1997.11.24

Harry
Harry Nilsson
(DCC/BMG)


 こんなの、いつ出たの?

 よくわからないうちに再発されていたニルソンの名作。先日、池袋のHMVをうろうろしてたとき、たまたま見つけました。1969年4月にリリースされた、本格デビュー後3作目。日本では確かこれがデビュー盤だったはず。邦題は『ハリーの肖像』。日本ではすでに92年にCD化されていたけれど、日本で保管していた何世代めかのアナログ・マスターを使っていたせいか、音が悪くてねぇ。レベルも低かったし。去年のアタマにアメリカでニルソンのオリジナル・アルバム群が何枚か再発されたときも、なぜか本盤はラインアップに入っていなくて悲しい思いをしたものだ。(ちなみに、そのときの再発群については、ここでレビューしてます)

 でも、もう大丈夫。今回、アメリカで初CD化が実現。リマスタード・ゴールドCDでおなじみのDCCによっていい音で甦った。リマスター・エンジニアはもちろんスティーヴ・ホフマンだ。しかも、ボーナス・トラック入り。映画『Skidoo』のサントラに入っていた「I Will Take You There」のモノ・シングル・ヴァージョン、シングルのみで出ていた映画『Jenny』の挿入歌「Waiting」、そして本盤収録の「Rainmaker」のモノ・シングル・ヴァージョンの3トラックを追加収録だ。うれしいっす。

 ニルソンってのは、たとえばスリー・ドッグ・ナイトがヒットさせた「ワン」とか、アル・クーパー&BSTやジャック・スコット、ハープ・アルパートなどが取り上げた「ウィズアウト・ハー」とか、トム・ノースコットとビリー・J・クレイマーが取り上げた「1941」とか、ケニー・エヴェレットが取り上げた「ひさしぶりの口づけ」とか、そういう曲を作った素晴らしいソングライターとしての一面がまずあって。でも、一般的な評価となると、フレッド・ニールが作った映画『真夜中のカーボーイ』の主題歌「うわさの男」とか、バッドフィンガーのレパートリーだった「ウィズアウト・ユー」をビッグ・ヒットさせた、歌がチョーうまいシンガーとしてのもので。その辺、いろいろと混乱があるんだけれど。

 でも、どっちも間違いなくニルソンなわけで。どちらもニルソンの重要な魅力。で、そんな両方の持ち味がいい形で共存しているアルバムとして、この『ハリーの肖像』は忘れられない傑作だ。3オクターブは楽々という豊かな声域とか、持ち前の七色の声質とか、シンガーとしての魅力も、ノスタルジックでポップな曲作りのセンスとか、ブラックなユーモア感覚に満ちた諧謔精神とか、ソングライター/クリエイターとしての魅力も、すべてが有機的に一体化したニルソンの無敵の世界がここにある。

 メリー・ホプキンやデヴィッド・キャシディのカバーでも知られる「パピー・ソング」、やはり『真夜中のカーボーイ』でも使われ69年に小ヒットを記録した「孤独のニューヨーク」、初期の隠れた名曲のひとつ「オープン・ユア・ウィンドウ」といった自作曲から、ランディ・ニューマンの「サイモン・スミスと踊る熊」、ビートルズの「マザー・ネイチャーズ・サン」、ジェリー・ジェフ・ウォーカーの「ミスター・ボージャングルス」といったカヴァーまで。どの曲をとっても欠点なし。

 今回ボーナス収録された「Waiting」ってのも初期ニルソンの味わいがよーく出た名曲だなぁ。ありがたい再発です。


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