に問題も無く進んでいった。

しかし、その陰にはダンスをする間もなく働く実行委員の姿があった事を忘れてはならないのだ。











「青子ちゃん!ケーブル見つかった?」

ぱたぱたと息を切らして走って来た蘭が参加証から実際参加している人間のデータを集計していた青子に話し掛ける。

青子は蘭を見上げると済まなさそうな顔をした。

「蘭ちゃんごめんね。さっき先生が入れ違いで会場に持って行ってくれたの。だからもう大丈夫だよ。」

「そっか!良かった!一応さっき会場覗いたんだけどまだだって言うから。」

「あ、会場覗いてきたんだ?どうだった?」

「すっごい熱気でね!皆楽しそうに踊ってたよ!あれって、上手い下手は関係ないよね。」

「さっき青子も用事が会っていってみたんだけど、普段結構口うるさい先生が楽しそうに踊ってて吃驚しちゃった♪これを気に少し生徒に打ち解けてくれるかな?」

「きっと大丈夫だよ!こういう場が有った後って全然違うし。」

「私の友達の恵子が可愛いブルーのドレス着てて、似合うね誉めたら照れて青子の事ばしばし叩くんだよ?」

「ふふふ♪青子ちゃんって凄く自然に誉めてくれるから嬉しくなっちゃうのよ。きっと。でもやっぱり恥かしい時有るから。」

「皆ドレスって自前なのかな〜?」

「私の友達半分は買って半分は借りていたみたい。楽しそうにカタログ見てたし。」

漸く息が整ってきた蘭に冷たいお茶をペットボトルからコップに注ぎ入れてはいっと笑顔で手渡す。

にっこりと笑顔で受け取り、くーっと一気のみする蘭。

先程から走り通しでさすがの蘭も少し疲れた表情を浮かべていた。

「お疲れ様!もうすぐ終わっちゃうね!」

「本当。」

窓の外に目を向けると日も既にとっぷりと暮れてしまっている。

時計の針は7時15分前を指していた。

この季節幾ら日が長いと言っても永遠に夜がこない訳ではないのだ。

ほんのりと目元に寂しそうな色を乗せて蘭が呟く。

「終わっちゃうね。あんなに準備しても一瞬なんだね。」

ふっと吐き出す息が泣きそうに震えている事に青子が気が付く。

椅子から立ちあがって窓の外を覗いたままこちらを見ようとしない蘭の震える肩をそっと抱き締めた。

「・・・やっぱり・・・新一と踊りたかったよぉ・・・」



初めて青子の前で溢した蘭の本音。

か細く小さく呼吸を繰り返す蘭は必死に泣くのを堪えていて痛々しかった。



思わず青子の瞳に涙が浮かぶ。

「蘭ちゃんの馬鹿・・・意地はっちゃって自分を追い詰めちゃうんだもん・・・」

自分より背の高い蘭の方にしがみ付くようにきつく抱き付いて青子が漏らす。

その声も涙に濡れて震えていた。

「ごめんね。ごめんね。青子ちゃん・・・付き合わせちゃってゴメンナサイ・・・」

「謝らないでよぉ・・・」

「だって青子ちゃんは黒羽君から誘われてたのに・・・ちゃんとダンスできる筈だったのに・・・駄目にしちゃったの私でしょ?」

「違うよ!誰も悪くないよ!青子が決めたんだもん!」

「黒羽君きっと怒ってるね・・・後で私ちゃんと謝っておくから。今回の事は私が悪くて青子ちゃんを巻き込みましたって・・・」

「違うってば!蘭ちゃんの馬鹿!そんな事言わないで!」

とうとう床に崩れ落ちた二人は誰も見ていない教室の片隅でぽろぽろと涙を零し続けた。

冷えてきた空気が二人を静かに取り巻いた。



そう・・・落ち着きを取り戻すまで・・・





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