for Sep. 10, 1996


  1. The Paul Butterfield Blues Band
    The Butterfield Blues Band
    (Elektra)

    
    
    
    
    
    
    
    

     近ごろ、何がきっかけだったのかは覚えてないけれど、やったらめったらバターフィールド・ブルース・バンドばっかり聞いている。なんか、すっげえかっこいい。昔もかっこいいと思っていたんだけど、また、さらにかっこよく聞こえるようになっちゃって。不思議なものです。ハマってます。

     1965年にアルバム『The Paul Butterfield Blues Band』でデビューしたシカゴ出身のホワイト・ブルース・バンド。ポップ・ヒストリー的に言うと、それまではあくまでも“レイス・ミュージック”としてしか扱われることがなかったいわゆるアーバン・ブルースってやつを、より広く白人ロック・ファンにも紹介する役割をになった連中。

     まあ、ある意味じゃ同時期に大活躍していたローリング・ストーンズとか、あのテのブリティッシュ・ビート・グループたちと同じことなんだろうけど、バターフィールド・ブルース・バンドの場合はもっともっとスタイリッシュというか。“型”にこだわっていた感じ。ストーンズとか放っていたのが“感覚”としてのブルース・スピリットだったとしたら、バターフィールド・ブルース・バンドは徹頭徹尾、“伝統”としてのブルースに向かって限りない愛情を表明し、その“型”を必死に受け継ごうとしていた。

     このノリが、ね。いいわけ。なんだか。

     当時、日本ではビクターからリリースされていたファースト・アルバムとか、ぼくは何年か遅れで手に入れて、けっこう聞きまくったものだ。衝撃だった。その後、70年代半ばに本格的黒人ブルース・ブームが日本の洋楽シーンでも巻き起こって、ぼくもマディ・ウォーターズやらリトル・ウォルターやらハウリン・ウルフやら、バターフィールド・ブルース・バンドがお手本にしていたようなモノホンのブルースを聞くようになって。となると、バターフィールドたちの音がなにやら薄くて、中途半端なものに思えてきたりもしたものだけれど。

     そういう時期を経て、また今、この中途半端かもしれないけれど、限りない情熱に裏打ちされた音楽が新鮮に響くようになった。なんでだろね? いろんな音楽スタイルが出尽くして、解析されつくして、誰もが何でもわかってるような気になっているこの時代だからこそ、かな。このクールでデジタルな時代への反動としてのバターフィールド・ブルース・バンドなのかもしれない。暴走する若き情熱。やっぱ、こういうのっていいよね。

     ポール・バターフィールド、エルヴィン・ビショップ、マイク・ブルームフィールドという若き気鋭が火花を散らす初期2枚のアルバムが、やっぱりむちゃかっこいい。65年の『Paul Butterfield Blues Band』と66年の『East-West』。正規のデビュー・アルバムが出る前にレコーディングされながら長くオクラになっていた幻のセッション集『The Original Lost Elektra Sessions』ってCDも最高。ブルームフィールド脱退後、デヴィッド・サンボーンをはじめとするホーン陣も大胆に導入してぐっとR&B寄りにシフトした68年の『The Resurrection Of Pigboy Crabshaw』あたりも、独特のブルー・アイド・ソウル臭が気持ちいい。

     つーわけで、近ごろのケンタズ・ナンバーワンは、文句なしにバターフィールド・ブルース・バンドに決定だっ!

    
    
  2. Beats, Rhymes And Life
    A Tribe Called Quest
    (Jive)

     第二位は最近のリリースものですが。ア・トライブ・コールド・クエストのニュー・アルバム。オープニング・チューンの「Phony Rapper」って曲が特に好きかな。ざらざら、ぱちぱちしたループ音源の肌触りが、なんともジャジーかつファンキーで。よいっす。

    
    
  3. Love You
    The Beach Boys
    (Brother/Caribou)

     そして、第三位。これまた、何を今さら……の、ビーチ・ボーイズのアルバム。

     1977年に出たものなんだけど。時期的に言うと、74年に2枚組ベスト『Endless Summer』が突然、全米ナンバーワンに輝くバカ当たりを記録して。76年に、長らくバンドから出たり入ったりしていたブライアン・ウィルソンがビョーキをとりあえず克服して完全復帰した『15 Big Ones』ってアルバムが出て。これがやはり全米8位まで上昇して。さあ、いよいよビーチ・ボーイズ人気、本格的再燃か! と盛り上がっていた77年にリリースされた一枚。

     で、ヒットチャート上での結果は、なんと最高53位。なんだそりゃ的な、チョー地味なアルバムなんだけれど。でも、ね。これ、いいんだよ。まじ。『15 Big Ones』なんかよりずっといいんだから。発売当時、“第二の『ペット・サウンズ』”と形容する人だっていたくらいなんだから。

     どういいかと言うとですね。もんのすごくブライアン・ウィルソンしている一枚なわけ。確かにバンドとしてのビーチ・ボーイズのアルバムってことになると、70年代の作品の中では、たとえば『Sunflower』とか『Holland』とか『L.A.』とか、そういうアルバムのほうが充実しているかもしれないけれど。ブライアン・ウィルソン個人の充実ぶりってことになると、ぼくは断然このアルバムだと思うのだ。

     で、最近、例のドン・ウォズ監督によるドキュメンタリー映画『I Just Wasn't Made For These Times』のおかげで、なんつーか、こう、非常に“個的な”シンガー・ソングライターとしてのブライアン・ウィルソン像みたいなものがクローズアップされるようになってきて。その視点でビーチ・ボーイズの活動を振り返ってみると、セールス的にも地味だったはずの本盤がぐぐーっと存在感を主張し始めるんだな、これが。

     これ、今、レーベル権利の関係でCDが廃盤になっちゃってるみたいなんだけど。もし未体験の人がいたら、中古屋さんに駆けつけてソッコーでゲットするように。シンガー・ソングライターとしてのブライアン・ウィルソンをたっぷり味わうためには、66年の『Pet Sounds』、68年の『Friends』、77年の本盤『Love You』、そして88年の初ソロ・アルバム『Brian Wilson』あたりを聞くのがいちばんって感じ。ブートの『Adult Child』とかも余裕があったら耳にしてほしいな。

     そうか、でも、ブライアンって、66年、77年、88年……と、ゾロ目の年に充実したアルバムを作ってるんだなぁ。じゃ、なんだ、次は99年か?

    
    
  4. New Adventures In Hi-Fi
    R.E.M.
    (Warner Bros.)

     第四位は、まだ本チャンの盤を未入手状態のこいつ。REMの新作だ。プロモーション用のカセットをもらっただけの段階なのだけれど。いいよー、これ。そろそろ輸入盤でも出回りだすころだろうから、またレビューのほうでも取り上げるかもしれないけれど。とりあえず、ミュージック・マガジン誌のために書いたレビュー原稿をまたもや無断引用です。
    
    

     80億だか何だかの契約金騒ぎにはぶっとんだ。REMがビッグな存在であることは十分わかっていたつもりだったけど、ここまでとてつもないスターだったとはねー。アメリカでの彼らの必要とされ具合ってやつは、遠い日本からぽんやり眺めているだけじゃてんで想像もつかない境地にまで達しているようだ。カレッジ・シーンからのぼりつめてきた連中だけに、ぼくの中ではいわゆる“オルタナ”なイメージがいまだ強かったのだけれど、そんなオルタナなはずのやつらがマイケルもジャネットも軽く抜いてアメリカン・ショービジネスの頂点に立っているのだ。これをREM自体の変質ととるか、音楽シーンの構造の変化ととるか、あるいはこちらが彼らの持ち味を思い切り勘違いしていたせいなのか。たぶんその全部だね、こりゃ。

     彼らが本国アメリカで大いに受けまくっている重要な理由のひとつである“歌詞”について、現段階でぼくはまったく理解していない。そんな状態でまともなレヴューなどできるわけもないのだが。しかし、音だけに集中して聞いてみても、その充実ぶりはわかる。でかく、太くなった。ますます。録音方法の変化もモノを言っていそうだ。2年ぶりの新作にあたる本盤、ほとんどの楽曲が去年行なわれた大規模な全米ツアー“モンスター・ツアー”の期間中に書かれ、なんと今どき8トラックのマルチ・レコーダーを使って録音されたものだとか。2、4、7、10が、拍手などはきれいにカットされているものの、ツアーの本番ステージ上で何万人もの観客を前に録音された作品。さすがライヴならではのパワーが注入された、これまで以上に力強い仕上がりになっている。朴訥としたインスト曲11はフィラデルフィアでのコンサートが始まる一時間前、楽屋のトイレで収録されたもの。6、8、12、13、14は各地のライヴ前のサウンドチェック時の録音。そして、1、3、5、9がシアトルのバッド・アニマルズでのスタジオ録音。本盤からのファースト・シングルとしてカットされた5にパティ・スミスがゲスト・ヴォーカリストとして参加している。

     最初、本盤を聞いたときはパワーあふれるライヴものに耳をひかれた。2や4の勢いときたら、ごきげんだ。けっしてテクニック的に抜群のものを持っているバンドではないけれど、タフさが違う。が、何度も聞き続けるうちに、そうした長い長いライヴ・ツアーの間にしたためたさらなるパワーをぐっと内に凝縮したかのようなスタジオ録音曲に心を震わされるようになった。サウンドチェック時の録音作品の中でも、たとえばアルバムのラストを飾る14の、どこか鎮静したカントリー/トラッド・テイストが特に胸にしみる。タフで太くて、けれども同時に鋭くて切ない。文武両道つーか。REMならではその両面を実にうまい具合にすくいあげ、共存させた最新作だ。

    (for Music Magazine, Sep 1996)

    
    
  5. A Hundred Years From Now
    Elvis Presley
    (RCA)

     第五位は、エルヴィス。これも近々レビュー・ページで取り上げるかもしんないけど。エルヴィス・プレスリーの歩みをレコーディング・セッション単位で振り返るシリーズ“エッセンシャル・エルヴィス”の第4集。

     今回は1970年と71年にナッシュヴィルの伝説のRCAスタジオBで行なわれたセッションの模様だ。全22曲中、未発表テイク、別ヴァージョンが18曲。ファンにしかうれしくないような気がしないでもないですけど。ファンだからさ、俺。まじ、うれしい。

     この時期のエルヴィスはちょうど当時ばりばり第一線で活躍していたエリアコード615関連のミュージシャンをバックに従えてレコーディングしていた。スタジオにバンドとともに入って、ヴォーカルも同時に録音するというエルヴィスならではのスタイルのおかげで、ミュージシャンと和気あいあい、時にはふざけあったりしながら録音をすすめる様子がいきいきと記録されており、たまらないっす。

     実際にリリースされたOKテイクには、分厚いストリングスやコーラス、ホーン・セクションなどがダビングされていたり、編集が加えられていたりするのだけれど、この盤では当然ほとんどがアンダブド/未編集ヴァージョン。ベーシックなリズム隊だけをバックにグルーヴするエルヴィスが楽しめる。

     あと、このセッションからエルヴィスは当時の最先端技術だった16トラックのマルチ・レコーダーを採用したらしいんだけど。ブックレットの写真とか、よーく見てると、そのトラック・シートが映っていたりして、これまた楽しい。ドラム、1チャンネルしか使ってなかったりして。すごいね。