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食と農について

農業研究家 吉田信威
 これは、2009年5月21日、秋葉区市民大学「おとなの雑学」第1回「食と農について」の講義を行った際に配布した資料をHTML化したものです。

−− 目  次 −−


  1. 人間にとっての食と農
  2. 人にとって食とは何か
  3. ヒトへの進化の過程と食性
  4. 人間は何を食べるか(気候風土と食文化)
  5. 食と農の歴史
  6. 農業が人間社会にもたらしたもの
  7. 日本の食と農の特徴
  8. 日本と世界の食料・農業問題
  9. 日本における食と農の問題
  10. 日本の食と農を守るために

1.人間にとっての食と農

(1) 食糧は生命を維持するために直接的に必要なもの

人間の生命の維持の観点から見た「物」の序列
    食糧:生命の維持に不可欠(空気や水と共に)
衣料、住居:生命の維持に重要(究極的には保温=体温維持と防御)
その他:生活を豊かにするが生命の維持には不要のものが多い

→「農業」は人間の生命維持に不可欠なもの(=農産物)を生産する産業

(2) 食糧は恒常的に消費されるため、恒常的に供給されなければならない

衣:長期の保管、繰り返し利用が可能=供給が絶たれても当面は大丈夫
住:長期の利用が可能
食:長期の保管は困難。消費すればなくなってしまう。
食糧は日常的に供給され続ける必要がある
(生命の維持と活動のために常時補給する必要がある)

(3) 人の生命は食により支えられ、食は(主に)農から供給される。そして農は「自然」という土台の上に人により営まれる。

2.人にとって食とは何か

(1) 命の糧〜生存のために必要なもの(前項参照)
(2) 空腹を癒すもの〜動物としての本能((1)の必要性を満たすため)
(3) 人生・生活を楽しむ〜「おいしい」、グルメ
(4) 利益を得る手段(農業、農業関連産業、食品産業、外食産業 等にとっては)
(昨今における問題)
利益が第一:品質・安全性は二の次(材料の品質を加工でごまかす)
消費者に「媚びる」製品作り(味付け、流行)
今の食品関係産業にとって農業は「原料供給産業」でしかない

3.ヒトへの進化の過程と食性

原始的なサルからヒト・類人猿共通の祖先、そしてヒトへの進化と食性

(1) 人・類人猿の共通の祖先及び現在の類人猿の食性:植物を主体
  • 熱帯の森林の中は食糧資源となる植物が多い(木の若葉、実等)
  • 現代の類人猿においても、ゴリラは植物しか食べない。また、チンパンジーは時々他の動物を襲うが、日常ではほとんど植物を食べる。
(2) 人間:雑食(地域、民族により大きな偏りもある)
  • 森に住んでいた人・類人猿の共通の祖先の中で、草原に進出したグループの中から人類が進化した。草原は森林ほどには植物性の食糧資源が乏しく、小動物や昆虫等の動物性資源をも食糧とせざるを得なかった。
  • 現代においても地域ごとに得られる食糧資源により、ほとんど肉食に近いものから、ほとんど植物性のものしか食べないものまで多様かつ変化の幅も大きい。

4.人間は何を食べるか(気候風土と食文化)

人間はそれぞれの気候風土の中で得られる動植物資源を食糧としてきた。気候風土が異なれば食文化も大きく異なる。

(1) 日本

(気候条件)モンスーン気候、多雨
(主要な食糧資源)米、各種野菜、魚、大豆
→米をベースとした日本食

(2) 中国北部

(気候条件)冷涼、乾燥
(主要な食糧資源)小麦、雑穀、畜産物(豚、羊)
→マントウ(饅頭)、餃子、麺、肉(豚肉、羊肉)

(3) 中国南部

(気候条件)温暖、湿潤
(主要な食糧資源)米、野菜、豚、魚 
→主食は米

(4) 中欧、北欧

(気候条件)冷涼、比較的小雨
(主要な食糧資源)小麦(ライ麦)、畜産物(乳製品、肉)〜特に寒冷な北欧では乳製品への依存度が高い

(5) 南欧・地中海沿岸

(気候条件)夏は乾燥、冬雨
(主要な食糧資源)小麦、オリーブ、畜産
→パスタ、地中海料理(魚介類、畜産物、オリーブ油)
気候風土はその土地それぞれの食文化を育み、また「何を食べるか」により民族毎の遺伝的変異も見られる。
(例:中欧〜北欧の人達は大人になっても乳糖を分解する消化酵素を分泌する)

5.食と農の歴史

(1) メソポタミア(イラク)とギリシャ、ローマ

(2) 中部ヨーロッパ

(3) 日本

6.農業が人間社会にもたらしたもの

(1) 食糧の安定確保

(2) 農業が始まって国(大きな集団)ができた

(3) 社会分業と身分格差が生じた。

(4) 農業が始まって戦争が起きるようになった

7.日本の食と農の特徴

(1) 稲作を中心として発展した日本農業

(2) 米と野菜、魚をベースに形作られた日本食

日本人は世界の中でも野菜を多く食べる
  • タンパク質は魚と大豆 四方を海に囲まれ、また発達した河川から得られる魚介類 中国から渡来した大豆 →伝統的な日本食は畜産物を欠いている
  • 近代以前の農村では雑穀・イモ類も重要な食糧だった

    (3) 日本食の変質・崩壊

    (4) 高度経済成長、食品産業の台頭〜食と農の距離が離れていく

    8.日本と世界の食料・農業問題

    (1) 貿易財としての農産物

    (2) 日本の食糧自給率

    (3) 世界的な食糧不足基調〜世界の人々の生存の危機

    9.日本における食と農の問題

    (1) 日常の食事の「料理」化

    (2) 消費者における「旬」の感覚がなくなってしまった

    (3) 家庭内調理の崩壊(1)

    (4) 家庭内調理の崩壊(2)

    (5) 輸入食品・農産物の増加

    (6) 農業は他の産業とはかなり様相が異なる産業分野である

    (7) 石油多消費型となってしまった農業

    (8) 農業従事者の高齢化、後継者が極めて少ない

    (9) 増える耕作放棄地

    10.日本の食と農を守るために

    (消費者の皆さんにお願いしたいこと)

    (1) 良いもの・本物を、そしてできるだけ国産の農産物を食べよう

    (2) 地産地消

    (3) 「旬」のものを食べる(旬産旬消)

    (4) 露店市、農産物直売所の利用

    (5) できるだけ素材(肉、魚、野菜等)を使って調理を

    (加工食品はできるだけ使わない)

    (6) 食べている食品に関心を持ち、大事に食べてください

    (7) 食糧問題、環境問題そして農業に少しでも関心を向け、問題意識を持っていただきたい

    (8) 家庭菜園のススメ


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