1998.3.15

Full Service
No Waiting

Peter Case
(Vanguard)

 95年の傑作『トーン・アゲイン』以来、3年ぶりの新作。好調ぶりは相変わらず続いているようだ。

 前妻ヴィクトリア・ウィリアムスとの仕事でも知られるウィリアムズ・ブラザーズのアンドリューがプロデュース。去年、自らもソロ・アルバムを出した女声フィドラー、リリ・ヘイデンをはじめ、ドン・ヘフィントン、デイヴィッド・ジャクソンといったシンガー・ソングライター系のバッキングならおまかせ系の面々を従えて、ルーツ・ミュージックへこれまで以上に熱いまなざしを送ったサウンドを作り上げている。ごきげんなフォーク・ロック・アルバムだ。

 もう十何年か前のことになるけど、初来日公演、ダメだったんだよね、この人。なんだか空回りしちゃってて。あのときは、ともに来日したヴィクトリアのほうが断然よかった。でも、今、ヴィクトリアが素晴らしいアルバムを出して、ピーターも負けないくらい充実した新作を出して。初来日見ておいてよかったと思います。ほんと。



Between Us
Jules Shear
(High Street)

 全15曲、それぞれ違うデュエット・パートナーを迎えてレコーディングされたアルバムだ。様々な形の“人との関わり”を描いた曲ばかりが揃えられている。

 パートナーは、キャロル・キング、ポーラ・コール、エイミー・リグビー、マーゴ・ティミンズ(カウボーイ・ジャンキーズ)、メアリー・ラムジー(10000マニアックス)、スージー・ローチ、スーザン・カウシル、パティ・グリフィン、ロザンナ・キャッシュ、フリーディ・ジョンストン、ロン・セクスミスなどなど。ジュールズ・シア本人の生ギターを中心に据えた簡素なバッキングで味わいのあるデュエットを聞かせてくれる。ロブ・ワッサーマンを迎えたインスト曲もある。ジュールズ・シアって、ネックの上から親指ぐいっと突きだしてコードを押さえる人って印象が強かったんだけど、ギター、けっこううまいんだね。失礼しました(笑)。

 デュエット・アルバムというと、それぞれ異質な味を持った者どうしが組んで、それぞれ自分のワザをこれ見よがしに主張していることが多かったりもするのだけれど、ここでは異質な組み合わせはひとつもなし。すべてが同方向に向かっている個性が、お互いを慈しむように歌声を重ねていて、とても気持ちがいい。



Buzzbomb!
The Vandalias
(Big Deal)

 かつて、ジグソーの「スカイ・ハイ」のカヴァーを含む『マッハV』(マッハ Go! Go! Go! のことなのかな?)なるアルバムで、バカ方面に突き抜けたパワー・ポップを聞かせてくれたミネアポリスの3人組が、今度はなんとキャロルの「ファンキー・モンキー・ベイビー」のカヴァーを含む新作をリリースした。なんだよ、日本のカルト文化愛好アメリカ人か、こいつら。

 「ファンキー・モンキー・ベイビー」、いいんですよ、これが。日本語でフル・コピーしてるんだけど。日本語を英語っぽくくずしていたエーちゃんのヴォーカルを、アメリカ人がフル・コピーして歌っているわけで。なんだか歪みが二重三重(笑)。くらくらしてきちゃう。ホントかどうか知らないけど、この曲だけミネアポリスでのライヴってことになっている。ダビングの形跡ありなので、うそライヴかも。

 もちろん、それ以外の曲でもポップでスピーディでどかーんとしたパワー・トリオぶりを存分に発揮。楽しいです。



Don't Get
Too Comfortable

Pee Shy
(Blue Gorilla/Mercury)

 女の子3人、男がひとり。たぶんこれが、ほぼ1年半ぶりくらいのセカンド・アルバムだと思う。以前のアルバムはここで紹介してます。

 今回は、ナッシュヴィルのアレックス・ザ・グレート・スタジオへと出向き、ブラッド・ジョーンズのプロデュースのもとで制作。ブラッドが手がけるジル・ソビュールみたいな路線で行こうってことなのかな。そういう、ちょっぴりキュートでスピーディでアコースティカルなポップ・パンク盤になってます。

 かなりバンドらしくなってきて、さすがはブラッド・ジョーンズって感じではあるのだけれど。こうなってみると、前作のなんともチープな味もよかったなぁ……なんて思ったりするワタシは身勝手かしら。

 相変わらず歌詞はイカれてて。いいよぉ。「もうすぐあなたと話ができると思うわ/私の背中にささっているナイフに手を回して抜き去る方法がわかったら……」とか(笑)。なんだ、そりゃ。



Isolation Party
Tommy Keene
(Matador)

 パワー・ポップ・シーンの代表選手、トミー・キーンの新作だ。90年代に入ってマタドールに移籍してからも好調を持続している彼だけれど、今回も持ち味がたっぷり発揮された仕上がり。

 ウィルコのジェイ・ベネットとシューズ〜デイ・ワンのジェフ・マーフィがプロデュース/エンジニアリング面で大きく関わっており、その流れからか、ウィルコのジェフ・トウィーディが2曲コーラスしているほか、デイ・ワンのルロイ・ボッチエリ、ジン・ブロッサムズのジェシ・ヴァレンズエラらも参加している。ウィルコーっ! って感じの「ネヴァー・リアリー・ビーン・ゴーン」って曲がぼくはとても気に入りました。ひねくれたバーズみたい。

 そのスジのお好きな方には見逃せない1枚だろう。またたいして売れないと思うけど。



Gently, Down
The Stream

Come
(Matador)

 もういっちょマタドールもの。リズム・セクションを一新しての4枚目だ。

 悲しみとか、苦痛とか、失恋とか、裏切りとか、乾きとか……まあ、これまで同様のテーマを全面に押し立てて激しくギター・ロックしているわけですが。リズム隊がブラッシュアップされたぶん、そうしたテーマの表出の仕方もがっちりしてきた。だから、逆に聞いててつらい気分になる局面も多いのだけれど、でも、かなり吸引力は強い仕上がり。

 まじめすぎるくらいまじめだけどねぇ。



Connected
The Family Stand
(EastWest)

 前任ヴォーカリストのサンドラ・セイント・ヴィクターがソロになって、デビュー・アルバムがやったら評判を呼んだのが、えー、1年前くらい? あのころ、ファミリー・スタンドは解散したって言われていたけど。どっこい、残されたピーター・ロードとジェフリー・スミスは新たな女性ヴォーカルを迎え入れて新作をリリースした。ピーターもジェフリーも歌えるけど、やっぱりもう一枚、女声が欲しかったのかな。

 というわけで、新ヴォーカルは昔キース・スウェットんちのコーラスやってて、デュエット・ヒットなんかもぶちかましたことがあるジャッキー・マギー。心機一転、アル・グリーン、スティーヴィー・ワンダー、スライ・ストーン、アイズレー・ブラザーズ、カーティス・メイフィールドといった音にどっぷり回帰しつつ、ヴァラエティ豊かなアルバムを作り上げた。70年代ニュー・ソウルふうのサウンドばっかりで、一時のオリジナル・ラブみたいっすよ。渋谷系か、こりゃ。

 わりと楽しく聞きましたが、しかし、近ごろのスティーヴィー・クローン系の黒人ヴォーカリストって、なんでみんなノドしめたみたいな声で歌うんだろう。



My Homies
Scarface
(Rap-A-Lot/Virgin)

 監獄にぶちこまれている仲間たちに捧げたという新作2枚組。ノッケの曲で、「俺はやつらに背を向けない、やつらのために歌うぜ……」って宣言してます。親分さんです。

 こういう親分さんが出すヒップホップ2枚組の常として、豪華ゲスト陣が参加。マスター・P、アイス・キューブ、トゥー・ショート、ウィリー・D、ゲットー・ボーイズ仲間のブッシュウィック・ビル、そして生前の2パックの声なんかもフィーチャーされている。中にはスカーフェイスが出てこない曲まであるぞ。いいのか。

 特に目新しくも何ともないギャングスタ・ラップの定番みたいな仕上がり。むちゃくちゃ売れるでしょう。今現在、いちばんフツーに良くできたラップ・アルバムの標本って感じだ。



Heavy Mental
Killah Priest
(Geffen)

 俺はモーゼみたいに迷える子羊を集めて聖なる国に連れていくんだぞー……と吼えるウー・タン・クラン一派のキラー・プリーストさん。ソロ・デビューです。

 精神的なものも含め、けっこうストレートにメッセージを放っていて、ちょっと気になる存在だ。ただ、歌詞に思い切り重きをおいているぶん、オケのほうは徹底してストイック。ヌスラット・アリ・ハーンがサンプルされていたり、マルコムXのスピーチが引用されていたり、真摯な手触りが全編に満ちてます。



Contact from
the Underworld
of Red Boy

Robbie Robertson
(Capitol)

 3年ぶりの新作。

 あちこちでみんなが言っていることだけど、もうザ・バンドの人じゃないね、この人は。もちろん、この新作にもこの人ならではのアメリカン・ロック解釈も含まれてはいるのだけれど。でも、中心に据えられているのは、ここ数年、自らの母方の血を強く意識する中で積極的なアプローチを見せはじめているネイティヴ・アメリカン・ミュージック。そこに、共同プロデューサーに起用されたハウィーBやマリウス・デ・ヴリーズらによるトリップ・ホップ感覚がのっかって。

 頭で考えると、なんとなくわかるような気もするアプローチなんだけど。実際に音を聞いていると、こんなことしなくちゃいけないのかな……と思ってしまったりするのも事実。ネイティヴ・アメリカン音楽をそのまま聞かせりゃいいじゃん、と。そんな乱暴な気分にもなってくる。むずかしいっすね、こういう作業は。ロバートソンの場合、本人があまりいいシンガーじゃないから。やっぱりレヴォン・ヘルムなりリック・ダンコなりがいてこそのこの人だったんだと思う。余計なお世話だけど、そういう、“歌える”新たなパートナーをゲットしたほうがいいんじゃないかなぁ。トリップ・ホップの人とかじゃなくて。

 今度出る『ミュージック・マガジン』に、彼への電話インタビューを書いたので、興味がある方はぜひ。



Secrets Of The Heart
Bobby Charles
(Rice'n'Gravy/Stony Plain)

 3年半ぶりくらいかな。10年くらい前に出たアルバム『クリーン・ウォーター』に収められていた音源も交えた1枚だ。レコーディング・セッションは4種類あって、プロデューサー・クレジットなどを照らし合わせてみると、けっこう曲によって飛び飛びの時期に録音されているようだ。というわけで、純粋な新譜というわけではないけれど、この人の音楽の場合、レコーディングが新しかろうが古かろうが、まったく動じないものなので問題なし。また新たな彼の歌声に触れることができただけで、心からうれしい。

 不変のニューオリンズ・グルーヴと、こちらも不変のウッドストック的なあたたかさが共存する素晴らしい世界。幸せになれます。歌は相変わらず朴訥としちゃってるものの、そのぶん、男の渋いやさしさが伝わってきますよ。この味がわかんない人は、もう、おんもで遊んでてほしいですよ。




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