草地試験場草地計画部造成計画研究室(当時の所属) | 吉田信威 | |
〃 | 柴田昇平 |
これは、日本草地協会(現在は「日本草地畜産協会」)が発行する「草その情報」の第87,88号(1995年)に掲載したものです。 |
沖縄県における畜産は、粗生産額では沖縄料理の材料として欠かせない豚肉を生産する養豚を筆頭に肉用牛、養鶏、酪農の順となっており、畜産全体では農業粗生産額全体の約1/3を占めている。畜産の中でも特に肉用牛の飼養頭数は、昭和63年以降かなり高率の伸びを示している。
これは従前から特に宮古、八重山地域を中心に肉用牛飼養の伝統があり、これに加えて大規模な開発事業である畜産基地建設事業等の推進等により飼料基盤及び施設の整備が進み、これの成果が出始めたことや、サトウキビ栽培農家における高齢化が進み、多労なサトウキビ栽培から家畜管理そのものは比較的軽労働で済む肉用牛飼養への転換が徐々に進んでいること等によるものと考えられる。
沖縄においても大規模開発事業である畜産基地建設事業が実施されたが、これは八重山第二区域(昭和62年〜平成4年)をもって終了し、今後においてはこれらにより造成された草地の一層の有効活用を図るとともに、残された未開発地についても地域畜産の進展に応じた開発整備を進めることが求められている。
しかし、牛肉の輸入自由化の中で肉用牛の価格は低下し、このような中で肉用牛経営をどのように改善していくかは大きな課題となっている。また沖縄県においては草地を利用した近代的な畜産経営の歴史が浅く、草地の管理利用やこれを有効に活用した家畜飼養についての技術的水準についても一層の向上が求められる。先般の石垣島、黒島、宮古島の現地調査から、今後の沖縄県畜産の展開に向けてのいくつかの考察を加えてみたいと思う。
沖縄県においては、県内における生乳需要に応えるための酪農も営まれているが、大家畜の主体は繁殖を主とする肉用牛となっている。肉用牛の飼養形態は地域により違いが見られる。それは土地資源の賦存状況及びその地域における農業の展開状況、人々の気質等によるものと思われる。
沖縄県における肉用牛生産は沖縄本島地域よりも、石垣島及びその周辺の島々よりなる八重山地域や宮古島を中心とする宮古地域において盛んであるが、双方の飼養形態は大きく異なる。
八重山地域の肉用牛飼養の多くは石垣島平久保半島の三大牧野と称せられる平久保牧野組合、久宇良牧野組合、伊原間牧野組合あるいは黒島等に見られるように、周年放牧を主体とした飼養形態である。この理由としては石垣島では人口が島の南部に集中しており、平久保半島等の広い土地資源はここから遠距離であり、耕作地としては利用しづらく、粗放的な管理が可能な放牧地として利用する他はなかったことがあげられる。また黒島では石灰岩が露出し土層が極めて薄いことから、耕地としては利用できなかった。このようなことを背景として八重山地域においては肉用牛の専業的経営が以前から定着していた。石垣島で「牛飼い」といえば裕福というイメージが昔からあった。これは当時としても牛を飼うことは相応の資力が必要であることによる。また共同とはいえ遠く離れたところに広大な放牧地を有し、この土地やここで飼養する家畜を管理するだけの経済力がなければ牛飼いはできなかったであろう。
また八重山地域では放牧中心の飼養形態のため、冬季間の草の生育が衰えた時のための飼料貯蔵が十分でなく、かつては冬季の草生産量が飼養頭数の制限要因となっていた。このため、夏の旺盛な草生産の多くが無駄になっていた。またある程度夏期の生産力を活用しようとし、より多くの頭数を飼養すれば、冬季には飼料不足のため牛は痩せてしまう。現に黒島ではこのような牛を見ることもあった。近年の草地開発関係事業の実施を契機として乾草やサイレージの調製が一般化し、冬季のための飼料も確保されるようになり飼養可能頭数も大幅に増えたが、事業による草地の整備を行わなかった、あるいは草地の整備が不十分だった農家においては旧態依然とした草地や肉用牛の姿を見ることもある。圃場面積規模においても、共同利用の前記三大牧野をはじめとして、個人利用の草地も含めて大規模区画の草地が多い。
一方宮古地域は飼養頭数規模も小さく、畑作(サトウキビ)との複合経営が主体である。肉用牛は比較的飼料基盤面積も小さくほとんどが舎飼いとなっている。これは子牛販売による収入もさることながら、堆肥を生産してこれを畑に施用し、サトウキビ等の増収につなげることが大きな目的となっている。飼料基盤についてもサトウキビ畑ともども圃場区画は小さい。近年は農業就労者の高齢化により多労なサトウキビ栽培を縮小し、より労力がかからない肉用牛飼養にシフトする農家も多くなってきている。
沖縄本島北部は大規模・本格的な肉用牛飼養の伝統がなく、畜産基地建設事業により新規入植が行われたことによりはじめて大規模な肉用牛経営が営まれるようになった。未経験者が多いだけに当初は家畜飼養や飼料生産技術に熟達していないという問題があった。また山原第一区域においては経営の回転を早め早期に収益をあげること及びより多くの堆肥生産により地力増進を図る目的から養豚との複合経営としたが、性質の異なる経営部門を双方ともこなすことは容易ではなく苦労している経営も多い。
沖縄県における草地開発は本土復帰前からわずかに行われ、復帰後も小規模な団体営クラスの事業も行われていたが、これが本格的かつ大規模で行われたのは昭和51年から沖縄県においても行われるようになった畜産基地建設事業の実施によるものである。この事業は八重山地域においては石垣市で行われた石垣第一区域(S51〜54)とこれに引き続き行われた石垣第二区域(S54〜58)、事業対象範囲を竹富町にまで拡大して実施した八重山第一区域(S58〜62)、八重山第二区域(S62〜H4)、与那国町を対象として実施した与那国区域(S60〜H2)の計5区域で実施された。また本島北部においては山原(やんばる)第一区域(S52〜55)及び山原第二区域(S56〜62)の2区域となり、県全体では合計7区域において実施された。この事業だけで草地造成面積は1,607haとなった。
調査年次が異なるため上記面積と値は異なるが、沖縄県における平成2年までの草地開発事業による累計開発面積は3,813haであり、うち畜産基地建設事業によるものがその38.4%の1,463haである。草地開発面積(全体)のうち昭和53年以前が1,924haであり、畜産基地建設事業による草地造成が盛んに行われるようになったこれ以降は1,889haであり、この時期における草地開発の主要な部分を畜産基地建設事業が担っていたといえよう。
畜産基地建設事業はそれまでほとんど小規模な草地開発しか行ってこなかった沖縄県に、大規模な機械による大規模圃場の造成をもたらした。また大規模草地を管理利用するための機械導入、飼料貯蔵施設、家畜飼養施設が整備された。このことにより畜産専業的色彩の強い八重山地域の事業参加者は経営規模の飛躍的な拡大強化が図られた。
大規模に開発できる場所のうち、開発が比較的容易なところの多くは、これら事業の実施により開発が進んだ。このため今後の草地関係事業についてはこれまでのような大規模な開発に代わって、既存草地の一層の有効活用を図るための整備及び周辺未利用地の開発が中心となろう。また八重山地域において実施された畜産基地建設事業において導入されたスタビライザによる珊瑚石灰岩の破砕による草地造成工法は今後も黒島等の隆起珊瑚礁地帯を中心に実施されるものと思われる。
地域名 | 関係市町村 | 関係市町村 | 造成面積 | 事業費 | |
---|---|---|---|---|---|
全計 | 工 期 | ||||
石垣第1 山原第1 石垣第2 山原第2 八重山第1 与那国 八重山第2 | 石垣市 国頭村 石垣市 国頭村,東村,大宜味村 石垣市、竹富町 与那国町 石垣市、竹富町 | S51 S52 S54 S56 S58 S60 S62 | S52〜54 S53〜55 S55〜58 S56〜62 S59〜62 S61〜H2 S63〜h4 | 291.2 150.4 290.2 175.8 250.3 193.1 256.7 | 3,270 4,319 7,475 7,295 4,539 3,476 3,190 |
合 計 | 1,607.7 | 33,785 |
資料: | 「おきなわの畜産(平成4年3月)」(沖縄県農林水産部畜産課) |
注. | 実施年度の欄、「全計」は全体実施設計の略である。 |
〜S53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 | 59 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
造成面積 | 1,924 | 196 | 196 | 207 | 126 | 186 | 192 |
畜産基地 | 308.5 | 132.5 | 79.8 | 81.4 | 114.6 | 80.0 | 139.3 |
60 | 61 | 62 | 63 | H元 | 2 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
造成面積 | 138 | 186 | 157 | 158 | 96 | 78 | 3,813 |
畜産基地 | 56.9 | 127.5 | 115.9 | 95.0 | 85.8 | 39.9 | 1,456.9 |
資料: | 造成面積=「おきなわの畜産(平成4年3月)」(沖縄県農林水産部畜産課) |
注1. | 畜産基地の欄は、畜産基地建設事業により造成した面積である。 (出典資料は異なるが、上段の造成面積(沖縄県全体)の内数である) |
2. | 昭和53年以前の畜産基地による造成面積の内訳 昭和52年:159.3ha、53年:149.2ha |
沖縄県は豊富な日射量、温度条件(生育期の高温や冬季も温暖であること)、暖地型牧草の高い光合成能力等により、牧草単収は全国水準の約3倍の値を示している。これは沖縄県が定めた「沖縄県飼料作物奨励品種の栽培規準」と比較しても遜色ない値となっている(栽培規準がある程度現実を配慮した値を採用しているということもあるのではなかろうか)。しかし、今後の技術の向上が図れるとすれば更にこれを向上させることも可能と思われる。
牧草単収(平成4年:沖縄) | 13.3 | ||
〃 ( 〃 :全国) | 4.0 | ||
〃 ( 〃 :北海道) | 3.5 | ||
〃 ( 〃 :都府県) | 5.0 | ||
沖 縄 県 飼 料 作 物 奨 励 品 種 の 栽 培 基 準 | 採 草 用 | ローズグラス | 15〜19 |
〃 (国頭マージ) | 9〜13 | ||
ギニアグラス | 15〜20 | ||
〃 (国頭マージ) | 9〜12 | ||
ジャイアントスターグラス | 10〜13 | ||
パンゴラグラス | 10〜13 | ||
〃 (国頭マージ) | 8〜10 | ||
ネピアグラス | 20〜25 | ||
〃 (国頭マージ) | 15〜20 | ||
放 牧 用 | ローズグラス | 5〜 7 | |
ジャイアントスターグラス | 5〜 7 | ||
パンゴラグラス | 5〜 7 | ||
バヒアグラス | 5〜 7 |
資料: | 「作物統計(平成4年産)」(農林水産省統計情報部) 「沖縄県飼料作物奨励品種(平成5年10月)」(沖縄県農林水産部畜産課) |
沖縄県に分布する土壌は大きく「国頭マージ」、「島尻マージ」、「ジャーガル」に分けられる。ジャーガルは海中に生息した有孔虫等のカルシウムを主成分とする殻を有する生物の遺骸が堆積してできた「クチャ」を母材とし、これが風化したもので、灰色を呈する粘土質土壌である。カルシウム等のミネラル含有率も高く土壌pHも高く、酸度矯正の必要はない。通気性・通水性に欠けるという土壌物理性の面での欠点はあるが、排水改良等を行えば最も生産力の高い土壌である。しかし、これは本島中・南部等の限られた地域にしか分布せず、しかもこの地域は既に畑作地帯であるということもあり(土壌が良かったことから結果として畑作地帯となったという点もある)、草地として利用を拡大しあるいは今後開発しうる所は少ない。
「島尻マージ」は琉球石灰岩が風化し、石灰分が溶脱された跡に形成された褐色の土壌である。本島南部、宮古島等に分布する。沖縄県に分布する土壌の中では生産力は中位である。石灰岩を母材とするとはいえ溶脱が進み、カルシウム分の多くは残存していないため、酸度矯正の必要のある場合も多い。比較的耕しやすい土壌であるため多くは畑作に用いられているが、牧草地・畑地が錯綜している宮古地方では牧草地もこの土壌の上に成立している。降雨により泥寧化し、また乾燥すると固結しやすい。
「国頭マージ」は本島北部、石垣島等に分布する赤黄色の鉱質土壌で、カルシウム等の塩類に乏しく酸性を呈し、生産力の低い土壌である。牧草の栽培にあたっては土壌pHの改善は必須である。雨滴や流水により土壌粒子が分散しやすく、降雨により土砂流亡をおこしやすい特徴を有している。本島北部における草地開発関係事業(畜産基地建設事業等)における草地造成の多くはこの土壌のところにおいて行われた。
今回調査した黒島を始めとした島々は隆起珊瑚礁であり、まだ十分な厚さの土壌が形成れておらず珊瑚石灰岩の表面が風化して形成された土壌は地表面や未風化の珊瑚石灰岩の間に存在するのみで土の量はわずかであり、水分や肥料分の保持力に弱く、植物の根も十分に張れないことから生産性は低い。
沖縄県においてはジャーガルのように土壌の化学性に優れた土壌もあるが、このような土壌のところはほとんどがより収益性の高い作物の栽培が行われており、多くの草地が立地している土壌の性質はむしろ劣悪といえる。
加えて温度が高く、土壌有機質の分解が急速に進むことから、いずれの土壌においても相当量の堆肥等の施用を継続的に行わない限り、土壌有機質に欠乏することとなる。土壌有機質が欠乏することは保肥力が弱いことにつながり、雨量が極めて多いことも加えて、施肥しあるいは土壌から供給された肥料成分(微量要素を含めて)も早期に流亡し、肥料欠乏を起こしやすい。
沖縄県は気温が高く強い日射(太陽エネルギーの供給)もあり、植物生産量が大きいことから、草地・飼料作物分野においても本土(=沖縄県以外の他都道府県)に比べて高い生産力が期待されている。
一般に植物生産量と温度との関係では植物種により異なるが、ある一定温度における生産量をピークとしてそれよりも温度が高くても、また低くても生産量は減少するという曲線を描く。これは最適温度よりも低い温度域では光合成活動が鈍り、逆により高い温度域では植物の呼吸による消耗が大きくなることによる。植物は光合成における二酸化炭素還元経路の違いによりC3植物(カルヴィンサイクル)とC4植物(C4ジカルボン酸サイクル)に分けられる。寒帯・温帯地方における植物の多くはC3植物であり、熱帯・亜熱帯地方においてはC4植物が多い。二酸化炭素固定能率は低温域ではC3植物>C4植物であるが、高温域ではC3植物<C4植物となる。沖縄県の春〜秋における気温ではC4植物の最適温度に近い温度であるため本土における植物生産よりも高い生産能率をあげる可能性を有している。
月 | 月平均気温 | 月平均気温 | 日最低気温 | 相対湿度 | 降 水 量 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
那覇 | 東京 | 那覇 | 東京 | 那覇 | 東京 | 那覇 | 東京 | 那覇 | 東京 | |
1月 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 |
16.0 16.3 18.1 21.1 23.8 26.2 28.3 28.1 27.2 24.5 21.4 18.0 |
5.2 5.6 8.5 14.1 18.6 21.7 25.2 27.1 23.2 17.6 12.6 7.9 |
18.6 19.0 20.8 23.9 26.5 28.8 31.1 30.7 29.9 27.2 24.0 20.6 |
9.5 9.7 12.7 18.3 22.8 25.2 28.8 30.9 26.7 21.2 16.6 12.1 |
13.6 13.9 15.6 18.6 21.5 24.2 26.1 25.8 25.0 22.3 19.1 15.7 |
1.2 1.7 4.4 10.0 14.8 18.6 22.3 24.0 20.2 14.2 8.9 3.9 |
69 72 74 78 82 85 81 81 79 73 71 69 |
50 52 56 63 66 73 76 73 73 67 61 54 |
113.0 106.0 162.0 152.0 243.2 252.7 190.2 258.9 168.0 150.9 116.9 123.0 |
45.1 60.4 99.5 125.0 138.0 185.0 126.1 147.5 179.8 164.1 89.1 45.7 |
計or平均 | 22.4 | 15.6 | 25.1 | 19.5 | 20.1 | 12.0 | 76 | 64 | 2036.8 | 1405.3 |
資料: | 1993年理科年表 |
注. | 1961年〜1990年の平均 |
しかしながら沖縄県においては、このような植物における高い生産能率の可能性を作物生産において十分に顕在化しているとはいえず、これを「潜在生産力」という位置づけにとどめている。この原因としては、①降雨の不安定性等の気象的要因、②土壌の性質、③雑草、④草種・品種の選択、⑤栽培技術等の要因があげられる。
沖縄県における降雨は多く、これが作物の生産時期に適切に降ってくれるならば水分環境的には好ましいことであるが、しかし、実際の降水の時期的分布は梅雨時と台風によるものに片寄ってしまい、生育時(=水分必要時期)に必ずしも適切な水分供給がなされないという問題がある。
また干ばつとなる年も多く、さとうきび等他作物と同様にその被害を被り、生産が抑制されることも希ではない。
とうもろこしやソルガム、あるいはギニアグラス等の長大型の牧草は生育期によっては台風による風害(倒伏、折損)も考えられる。また海岸に近いところにおいては台風によりもたらされる潮風による塩害の危険性もある。
表5 気温及び降水量の最高・最低記録最 高 記 録 | 最 低 記 録 | |||
---|---|---|---|---|
那 覇 | 東 京 | 那 覇 | 東 京 | |
最高・低気温 | 34.9゚C (1991.7.11) | 38.4゚C (1953.8.21) | -9.2゚C (1876.1.13) | |
年降水量 | 3,191o (1941年) | 970o (1911年) |
既に記したように草地の多くは国頭マージあるいは多くの島嶼における珊瑚石灰岩地帯等生産性に乏しい土壌条件の上に立地しており、また高温多雨という条件の下、土壌有機質が分解しやすく、また土壌ミネラルや施用した肥料成分も流亡しやすいという気候条件も重なり、これらが生産阻害要因の一つとなっている。
植物の潜在生産性が高いということは、雑草にとっても生育が旺勢であるということにもなる。沖縄県の草地における強害雑草としては「オガサワラスズメノヒエ(Paspalm conjugatum Berg.)」、及び帰化雑草である「シロバナセンダングサ(Bidens pilosa L. ver minor Scherff.)」、「タチアワユキセンダングサ(Bidens pilosa L. ver radiata Scherff.)」等がある。特にオガサワラスズメノヒエは酸性土壌を好み、国頭マージ土壌に多く生育する(島尻マージ、ジャーガル土壌には見られない)。茎葉には蓚酸を含み、家畜の嗜好性が悪いために草地にはびこりやすい。牧草との競合では、現在沖縄県に多く栽培されているローズグラスよりも強く、これを圧倒してしまう。
かつては広く普及している暖地型牧草も少なく、畜産基地建設事業の初期の頃は採草用としてローズグラス、放牧用としてバヒアグラスが多く用いられた。その後ギンネムと牧草の組み合わせということで比較的耐陰性の強い牧草ということでグリーンパニックも用いられた。
これらのうちローズグラスは刈取り適期幅が狭く、刈取が遅れると消化性、嗜好性が著しく低下してしまう。また糖含量が少ないこともあり、他草種と比べて嗜好性は良いとはいえず、サイレージ調製も他牧草よりも難しい。また沖縄においては永年性牧草と位置づけられてはいるが、播種後3〜5年で草勢が弱くなるとともに、根が浮き上がってきてしまい、放牧地においては家畜の採食に伴い植物体全体が引き抜かれてしまう場合もある。しかし、乾草調製に適しているということで本島北部や宮古地域では主要な牧草となっているが、これらの問題への対応を考えれば、将来的には他の牧草への変換が必要となっている(その際は調製方法の転換も含めて検討する必要がある)。
グリーンパニックについても維持年限が短く、ギンネムとの組み合わせ草地においても衰退が著しく雑草の侵入を許していおり、当初期待された成績をあげられないでいる。(草種毎の特性に関しては別項参照)
沖縄においては牧草栽培の歴史が浅く、農家としてもこれが「栽培作物」であるとの意識が育ってきたのは近年になってからである。イネ科牧草は形態的には同じくイネ科の雑草との類似性がある。また、それを利用するという点では栽培植物ではあるが、利用の集約度は一般畑作物程高くないということもある。このようなことから、まだ意識の底にはサトウキビ等の栽培作物と雑草の中間的な感覚が残っている可能性がある。このため施肥等の十分な栽培管理がなされず、その結果として生産力が低位で推移しているものと思われる。
これら要因の分析と適切な対応策により一層の生産性向上が図れるものと思われる。なお、具体的な対応策については別途関係する項に記載する。
黒島は石垣島と西表島の中間やや南に位置している。石垣島から航路18.5kmの距離にあり、定期船が運行している。人口は約200人、農家戸数は59戸(平成2年)であるが、この島で飼養されている牛(黒毛和種)は2242頭(平成4年)であり、人口の10倍の牛がいることになる。
同じ竹富町でほぼ同じような条件にある竹富島の農家戸数10戸(平成2年)、黒毛和種飼養頭数168頭と比べると際だっている。観光客の入域者数において竹富島が黒島よりも圧倒的に多いことからすれば、観光の竹富島に対する肉牛の黒島ということができよう。
表6.竹富町における肉用牛飼養と観光客数 (単位:人、戸、頭)人 口 (H2) |
世帯数 (H2) |
農家 戸数 (H2) |
肉 用 牛 | 観光客入 域者数 (H3) |
||
---|---|---|---|---|---|---|
戸数 (h4) |
頭数 (h4) |
|||||
黒 島 | 209 | 98 | 59 | 68 | 2,242 | 19,475 |
竹富島 | 273 | 129 | 10 | 16 | 168 | 116,784 |
西表島 | 1,712 | 685 | 194 | 59 | 1,278 | 150,135 |
竹富町全体 | 3,468 | 1,476 | 372,870 |
黒島において飼養されている肉用牛(全て黒毛和種)はほとんど周年放牧されている。このため牧草の生育が鈍る冬季においては放牧草が不足することとなる。意欲的に経営の改善を図っている農家にあっては、放牧地の整備や採草地の造成整備とこれによる冬季飼料の確保を行っているが、そうでない農家では冬季には放牧地の草も食いつくされ、飼料不足で非常に痩せている牛も見られる。
交配方法としては近年人工授精の割合が高まり、多くはこれにより行われており、「まき牛」はほとんど見られない。ここにおいて生産された子牛は、ほとんどが島内肥育されることなく、島外に出荷されている。より高価に販売できるようにとのことで、近年は主に但馬系の精液が用いられている。しかし、子牛価格は本土からの距離や運搬経費、あるいは発育状況等もありかなり安い価格で取り引きされている。肉用牛子牛保証規準価格が304千円であり、全国的にはこれを上回る価格で推移しており、価格保証のための補填の発動には至っていないが、平成5年における八重山家畜せり市場では214千円〜261千円、黒島家畜せり市場では更にこれを下回る149千円〜193千円で取り引きされている。
黒島における草地は放牧地が主体である。珊瑚石灰岩の上にこれが風化した土壌がわずかにあるという状況の下で、従来はこれを放牧地として利用してきた。堅い岩盤がむき出しになっている所も多く、地表にも石灰岩塊がごろごろとある状況では採草利用は困難であった。
しかし、そのような中においても草地の整備は進められてきたが、これが本格的に、かつ高い整備水準の採草地の造成も行われるようになったのは農用地開発公団(現農用地整備公団)を事業主体とする畜産基地建設事業の実施と、この事業において採用されたスタビライザ工法による平坦な草地の造成によるものである(当該工法の詳細は別項参照)。
畜産基地建設事業完了の後も沖縄県農業開発公社を事業主体とする公社営畜産基地建設事業において当該工法は受け継がれ、草地の整備が進められている。
黒島で現在最も好まれている牧草は葡伏茎で広がるジャイアントスターグラスである。この草種は夏期の生育が良好であり、耐旱性、永続性に優れるという特長がある。しかし、当初導入した草地のみならず周囲にまで葡伏茎を伸ばすことから畑地雑草ともなりうる牧草であるが、黒島が畜産専業の島でありほとんど島全体が放牧地であることから、これが雑草化する心配はない。採草、放牧ともに用いることができる。
またギンネムと牧草(グリーンパニック)との混作利用が以前に試みられたが、グリーンパニックは永続性が乏しく、またギンネムにギンネムキジラミが発生し生育を著しく害することから、現在ではかつてこの方式で造成されたところがそのまま残っているところがあるだけで、新たにこの方法で造成することはない。
ここでの草地は放牧地が主体であるが、意欲的な農家を主体に採草地も見られた。草地を拝見させてもらった国吉牧場では、現在は採草地と放牧地は別々にあるが、草生の改善や維持年限の延長のためには同じ草地を採草地と放牧地交互に利用することが望ましいので、今後はそのようにしていきたいとしていた。
また、国吉牧場等においては草地が扇状に広がり、扇の要の位置に基地があり、放射状に区切った牧区は要の部分にある水飲場を共有する形となっており、日常の家畜管理や 転牧等が行いやすいことが伺えた。
黒島における採草地の多くは既にスタビライザ工法で造成されたものであり、意欲的かつ大規模な農家においては数戸共同でロールベーラーを有し、乾草及びロールベールラップサイレージを調製していた。
黒島全体としては放牧地においてもスタビライザ工法等により新たに整備する等して、生産性を上げようとする農家もある一方で、多くの石灰岩が露出している放牧地も見受けられる。このような放牧地では一般に家畜が食べないソテツ等が多く見られ、また雑草の混入もあり、牧草の生育も芳しくない。このような状況では牧草生産のための施肥も十分ではない可能性がある。これらの土地も順次整備されることが望ましい。
既に完了した畜産基地建設事業及び現在も行われている公社営畜産基地建設事業等草地関係事業の実施により石灰岩だらけの草地は徐々に平坦な草地に整備されてきてはいるが、まだ整備水準の低い草地も多く残されている。
全国的にも肉用牛子牛価格が低迷し、しかも全国水準よりも更に低い価格となっている黒島においては農家の収入も少なく、草地の整備意欲も鈍るとみられるが、実際には黒島における草地整備は急ピッチで進められている。しかし、沖縄県においては国庫補助率が高く設定されており、地元負担は少ないとはいえ、将来的な収入(=肉用牛子牛価格)の見込みが不透明な中で今後とも草地整備が積極的に行われるかどうか不安な点もある。今後とも草地の整備を進めるためには国や特に県において的確な将来見通しを地元に示すことが必要なのではなかろうか。またせっかく草地を整備しても、これを利用する農家の草地管理技術、経営技術が高度化しないならば宝の持ち腐れともなりかねない。レベルの高い農家のみならず、これ以外の農家における技術水準の向上を積極的に進める必要がある。少なくともガリガリに痩せた牛を見ることがないようにしたい。草地の整備やその適切な利用、飼料の貯蔵等において、農業改良普及所等の指導機関におけるより一層の農家指導に期待したい。
またスタビライザで整備した草地は破砕された石灰岩を多く含み、強いアルカリ性を示す。このような状況でも牧草は育つとされているが、土壌のミネラルバランスに由来する牧草及び家畜における栄養障害(特に微量成分について)がに発生しないかどうか検討することも必要であろう。またこれが顕在化していなくとも、牧草や家畜における生育の遅延等のような問題の原因の一つともなりかねないので沖縄県畜産試験場における調査研究も必要と思われる。
黒島においては肉用牛の生産が盛んであり、今後も積極的に拡大を図る計画がある。肉用牛の飼養には島内で生産される牧草の他に濃厚飼料もある程度は必要であり、また牧草生産のための肥料も必要である。既に島外から濃厚飼料や肥料としてもたらされる窒素や燐酸成分はかなりの量にのぼっているものと見込まれる。また今後飼養頭数規模が更に拡大された段階においてはこの量は更に多量なものとなるであろう。これらのうち牛体として持ち去られる分を除いたものは家畜のふん尿や牧草等に吸収されなかった肥料成分ということになるがこれは膨大な量になるものと思われる。そしてこれらは地面から浸透していく。燐酸は珊瑚石灰岩のカルシウムに捉えられ、燐酸カルシウムとして固定されるが、窒素分の一部は揮散するものの多くは地中深く浸透する。珊瑚礁により形成された島の地底部には地下水として海水が侵入しており、比重の小さい真水は海水層に達するとこれと混じり合うことなく横方向へと向きを変え、最終的には海に流出することになる。現在はこのことにより海水が汚染されたということはまだないが、将来的には島周辺海域への窒素供給が大きくなり、近海における海洋生物の生態系にも影響を及ぼすことが懸念される。
また黒島の人口は減少傾向にあり、意欲的な農家といえども将来居住人口が少なくなれば生活面での問題が生じることになる。このようになれば生活拠点は石垣島におき、通勤農業の形態をとることもあるのではないかということであった。
宮古島では以前から肉用牛の飼養は子牛生産とともに堆肥生産のためでもあり、このため専ら舎飼い飼育となっている。宮古島の土壌は島尻マージが主体となっており、これは農耕地の土壌としては物理化学性もベストではないが、土層も厚く比較的耕しやすい性質であることから、サトウキビを主体とする畑作が営まれていた。しかし、島尻マージは痩せた土壌でもあるため、昔から多くの農家では肉用牛を飼い、そのふん尿を堆肥として畑に還元していた。この点においてはかつての本土における肉用牛飼養とその目的や経営形態とも大きな違いはなかったといってよいであろう。またこの点こそが飼養規模が大きく、また牛を飼っていることはステイタスシンボルであった八重山地方と大きく違うところでもある。
宮古地方においても昭和の初期にはかなりの数の肉用牛が飼養されていたが、伝染病や太平洋戦争の影響もあり、戦後の昭和22年には宮古郡全体で284頭にまで激減した。しかし、琉球政府の補助や市町村の導入貸付事業等により奄美群島や鹿児島から素牛が導入され、昭和38年には約5,000頭にまで増加するに至った。
昭和39年からは琉球米国民政府の指導と日本政府の援助により外国種(アバディーンアンガス、ヘレフォード、ショートホーン)が米国から導入され、黒毛和種と交配された。これは外国種の早熟性を和牛に付加しようとしたことによるが、期待した成績があげられなかったことに加え、枝肉の本土市場での格付けが極端に悪かったため、これ以降は外国種の導入は断念された。これは明治末期の頃からそれまでの在来和牛に外国種を交配して黒毛和種や褐毛和種、無角和種、日本短角種が形成されたことと類似した経緯をたどっている。ここにおいても外国種の導入は肉質や斉一性に悪影響を及ぼし、間もなく外国種の交配は中止されたのである。当時としては家畜の改良に関する十分な知識の蓄積がなかったとはいえ、同じようなことが沖縄で繰り返されたものといえよう。
このようなことから県外からの導入は黒毛和種に限られるようになり、昭和42年に琉球政府からの政府有牛の貸付けが始まり、昭和40年代と昭和56年頃の家畜導入ブームを経て平成5年には1,652戸が12,733頭の肉用牛を飼養している。このような中、昭和55年には宮古和牛改良組合が組織され、体積と資質の両面からの改良を進めている。
宮古地方ではサトウキビを主体とする畑作が農業の基幹であり、肉用牛の飼養はサトウキビや野菜等畑作との複合が主体である。このため1戸当たり飼養頭数は八重山地方よりは少ないものの、年々増加傾向にあり、平成4年には7.2頭/戸となっている。飼養形態は繁殖が主体であり、一部において肥育経営もあるが、生産された子牛の多くは島外に出荷されている。
土地利用の面では宮古島全体が平坦であることもあり、多くは畑地として利用されている。飼料畑面積(草地を含む)は宮古郡全体で728ha(全耕地面積11,859haの6%)にとどまっている。また畑地の区画は比較的小さく、草地もこの中に点在し、1戸当たりの飼料基盤面積も極めて小さいことから、牧草収穫にもロールベーラーのような大型機械は稼働できず、また家畜への給与の場面でも人力に依存した体系であること等もあり、人力での取扱いが可能なコンパクトベールを生産する体系をとっている。
肉用牛飼養農家の高齢化により、農家個々での飼料生産作業が困難になってきたことから、JA宮古郡が主体となり、昭和63年より補助事業(畜産活性化総合対策事業)の活用により牧草の刈取、集草、梱包までの一連の乾草調製用機械を導入し、これにより乾草調製作業受委託事業(コントラクター)が発足した。コントラクターはJA宮古郡の直営(3セット)と郡農協から和牛生産部会へのリース(9セット:平良市4セット、城辺町4セット、上野村1セット)の2本立てとして行い、肉用牛生産農家の要望に応じて乾草調製作業を請け負うこととしている。
このことにより特に担い手が高齢となった肉用牛飼養農家における飼養生産が容易になり、草地面積の拡大とこれによる飼料自給率の向上、またこのことを背景とした肉用牛飼養頭数の増加が図られている。今後は高齢な農家を主体により一層の利用拡大とこれによる肉用牛生産体質の改善を図ることが期待される。また条件が近似している本島中南部等においてもこの方式が取り入れられることが望まれる。
宮古島において栽培されている牧草は、畑地と草地が混在していること(=葡伏茎の牧草は用いることができない)、経営規模が零細で生産及び給与の面からサイレージ体系をとりえず乾草体系である(=茎が細く、乾草向きの草種が適する)こと等から、ほとんどローズグラスとなっている。しかし、ローズグラスは刈遅れにより飼料としての品質が低下しやすいにもかかわらず、既に開花し刈遅れ気味となっている圃場も多くみかけた。
冬季の飼料不足を緩和するために、宮古家畜保健衛生所の指導の下で冬作の飼料作物としてえん麦の栽培が試みられているが、冬季でも温暖な気候により冠サビ病が発生しやすいため、冠サビ病の品種による抵抗性の実証展示を行っていたが、ここではAS−6(サビツヨシ)が優れた抵抗性を示していた。冬季に生育する作物としてはイタリアンライグラス等他の種類も検討の上、この地に適した冬作飼料作物が普及されることが望ましい。しかし、一方播種時期や収穫時期とのかねあいから、夏作との組み合わせや畑作物との輪作ローテーションにおいてどのように組み入れられるか(前作と後作を何にするか)を十分に検討することも必要に思われる。
宮古島の土壌は島尻マージが主体である。この土壌は土層は厚く、耕しやすい性質を有しているが、反面肥沃度に乏しい。このような痩せた土壌であるために、永年性作物であるサトウキビの維持年限も短いとのことであった。堆肥生産のための肉用牛飼養という側面もこの土壌の性質からも頷ける。しかし、堆肥の施用による黒みを帯びた土は見ることはできなかった。これは施用した堆肥に由来する土壌有機物の蓄積よりも、高温条件であることによる土壌有機物の分解も早いためではなかろうか。このような土壌では牧草の生産性も低いものと思われる。今後は肉用牛飼養の増により、堆肥還元量の一層の増加とこれによる土壌の改善が図られることが期待される。併せてカルシウム等のミネラルに富み、保肥力にも優れた「クチャ」の施用が更に積極的に行われることが望ましい。
飼料基盤の不足を補うため、サトウキビの収穫時の副産物として出る梢頭部(サトウキビの先端部の葉及び若芽の部分)を飼料として給与している。サトウキビの収穫は冬季に行われるため、特に粗飼料の不足しがちなこの時期の飼料資源として活用されている。しかし、サトウキビの栽培が多労であることから、農業従事者の高齢化とともに、サトウキビ栽培は敬遠されるようになり、サトウキビの梢頭部の利用も減少してきている。
サトウキビの刈取は一部で機械(ケーンハーベスター)も利用されているが多くは手作業であり、梢頭部もまとまって供給されるものではないため、青刈り給与として収穫後せいぜい数日の間にに給与されている。このようなことから、サトウキビ梢頭部の利用は今後大きな拡大は望めないものの、サトウキビと肉用牛の複合経営においては粗飼料資源として今後とも一定の位置づけがなされるものと思われる。
またサトウキビの搾り粕である「バガス」も飼料として用いており、更にバガスの飼料価値を高めるためにJA宮古郡が出資母体となって設立された(有)宮古家畜飼料センターがバガスの蒸煮処理を行うプラントを建設中であった(事業費257,320千円、うち国庫補助128,660千円、県補助128,660千円)。またこのプラントが稼働するようになれば蒸煮処理及び糖蜜添加により家畜における嗜好性と消化率が向上し、より品質の高い飼料とすることができる。またこのことにより従来多くは製糖工場における燃料とされていたバガスのうち全体の約1/4にあたる年間4,050トン(調製後のバガス飼料として3,270トン)が飼料に向けられることになる。これはこの地区における必要粗飼料の約10%に相当する。現在まだ建設中であるが稼働後は36円/sの単価で農家に販売することとしている。
このプラントは年間240日〜250日の稼働を予定しており、一方原料となるバガスは生産が冬の一時期に集中する。このため原料バガスをストックヤードに貯蔵しておくこととしていた。
宮古地域では経営規模が小さく、かつ今後肉用牛の飼養の拡大は高齢者によるところがかなりのウエイトを占めることが予想される。このため既に実施されているコントラクターの一層の拡大が必要となろう。
また圃場規模が小さく、牧草地がサトウキビやその他の畑作物を栽培している畑地と錯綜している状況では、コントラクターによる大型機械による作業を行うとしても、圃場規模がネックとなり効率的な飼料生産は困難である。このため、本土の水田転作において実施されているようなブロックローテーションの導入も検討されてよいのではなかろうか。即ち農地を集落ごとに1つのまとまりとし、これを大きくいくつかの区画に分け、ここにおいてサトウキビ等の畑作と牧草の栽培とをローテーションさせるのである。できればその農地を農地管理組合のようなものを設立し、これにまとめて栽培・管理委託し、圃場規模を大きくすることができれば、作業能率も一層向上しよう。このようにすればサトウキビ等の畑作においても高能率な機械の導入を図ることができる。この段階では現在における牧草の収穫のみのコントラクターから更に大がかりな、サトウキビ等畑作物の栽培管理をも含めた農作業全体を対象とした作業の受委託に発展することも考えられよう。
高齢者による肉用牛飼養では、給与する飼料も取扱いやすいコンパクトベール乾草が主体とならざるをえない。しかし、農地利用の集落単位での集団化がなされれば同様に家畜飼養も集団化できるのではなかろうか。そのようになればロールベール等のより高性能な作業体系を導入することができる。ここではその人の能力や適応性に応じた作業を分担してもらうことになる。高齢者が主体とはいえ牛舎内やその周辺での作業に機械を使うことのできる人はいるのではなかろうか。
しかし、このような農業の集団化は、このような合理性からのみ論ずることはできない。わが国ではこれまでにも多くの所で集団化が図られ、しかし、それが失敗に終わった例も数多い。それが成功するか失敗するかは人々の気質や人間関係も大きく関わってくる。これらをも踏まえた上で可能ならば集団化に進むことが有効な選択肢の一つとなりえよう。
前述した宮古地域の栽培条件に適した牧草についても沖縄県畜産試験場や宮古家畜保健衛生所等による牧草の検索や栽培試験を積極的に進めることが期待される。えん麦等において調査・実証が行われているが、永年性牧草や冬作の飼料作物についてより一層この地に適した種類や品種が見いだされることが期待される。
沖縄における草地開発に関して、その中心となる基盤整備技術については後に記するスタビライザ工法等を除けば他の地域におけるものと基本的に大きな違いはない。しかし、沖縄本島北部等の国頭マージ土壌における造成・整備に際しては、この土壌が雨水などにより容易に分散し流水中に移行しやすく、この土壌を含む流水が海に流れだし、珊瑚等を死滅させるおそれもあり、またガリ侵食を起こしやすいことから、特に造成初期の土壌が露出している時期における土壌流亡を最小限に抑えることに十分な配慮がなされる必要がある。
このためには傾斜度等について十分な検討を行い、土壌流失のおそれのある地形、傾斜度の場合は造成・整備を控えるか、ないしは適切な排水路や沈砂池等の設置により域外への土砂流失を最小限に抑えることが肝要である。
沖縄県の島嶼部は洪積世の琉球石灰岩を母岩とし、表層にはそれ等の露出岩盤や石灰岩礫が露出している地が広く分布し、このような所では従来は草地造成を行うには地表に露出し、あるいは地表近くにある岩や礫を取り去り、これらの合間にある土壌を均して牧草を導入していた。しかし、石灰岩に対する土壌の割合は低い場合が多く、掘り取っても際限無く石灰岩が現れる場合が少なくない。
このようなことから石灰岩を砕き土壌と混和し、これに牧草を導入する技術が農用地整備公団と関係機械メーカーとの協力により開発された。これに用いる機械は「スタビライザ」と称し、道路建設の際に、旧来のコンクリート路盤を破砕するロードスタビライザを石灰岩地帯の農地造成用に改良したものである。この機械の開発・改良は昭和57年より58年にかけて行われ、昭和59年より事業による草地造成に用いられた。
スタビライザは車体の腹部に装着された回転するローターにつけられた100本のビットが岩を削り進むようになっている。岩礫は砕かれ、細礫状となり土壌と混和する。最大破砕深は400oであり、実際の破砕深は300o以上としている。岩礫は破砕されることによりみかけ上の体積を増すため、300o深の破砕により約400oの土層が形成されることとなる。
この工法では、かん木の刈払い、集積・火入れし、作業に支障となる地表の岩塊を処理し、リッパードーザー等による岩掘削、押土処理の後、スタビライザにより破砕処理を行う。その後は砕土、土壌改良資材散布を行い、膨軟化した土壌を鎮圧の後に播種し、再度鎮圧を行う。
造成経費は破砕層中の岩の割合が多くなる程高くなる。破砕層全体に占める岩の割合が40%では350万円/ha、70%では550万円/ha、90%では750万円/ha程度となっている。これは石礫除去(140万円/ha)よりは経費はかかるが、石礫除去では採草地化は困難であるのに対してこの工法では立派な採草地を確保することができる。また同様な土層を客土により確保する場合(1300万円/ha)よりははるかに経費は安くてすむ。
またこのことにより地表の岩礫や岩盤の存在のため、従来は放牧地にしか利用できなかった地を造成し、採草地として利用することができるようになった意義は大きい。また草地管理が容易になることも相まって牧草生産力を飛躍的に向上させることができる。このため地元(黒島)ではこの工法による造成の希望が多い。スタビライザは現在「南西開発」という会社が所有している。農用地整備公団による畜産基地建設事業が完了の後も、沖縄県農業開発公社を事業主体とする公社営畜産基地建設事業によりこの工法が継承され、実施されている。
造成された草地の土壌中には破砕された石灰岩が多く含まれることになり、pHは8〜9となる。しかし、このようなアルカリ性土壌における牧草の生育には支障はなく、むしろ根張りもよく順調な生育を示している。アルカリ性土壌ということもありアルカリ性側で吸収されづらくなる微量要素(例えば鉄、マンガン等)の欠乏症や、カリウムやマグネシウムが多量に含まれるカルシウムとの拮抗作用により吸収されづらくなるという可能性もあり、この点について牧草や家畜について十分な調査がなされることが望ましい。
従来から酸性の強い国頭マージ土壌に対しては第3紀泥灰岩(沖縄における通称「クチャ」)の客土により土壌の化学性の改善を行ってきた。クチャは沖縄本島中南部の丘陵地や島の基底を形成し、有孔虫や貝殻、珊瑚片等を含む海成体積物で、主として粘土や微砂よりなり、カルシウムやマグネシウム等のミネラル分に富む。酸度の矯正やミネラル分の補給の効果がある。また陽イオン交換容量も大きい。このため国頭マージには乏しい粘土分を付与し、塩基置換容量の増大等の化学的性質の改善にも役だっている。しかし、土壌pH改善のためには多量のクチャを客土せねばならず、加えて沖縄本島では国頭マージ土壌地帯である本島北部とクチャを産する本島中部とでは距離が遠いことからコストが嵩むという問題もある。
沖縄本島北部の本部半島において行われている石灰石の採掘の際に副産物として出る「粗砕石灰岩」を利用することが行われた。粗砕石灰岩はカルシウムが35%以上含まれ、土壌改良資材として用いることができる。また粒子が粗く、土壌pH改善効果が長期にわたって継続するという特徴がある。
また八重山地方では港湾の航路確保のための浚渫の際に副産物として産出されるコーラルサンド(珊瑚砂)を土壌改良資材として用いることが行われていた。コーラルサンドは石灰分に富み石灰質土壌改良資材として利用することができる。粒径は0.1o以下から1cm以上までと広い範囲にわたっているが、細砂部分である2o以下の部分が50%を占める場合が多い。多孔質であるために同じ粒径の石灰岩破片よりも溶解度は高い。また粒子の粗い部分もかなり含まれるため酸度矯正効果が長期にわたって継続するという特徴を有している。現に10年以上以前に造成された草地の土壌中から当時施用されたコーラルサンドの粗粒部分が見いだされるとのことであった。
しかし、浚渫されたばかりのコーラルサンドは塩分を含み、また粒子は細砂から礫に相当するものが含まれるため、土壌改良資材として用いるには脱塩処理と篩い分けを行う必要がある。
これら資材の特性とその利用に関する調査は、沖縄総合事務局が草地開発技術調査として昭和55年から昭和60年にかけて熱帯農業研究センター(現国際農業研究センター)沖縄支所、沖縄県農林水産部畜産課、沖縄県畜産試験場の協力を得て行われ、昭和61年3月には「草地開発技術調査報告書(コーラルサンド等による草地造成に関する調査)」として報告された。また、このような調査と平行して畜産基地建設事業の中で行われた草地造成においては石灰質土壌改良資材として、八重山地域ではコーラルサンドが、山原地域では粗砕石灰岩が用いられた。
しかし、今回石垣島を訪れた際に聞いたところでは、現在ではコーラルサンドの利用は行われていないとのことであった。理由としては粒度を揃えるのに手間と経費がかかるためとのことであった。しかし、長期にわたる効果の持続や地域資源の活用の観点からもこれの再活用が望まれるところである。
沖縄県においては畜産基地建設事業等の実施によりかなりの面積の草地が造成整備された。容易に開発できるところの相当部分は開発されたといってもよいのではなかろうか。今後は必要により更に開発を進める部分もあるであろうが、主体は既存草地の整備ということになろう。かつて草地開発により手が加えられたものの、当時の整備技術水準と現在におけるそれとの差もあり、現在の技術による再整備が必要となっているところも相当程度あるものと見込まれている。
黒島等で行われているようなスタビライザ工法による再整備については、これが適用可能な面積も多いものと思われる。また表層の石礫を破砕した土壌においても草地更新を繰り返すことにより深い部分にあるより大きな礫が表層に現れてくることも考えられる。そのような際はストーンクラッシャー等による石礫破砕が必要となるかもしれない。
今後とも草地の現状の把握と、草地整備技術等を勘案しつつ整備を推進することが必要である。しかし、実際の草地の整備にあたっては多額の経費がかかることに鑑み、大家畜畜産を巡る情勢や経営状態等にも十分に配慮しつつ行うことが肝要である。
沖縄における草地開発の初期段階に遡れば、当時は暖地型牧草に関する知見も少なく、採草用としてローズグラス、放牧用としてバヒアグラスが多く用いられた。その後ギンネムと牧草の組み合わせということで比較的耐陰性の強いグリーンパニックも用いられた。
これらのうちローズグラスは永続性や刈取り適期幅、飼料としての品質の等の問題を有している(詳しくは当該草種の項参照)。グリーンパニックについても維持年限が短く、ギンネムとの組み合わせ草地においても衰退が著しく雑草の侵入を許していおり、当初期待された成績をあげられず、現在では多くは栽培されていない。
このような試行錯誤を踏まえ、現在においては栽培される牧草の種類も大きく変わってきている。
平成2年現在の沖縄県における飼料作物栽培面積を見ると、その全体は3,484haであるが、このうち草種別作付面積ではパンゴラグラス、ローズグラス、ジャイアントスターグラスの順となっている。これは昭和60年においてローズグラスが圧倒的に多かったことからすれば、わずか10年足らずの間に栽培草種も大きく変化したといえよう。
この中で特に増加が著しいのはパンゴラグラス、ジャイアントスターグラス、ギニアグラスである。特にパンゴラグラスやジャイアントスターグラスは葡伏茎で広がり、草地の維持が比較的容易であることや、特に大規模肉用牛経営が主体の八重山地方においては圃場の立地や規模等からして周囲への雑草化の懸念が少ないことに加え、嗜好性(パンゴラグラス)等や栽培のしやすさ(葡伏茎により伸長するため、株枯れによる草生密度の低下がなく、牧草地としての永続期間が長い)等が評価されたものといえよう。
ギニアグラスは株立ちするが成長力が旺勢であること等から、葡伏茎を有する牧草が周辺耕地で雑草化するおそれのある圃場や、あるいは比較的低温伸長性もあることから沖縄本島等沖縄県の中でも高緯度に位置するところにおいて今後も普及が見込まれる。
次に各草種の特徴等について触れてみたい。
表7 飼料作物作付面積及び草種別内訳区 分 | S50 | S6 | H2 | |
---|---|---|---|---|
全体作付面積 (ha) | 1848 | 3077 | 3484 | |
草 種 別 構 成 比 % |
ローズグラス | 0.9 | 58.7 | 23.6 |
ネピアグラス | 37.7 | 15.7 | 12.0 | |
ジャイアントスターグラス | 0.8 | 4.1 | 15.1 | |
パンゴラグラス | 1.0 | 9.7 | 24.7 | |
ギニアグラス | − | 0.0 | 9.1 | |
その他 | 59.5 | 11.9 | 8.9 |
資料. | 沖縄県農林水産部畜産課調べ |
注. | 四捨五入の関係で草種別構成比の合計値は必ずしも100にならない。 |
ローズグラスは南アフリカ原産で、1912年頃セシル・ローズにより牧草として実用化された。沖縄には昭和35年頃台湾より導入されたが、昭和47年頃より草地開発事業の実施に伴い本格的に導入されることとなり、畜産基地建設事業等における採草地の造成においてはほとんどこの草種が導入された。
茎が細く、乾草調製が容易である。しかし、出穂後はリグニンの蓄積による木質化が急速に進み、嗜好性や栄養価が急速に低下することから刈取り適期幅が狭いという問題がある。また可溶性炭水化物の含量が低くサイレージ発酵にやや難があり、従来の乾草調製主体からサイレージ調製の割合が増加していく中にあっては問題なしとはしない。
根は地表浅いところに分布するため、干ばつに弱い特徴がある。また播種後年数が経過するに従い根株が浮き上がるようなかたちとなり、放牧により採食された際に根株ごと引きちぎられてしまうことがある。ローズグラスは沖縄においては永年草として取り扱われているが、播種後の年数経過により次第に草勢も衰えるため、土地条件や利用条件にもよるが4〜5年程度しかもたない。
このようなことから八重山地域等においては過去にローズグラスを導入した草地においても草地更新等により他の草種に置き替わっている場合が多い。しかし、現在においても本島北部や経営規模が小さく、ほとんど調製・貯蔵が乾草のみとなっている宮古地域等における栽培牧草はローズグラスが主体となっている。
沖縄県全体としても、昭和60年においては草種別作付面積の58.7%を占めていたが、平成2年においては23.6%にまでシェアを減じている。
今後とも乾草主体とし、しかも適期刈りが確実になされる場合以外は、調製利用方法の検討を含め他の牧草への転換を図ることが望ましい。
本種は放牧用草種である。しかし、播種後定着に至るまでの初期生育が遅く、雑草との競合に弱い。また利用が遅れると嗜好性が低下する。
本草種は比較的低温にも耐えるため、畜産基地建設事業等により沖縄県北部地域に導入された。しかし、放牧用草種としては肉用牛の放牧飼育の盛んな八重山地域においては葡伏茎により草生密度の高い草地となるパンゴラグラスやジャイアントスターグラス等が主体となっているため、沖縄県全体としては広く栽培されるには至っていない。
沖縄へは昭和40年頃オーストラリアより導入された。暖地型牧草の中では比較的耐陰性があるとして、ギンネムの下草用として導入された。しかし、詳しくは別項で触れるようにギンネムの飼料としての栽培がほとんどされなくなったことに加え、永続性や他草種との競合等において問題を有しているため、近年はあまり栽培されていない。
熱帯アフリカ原産。昭和12年頃オーストラリアより奄美大島に導入されたとの記録があり、同じ頃沖縄にも導入されたものと見られている。沖縄県で栽培される牧草の中では最も多収が可能な牧草である。しかし、水分含量が高く乾草調製に適さず、茎が太く予乾しづらいことからサイレージ調製にも不向きであり、機械による刈取り調製には向いていない。また種子繁殖が行えないため、繁殖は茎を2節毎に切りとって挿す方法によっている。
貯蔵飼料として調製しづらいため、小頭数飼養農家において青刈り給与に用いられている程度であり、今後においても大幅な栽培面積の増加は見込めないものと思われる。沖縄県全体の飼料作物作付面積に占めるシェアも昭和60年の15.7%から平成2年には12.0%とわずかではあるが減少している。
葡伏茎が地表を這い、高い草生密度を得ることができる。競合力も強く雑草の侵入はあまりない。より高い温度を好み低温時には生育が緩慢である。また定着すると葡伏茎の伸長が早く、隣接した土地へ拡大していく力が強く、畑地では強害雑草となりやすい。このことから本島においては温度が低すぎ、また宮古地域では雑草化の危険性があるためあまり栽培がみられず八重山地域、特に肉用牛経営に特化している黒島等で好まれ、栽培されている。採草、放牧それぞれに用いられる。種子繁殖が行えないため、刈り取った茎葉をばらまき軽く鋤込む方法がとられている。今後においても八重山地域、特にその中でも肉用牛飼養が中心となるところにおける最も主要な牧草と位置づけられる。
沖縄県の飼料作物作付面積に占める割合は、昭和60年においては4%であったが、平成2年には15.1%を占めるに至っている。
南アフリカ原産。沖縄へは昭和35年に台湾より導入された。沖縄に導入されている暖地型牧草の中でもジャイアントスターグラス同様に寒さには弱い。またジャイアントスターグラスと同様に葡伏茎で広がる性質を有している。単収はやや少な目であるが、茎葉の糖含量が高く家畜の嗜好性が非常によいとのことであった。またこのことはサイレージとする際にも有利に働く。乾草に調製した場合は見た目はあまりよくないが、家畜の嗜好性は高い。また出穂後の茎の硬化が遅いため、刈取り適期幅は他草種に比べて広いという特長がある。
パンゴラグラスはほとんど八重山地域にのみ栽培されている(その理由は前項のジャイアントスターグラスと同様であると思われる)。八重山地方が草地に立脚した肉用牛生産が盛んであることを背景として、またパンゴラグラスの優れた特性により栽培面積は急速に拡大し、草種別面積シェアでは昭和60年における9.7%から平成2年には24.7%にまで増加している。
本種も種子繁殖ができず、ジャイアントスターグラスと同様な方法により増殖している。
近年栽培が増加している草種である。ジャイアントスターグラスよりは低温でも成長する。収量はローズグラス程度が見込まれる。播種後の初期生育段階においては茎葉は横に広がり、勢力範囲を確保した後に上に向かって伸長する。株化し基底被度は高くはないが、成長力は旺勢で人の背丈を超える。このため雑草の侵入を許さない。
調製方法としては乾草にはできないことはないが茎がやや太く、乾燥しづらいためサイレージとするのが適している。放牧にも用いることができる。
品種としては従前からあるガットン(沖縄ではガットンパニックと呼称している)と九州農試で育成されたナツユタカがある。ガットンは播種後3〜4年で草勢が衰えてくるのに比べ、ナツユタカは草勢の衰えは少ない。このようなことから今後はガットンに代わってナツユタカが主流となるものと思われる。しかし、ナツユタカは採種が容易ではなく、沖縄県においても八重山家畜保健衛生所において採種し供給しているが、当地においても十分な種子が得られているわけではない。日本飼料作物種子協会を通じた海外採種が軌道に乗ることが望まれる。また地上部を地際より15cmの高さで刈取り、根株を掘り起こし、2〜3本の茎を1株として株分けして移植する方法もとられる。労力はかかるものの、小規模な草地の整備・更新に際して種子の手配ができない場合等においてはもっと取り入れられてよい方法ではなかろうか。
本種は沖縄県全域に適するが、八重山地域においてはジャイアントスターグラス、パンゴラグラスが好まれており、宮古地域においては小規模複合経営で肉用牛飼養の主体を高齢者が担っており、当面乾草給与が主体とならざるをえない(ギニアグラスは乾草にはやや不向き)ことから、今後の普及の対象は沖縄本島地域が主体になるものと考えられる。
沖縄県の飼料作物作付面積に占める割合は、昭和60年においてはわずかであり、ギニアグラス単独の値は示されておらず、「その他」に含めていたが、平成2年には9.1%を占めるに至っている。
暖地型マメ科牧草である。蔓性で葡伏しあるいは他の植物等に巻きつく。家畜の嗜好性はあまり高くない。イネ科牧草と混播されるが、イネ科牧草がこれに卷きつかれたり上部を覆われたりして圧倒されることもある。また耕地に侵入してここにおける雑草となる危険性がある。
沖縄に導入されたのは1970年であるが、広く栽培されるところまでには至っていない。
沖縄県においてアルファルファはまだ一般的に栽培されているわけではない。品種としては従来はデュピイが用いられていたが、沖縄の気候はデュピイには暑すぎ、炭疽病等の病害に弱い等から普及してこなかった。しかし、国内育成品種であるナツワカバ、タチワカバは沖縄県における適応性がより高いことから普及が期待されている。しかし、アルファルファ栽培のためには物理性・化学性に優れ、熟畑化された土壌でないと十分な生育を得られない。このためジャーガル土壌においては排水や通気性について十分な改善をする、他の土壌においても十分な土壌改良や堆肥施用等を積み重ねる等がアルファルファ栽培の前提条件となる。
またアルファルファ単独では倒伏しやすいため、北海道ではチモシー等のイネ科牧草との混播が広く行われているが、暖地型イネ科牧草でアルファルファと相性のよい牧草を選ぶとともに、亜熱帯におけるアルファルファ栽培に関する調査研究とこれに基づく技術確立が必要である。
沖縄県においては以前は一部を除いて大家畜飼養農家において草地(採草地)を管理利用するということはなかった。それまでも八重山地域等で大規模放牧飼養が行われてはいたが、野草地としての利用が多く、とりたてて草地の管理を行うのではなく、極めて粗放的な利用にとどまっていた。本島や宮古地方においてはさとうきび等との複合経営が多く、野草や冬季にはさとうきびの梢頭部等を飼料資源としていた。
本土復帰までの琉政援助や復帰後の小規模な草地関係事業の実施により草地の造成と牧草の導入等が行われたが、これが初めて大規模・本格的に行われるようになったのは畜産基地建設事業によるものであるといってよい。そして畜産基地建設事業等により大規模な飼料基盤とそれを管理利用する機械や施設がほとんど初めて導入されたことになる。このことはこれらの飼料基盤や機械装置を駆使する経営技術が注入されたことにもなる。これらについては沖縄県に定着したものもあれば結果として定着しなかったものもある。
大規模な草地を近代的に管理利用するということは、八重山地域においてはそれまでの草地利用が既に大規模であったことや技術的蓄積もありほぼ根付いたといえよう。八重山地域等ではロールベール等の高性能機械を共同で所有し、これを駆使するような経営も現れてきている。
しかし、全ての畜産農家がこのような高いレベルを有しているとは限らない。低位レベルの農家の技術向上を地域ぐるみで推進することが必要である。
地域的には経営規模が小さい宮古地域における適正草種の導入、サトウキビを主体とし、その中に牧草や飼料作物を組み入れた輪作体系の確立、より高性能な収穫体系の導入等が必要であろう。
本島北部等の畜産の歴史の浅い地域においては他地域以上に栽培草種や栽培・収穫技術を含めた技術の蓄積と浸透が必要であり、農家の努力に加えて普及指導機関や研究機関の積極的な取り組みが求められる。
沖縄県は亜熱帯気候に属するとはいえその広がりは大きく、沖縄本島と宮古・八重山地域とでは気温も異なる。また土壌も既に記したように多様である。沖縄の草地畜産の主体となる肉用牛経営についても、その規模や経営方式に大きな違いがある。牧草の草種や品種の選択にあたってもこれらの条件により選択されている。
今回訪れた所のうち黒島において現在多く用いられている牧草はジャイアントスターグラスであるが、この牧草は葡伏茎により広がり、密な草地を作る特長がある。ジャイアントスターグラスは、畑地が隣接しているところではここに侵入し、強害雑草にもなりうる草であるが、黒島における農用地はほぼ全てが草地として利用されているためこの心配はない。パンゴラグラスはジャイアントスターグラス同様に葡伏茎により広がり、かつ家畜の嗜好性も良いことから現在沖縄県において最も多く栽培されている草種となっている。特に大規模な肉用牛飼養が展開している石垣島等の八重山地方で好まれており、今後とも主要な牧草と位置づけられるものと思われる。
宮古島では乾草調製が主体で、かつ畑地と草地が錯綜していることから、牧草の種類としては乾草向きでかつ雑草化のおそれの少ないローズグラスが牧草のほとんどを占めている。しかし、ローズグラスは開花後における茎の木質化(リグニンの蓄積)が早く、飼料価値が低下しやすいく、収穫適期幅が狭いという問題がある。現に既に開花期となり収穫が急がれる圃場も多々見られた。沖縄県畜産課の話でも刈遅れとなる場合が多いとのことであった。八重山地方と異なり畑地と草地が錯綜している状況ではジャイアントスターグラスやパンゴラグラスといった葡伏茎を有する牧草の栽培は困難である。また沖縄県としても積極的に栽培を推進しているギニアグラスは茎が太く乾草には調製しづらい。暖地型牧草でかつ種子繁殖し、収量も確保でき収穫適期幅が広く品質もよいという理想的な牧草はまだ見つかっていない。
暖地型牧草は寒地型牧草に比べて品種育成の歴史が浅く、きめ細かな草種や品種の品揃えがなされていない。暖地型牧草についても公的な品種育成がより一層推進されるとともに、同じような気候のもとで栽培されている外国品種の導入・検索や適応性検査等についても沖縄県畜産試験場が主体となり、より一層の推進を図ることを望みたい。
沖縄県において一層の普及を図りたいとしているギニアグラスのナツユタカの種子供給については、国レベルでは家畜改良センター熊本牧場(増殖用もと種子生産)と社団法人日本飼料作物種子協会(海外契約採種による種子生産)による増殖が進められているが、増殖が順調にはいっていない状況にある。このようなことから沖縄県としては、『ギニアグラス「ナツユタカ」採種の手引き(平成2年8月、沖縄県畜産試験場)』を配布するとともに、八重山家畜保健衛生所において独自に採種を行っている。しかし、ナツユタカは穂全体が一斉に熟さないことや接触あるいは風などによっても脱粒しやすいという特性を有しており、沖縄県の年間を通して風があるという気候条件では採種する以前に脱粒してしまうこともある等ここにおける採種にも不安定要因がある。しかし、八重山家畜保健衛生所の努力により採種を継続して行い、市町村や農協における再増殖用もと種子用及び余裕がある場合には一般農家としても供給することとしている。払下げ価格は前者が1,700円/s、後者が5,000円/sとしている。
ギンネム(Lerca Iercocephara)は熱帯アメリカ原産のマメ科低木であるが、現在では世界の熱帯ないし亜熱帯の各地に広く分布している。樹高は数メートルで10mを超えることはあまりない。胸高直径は最大でも10cm程度である。種子で繁殖し、裸地や荒廃地に先ず侵入する陽樹である。
沖縄地方には明治43年にスリランカより導入され、その後昭和初期には緑肥用、飼料用として広く利用されるようになった。
近代的な畜産技術が導入される以前の沖縄県では冬季の飼料不足時等にはこれを伐採し、葉や柔らかい新梢部分を家畜(牛)に食させることもおこなわれていた。それには「ガジュマル」やギンネムも用いられていた。ギンネムが若木でまだ茎が柔軟な場合は牛自らがこれを押し倒して食することもあったという。
またギンネムが野生化し、沖縄県各地の土壌pHの高い条件の地で自生しているのが見られる。ギンネムは高い土壌pHを好むため、一般には国頭マージ土壌には生育しない。しかし、このような土壌の場合であっても、コンクリート舗装された道路際等石灰分が供給され、土壌pHが高くなるような条件下では生育することができる。島嶼部等基盤が石灰岩であるような条件では旺盛な生育を示す。ギンネムが優占する状況では、ギンネムに被陰されるとともに土壌に過量の窒素成分が蓄積され、他の植物の侵入を阻む。このためギンネムの純林が成立しやすい。
ギンネムにはミモシンという一種のアミノ酸が含まれ、馬や豚、兎といった単胃動物においては、これを食すると脱毛、繁殖障害、発育不良といった障害をひきおこす。一方、反芻動物である牛や山羊においては反芻胃内の微生物により分解され、通常の利用であれば問題はないるとされている。しかし、分解産物が甲状腺腫の原因になるともいわれている。
飼料用のギンネムの品種については従来用いられていた沖縄在来種の他にペルーから導入した系統、K72aというハワイから導入した系統が利用され、これら導入品種は在来種と比べても優れた形質を示している。
ギンネムの利用方法としては、牧草が導入されるようになってからは牧草地内にこれを植栽し、ギンネムの生育と採食をバランスさせながら利用することが一部で行われるようになった。ギンネムの栽培管理面では伸ばしすぎず、また牛に食われて衰退に至らないように管理するには放牧圧を適正にすることが必要であり、生育管理が難しいという問題もある。またギンネムと組み合わせる牧草の品種として比較的耐陰性があるグリーンパニックが適していると判断され、この組み合わせによる草地造成が石垣島や黒島等において行われた。
しかし、その後において帰化害虫であるギンネムキジラミが沖縄県に発生するようになった。これに寄生されるとギンネムは生育を著しく阻害され、枯死することもある。加えて下草として導入したグリーンパニックの維持年限が比較的短かったことも実際の栽培において判明した。このため、現在においてはギンネムと牧草の組み合わせによる草地造成を新たに始めるところはなく、この技術が一般化するには至らなかった。
現時点においてもギンネムキジラミについては体系的な調査究明とこれに基づく駆除技術は確立されておらず、牧草との組み合わせによる飼料利用は普及しうるものとはなっていない。亜熱帯の気候に適し、旺盛な生育を示すギンネムであるだけに惜しいものがある。
既に「生産阻害要因」の雑草の項でも触れたように、沖縄県の草地における強害雑草としてはイネ科の「オガサワラスズメノヒエ」、及びキク科の「シロバナセンダングサ」、「タチアワユキセンダングサ」等がある。
オガサワラスズメノヒエは酸性土壌を好むため、国頭マージ土壌に多く生育し、島尻マージ、ジャーガル土壌には見られない。蓚酸を含み、家畜の嗜好性が悪いために草地にはびこりやすい。牧草との競合では、現在沖縄県に多く栽培されているローズグラスよりも強く、これを圧倒してしまう。オガサワラスズメノヒエを駆除する最も良い方策としては、先ず土壌の酸度矯正を行うことである。しかも粗砕石灰岩やコーラルサンドのような長期にわたって効果が継続する土壌改良資材を用いることが望ましい。
また両雑草ともにこれを抑制するためには、栽培する牧草の種類としては、比較的競合に弱いローズグラスではなく、ギニアグラス(品種としては生育が旺盛な「ナツユタカ」)や葡伏茎により密度の高い草地を形成するジャイアントスターグラスを選択する。これらは雑草との競合力が強いため、適正な管理を行えば雑草の侵入をかなり抑制することができるものと思われる。
牧草は永年性作物であるが、長年にわたる利用により土壌の物理化学性の劣化や草生密度の減少、牧草個体の老化等により生産性が低下してくる。このため牧草の状況を見つつ適宜草地の更新を行う必要がある。
葡伏性の牧草(ジャイアントスターグラス、パンゴラグラス)の場合にはその特質から、適正な管理が行われれば草生密度の減少や牧草個体の老化は起こりえない。現に黒島において以前スタビライザ工法によりジャイアントスターグラス草地を造成したところでは年数を経ても草勢は衰えないとしている。これは土壌中に破砕石灰礫が多く含まれ、土壌pHが高く保たれたことや、古くなって枯死した牧草の根による土壌有機物の供給が相当量あること等にもよるものと思われる。
株立ちする牧草のうちギニアグラスについても従来栽培されてきた品種のガットンよりも近年普及が進んでいる国内育成品種のナツユタカの方が維持年限が長いとされている。一方暖地型牧草の中でもローズグラスは比較的維持年限が短いとされている。草地更新は多額の経費を要する。そのためにも維持年限をいかに延長するかはその経費の節減のためにも重要なこととなる。このようなことから、牧草の維持年限を延長するためには適正な草地管理に加えて牧草の種類・品種の選択にも配慮することが必要である。
黒島等スタビライザ工法で造成したところについては、土壌中に細礫が多く含まれており、雨水や草地の更新等により粒子の小さい土壌は下層に、礫が上層に集まってくる可能性がある。このような状況になればかなりの深さの耕起あるいは天地返しにより下層に集まった土壌を上層に持ってくることが必要になるかもしれない。
実際の草地更新に際しては、地力の増進により牧草の活力が長い期間高く保たれるように、適切な土壌改良資材とともに十分な量の堆肥施用がなされることが必要である。そのためにもできれば事前に土壌分析等が行われることが望ましい。また沖縄における牧草の草種・品種についても検討が進められてきており、その時点で最善のものが選択される必要がある。
また草地更新時は一時的に裸地状態となり土壌侵食を受けやすい。このため時期や施行方法に留意して土砂流出を極力防止することが必要である。
石垣島では宮良川及び名蔵川水系の灌漑排水事業が行われ、畑地灌漑施設が整備されている。干ばつにより牧草生産も大きな影響を受ける。特に土壌の少ない珊瑚石灰岩地帯では土壌の保水力も小さく干ばつの影響を受けやすい。このような状況では灌漑により減収をくいとめ、一層の増収を図ることができる。このようなことから石垣島では牧草地においても灌漑施設が導入され、利用されている。
しかし、灌漑施設のための負担金や維持費に相応の経費を要し、更に実際に草地灌漑を行う場合は利用水量による料金を払わなければならない。それがサトウキビ等の換金作物ではなく中間生産物である牧草の場合は、牧草そのものの価格がサトウキビ等に比べて安価と見積もられ、かつ非常時には購入粗飼料等を購入する等の代替措置も可能である。このことから、灌漑施設の導入にあたっては、干ばつで草地灌漑の必要が生じる確率や代替措置との経費比較等を十分に行うことが必要である。
沖縄県においては栽培牧草による草地畜産の歴史が浅いこともあり、牧草=作物という感覚が薄く、どちらかといえば牧草は野草との類似性をもって捉えられることが多かった。そのためこれに積極的に施肥管理するということがなかった。
しかし、最近においては技術レベルの高い農家を中心に「草地における生産をあげるためには施肥を行う」という意識が定着してきた。黒島の肉用牛農家では収穫毎に化成肥料(牧草専用1号:18−10−14)を10a当たり1袋(窒素成分で3.6kg/10a)施用しているとのことであったが、化成肥料が高価であるため、より安価な尿素を施用する場合もあるとのことであった。窒素肥料のみの施用の場合でも当面は土壌中に蓄えられた他の肥料成分により生育は可能であろうが、長期間になれば他の肥料成分の枯渇により生育を確保することはできなくなる。化成肥料の単価が高いということであれば、手間はかかるが窒素、燐酸、加里それぞれの単肥を混合して施用することも考えられる。
牧草用肥料として上記肥料が市販され、利用されているが、採草地と放牧地との違い、土壌条件や栽培する牧草の種類や収量、堆厩肥等の施用の有無・量等により必要とされる施肥成分量は変わるはずであり、栽培・利用条件により勘案しつつ施肥を行うことが望ましい。またこれら3要素だけではなく、微量要素についても考慮することとしたい。無機成分については牧草等による吸収や雨水による溶脱、土壌粒子への吸着・不可給態化や逆に土壌鉱物等からの供給も考えられる。また土壌pHによる利用性の変化もある。このようなことを考慮するならば、慣行的な施肥にとどまることなく、土壌分析や飼料分析に基づく適切な施肥設計がなされることが望ましい。
また舎飼いを行い、必要粗飼料を採草地より得ている場合には、堆肥の施用は不可欠となる。収奪成分を戻すという他にも本来問題を有している土壌の物理化学性を改善する効果もある。
沖縄県はその気候条件とこれに適した暖地型牧草の栽培により、本土における永年性牧草の刈取り回数(2〜3回)を超える刈取りが可能である。牧草の種類や地域によっても異なるが、5〜8回の刈取りが可能であり、牧草栽培に高い技術を有し、これを超える収穫回数を得ている場合もある。
特に宮古・八重山地域においては沖縄本島に比べても気温が高く、冬季に完全に生育が停止することがなく、夏期に比べればわずかではあるが生育をすることから、牧草は冬季間においても途切れることなく継続的に収穫が可能である(このため、本土におけるようないわゆる一番草、二番草という概念はない)。このことは長期にわたる生育期間が確保されることとなり、一年間のうちのより長い期間における太陽エネルギーの有効利用につながる。
しかし、これを実現するためには綿密な肥培管理や適正な刈取期に刈遅れのないように収穫する等のより高度な栽培管理が必要とされる。実際には期待される刈取回数に至っていない場合も多く、それらは草地管理技術の問題や収穫適期の判断の遅れ、更には能率の高い収穫機械体系の未整備等の問題によるものと思われる。これら技術の高度化や必要な管理・収穫体系の整備により、現在におけるよりもより多くの収穫回数を得ることは可能であり、そのことは沖縄における牧草の生産性を更に高めることにもなる。
本土に比べて高い生産性を示す沖縄であるが、その調製、特に乾草調製については問題なしとはしない。乾草調製に関しては日射量が多いというプラス面はあるものの、干ばつ、多雨と年により気候の変動があるが、平均すれば年間を通じて降雨があるという気候条件からは必ずしも乾草調製は適しているとはいいがたい。また梅雨時等は最たるものであるが、これ以外にも年間を通して湿度が高いということも乾草調製に要する時間を長くし、また調製後の保存にも影響することになる。このようなことからどちらかといえば乾草よりはサイレージ(ヘイレージ)に、より一層のウエイトをおいた方が望ましいと判断される。乾草とする場合にあっても特に大規模な経営や機械の共同利用等で大型機械体系が導入され、ロールベール体系とすることにより、乾草・サイレージ(ロールベールラップサイレージ)双方の調製が可能となる。この場合、乾草とサイレージのどちらに重点をおくかによりロールベーラーのタイプ(側卷き又は芯卷き)を選択することが必要である。
乾草調製の主体はまだコンパクトベール体系ではあるが、既に石垣市においては比較的経営規模の大きい畜産農家を中心に十数台のロールベーラーが導入されており乾草・サイレージ調製に用いられている。
沖縄県は季節による多い少ないはあるものの年間を通して牧草の生産が可能であり、これを有効に利用する技術として大量の飼料を貯蔵し、年間数回転という効率的な利用が可能なボトムアンローダー式の気密サイロとこれを利用するヘイレージ調製技術が導入された。飼料の生産が春から秋のほぼ半年に限られる本土よりもはるかに効率的に気密サイロを利用できると考えられたからである。しかし、気密サイロによるヘイレージ調製については一部を除いては北海道における大規模開発における受益農家と同様に定着しなかった。これはサイロ及びボトムアンローダーのメンテナンスの必要性やこれが十分でないことによる故障、あるいは所要電力等これを維持利用するためのコストによるものである。
これを導入した当時はほぼ乾草調製と気密サイロによるヘイレージ調製の二つしか選択肢はなかったといえよう。バンカーサイロやスタックサイロについては当時としては沖縄県における実績がなく、気温が高いということから品質の高い飼料を調製することに不安があった。ロールベールによる乾草やサイレージ調製技術はまだ登場していなかった。
現在は気密サイロの問題点もあり、一方でバンカーサイロ等についても技術の蓄積がなされ、高温条件の沖縄においても良質なサイレージが調製できるようになったことや八重山地域等大規模草地畜産経営が展開している地域を中心にロールベール体系が導入され、これによる乾草・サイレージ調製がおこなわれるようになった。このことを背景として一部経営を除いて気密サイロは用いられなくなった。
今後においてもサイレージ調製はバンカー・スタックサイロ及びロールベールサイレージが主体となるであろう。しかし、暖地型牧草はパンゴラグラスを除いては一般的には可溶性炭水化物の含量が少なく良質な発酵がしづらいという問題点がある。また沖縄県は気温が高いだけに開封後の二次発酵の危険性が大きい。このような問題に対処するためには高温条件でかつ炭水化物の少ない条件の下でも良好な発酵を行う乳酸菌や添加物の検索・開発、二次発酵を抑止する技術の開発普及等が望まれる。
沖縄県においても八重山・宮古地方は冬季でも牧草は生育するが、生長量は夏期に比べればわずかである。沖縄本島地域では多くの暖地型牧草は冬季生育を停止する。このため舎飼いでの飼養のみならず、放牧主体で飼養する場合においても冬季放牧草が不足する時のための貯蔵飼料が必要となる。小規模な舎飼い飼養においても青刈り給与を主体とする場合は冬季には給与すべき青刈り飼料が不足することとなる。
このため採草地が確保できるところでは乾草やサイレージとして飼料を貯蔵することが必要である。また小規模な畑作との複合経営等においてはサトウキビや野菜を栽培する畑地における輪作作物として麦類等の冬作飼料作物の栽培も有効となる。小規模な畑作・肉用牛複合経営等では既に宮古島で行われているようなコントラクター方式による作業受託方式も広く行われてよいであろう。
詳しくは別項で記述するが、サトウキビの梢頭部もちょうど飼料が不足する時期における飼料資源として利用することができる。この他バガス(サトウキビの絞り粕)やパイン粕等地元産農産物の副産物の有効利用を積極的に図ることが望ましい。
サトウキビはその太い茎のみを利用するため、先端の未熟な茎部(これに付帯する葉を含む)及びそれ以外の茎葉を除去する。このうち前者をサトウキビ梢頭部と称しており、大家畜の飼料とすることができる。サトウキビ梢頭部はすでにかなりの部分が飼料利用されているが、肉用牛飼養とサトウキビ栽培の複合経営、あるいは地域的な連携により肉用牛飼養農家に梢頭部を供給できるような場合においては、冬季に確保できる飼料資源の一つとして、より一層の有効利用を図ることが重要である。
サトウキビの収穫は機械化が遅れ、収穫作業の多くが人力に依存しており、梢頭部の収集にも相応の労力を要することになる。一般には人力での収穫に際して同時に梢頭部を切り落とすことを行っているが、一部では収穫の前段階の作業としてあらかじめ梢頭部のみを切りとる方法が行われている。この方法では作業が2段階になるが、後段のサトウキビそのものの収穫作業時はより効率的に行うことができる。梢頭部の利用の有無や農家の経営方針によりいずれかの方法が選択されているようである。
サトウキビの収穫はほとんどが人力作業であり、一部においてケーンハーベスタが利用されている。今後農家の高齢化によりサトウキビの収穫が困難になり、サトウキビ栽培をやめる農家も出てきているが、これに対処するためには小型で使いやすい収穫機械の開発がなされることが望ましい。また稲作におけるコンバインの一部で稲わらを束ねてから排出する形式のが見られるように、梢頭部や外葉についてもばらばらにして排出するのではなく、飼料として利用しやすいようにまとめて放出できるようになることが資源の有効利用を促進する観点からも望ましいことである。
サトウキビの搾り粕である「バガス」も飼料として用いることができる。稲わらと同様にリグニン含量が多く可消化栄養成分含量は少ないが、粗飼料因子の補給源として用いることができる。またバガスを高温高圧で蒸煮処理し、糖蜜添加にすることにより家畜における嗜好性と消化率が向上し、より品質の高い飼料とすることができる。またこのことにより従来多くは製糖工場における燃料とされていたバガスが飼料に向けられることになる。
宮古地域の項でも触れたように、ここにおいては蒸煮、糖蜜添加によるバガスの処理プラントが建設されているが、原料となるバガスは生産が冬の一時期に集中するが飼料化処理はほぼ年間を通じて行うこととしている。このため原料バガスをストックヤードに貯蔵しておくこととなる。担当者の話では長期間の保存でも変質はしないとのことであったが、これの水分含有率が約50%ということや高温多湿な気候もあり、貯蔵期間における変質が気になるところである。
またバガスは製糖工場における燃料にも用いられているが、これが飼料化されることによりその分燃料が不足することになり、石油の消費量が増えることが予想される。それまでの地域で生産された燃料資源に代えて化石燃料の消費が増えることに多少の懸念が残る。製糖工場におけるエネルギー効率を一層高めることにより石油の消費量を増やさないようにすることを希望したい。
沖縄におけるパイナップルの生産は缶詰仕向が主体である。パイナップルを缶詰用に調製する段階で出る皮及び芯の部分は通常は廃棄されるが、これを気密状態で保存すると発酵してサイレージとなる。パイナップル自体が既にかなり強い酸性を示すので、気密状態が十分でなくともサイレージ化するといわれており、現にただ堆積しただけのものも利用され、家畜もこれを食するとされるが、強い臭気を発する等の問題もある。やはりビニールシート等できちんと密封した上でサイレージ発酵させるべきであろう。
草地は家畜の飼料生産や放牧飼養の場としての機能に加え、多面的な機能を有している。この点にも触れてみたい。
沖縄県は亜熱帯気候の下にあり年間降水量も極めて多く、また時間降水量も多い。このような雨は土壌を洗い流す作用が極めて強く、土壌侵食をおこしやすい。現に石垣島を訪れた際は強雨の後で、サトウキビ畑からは国頭マージ土壌を含んだ赤黄色の水が道路にあふれていた。一方牧草地からはこのような色の水は出ていなかった。
サトウキビ畑や特にパイナップル畑は地表面が露出している部分が多く、降雨により土壌侵食を受けやすい。一方牧草地は全面が牧草で覆われており、雨滴が直接的に土壌を叩くことはない。また牧草の根や茎、あるいはリターはフィルターの働きをして土壌粒子を含んだ水を濾過する働きがある。このようなことから沖縄で栽培される作物の中では牧草、特に葡伏茎により地表を覆うような牧草は土壌流出防止作用が大きいと思われる。
このため畑地においても、一方で畑地への牧草の侵入を排除するような措置が必要ではあろうが、その周囲、特に畑地から地表水が流出する方向に一定幅の牧草地を設けることにより畑地からの土砂流失とこれによる河川や海洋の汚染を軽減することが期待される。
沖縄の基幹作物はサトウキビである。サトウキビは挿し木により繁殖し、改植後数年間は生産を継続できるいわば多年生作物である。しかし、牧草におけると同様改植の後は生産力は高いが、次第に収量は減少してくる。この収量の経年変化及びこれに基づく維持年限は土壌により異なり、ジャーガルは最も維持年限が長く、次いで島尻マージ、国頭マージとなる。
また堆肥などの施用による土壌肥沃度の向上により維持年限はより長くなる。一方高温多雨の気候の下では土壌有機物の消耗も激しいが、サトウキビのような多年生作物は改植時以外は堆肥を鋤き込むことができない。このことによる土壌有機質の減少が維持年限にも関係しているのではなかろうか。
一方牧草の栽培を行うことにより、牧草の根や利用されなかった茎葉に由来する有機物が地表や土壌中に蓄積されることとなる。また牧草栽培は必然的に家畜(肉用牛)の飼養につながるため、草地化する時及び草地から畑地に転換する時に十分な堆肥の施用が可能になる。このようなことから、特に生産性の低い土壌地帯においてはサトウキビの生産性向上のためにも畜産との結合、草地との輪作は有効であると考えられる。また宮古島において見られたようなコントラクター方式の作業請負や共同作業等に進む場合は作業性の向上のためにもブロックローテーション方式とするのが一層望ましい。(「宮古島の肉用牛生産と草地利用」の項参照)
永年草地との組み合わせやブロックローテーションが困難な場合にあっても、サトウキビを収穫した後に更新する際にソルガム等の夏作飼料作物や野菜等、及び麦類等の冬作飼料作物等と組み合わせ、それぞれの作付けの際に堆肥を投入することにより総体としてより多くの有機質を土壌中に施用できる。このことによりメインのサトウキビの生産性を向上させることができるものと推察される。
本土においては民間の観光牧場もさることながら公共牧場等においても来訪客を期待して「ふれあい機能」を整備する牧場が増えてきた。民間の観光牧場は来客者の飲食、買い物等による収益を大きな収入源としているが、公共牧場においてはこれによる収益というよりも、ふれあい機能の整備により地域住民がここを訪れることにより、牧場存在にたいする理解を深めてもらうということを期待する場合が多い。
沖縄県には沖縄本島北部の国頭村には沖縄県直営の「沖縄県乳用牛育成センター」が、石垣島には「(社)沖縄県肉用牛生産供給公社」がある。それぞれに経営的には苦しいところがあり、これを改善する手法の一つとしてふれあい機能の付与をも検討しているとのことである。
沖縄県には毎年、夏を中心に本土から多くの観光客が訪れる。しかし、「牧場」は南国沖縄のイメージに即したものとはいえず、本土からの観光客の多くは「沖縄の青い海」が目当てであり、彼らにふれあい牧場に来てもらうのは容易ではない。将来的に本土からの来訪客をも対象とするのであれば、牧場も沖縄のイメージの中に組み込んで積極的にPRすることが必要であろう。このようなことから、将来はともかくとして当面の対象者としては沖縄県民を中心に考えるのが適当なのではなかろうか。
しかし、沖縄県の人々の風習や県民性からして、ふれあい牧場に行くことが習慣づけられるかどうか十分な意識調査がなされる必要がある。また対象となる2カ所にしても立地上の問題もある。本島における人口の大半が南部地域に偏在している。沖縄県乳用牛育成センターは沖縄本島北部にあり、沖縄本島南部からは100qを超える距離がある。一方(社)沖縄県肉用牛生産供給公社は石垣島にあるが、石垣市及び近隣の島々よりなる竹富町の人口を考えると、多くの来訪客は望めない。
また公共牧場がふれあい牧場としての機能を有するためには、それなりの整備が必要であるが、それ以前に草地や家畜及び施設等が見てもらえるに耐えるものであるかが問題である。ふれあい牧場とするからには、直接来訪客に見てもらう場所でなくても、草地はきちんと整備され、また周囲にある施設等は清掃をしっかり行う等の管理が必要と思われる。またその公共牧場及びそこに勤務する人が牧場全体をきちんときれいにしておくという意識を有していないことには、そこをふれあい牧場に整備しても来訪客に良い印象を持ってもらうことは困難である。このような観点からすれば、沖縄県肉用牛生産供給公社の草地や畜舎は更に十分な管理がなされる必要があるように思われる。両牧場ともふれあい牧場としての整備についても検討したいとしているが、具体的な整備内容に 具体的な整備内容についての検討の前段階としてこのような問題がクリアーされなければならないように思われる
沖縄の県民性としておおらかで細部にこだわらないというところがある。これは一方では大きな魅力ではある。しかし、畜産に限らず産業全般にわたっていえることであるが、経営の改善・向上を図っていくためには、常に現在の経営状況を把握し、改善方策を検討するとともに、そのために必要な知識を得ることにも積極的であらねばならない。
そのためには地域段階で畜産を営む者同士が勉強しあい、技術を交換しあうようなグループ活動を積極的に進めることが重要である。これについても、できるだけ上からの指導や技術の伝達ではなく、畜産経営者自らの意欲によりグループができ、その中で勉強会等を行うことが望ましい。このような気運が盛り上がれば、集落のグループ同士の連携、沖縄県全体のグループの結集というところまですすむであろう。そのような中で必要とあれば外部講師を招くということもありうるであろう。これには多額の経費がかかるとあれば、県や市町村による公費による講師派遣等も考えられてよい。
北海道等の酪農家には若い時に米国の畜産農家で働きながら勉強したという経験を有している人も多い。沖縄県においても、米国とはいわずとも北海道の酪農家等で1〜2年の実習を経験することも有効であると思われる。北海道と沖縄では気候風土も違い、そこで営まれる畜産も大きく異なる。しかし、ここで学んだ牧草の栽培や家畜の管理等の基礎的な知識や技術は沖縄でも十分活かされるものと思われる。またそれ以上にこのような実習を通じて優れた経営感覚を身につけることが重要である。
ともすれば畜産経営の改善のためには、第一に草地や施設等のハードウェアに目がいきがちであるが、それ以前にそれらを使いこなすソフトウェア(経営に関する具体的な技術やノウハウ)や、更にその基礎となる経営者個々のヒューマンウェア(経営感覚、判断力、必要な知識・能力等)こそがより重要であると思われる。それらの向上を図ることに畜産経営者や関係者の配慮が一層なされることを期待する。
沖縄県は亜熱帯に属し、温帯に属する本土とは気候が大きく異なる。このため栽培される牧草もことなり、あるいは同じ草種の牧草であっても栽培体系が全く異なる(例えばローズグラス等の暖地型牧草は沖縄では永年性であるが、本土(主に関東以西)では一年草として栽培している)。このようなことから本土における技術がそのまま沖縄に適応できない場合も多い。
国の農業試験場では九州農業試験場が九州全体と沖縄をカバーすることとしているが、このような気候の違いからすれば十分な対応は不可能であるように思われる。沖縄県畜産試験場においてもその陣容からして十分な対応ができるところまではいっていない。九州農業試験場において沖縄に支場を設けることが最も望ましいが、実際には非常に困難であると思われる。また石垣市には国際農業研究センター石垣支所があるが、ここでは海外への試験研究協力を主眼としており、沖縄県における農業技術に対応しているものではない。
このため、沖縄県畜産試験場の一層の充実が図られることが望ましい。併せてその一環として沖縄県における地域による気候の違い等を考慮して、宮古あるいは八重山に支場を設けることが望ましい。またこのように県段階で試験研究体制の充実を図るとともに、ここを国の指定試験地として研究者を派遣し、西南暖地における農業技術の調査研究の推進を図ることが有用であると思われる。
沖縄における草地と畜産に関する調査を行うに際しては、沖縄総合事務局農林水産部畜産課、沖縄県農林水産部畜産課、同畜産試験場、同八重山家畜保健衛生所、同宮古家畜保健衛生所及び沖縄県肉用牛生産供給公社には大変お世話になるとともに、農用地整備公団よりスタビライザによる造成工法に関する貴重な資料をいただいた。心よりお礼申し上げたい。