What's New (Jan, 1997)



■1997年1月24日

 相も変わらず例のブツばっかり聞いているハギワラですが。

 こんなことバラしちゃっていいのかどうかわかりませんが。これ(ってのは、CD4枚組の『ペット・サウンズ・セッションズ』のことですが)、実は正規盤のほうもちゃんと全部できあがってるんだってね。ブックレットも含めて完成していて。でも、権利関係(要するに印税分配の問題)がクリアになっていなくて、ずっと足止めを食っている、と。

 マイク・ラヴが自分の声のバランスが小さいとか文句をつけたとか、アル・ジャーディンが「スループ・ジョン・B」をカヴァーしたのは自分のアイデアだとクレジットを入れろだとか、そういう問題でモメて発売が延期になった……と伝えられていたけれど。なんだよ、結局は金の問題だったわけか。そうだろうとは思っていたけどさ。

 でもねー。何度も言うようだけど。『ペット・サウンズ』ってアルバムは、もう完全にブライアン・ウィルソンのものだったわけでしょ。ブライアンが激烈なスタジオ・ワーク続けていたころ、代役のブルース・ジョンストンを含むビーチ・ボーイズさんたちは日本に来たりして、チョンマゲかぶったりして楽しくやってたわけで。だから、いいじゃん、ブライアン個人の才能の再評価ムーヴメントにしてくれれば。ね。マイクさん、聞いてる?

 まあ、すでにパッケージができあがってるってことは、もろもろの問題さえ片付けば、たぶんそのままの形でリリースされることになんだろう。今年じゅうにはイケるんじゃないかな。根拠はないけど。そんな気がします。ブート屋を儲けさせることなく、あの素晴らしく深遠な『ペット・サウンズ』セッションの全貌が多くの人に届く日を心から待望してます。

 そういえば、先日、ノージと一緒に昔の8ミリ・ビデオを整理していたら1989年のグラミー授賞式のビデオが出てきて。早送りしながら見たんだけど。ビーチ・ボーイズもノミネートされていて。いましたよ、会場に。座ってました。ノミネート楽曲は「ココモ」。カメラに映し出されたのは、ブルース・ジョンストン、アル・ジャーディンの息子らしきやつ、タキシードにハンチング姿のマイク・ラヴ、そしていちばん手前に、なんと、なんとブライアン。

 「ココモ」って曲は、ブライアンが初のソロ・アルバムを出して、これがけっこう好評で、シングル・カットした「ラヴ・アンド・マーシー」もそこそこ調子良くチャートを上昇して、さあ、これから本格的に売れるぞ……という矢先、突然それを邪魔するようにしてリリースされたシングルだったわけですよ。『ペット・サウンズ』に対する『グレイテスト・ヒッツ』みたいなものだったわけですよ。ブライアンも自伝の中でその件に関する恨み言を書いてましたよ。「ココモ」がリリースされて、映画『カクテル』の大当たりとともに全米ナンバーワンに輝いて、おかげで「ラヴ・アンド・マーシー」はどっかに消し飛んでしまった、と。

 そんな、自らがレコーディングにも参加しなかった楽曲がノミネートされたからって、ブライアン、ちんまりとグラミーの会場に足を運んでるんだよぉ。しかも、結局はノミネートされただけで、賞はもらえてないんだよぉ。

 つくづく不憫な人です。ブライアン・ウィルソン。



■1997年1月16日

 SPEEDの、メインで歌っていないコ2人が持っているマイクをめぐる疑問について。いろいろ返信いただきました。みなさん、ありがとうございます(笑)。

 代表的なところをピックアップさせていただくと――

From: 平山博之さん
TVであまり歌われない、ブリッジ(というのでしょうか?)の部分で歌ってます。一度見ました。声は良く分かりませんが(^^;

From: 日比さん
さてさてホームページで触れているSpeedの件ですが、もうすでに分かっているかも知れませんが念のため。

デビュー曲の"Body&Soul"の場合だとサビの

♪Body&Soul

と歌っているところでとりあえずマイクを口元にあてています。

実際歌っているんだかどうかは分かりませんが。

 なんか、要するにマイクを持って踊るのがかっこいい、と。そういう時代なのかもしれないなぁ。どうせだったら毎回、妙なもの持って出てくりゃいいのにね。キューリとかさ。コケシとか。ダメか。

 と、そんな情けない疑問を抱きつつ年を越したハギワラは、年明け早々からレコーディングに突入したり、とんでもない急激な発熱をともなう風邪ひいたり、コンビニ行ってファイナル・ファンタジーを予約すべきかどうか真剣に悩んだり、ノージのページの更新を手伝ったり、もちろんラジオやったりテレビやったり原稿を書いたりしながら、ずるずるとホームページも更新しないまま、1月の半ばを迎えたのでありました。

 今年も、そこそこテキトーに気軽な気分で、無理のない(笑)更新をしていきますので。気が向いたら遊びにきてください。よろしくっ。

 そういえば先日、『放送文化』って雑誌の取材を受けて、1997年、注目したい日本のアーティストは? とか、そういうインタビューに答えたんだけど。そのときぼくが挙げた注目株は、すでにちょっとキャリアがある連中からはフィッシュマンズと真心ブラザーズ、新人系からはホフディラン、児島麻由美、ランプアイ、山崎まさよし……って感じで。まあ、このうち何人のことをインタビュアーが書いてくれるかわかりませんが。

 その辺を語っているときは、わりかし納得顔で話を聞いてくれていたインタビュアーの人も、「じゃ、音楽ジャンルとして今年の注目分野は?」という問いを投げかけ、それに対してぼくが、「もちろん、カントリー・ロックでしょう」と答えたときには、ぽかーんとしちゃってさぁ。くそーっ。ダメか、またもや。

 でも、カントリー・ロックは現実味ないとしても、だ。とても個的で内省的な志向をともなった新時代のシンガー・ソングライターの動きは、まじに面白くなってきたね。日本でもアメリカでも。その他の国のことはよくわかんないけど。以前、かせきさいだぁのCD紹介のところで書いたことがあったけれど、学生運動やら何やらの中で共同幻想が熱く燃え上がり、やがて空中分解した70年代初頭に、キャロル・キングやジェームス・テイラーのインナーな歌声がしみまくったのと同じ文脈で、この90年代後半、バブルの喧燥がはじけとんだ閉塞した時代に、ふたたびパーソナルかつインナーな手触りをもったシンガー・ソングライターたちが存在感を増し始めたって事実は面白い。

 2パックが他界し、ドレが古巣を離れ、核を失いつつあるヒップホップ・シーンからも、きっとよりインナーな手触りをもった新しい動きが出てくるとぼくは思う。新時代のカーティス・メイフィールド、あるいはダニー・ハザウェイが登場してこなきゃいけない空気感が充満しているし。それがポップ・ヒストリーの必然だとも思う。それは絶対にヒップホップの脈絡の中から登場してくるはずだ。もう登場しているのかな? わかんないけど。とにかく、それが97年、ぼくの最大の楽しみです。