恋敵・1
「やっぱりこんなところにいやがったのか…。」
オレは予想通り聖地の門の前であいつを見つけた。
しかもモノは良さそうだけど地味なスーツを着てやがった。やっぱり外に出るつもりでここに来て、迷ってたに違えねえ。
けど、いつもエラそうなあいつが、今は見る影もないくらい落ちこんでる。オレだったら大喜びしそうだけど、あいつにとっては死ぬほど辛いことなんだろうな…。
サクリアがなくなるってことは。
しかも在任中に突然、だ。理由もわからねえ。代わりの守護聖もまだ現れねえ。
…ってことは、守護聖の交代でもねえってことだ。
そういうわけだからまだあいつがお払い箱になるってことが決まったわけじゃねえんだ。また元通りになるかも知れねえ。いや、なんとなくそう思うだけだけどよ。だけどあいつは…ジュリアスは…。
「ふん、あんたらしくもねえな。これっくらいのことでヤケ起こすなんてよ。」
「ふ…、私らしくない…か。そうかもしれぬな。だが、この上もなく私らしいとも言えるのではないか?サクリアは私にとって、誇りそのもの。そのサクリアを理由も分からず失ってしまったということは、私の全ての誇りを取り上げられてしまったということ。
私にとって、誇りとは存在理由そのものだ。もし、このまま私がサクリアを失ってしまったら、もうわたしがここにいる理由などないと言うことだ。
ここを出ていくことも真剣に考えねばならん。そう思わぬか?ゼフェル。」
そんなもんだろうか。なんかあいつが言うと妙にもっともらしく聞こえる。
けど、違う。ジュリアスのヤツ、肝心なことを忘れていやがる。
「わかんねえよ!オレには絶対わかんねえ。だって、おめえがここを出ていくってことは、あいつを捨ててくってことじゃねえのか?
あいつの気持ち、考えてやったことがあるのかよ。あいつはおめえのサクリアに惚れたわけじゃねえんだろ?」
「……ゼフェル…」
「それとも何か?あいつより守護聖の立場の方が大切だっていうのか?オレはあいつがおめえのことマジで好きだって分かったから諦めたんだぜ?
おめえだって…いつものおめえだったら絶対譲らなかったけどよ、おめえが守護聖の立場ほっぽってもあいつに惚れてると思ったから…そんなら仕方ねえって…」
「……すまぬ、ゼフェル。だが…私は…」
あいつはオレの言うことを聞いて少しは思い直したような顔をした。けど、すぐに辛そうに下を向いてしまった。
「…私は、陛下…いや、アンジェリークのことを軽んじたつもりはない。守護聖の立場などより、彼女の方がずっと大切だと思っている。
だが、守護聖の任を解かれれば私はこの聖地にいる理由がなくなる。いや、資格がなくなるのだ。
……外界に降って彼女を待つのは構わない。私にはいくらでも待つ覚悟はある。しかしそれは私の勝手な事情だ。彼女はまだ若い。これからいくらでも新しい恋ができる。
…いや、アンジェリークの私に対する気持ちを信じていないわけではない。だが外とこことは時の流れが違う。何より、外界に戻ってしまったら、私が生きているうちに、再び彼女にまみえる保証は何もないのだ。」
ジュリアスは一気にそう言った。
ま、一理あるよな。それに考えてみれば、ジュリアスがヤケ起こしただけでここから出ていくなんて事をする奴じゃない事はわかってる。オレはこいつのこと…別に好きなわけじゃねえけど、昔の頑固ジジイだった頃に比べたらずっと話もわかるようになったし、思ったより可愛いとこある奴だって事も認めてる。
オレはちょっと考えて、ひとつの結論…ってほどじゃねえか…を出した。
「…わかったぜ。じゃあ、一応試しに外に行ってみるか。悪ぃけどオレは、おまえが今いきなり外に行って一人で暮らすってのはすげえ無理があると思ってるんだ。何しろおめえは大昔の人間だし、今の外の暮らしってのはどんどん進んぢまってるんだ。
そりゃ時々仕事で外に行ってるのは知ってる。けど一人で暮らすなんてのは無理だぜ。きっとアンジェもそう思うに決まってる。
だからせめてあいつに余計な心配掛けねえようにしないか?
つまりよ、オレがついてってやるから試しにそのつもりで外を見て来ねえかって事だ。悪くねえ話だと思うんだが…。」
ジュリアスはオレの話をすっげえまじめな顔で聞いて、しばらく黙って考えてるふうだった。
オレはこいつのこう言うとこ、好きだぜ。昔はこうじゃなかったけど、今はオレみたいな人生経験考えたら全然ガキなヤツの言うこともものすごくまじめに聞いてくれるようになったもんだ。
…ま、それもアンジェのこと好きになったからなんだろうな。へっ、参っちゃうよな、どんだけ生きてっか知んねえけど、初恋だってゆ〜んだから。
「そなたの言うことももっともだ。私が今、外界で一人で暮らすことは容易ではないであろう。心積もりも必要だ。だが私一人で外界に行くのは確かに心許ない。そなたに同行を願おう。
だがそなたが外にばかり出るのは褒められたことではない。聖地での一晩分限りだぞ。よいな?」
「…ちぇっ、やっぱりジュリアスだぜ、うるせえの。ま、いいや。なら今から行くぜ。いいな?あ、…金持ってるか?あんたに金の使い方くらい教えておかねえと、聖地を出たらすぐに騙し取られちまいそうで危なっかしくて仕方ねえや。
…ま、ルヴァほどトロそうじゃねえけどな。」
「ふ…、それは頼もしいな。では、行こうか。」
ジュリアスは少し無理したように笑うと、聖地の門に向かって歩き出した。
オレはジュリアスにはちょっと悪ぃけど、なんだかわくわくした気分になって、あいつのあとを追っかけた。
TO BE CONTINUED
…続いてしまいました。いや、これ以上更新が遅れるとすごい自分的に許せない感じなんで…。
でも外界で何が起きるか、自分でも楽しみだったりして…(゜゜;)\(--;)ォィォィ (はとみ)
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