top > 一寸コラム>オバマ大統領と麻生首相(2009.1.23)

オバマ大統領と麻生首相

米国では民主党のオバマ大統領が誕生した。それまでのブッシュ大統領の対イラン・アフガニスタン強硬路線に見られるような唯我独尊的な対外政策から対話協調路線へと大きく舵を切った。また未曾有の経済危機への対処策として「中〜低所得者層の減税」、「医療分野の電子化」、「教育分野へのコンピュータ等の整備」、「太陽光や風力等のクリーン・エネルギーへの投資」等を矢継ぎ早に打ち出した。これらは単に景気対策としてだけではなく、将来の米国の活力を向上させる上でも大いに期待できるものである。

政治のトップに立つ者としては、このような今の問題を的確にとらえ、未来の展望を描き、そしてそれを実現するための施策として国民に対して明らかにした上で実行するのがあるべき姿であり、オバマ新大統領はまさにあるべき姿に沿ったものである。もちろんこれを実行に移す段階ではいろいろと問題も生じてこようが、オバマ新大統領はこれらの問題にも的確に対応することを期待させるに十分な資質を有していることが感じられる。

これに対して我が国の麻生首相はどうであろうか。麻生首相は「新米大統領と一緒に手を組んでやっていける」、「世界における経済危機への認識は一致している」等と述べている。本当だろうか?

麻生首相は「世界における経済危機への認識は一致している」と言っている。認識が一致しているのであればオバマ大統領と同じように迅速かつ的確な対応がなされてもおかしくない。しかしながら「定額給付金」と「3年後の消費税の増税」にこだわり続け、国会が迷走している。果たして「定額給付金」が麻生首相(と自民党)がこだわっているように、オバマ新大統領が掲げている政策と同一レベルで論じられるような景気刺激対策なのであろうか。

今のような社会的経済的な危機状況でなければ、消費税を増税するというのであれば多くの人はそれ以前に物を買っておこうとするであろう。一時的にせよ消費意欲は増大する(その代わりに増税後は消費減退がおこる)。しかし今のような将来が見通せない状況では、今日の糧にも困る人ならばもらった給付金は使わざるを得ないが、そうでない人はいつリストラされるかもしれないので、その時に備えてとりあえず貯金しておこうとなるのではないか。定額給付金の乗数効果は極めて限定的とならざるを得ない。

このことを考えるならば、同じ政府支出であるならば「定額給付金」ではなく、非正規雇用者等の今、本当に困っている人が職を得られるような対策費として支出するのが効果的であるように思われる。あるいは日本の将来のための投資で、かつ雇用も創出するような産業の育成を急ぐべきであろう。今の政府・自民党による予算案ではそこのところが明確に示されてはいない。もし「世界における経済危機への認識は一致している」のであれば、麻生首相としても何をやるのかを明確にして国民に訴えるべきであろう。それは決して定額給付金こそが最大かつ有効な対策であり、これしかないとすることではないように思うのである。

国民に向けて話す言葉についてであるが、オバマ新大統領は大統領候補の時の支持を呼びかける演説もそうであったし、また大統領になっての就任演説等もそうであったが、実に明快かつ説得力があり、しかも格調の高いスピーチであった。日本の英語学習においてオバマ新大統領の演説等を教材として利用しようとする動きが盛んであるが、もっともなことである。

他方で「オバマって、けっこう英語うめぇじゃねぇか」等と言っている麻生首相であるが、漢字の読み間違いが頻発することや失言の多いのをさておいても、格調の高さは望むべくもない。麻生首相の発言を「格調高い日本語であり、これを教材としたい」という話は聞いたことがない。やはり一国のトップたるべき人は相応の格調高い言葉を話してもらいたいものである。

ブッシュ元大統領は対外的には覇権主義、経済に関しては原理主義といっても良い程の新自由主義でイラクやアフガニスタンに紛争を起こし、また米国そして世界の経済を大きく損ねた。米国はこのようなブッシュ前大統領を選んだかと思えば、その弊害を深く認識し、今回はその対極にあるようなオバマ大統領を選んだ。ブッシュ前大統領もこのように大きな問題ありとはしながらも、絶大な指導力を発揮した(絶大な指導力故にこのような世界的な問題を引き起こしたともいえるのであるが)。オバマ大統領も大きな指導力が期待される。米国はオバマ大統領が敬愛するリンカーンやケネディ等といった偉大な大統領を産むだけの人材を輩出する能力がある国であることは認めざるをえない。この他にも日本のこれまでの首相に比べればはるかに優れた大統領は数多い。

ひるがえって日本はどうであろうか。特に最近の首相は粒が小さいことは認めざるをえない。また麻生後の日本の指導者を考えても、今の国会議員の中に魅力ある人はいそうにない。これは米国の大統領が日本の首相よりも絶大な権限があるからというわけではない。もしオバマ氏のような人が日本にいたならば、もっとカリスマ性があり、かつ国民のためになる政治をやってくれると思う。やはり今の日本という国柄はせいぜい麻生氏程度の人しか首相にできない、そのような人材しかいないのかと思わざるを得ない。

(2009.1.23)


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