1999.3.18

Back On Top
Van Morrison
(Pointblank)


for Music Magazine (revised)

 移籍第一弾。オリジナル・フル・アルバムとしては97年の『ザ・ヒーリング・ゲーム』以来の新作だ。

 移籍とともにバックのメンバーも一新。ピー・ウィー・エリスやマット・ホーランドらホーン勢と、コーラスのブライアン・ケネディ、ピアノ/ストリングスのフィアクラ・トレンチなど上もの系ミュージシャンには過去おなじみの名前も見受けられるが、ベーシックなリズム隊はがらり変わった。もっとも重要な役割を果たしているのが、ニック・ロウやデイヴ・エドマンズらとの活動でおなじみのジェレイント・ワトキンス。彼のオルガン/ピアノが、時にファンキーに、時にジャジーに、時に哀感たっぷりにモリソンの歌声を盛り立てる。ジョージー・フェイムにも負けない。

 その他、ドラムもニック・ロウ人脈のボビー・アーウィン。ギターはジョニー・キッド&ザ・パイレイツのミック・グリーン。ウッド・ベースは、ジェフ・ベックのロカビリー・アルバムやスコッティ・ムーア&DJ・フォンタナの最新盤などで絶妙のプレイを聞かせたビッグ・タウン・プレイボーイズのイアン・ジェニングズ。チーフタンズらとも活動しているケルティック系のリアム・ブラッドリーの名前もバック・コーラスとしてクレジットされている。

 と、こうした顔ぶれを揃えたせいか、冒頭、いきなりジェニングズのタイトなスラッピングがごきげんなロカビリー風味のシャッフル・ブルースでスタート。“俺は再びストリートに戻る。ビートに戻る。頂上に戻る”と力強く歌われるタイトル曲4も同種のタイトなビートをたたえたシャッフルだ。そういうアルバムなのかなと思いきや、そんなことはなくて。感動的なまでにぼくの胸を打ち振るわせてくれたのは、やはりミディアム以下のバラード群だった。去年話題を呼びまくった素晴らしい未発表作品集と同じタイトルを冠されたモリソンなりのゴスペルとでも言うべき2、米南部ソウルの味わいをモリソンなりに昇華したような3や7、“黄昏と夜明けの狭間まで、俺についてきてくれ”という必殺フレーズが切なく耳に残る5、サム・クックの影響が心地よい8と9、そして犯罪のイメージと神々しい楽園のイメージとが交錯するエンディング曲10など。モリソンならではの、深く淡々とした、しかし奥底では熱く燃えたぎるアイリッシュ・ソウルを堪能できる。シンプルで太い。70年代初頭の諸作を思わせる局面も多々あり、特に古くからのファンは驚喜するしかないすよ。

 なんて。ごちゃごちゃ書いたけど。要するに、この高みにまで至った人の気合たっぷりの新作に対してぼくごときがいったい何を言えばいい…ってことだ。素晴らしいです。新しい音楽要素は何ひとつないけど。だからどうした。素晴らしいです、またまた今回も。


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