『第9条の会・日本ネット便り』No.6(2008年12月25日発行)より転載

投稿 この棄民と昏迷の世界を変えるには・・・? 

須田 稔


K9MP(憲法9条・メッセージ・プロジェクト)事務局長

立命館大学名誉教授

 父親がケニヤ人のバラク・オバマ氏が、人種差別がいまなお根強いアメリカ合州国の次期大統領に選ばれたことは、衝撃的な大事件です。「万人は生まれながらに平等である」という「独立宣言」が謳う「自明の真理」が、230年余を経て遂に、政治の最高の指導者でも具現したのです。国務長官が64代目で白人女性マデレーン・オルブライト、65代目にアフリカ系アメリカ人男性コリン・パウエル、66代目にアフリカ系女性コンドリーザ・ライスに至って、人種と性の二重差別を、少なくともエリート階層では消滅したようで、瞠目してはいましたが。


 それでも、アフリカ系は全体として白人種より劣悪な状態に置かれていることはハリケーン「カトリーナ」の被害を観るだけでも明らかです。そして、パウエルもライスもブッシュの無法で凶暴な先制戦争の共同正犯になったことは、永年の公民権運動とその峰を築いたキング牧師たちの栄誉を汚す暗愚と隷従の証でした。


 オバマ氏の選挙運動スローガンは「CHANGE」でしたから、8年間で世界を血と涙と瓦礫の、恐怖と絶望と憎悪の、坩堝にした「戦争中毒」の超大帝国の終焉は近いか、と期待しました。


 11月4日夜の就任受諾演説後の日本の新聞、例えば『毎日』も『赤旗』も、記者や論者が「変化」だけでなく「変革」と書きました。オバマ氏はリンカンのことば「人民の、人民による、人民のための統治」や、キング牧師も口にした「We Shall Overcome」にも触れましたし、「この勝利は、私たちが求める変化を私たちが創りだす機会にすぎない」と述べましたから、今日と明日の諸困難を人民と協同して克服していくのだという決意にも誠実と真摯を読み取りました。しかし、『広辞苑』が「社会・制度などを変え改める」、『日本語辞典』が「社会的・政治的に変え改める」、『字通』が「根本より改める」と解説する「変革」と言えるのかどうか。


 オーヴァビー博士が、オバマ氏は「政府の進路・方針を変更させたいという願望の合図を見せている」とお書きです。思慮深いです。「サイン」や「シグナル」とお書きです。実行が問題です。


 わたしは、獲得選挙人の数で365対173でも、一般の得票で53%対47%は「圧勝」とは言えない、と思いますし、ゲイツ国防長官を留任させるとかアフガニスタンへは増派して「テロとの戦い」を近隣まで拡大するなど、「ブルータスよ、お前もか」と怒りの罵声を投げつけたくなります。核廃絶を指向し宇宙ミサイル構想を否認するなどが気球に終わらないためには、ネオコンはじめ軍産メディア複合体の巨悪と闘う人民の平和と正義を希求する運動を不断に強めねばならない。日本でも不戦と社会正義の闘いを強めて、「暴力の最大の調達人アメリカ」との軍事同盟を廃棄しなければと思うのです。崖っぷちにある第9条を救うのに精魂こめねばと思うのです。 (08.11.27)

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