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Goodnight, sleep tight...
Reissues of Harry Nilsson.
(RCA)



Pandemonium Shadow Show


Aeral Ballet


Nilsson Sings Newman


Nilsson Schmilsson


Pussy Cats


Knnillssonn

 おととし、1994年の新年明けて間もないころ、TVで映画『フィッシャー・キング』をやっていた。テリー・ギリアム監督による91年作品。公開時に見逃していたし、他に見たい番組があるわけでもなかったので、ぼんやり眺めていたら、エンディングに往年の名画『ブロードウェイ』の挿入歌「ハウ・アバウト・ユー」が流れた。映画の中でもホームレス役のロビン・ウィリアムスが何度かこの曲を口ずさんでいたけれど、ラストに流れたのはハリー・ニルソンがこの映画のために歌ったヴァージョンだった。80年代に入ったころから音楽シーンを離れ、映画配給会社を設立。そちらの仕事に没頭していたという、あのニルソンだ。ぼくにとってモスト・フェイヴァリット・アーティストのひとり。彼の諧謔と自虐あふれる独特のポップ感覚にはガキのころからずいぶんと影響されてきたものだ。けど、すっかり音楽から遠ざかってしまったとばかり思っていた彼が、実は91年に1曲とはいえ新録を残していたなんて。知らなかった。音楽評論家、失格だね。いや、それよりも何よりもファン失格だ。あわてて正月バーゲン真っ只中のレコード屋さんへと走り、サントラ盤を入手。しかも日本盤だ。出ていたんだねー。面目ない。

 と、そんなふうに思わぬ再会を果たしたニルソンだったのに。再会から10日ほどたったころ、ショッキングな外電が届いた。現地時間の15日早朝、ロサンゼルス郊外の自宅で就寝中に他界。93年のヴァレンタイン・デイに彼を襲った心臓発作が完全に回復していなかったとのことだ。享年52歳。今さら仕方ないけれど。でも、やっぱり早すぎたと思う。

 1941年、ニューヨーク生まれ。LAに移住して、ハイスクール卒業後、銀行に就職。が、子供のころから好きだった音楽への夢も忘れられず、銀行の仕事は夜勤でこなし、日中はスタジオや音楽出版社、レコード会社に出入りしたり、ラジオのCMソングを歌ったり。そのころからソングライターとして注目されるようになり、フィル・スペクター、モンキーズ、ヤードバーズなどが彼の曲を起用。次第に自信をつけたニルソンは銀行を退職し、67年、自らアーティストとして本格的デビューを飾った。最初のアルバム『パンディモニアム・シャドウ・ショウ』はたいして売れなかったけれど、これを耳にしたジョン・レノンが大感激。アルバムを30時間聞きとおし、イギリスからニルソンのもとにはるばる国際電話をかけて「ユー・アー・グレイト!」とありがたいお言葉を直接伝えたほどだった。その後、69年に彼の歌った「うわさの男」が映画『真夜中のカーボーイ』の主題歌に採用され、さらに71年にはバッドフィンガーの名バラード「ウィズアウト・ユー」のカヴァーが大ヒット。歌手部門ながらグラミーも2回獲得し、彼の存在も一般的になった。3オクターブの声域。ささやくように歌ったり、リトル・リチャードばりにシャウトしたり、なんでもOKの七色の声質。ノスタルジックでポップな曲作りのセンス。ユーモアあふれる諧謔精神。それらが有機的に一体化したニルソンの世界は、まさに無敵だった。

 死去する数日前、最新アルバムの録音を完了したばかりだったとか。そういえばシェールの娘が在籍するバンド、セレブレーションのデビュー盤のジャケットにニルソンに対するスペシャル・サンクス・クレジットがあった。“早くアルバムを出せよ”ふうのコメントも添えられていたっけ。遺作となってしまったそのアルバム、仮題は『Harry's Got a Brown New Robe』だったそうだ。もちろんJBナンバーのもじり。いいセンスだなぁと思う。この屈折した、自虐的なユーモア感覚こそニルソン。最終的には『Lost And Found』というタイトルでリリースされることになるそうだが、こちらの題名も今となってはかなり皮肉だ。

 そんなニルソンのオリジナル・アルバムのうち、何枚かがポール・ウィリアムスの監修のもと、アメリカでていねいなリマスターをほどこされて再発された。左に並べた6枚がそれ。日本でもRCAに残された全オリジナル・アルバムがCD化されてはいるけれど、音質的にはこの6枚が最高だ。各アルバムの簡単な内容も含めたニルソンのバイオはこちらを見てください。他界前に、レコード・コレクターズ誌に寄稿した文章です。まるで『真夜中のカーボーイ』のラッツォーみたいに眠ったまま逝ってしまったニルソンの冥福を祈りながら、彼が残してくれた素晴らしい歌声にぼくたちは酔い続けよう。