the holy wings
〜side:Julious〜






「よく気配を読んでみろ。これは女王のものか?」

それはどういう事だ?
答えを返せぬ私に畳み掛ける。

「女王は自分の想いに殺されるぞ」

何を言っているのだ?
皇帝にではなく、陛下御自身によって?

「何を言いたい?お前の言いたい事が分からぬ!」

「皆眠っている時間だ。そう声を荒げるな」

「お前がはっきりせぬ物言いをするからだ」

「フッ・・・・・だからそういきり立つな。寝物語を聞かせてやる故」

村外れへ向かって歩き出したクラヴィスの後を追う。










「お前は、女王には三対の翼がある事を知っているか?」

陛下が貴き純白の翼を持って宇宙を導かれてらっしゃるのは皆が存じている事。しかし翼が三対?

「一対は女王代々が脈々と受け継いできた女王のサクリアの具現した姿。一対は我々光と闇の守護聖、女王を支える左右の両翼。これは普段お前がうるさいくらいに言っていることだがな」

口の端を僅かに上げて笑うのがどうにも気に食わぬ。
しかしもう一対が分からぬ私は黙って先を促した。

「最後の一対は・・・・・アンジェリーク自身の魂の翼。想う心。彼女自身の希望」

「!陛下の御名を口にするとは!」

「お前とて、心ではいつも呼んでいる名であろうが」

そう、私の心はいつでもその名を叫んで、私の天使の姿を求めている。
心の底に沈めようとしても、溢れかえる私の・・・・・。

「三対の翼は分かった。では何故陛下の御心が陛下を、殺す・・・・・と」

「女王のサクリアは身から溢れるままに吸収される。守護すべき我らは傍にいない。彼女の命を支えているのは・・・・・」

「陛下自身の―――」

「アンジェリーク自身の想い、だ。そして皇帝の振りまく絶望の中で、アンジェリークはその想い故に苦しんでいる」

アンジェリークの想い?
それは誰に向けられているのか?
聞きたくない。
聞きたくない!

「アンジェリークは自分の魂の想うままに女王になった。想う相手から女王に相応しいと言われた言葉に従って。誰が言いそうな言葉であろうな?」










『お前は良い女王候補になった』

『アンジェリーク、お前こそが女王にふさわしい』

『永遠の忠誠を』

自分の言った言葉が頭の中でこだまする。
告げられぬ想いを持て余し、心とは裏腹な言葉で取り繕った。

「そして今、一人の人間を想った自分が皇帝の来襲を招いたと、自分が想う人間を苦しめていると。事の全てを自分の責任だと責める事でアンジェリークの魂は傷つけられていく。その様な魂で長く宇宙は支えられまい」

アンジェリーク。
お前を苦しめるのは私か?
私が愛しいお前を死に至らしめるというのか?










聖地に再び戻る頃、世界は嵐に見舞われていた。
アンジェリークの気配はもはや注意を払わなければ感じ取ることも叶わない。
彼女の幽閉された、東の塔。
もうすぐ。
お前を迎えに行く。
だから・・・・・。















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