top > 滄州における家畜飼養と飼料生産

滄州における家畜飼養と飼料生産


− 目 次 −

*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
1.はじめに
2.プロジェクトサイトの概況
3.滄州市の農業と畜産の概要
4.家畜飼養
1) 役畜(驢馬、騾馬、馬、牛)
2) 肉用牛
3) 乳用牛
4) 羊、山羊
5) 養豚
6) 養鶏
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
5.飼料
1) 野草の放牧・繋牧による利用
2) 野草の採草利用
3) 牧草
4) トウモロコシサイレージ
5) 農場副産物(麦稈など)
6) 製造粕類
6.大家畜畜産および飼料生産の振興
7.「プロジェクト」について
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*

1.はじめに

国際協力事業団は「中国河北省飼料作物生産利用技術向上計画」プロジェクトを1995年4月1日から5年間の計画で実施した。著者はこのプロジェクトの長期専門家として1998年3月17日から2000年3月31日まで中国河北省滄州市に派遣された。この間の現地の状況、さらに、プロジェクトの概要について紹介をする。

2.プロジェクトサイトの概況

中国地図

プロジェクトサイトのある河北省滄州市は中国の東部に位置する。北京市と天津市は特別行政区であり、行政的には河北省とは別になっているが、地理的には河北省に内包されている(図)。著者の派遣された滄州市は河北省の南東部にあり、北は天津市、南は山東省、東は渤海湾に接している。天津市から約120km(列車・車で約2時間)、北京市から約250km(同約4時間)の距離にある。滄州市の面積はほぼ福島県に相当する。緯度は北緯37度29分〜38度57分の範囲にあり、ちょうど宮城県付近に相当する。地形はほとんど平坦で海抜は7〜10mである。人口は620万人で、そのうち約90%が農民である。滄州市は華北平原を北東に向かって流れる海河水系にある。海河は多くの流れを集め、天津市で渤海湾に注いでいる。かつて何度となく黄河の流れの一部が通っていたところであり、多くの土壌は黄河によってもたらされた。

滄州市は、中国における気候区分では暖温帯半湿潤大陸性気候区に属する。しかし、「半湿潤」と言われているが、日本の気候に比べればはるかに乾燥している。年平均気温は12.3℃で、1月の気温が最も低く平均気温は-4.5℃であるが、最低は-24.8℃、一方、7月は気温が最も高く平均温度は26.0℃であるが、最高42.8℃に達したこともある。年平均降水量は623.6mmであるが、年間降水量の70%は7月〜8月に集中している。ここ数年は降水量が少なく旱魃気味となる年が多いとのことである。年間蒸発量は平均2,062.4mmで、蒸発量は降水量の3倍に達している。4月〜6月は強い日射のため蒸発量が多く、しかも、降雨期ではないため、土壌の乾燥が促進される。

3.滄州市の農業と畜産の概要

耕地では、トウモロコシ、小麦、綿花、蔬菜,梨,棗などが栽培され、棗と梨(鴨梨と称する)は当地の特産品になっている。しかし、純農村地帯の農家の多くは、小麦と夏作(トウモロコシを主体とするが、他に大豆、ヒマワリ、綿花など)の年2作体系をとっている。市街地隣接地域では露地とビニールハウスによる野菜作が盛んであるが、市街地から離れると急に野菜作は少なくなる。

滄州市の飼料作物の作付面積は1998年までに60.5万畝(4.0万ha)に達し、そのうちアルファルファ(中国語では「苜蓿」)は20万畝(1.3万ha)を占め、1,000畝(66.7ha)以上の大規模な圃場は26か所ある。飼料用トウモロコシは28.5万畝(1.9万ha)となっており、これらが主要な飼料作物となっている。改良された自然草地も8万畝(0.5万ha)あるが、飼料作物作付面積全体に占める割合は小さい。滄州市の牧草と飼料作物の生産量は年間50万トンに達している。

滄州市における1998年の家畜飼養頭羽数をみると、牛799,600頭、緬山羊2,019,300頭、ウサギ1,378,100羽となっており、出荷頭数は牛392,800頭、緬山羊1,832,400頭、ウサギ658,600羽で史上最高を記録した。この背景には中国国内、特に、都市部における畜産物需要の増加や穀類、特にトウモロコシの過剰基調とこれに伴う農家売り渡し価格の低下がある。このため、中国の中央と地方の政府は穀作から畜産物などへの移行を促進してきた。さらに、飼料の確保のために飼料増産にも力を入れ、牧草と飼料作物の生産量の増加を図ってきた。

4.家畜飼養

1) 役畜(驢馬、騾馬、馬、牛)

農村地帯では、多くの農家は運搬と耕作用に驢馬、騾馬、馬あるいはのどれかを飼養している。運搬用として最も一般に見られるのは驢馬である。役畜は荷車を牽いて、耕地と家との間の運搬、生産した農産物の出荷そして買い物などに出かける時にも使われている。大都会である北京市では市中心部への役畜の進入が規制されているが、地方都市である滄州市では交通量も少なく、市中心部でも荷車を牽いている驢馬を見ることができる。滄州市内では驢馬が石炭を運搬するなど、各種運搬作業を「本業」にして使われているらしい。

役畜は使役されない時は農家の家屋近くに繋がれている。糞が高さ数十cmないし1m程度の高さに堆積し、これを耕地に入れるわけである。農家一戸当たり経営面積規模は小さいが、それでも面積当たりの堆肥施用量は極めて少ない。

農家への小型トラクター(30馬力程度)の導入が進んでいて、聞いたところでは半数以上の農家がトラクターを保有しているとのことである。ただし、その話を聞いた集落においても、多くのほ場ではトラクターよりも驢馬や牛が働いているのを見かけたので、この話は誇張かもしれない。小麦収穫時期には農機具販売店はトラクターや農機具を購入する農民で混雑している。農村における運搬手段としてもオート三輪や農用三輪車(オート三輪のボンネットを取去ったようなもの)などが入ってきている。このようなことから、役畜の役割も徐々にこれらに替わっていくと思われるが、現時点ではまだ役畜が大きな役割を担っているといえよう。

2) 肉用牛

中国では肉・役用牛を肥育した牛や役用牛・乳用牛の廃牛、乳雄などが牛肉の供給源となっている。肉・役用牛は当地で「黄牛」と称される体毛が茶褐色の牛である。滄州市には「小遅庄黄牛市場」があり、日を決めて市場が開かれるが、相対取引となっているようである。日本側のプロジェクトメンバーが宿泊していたホテルには「全省黄牛改良会議(全省とは河北省全体の意味)」の開催が掲示されていたので、改良への取組みがないわけではないらしい。体格や体毛の色などのばらつきが多く、日本のような体系的育種改良はされていないようである。

プロジェクトで指導していた孔店村の肉用牛飼養部門は春に20数頭の黄牛を肥育素牛として購入し,トウモロコシ茎葉サイレージと粉砕トウモロコシ、尿素などを混合した飼料で肥育し、厳冬が来る前に売っている。一般的には1〜数頭飼養している農家が多い。発育が良いとの理由により、去勢せずに肥育し、肉質は重視されていないようである。滄州市内を十数頭の牛を引き連れて歩き、路上で取引きをしているのを見たこともある。滄州市青県の真清料理店(イスラム教の教えに則った料理を出す店。牛、羊料理が主体)の脇で牛を屠殺、解体しているのを見たこともある。牛は屠殺、解体の後、熟成させないで、食肉として売られる。肉の価格は店(といっても多くは露店)により多少の違いはあるが、同じ店ならば肉の部位による違いはなく、ヒレ肉も筋の多い肉も同じ価格である。

3) 乳用牛

中国では従来は牛乳を飲む習慣が無く、現在でも人口当たりの消費量は日本に比べると微々たるものである。それでも都市部を中心に牛乳の消費量が増加してきている。このようなことを背景として、日本は酪農関係プロジェクトより、天津において乳用牛の飼養から飲用乳生産までの技術指導をおこなった。天津にはこれとは別にかなり大規模な養牛場があり牛乳生産をおこなっている。その近くにはフィンランドの技術指導を受けた牛乳処理工場があり、アルミコーティングした合成樹脂パック入り牛乳を生産している。北京のスーパーなどでは、すでに、何種類ものブランドの牛乳が売られている。ただし、牛乳よりも酸乳(いわゆる飲むヨーグルトタイプのもの)の方が多く売られている。

当地で飼養されている乳用牛は全てホルスタイン種である。滄州市農林科学院では乳用牛を飼養し、その近辺にも4〜5頭の乳用牛を繋ぎ飼いしている農家があった。滄州市の東部にある「中捷農場」は日本の一つの市や郡に相当する広さがあり、「県」に相当する行政機能も有している。かつて、チェコスロバキアからの技術協力と農機具などの資材協力により建設された人民公社であった。農場名も「中国」とチェコスロバキアの中国表記の頭文字をとったものである。人民公社解体後も農業部門を含む各種生産施設を会社化したり、請負に出したりして、活発に活動している。酪農部門も数十頭規模の牧場単位で請負に出されている。当方が調査した2か所の酪農部門も数戸の農家が共同で請け負っていた。手搾りで搾乳し、農場にある食品会社(中捷郷謡食品有限公司)の乳業部門に出荷している。給与飼料は野生草と粕類(豆腐粕、ビール粕)をベースとしている。調査時には、冬季に備えてトウモロコシ茎葉のサイレージを調製していた。すでに、人工授精もおこなわれており、乳量水準は日本などの酪農先進国にはおよばないが、かなりの程度には達していると思われる。ただし、今後、生乳需要が増大した段階では、牛の能力向上とともに、給与飼料や飼養環境の改善が求められる。現状では削蹄もされていない状況であり、飼養技術も一層の向上が必要である。

4) 羊、山羊

山羊は滄州市近辺では最も多く見られる家畜である。多くの農家は数頭ないし十数頭の山羊を飼養している。滄州市内を南北に貫通する運河(かつて随の煬帝の時に作られたといわれる)沿いに歩けば、堤防のあちこちで数頭から20頭の山羊の群が見られる。農村部においてもほ場脇や道路端の野草を食べているのを見かける。これら山羊の放牧管理は主にお年寄りの仕事となっている。

当地のは全身白っぽい肌と白毛の種類が大部分を占めているが、一部に両目の部分を中心とする顔の両側面が黒い個体も見られる。山羊もザーネン種と見られる白毛の種類が多いが、孔店村では「四川黄山羊」と称する全身茶褐色の山羊が群飼され、全身が真っ黒の山羊を見たこともある。

滄州市では畜産振興の一環として、「小尾寒羊」という肉用羊の生産振興を図っており、滄州市畜牧水産局が種羊場で繁殖している。小尾寒羊は滄州市のみならず各地で生産振興がなされており、小尾寒羊の飼養技術に関する本もいくつか出版されている。

5) 養豚

かつての中国では人間の排泄物を豚に与えたこともあったが、現在ではそのような飼養はなされてはいない。農村では地面に穴を掘って側面を煉瓦張りとした豚房も見られるが、現在は使われておらず、農家のゴミ捨て場となっている。現在は数頭を飼っているところでも煉瓦造りの豚舎に飼養している。ただし、日本と比較すれば衛生的とはいえない状況で飼養されているものが多い。耕種作物などと複合で数頭飼いの農家が多いが、一方では、数十頭規模の豚舎もあり、大規模化、専業化の動きが始まった段階に入っているといえよう。

豚の飼料には配合飼料が使われているが、ビール粕、豆腐粕、白酒(バイチュウという中国の蒸留酒)粕や食堂の残飯も使われている。

中国においては赤肉よりも脂身が賞味され、市場でも脂身の厚い肉が多く売られている。近年、都市部では赤身肉へシフトされており、テレビの農業番組でも「痩肉(赤肉のこと)を多くする技術」の放送をしていた。中国の豚といえば梅山豚のような中国独自の種類がイメージされるが、滄州でにおいてはランドレース、大ヨークシャーなどとの交配種がほとんどのようである。

6) 養鶏

採卵鶏については、すでに数百ないし千羽規模の養鶏場があり、数羽飼いの農家から卵を集めて売るという状況ではない。アメリカの種鶏業者系列らしい「中美合作京燕黄金蛋鶏祖代場」(アメリカ合衆国を「美国」という)と書かれた種鶏場を見たこともある。

肉用鶏については、大きさも揃い、日本の肉用鶏とあまり変わらない鶏を入れた篭を積み込んで出荷に向かうオート三輪を何回も見かけた。近年,肉用鶏は専業化された生産もおこなわれ、生産過剰基調で価格がさがってきた。1998年頃より「○○火鍋鶏」と書かれた看板の食堂が増え、かなり繁盛している。他方、市場では農家の庭先から集めた羽色や姿形が様々な生きた鶏も売られている。

5.飼料

1) 野草の放牧・繋牧による利用

草食性家畜を飼養している農家においても、飼料作物の自家栽培・生産は少なく、放牧・繋牧による野草利用が多かった。滄州市内には歴史的な運河の他にも、いくつかの河川や排水路などがあり、通常は水がほとんど流れていない。鉄道や大きな道路は脇を掘った土を盛り上げて突き固めて路盤を作ってあるため、道路脇はかなりの面積の斜面がある。そこで河川の堤防や道路脇の斜面が野草放牧地として利用され、さらに、小路の脇や空地の野草も利用されている。放牧して春から秋には生の野草を、冬には枯れた野草を食べさせている。多くは羊・山羊を十数頭の放牧あるいは数頭の繋牧にして野草を採食させている。放牧の場合はお年寄りが群を誘導・看視していることが多い。羊などはほとんどの野草を食べるが、イネ科植物であるギョウギシバ(日本のものとは別種かも知れない?)は嗜好性が悪いため食べ残されている。

2) 野草の採草利用

野草は採草されても利用されている。多種の野草があるが、イネ科のアキノエノコログサは収穫しやすく、穂が大きく栄養価が高いと考えられて好まれている。その他各種の野草が採草利用されている。8月下旬から9月に刈った草は乾燥し、堆積して冬期の飼料とされる。8月中旬以降は種子を付けた状態で収穫されるために、家畜が食べた種子が糞に混じて排泄される。種子は発芽能力を有したまま糞とともに圃場に散布され、雑草をはびこらせる原因となる。種子をつける時期には茎葉の消化率は急激に低下するが、それでも野草を遅刈する理由として次のことが考えられる。

3) 牧草

アルファルファ栽培の振興は以前にもおこなわれたことがある。その理由には、牧草生産のほかに、土壌に含まれる塩分を低減させ、その後の穀作の生産性を上げるためでもある。しかし、土壌塩分の主体はナトリウム塩なので、アルファルファの栽培でそれ程低減するとは考えられず、むしろ、アルファルファ栽培をはさむことにより、軽度の連作障害状態が緩和され、生産性が向上したと考えられる。その後、政策の転換によりアルファルファ栽培は減少した。近年は今回のプロジェクトや農業関連政策の見直しなどからアルファルファの栽培は再び盛んになりつつある。このアルファルファ栽培は自らの家畜の飼料でなく販売用である。農家で生産したアルファルファ乾草は公司に出荷されている。滄州市東光県の畜牧水産局は別途会社組織(公司)を作り、自ら及び農家の生産したアルファルファ乾草を梱包し販売している。アルファルファミール、アルファルファキューブも試験的加工をしており、将来は外国(日本、韓国)に輸出する意向もある。カナダの出資(民間の出資)による「埃洛国際農業有限公司烏馬営苜蓿生産基地」もあり、アルファルファ乾草を梱包して販売している。東光県の公司と埃洛国際農業有限公司では定置式梱包機で、大型の角形ベールを梱包している。用途の多くは豚・鶏用配合飼料の原料にされるが、北京や天津などの都市近郊の酪農家にも供給されている。大家畜畜産を振興してアルファルファを地場で消費することが望ましく、今回のプロジェクトでは乳用牛、肉用牛生産を振興し、生産した飼料を利用するように指導した。

4) トウモロコシサイレージ

プロジェクトでは飼料生産の一環としてトウモロコシサイレージの調製も指導した。これ以外にも中捷農場(前述)や北京市郊外などでもトウモロコシサイレージを調製している。当地におけるトウモロコシサイレージは日本で広くおこなわれているホールクロップサイレージではなく、穀穂を収穫した後の茎葉を利用するものである。

プロジェクトで指導した滄州市農林科学院では地面を掘り床と壁を煉瓦張りとしたトレンチサイロ、孔店村では素掘りのトレンチサイロとなっている。当地のトレンチサイロの特長としては、底面、側面と上面を合成樹脂製シートで被覆した上に20〜30cmの厚さに土をかぶせることである。これは鎮圧と断熱効果を期待するものである。このため、孔店村のサイロでは、詰込み後は見ただけではサイロがそこにあることは全くわからない。中捷農場は地下水位が高いため、シートを敷いてその上に堆積し、さらに、シートを掛けるスタックサイロとしている。トウモロコシは実を取った後の茎でもかなり糖分が残っている(甘みがある)。このため、茎葉サイレージではあってもかなり品質の良いサイレージを調製することができる。

当地の畑作では夏作として多くのトウモロコシが栽培されている。従来、茎葉は刈取られ、乾燥して保存していた。用途としては飼料と燃料であるが、近年農村においてもLPGガスの普及が進み、燃料としての需要は少なくなり、堆積したまま放置されている。未利用飼料資源としてトウモロコシ茎葉は膨大な量にのぼるものと見込まれる。乾燥貯蔵では茎の部分は固いため、家畜は葉と茎頂部しか食べない。しかし、細断してサイレージにすれば茎の部分も飼料とすることができる。サイレージ調製技術が普及すれば、それは大量の飼料資源となり、中国の畜産振興に大きく寄与すると期待される。

5) 農場副産物(麦稈など)

トウモロコシ茎葉もいわば農場副産物ではあるが、この項ではそれ以外の副産物について記述する。当地において最も多い農場副産物は小麦稈であり、飼料、燃料、製紙原料として用いられる。小型トラクターなどに麦稈を満載して「滄州造紙厰」に運込んでいる。業者が農家から麦稈を集め、角形ベールに梱包して、河北省の省都である石家庄に運び、製紙原料として利用されている。一方で堆積したまま長期間放置されている麦稈もある。

近年はコンバインによる麦の収穫が普及し始めてきている。コンバインは高刈りとなり収集できる麦稈の量が少なく、集めにくい。このため、コンバインによる収穫後の麦稈はその場で焼却されるようになってきているが、まだ、多くはない。飼料資源として麦稈の量(今後飼料化できる量)は莫大であると見込まれる。現状の農家の家畜飼養規模では積極的に飼料化するほどの需要が無い。今後、畜産振興によりに本格的に利用しようとすれば、ほ場での収集と搬出が大きな問題となろう。麦稈は粗繊維のリグニン化により消化しにくく、タンパク質含量が少ないこともあり、アンモニア処理(尿素処理)が適していると考えられる。中国のテレビの農業技術関係番組で稲わらの尿素処理について放送していた。麦稈の飼料化に際しても有効な方法であると考えられる。

麦稈以外でも、大豆茎葉などかなりの飼料利用可能な農場副産物があるが、現状では一部が飼料として利用されているに過ぎない。

6) 製造粕類

醸造業、食品工業からでる副産物、残渣としては豆腐粕、ビール粕、白酒粕などがある。ここであげた白酒粕の白酒(バイチュウ)とは、中国北部で多く飲まれている蒸留酒で、コーリャン、小麦などが原料である。製造粕類は畜産サイドの需要が大きいため、発生する粕類はほぼ全量が豚、牛などの飼料になる。粕類は入手後直ちに給与される場合が多いが、時間の経ったものもある。中捷農場の酪農では滄州市のビール会社からビール粕を月に2〜3回しか購入しないので、かなりの期間保存したものも給与している。このため春〜秋の高温期には変敗が進む。豚を数頭飼っている農家では庭先に豆腐粕を広げて乾燥させていたが、量が多い場合は本格的な貯蔵方法の検討が必要である。日本で行われているビール粕サイレージ調製等が参考になろう。

6.大家畜畜産および飼料生産の振興

中国では畜産物需要の伸びが見込まれており、一方で、穀物は(当面)過剰基調である。今後はWTO加盟に伴い外国からの安価な穀物の流入も見込まれている。このようなことを背景として、中国の各級(中央、省、市、県、鎮)政府は大家畜生産と飼料作物生産振興に取組んできた。滄州市も「滄州市草地開発系列化プロジェクト(1990〜1994年)」により草地の開発、改良および更新などによる単収向上を図ってきた。中国政府は1992年7月に試験研究機関の充実強化、地域条件に適合した牧草の試験研究および草地の改良、開発技術の普及と応用などに係る技術協力を日本に要請し、これに基づきプロジェクトを実施した。さらに、1998年8月に滄州市畜牧水産局は「滄州市の牧畜業発展概況」を発表し、その中で、「今後とも牧草栽培の振興を図ることを通じて農民の所得向上を図り、草食家畜による牧畜業を発展」させ、「肉用の緬羊の振興と黄牛の改良をおこなうことにより農村経済発展の突破口とするとともに、滄州市内の重点地区を援助して牧草の栽培、加工利用および販売をおこなうモデル地区の育成などを体系的に整備することによって牧畜業を発展させ滄州市の発展に寄与する」と記されている。

中国の畜産を見るに、家畜の改良、飼養技術、飼養環境(畜舎など)、良質かつ十分な飼料の確保など各方面にわたる課題も多い。さらに、普及指導、体系的な家畜改良、飼料基盤の拡張・改善のための助成など行政面の対応を進める必要がある。牧草・飼料作物の育種改良や栽培技術も一層のレベルアップが求められる。農家側にもこれら技術を受容する能力の向上が必要になる。日本のように畜産と耕種部門と切り離した形での専業形態に発展することは問題がないわけではない。耕種部門と複合形態を保って発展することを期待したい。一方、より大規模化、専業化するにしても、地域の耕種農家との連携を保った形で発展することが望ましい。

7.「プロジェクト」について

最後に国際協力事業団が中国河北省滄州市において、1995年4月1日から5年間の計画で実施した「中国河北省飼料作物生産利用技術向上計画」の内容を紹介しておきたい。

日本側はプロジェクトリーダー(兼栽培管理担当)1名、適正品種導入担当1名、収穫・調製・利用技術担当1名、業務調整1名、合計4名の長期専門家が中心となって指導をおこなった。中国側機関は滄州市農林科学院と滄州市畜牧水産局で、ここにカウンターパート(相手側機関で指導を受ける者)を配置し、農林科学院および孔店村、李皋家村に設置した展示ほ場などで指導した。

指導内容は(1)飼料作物適正品種の導入(現地適応性試験など)、(2)飼料作物栽培管理(栽培、施肥技術など)、(3)飼料作物収穫・調製・利用(収穫・調製技術、飼料分析手法など)、(4)草地改良(草地改良計画手法、草地改良技術など)の4部門にわたった。

このプロジェクトで指導した内容は当地に適した牧草であるアルファルファに関する技術を中心とし、当地に適応した品種の選定から栽培・調製に至る一連の技術を調査、指導した。加えてトウモロコシの栽培とサイレージ調製、各種副産物の飼料利用などの指導もした。

このプロジェクトは2000年3月31日をもって予定通り終了したが、このプロジェクトを通じて、滄州市を含む中国華北平原(河北省、山東省)穀作地帯における牧草・飼料作物の栽培利用技術の一層の向上が図られ、草食性家畜の生産振興に寄与するものと期待される。

このプロジェクトの詳細は別途プロジェクトの報告書にも記載してあるので参照されたい。

拙文の執筆にあたっては、上記プロジェクトメンバーとして共に仕事をした藤田和夫氏、石井勝之氏、小樋正清氏、庄子一成氏および中国側カウンターパート各氏とともにプロジェクトを推進する中で得た経験や、見聞したことをベースとした。関係各位の方々には心よりお礼申し上げる。



(このページの冒頭に戻る)
ホームページ冒頭に戻る