Reviews   Music


The Healing Game
Van Morrison
(Polydor)


 素晴らしいです。

 このところ、ジョージー・フェイムやベン・シドランと組んだモーズ・アリソンへのトリビュート盤とか、自らのR&Bレビューにも参加しているジェームス・ハンターのソロ・アルバムへのゲスト参加とか、脇道プロジェクトが多かったモリソンさんですが。ついに真っ向からのニュー・アルバムが登場。素晴らしいです。

 ジョージー・フェイム、ロニー・ジョンソン、ピー・ウィー・エリスら、名手をバックに従え、じっくり、ていねいに歌い綴った10曲。もともとはアメリカのR&Bが大好きで、一所懸命、少しでも本場のソウル・シンガーに近づきたいと情熱をたぎらせていた若き日々を経て、やがて誰のものでもない、アイリッシュの、ヴァン・モリソンだけの“魂の音楽”へとたどりついた彼のとてつもない“深さ”が味わえる。

 要するに、今回も何ひとつ変わっちゃいないってことだけど(笑)。こんなに、何ひとつ変わらないヴァン・モリソンの歌声を、ぼくはなんでいつも胸高鳴らせて待ちわびているんだろう。くどいですけど、ほんと、素晴らしいです。今回も。


Mr. Wizard
R. L. Burnside
(Fat Possum)


 おやじ、またすごいCD出しました。

 ドクター・ドレ好きの自分の孫をドラマーに据えたトリオで疾走するブルース・ウィザード、R・L・バーンサイド。94年から96年までにレコーディングされた音源で構成された強力な一枚だ。

 通常のブルース・ファンとかはこの人のことどう思っているんだろう? 乱暴にくくってしまうと、要するに“オルタナ&ブルース”って感じ。リリース元のFat Possumってレーベルはエピタフ・レコード系だとかで、このオルタナ心に満ち満ちたおやじにはぴったりの環境だ。そこらのへなちょこオルタナ・バンドなんか吹き飛ぶ勢いの、ぶっこわれ気味のギターを炸裂させ、ぶっとい声で吠えまくる。あ、でも、考えてみりゃハウンド・ドッグ・テイラーとか、あるいはもっとさかのぼって、エルモア・ジェームスとかでもいいけど、そういう連中って、結局その時代その時代のブルース・シーンの中ではオルタナな存在だったのかもしれないなぁ。そういう意味じゃ、まさしくそのテのブルースの正統な継承者ってことになる。

 前作に続き、今回もジョン・スペンサーが参加した96年セッションから2曲入ってます。


The Whole Scenario
Levert
(Atlantic)


 久々だよね。まだ解散してなかったのか(笑)。

 近ごろは“ニュー・クラシック・ソウル”とか何とか、またワケのわかんない呼び名でオーソドックスなブラック・ポップ・ミュージックが流行していて。たぶんこのリヴァートの新作もそういう一枚として分類されるんだろう。でも、この人たちの場合、オーソドックスでいながら、けっして時代感みたいなものははずしてないというか。密度が違うというか。やっぱり底力あります。聞かせます。年季です。

 ジェラルド・リヴァートの血筋のせいなのか、往年の黒人ヴォーカル・グループのハーモニー・スタイルをしっかり身体にしみこませたうえで、しかしヒップホップ感覚もきっちり理解している……ってところが彼らのすごさ。今回のアルバムでは曲によってYO-YOやマッド・ライオンが客演してばっちりラップを聞かせたりしているものの、それが無理矢理じゃない。ヒップホップに色目を使っている感じにはなっていない。かっこいい。もちろんジェラルドだけでなく、今回も見事なアレンジを聞かせるマーク・ゴードンの力も大きいんだろうね。

 ただ、時折り、気を抜くと御大クインシー・ジョーンズっぽい、んー、なんというか、ちょっとだけ尊大なアプローチになってる局面もあったりして。その辺、微妙……。


Everything You Want
Ray-J
(EastWest America)


 ブランディちゃんやらテヴィン・キャンベルくんやら、お子ちゃまソウル・シンガーとの仕事で名をあげたキース・クロウチが全面的にバックアップした男の子。青い声がごきげんです。ヒップホップ・ソウル版ひとりニュー・エディションってとこか。

 とにかく、トニ・ブラクストンとかのCDでもいい仕事をしていたキース・クロウチの勢いがよく表われた一枚。シンプル&チープながらグルーヴはばっちりというオケが聞きものだ。このレイ・Jくんなる男の子がどういうコなのかは全然知らないけど、すでにファンクラブとかもあるみたいだし、注目の人なんでしょうね。

 ブランディちゃんも客演してます。


Like Swimming
Morphine
(Rykodisc)


 今、けっこう旬なバンド名かも(笑)。

 2弦ベースをスライド・バーでぶいぶい弾きまくるマーク・サンドマンを中心に、ドラム、バリトン・サックスでバックアップする変態トリオ、モーフィーンの新作だ。リリースが半年ほど延びて、その間にリマスターされて、1曲追加されて……と、あたふたしつつ、ようやく出た4枚目。

 以前のような、座りの悪いコンビネーションはなくなり、サウンド・スタイルを確立したかのよう。曲によってはギターを重ねたり、シンセサイザーなどを導入したりと、限定された編成による限界を超えた音作りになっており、その辺が従来のファンの間でどう評価されるのか、興味深い。嫌いになっちゃう人も多いかも。ぼくはけっこう好きです。マーク・サンドマンのビート感みたいなものがより研ぎ澄まされた感じで。

 そうそう。マークさんといえば、以前、来日したときに、ぼくが鈴木蘭々と一緒に司会していた番組にゲストで来てくれたことがあって。そのとき、収録の前に蘭々が「まい・ねーむ・いず・らんらん。らんらん」と、走る真似をしながら自己紹介したんだけど。それを聞いたマークさん、冗談だと思ったのか、「オーケー、マイ・ネーム・イズ・ゴーゴー」と答えてたなぁ(笑)。


Ride
Jamie Walters
(Atlantic)


 日本でのタイトルは忘れちゃったけど、TVドラマから生まれた架空のバンド、『The Heights』のリード・シンガーとして92年に「How Do You Talk To An Angel」を全米ナンバーワンに送り込んだ人。ソロでのセカンド(だと思う)・アルバムだ。

 曲調はいろいろ。ポール・バックマスターがストリングス・アレンジで参加していたり、ラス・カンケル&リー・スクラーがリズム隊をつとめていたり。そのせいか、時にエルトン・ジョンみたいだったり、時にジャクソン・ブラウンみたいだったり。でも、それも悪くないというか。わりと好感を持って聞けてしまった。

 昔ながらのサウンドに挑戦しながら今の息吹を……とかいうわけでもなく、そういう曲がそろっちゃったから、そういうサウンドでやってますって感じなのだろう。これはこれで淡々としていていい。本人もかなりたくさん曲を書いているけれど、ベスト・トラックはマシュー・スウィートをカヴァーした「Winona」かな。


Never Home
Freedy Johnston
(Elektra)


 ラス・カンケル、リー・スクラーが参加したジェイミー・ウォルターズに代わって、一方、こちらにはダニー・クーチが参加。プロデュースも手がけている。フリーディ・ジョンストンの新作だ。

 フリーディ・ジョンストンがダニー・クーチと組むなんて、ちょっと意外。ノッケからいきなり、最近のダニー・クーチっぽいハード・ポップっぽいギターが鳴りまくって、おいおい、フリーディ、だいじょうぶか……と思ったけれど。

 結果は、まあまあ。フリーディ独特の繊細な曲作りのセンスは変わらず。ダニー・クーチのおかげか、これまでよりも曲自体のたたずまいがきっちりしたみたい。それがうれしくもあり、寂しくもあり、と。そんなところでしょうか。ダニー・クーチへのプロデュース依頼がけっして最良の選択だったとは思えないけど、悪くない選択ではあったってことかな。フリーディ・ジョンストンの魅力は十分に味わえる。


Violent Demise: The Last Days
Body Count
(Virgin)


 アイスT率いるヘヴィ・メタル・ラップ軍団、ボディ・カウントの新作だ。今回もどががががっという重量級のロック・サウンドに乗せて、社会に対する不満とかセックスのこととか暴力のこととかシャウトしまくっている。

 音だけ聞いていると、むちゃくちゃかっこいい。ごきげん。なんだけど。なんだけどね。歌詞に耳がいくと、とたんに腰が引けてしまうワタシがいるのもまた事実。ここに夢はない。全然。当たり前か。2パックが射殺され、その抗争相手とおぼしきノトリアスBIGもまた射殺され……。そんなウソみたいなことが現実に起こってしまうとんでもなくやばい世界に生きてるんだものね。そういうシーンで活躍する連中に、往年のポップ・ミュージックが持っていた夢を取り戻せと言ったところで始まらない。外野は黙ってろってことになっちゃう。

 ただ、それが現実であれなんであれ、ここまで殺伐としたポップ・シーンってのは絶対に不健康だと思う。いけないと思う。その、いけない空気感をありのまま吐き出した一枚としてとらえると、かなりの批評性を持ったアルバムと思えなくもない……けど。


Nine Lives
Aerosmith
(Sony)


 その点、こちらは一点の曇りもなし(笑)。

 ゲフィンから古巣ソニー/コロムビアに戻っての最新作。古巣に帰って、気合いも新たに“売り”に出てます。すでにあちこちで特集が組まれたりして、日本でも売れまくってるみたいだから、今さらぼくがごちゃごちゃ言うこともないね。エンターテインメント・ロック、絶頂の記録。えぐい曲作りも、演奏ぶりも、突然出てくる中近東ふう味付けも、ばっちり覚悟が決まっていて、かっこいい。こういうのを中途半端な覚悟のもとでやられると聞いていてバカらしくなってくるのだけれど、やっている側に迷いがないから。

 しかし、この人たちが前作『ゲット・ア・グリップ』出してからかなりの歳月が流れて。その間、日本じゃB'zが大人気。あそこんちの稲葉ってヴォーカル、まじにスティーヴン・タイラーばりだね。なもんで、本盤聞いて、随所でB'zのことを思い出してしまったワタシを誰に責めることができましょう。