the holy wings
〜side:Clavis〜






「貴い天使には三対の翼があるって聞いたことありますか?」

それは他愛もない話。

「背中に六枚の羽根って、どんな風に生えているんでしょう?」

自身が天使、と呼ばれる娘。

「女王陛下には翼があるって伺ったのですが、御覧になったことありますか?」

御覧もなにも・・・・・お前に生えているではないか。
見紛うべくもない、純白の三対の翼。










そして時は満ち、天使は三対の翼を広げ、あまねく宇宙を包み込む。
もしお前にその翼で私だけを包んで欲しいと願ったら、叶えてくれただろうか?
否。
お前には私だけを包む翼だけがあればいいと、いらぬ翼を引き千切ってしまえば良かったか?
否。
私が愛したのは眩しい笑顔。
耳に心地よい歌うような声。
魂の輝きを映したその心根。
それら全てがあれからもたらされたものだというのなら、私の出来ることは・・・・・。










「私、クラヴィス様のこと好きです。でも・・・・・」

「愛しているのは・・・・・か」

俯いてしまった天使。

「良いのだ。私はありのままのお前を愛している。お前が気持ちを偽る必要はない。心のままに」

そっと黄金の髪を撫でる。
分かっていた事とはいえ、何故私は穏やかでいられるのだろうか?

「あの・・・・・クラヴィス様。私は女王になります」

顔を上げ、真っ直ぐな瞳で私を見つめる。

「夢の中でエリューシオンからとは別の声が聞こえるんです。『助けて』って。手を差し出すと、凄い力で縋り付いてくるんです。あの手を振り払う事など出来ない」

疲弊した世界は新たなる宇宙と導き手を必要としていた。
彼女はその導き手となるべき天使。
しかし・・・・・

「それだけか?」

「ジュリアス様は私が女王になることを望んでいらしゃるから。私、ジュリアス様を、宇宙を守りたいんです」

あれはどの様な顔をして、そう伝えたのだろう。
天使の望み、宇宙の悲鳴、そして己の叫ぶ心。











水晶球が映すのは刻一刻と弱まる光の波動。
別宇宙からの侵略者が女王を聖地に幽閉してから大分経つ。
世界は未だ女王の羽根に包まれてはいる、が、限界は迫っている。
その羽根全てが抜け落ちる前に。










ふと、脳裏に光が走る。

「明日の戦いもより一層厳しいものになるであろう。とにかく眠り、少しでも身体を休める様」

あれは他人にああ言いながら、誰よりも己が休んでいない。
表に出てみると、案の定光の守護聖は夜空を見上げ、そこにいた。
ただひたすらに見上げる瞳。
夜空に広がっているのは女王が身を削って与える安らぎの恩恵。

「毎晩そうしているな。眠れぬか?」

はっと振り返る姿は、疲れを隠せない。

「・・・・・眠れる訳がなかろう」

「聖地にサクリアを送ったのだな。毎晩それでは身体が持つまい」

「こうせずにはいられないのだ。サクリアを吸収されて苦しまれる陛下のお顔が頭から離れぬ・・・・・」

「お前の頭から離れぬそれは、女王の顔か?」

「!!!」

「お前が他の者の体力を気遣って慎重に事を進める気持ちは理解出来るが、もはや女王は限界だ」

「しかし、サクリアは感じられる・・・・・」

「よく気配を読んでみろ。これは女王のものか?」















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