正直言うけどさ。最初は思いましたね。
なんじゃ、こりゃ?
って。ビーチ・ボーイズのニュー・アルバム。ナッシュヴィル録音。収録曲は全部旧作。歌っているのは全部ビーチ・ボーイズじゃなくて、カントリー界の人気者たち。ビーチ・ボーイズは演奏すらしてなくて。やってるのはバック・コーラスだけ。うーむ。
まあ、なんじゃこりゃ……と思ったとは言っても、ビーチ・ボーイズ様の新譜だから。そりゃ何回も何回も聞きまくっていて。だんだん、悪くないじゃん、ってテイクもあることに気づきはじめてはきたけれど。
でもねー。なんだか複雑な気分ですよ。で、そんな複雑な思いを胸に二つの雑誌のコラムを書いたので、それ、無断転載します。二つのコラムで同じこと書いてる局面もあれば、違う意見になっているところもあったりして。揺れる心をご理解ください。
ちなみに、関連ページとして、こんなとこもありました。画像も載ってるので、ごらんくださいませ。
(for Record Cellectors Magazine, Aug 1996)
CD4枚組『ペット・サウンズ・セッションズ』からの先行シングルとしてサブポップからリリースされたアナログ盤「駄目な僕」。1万枚作られたもののボックス・セットの発売延期にともなって発売後一週間で回収…と、先月お伝えした。けど、その後もけっこう平気で売ってるね。レコード屋さんの裁量にまかされてるのかな。サブポップのお膝元、シアトル在住の牧原さんからのEメールによれば、現地のサブポップ・メガマートでもいまだフツーに売られていて、店員も回収とは聞いてないとのこと。とりあえずあの大傑作ステレオ・ミックス、1曲1万枚分は救われたってことだ。
と思っていたら、ビーチ・ボーイズ、突如新作を発表した。しかもブライアン・ウィルソン入りで。タイトルは『スターズ&ストライプス vol.1』。売り文句は“The Beach Boys with their Favorite Top Country Stars”。なんだ、そりゃ。ビーチ・ボーイズ名義の新作とはいえ、彼らの往年の名曲を、特に大きくリアレンジすることなくナッシュヴィルの現在第一線のスタジオ・ミュージシャンが演奏し、トビー・キース、リッキー・ヴァン・シェルトン、ロリー・モーガンらカントリー界の人気者が歌い、ビーチ・ボーイズがコーラスしたという内容。ナッシュヴィル恒例の音楽祭“ファン・フェア”で今年同趣向のコンサートが大々的に催され好評だったことからCD化が実現したらしい。タミー・ワイネット、ロニー・ミルサップ、ロドニー・クロウェルらが参加したVOL2も近々リリース予定。レコーディングの模様を収録したドキュメンタリー番組も10月にディズニー・チャンネルで放映される。まあ、カール・ウィルソンは近ごろナッシュヴィル住まいらしいし。ブライアンともども、ヴィンス・ギルの大ファンらしいし。マイク・ラヴやアル・ジャーディンは資質的にカントリー寄りの性格だし。考えられない企画ではないけれど。ブライアンが戻って、最初のアルバムがこれかと思うと、また複雑な気分。
ブレント・ローワンのチキン・ピッキング・ギターがうなるダグ・スーパーノウの「ロング・トール・テキサン」とか、ティモシー・B・シュミットがほぼオリジナル通りに聞かせる「キャロライン・ノー」とか、ウィリー・ネルソンがフィドルとハーモニカ入りで泣かせる「ウォームズ・オヴ・ザ・サン」とか、ぐっとくるテイクもあるけれど。順序がなぁ。やっぱりペット・サウンズ・ボックスで往年のブライアンの本領を再評価したあとでこの企画でしょう。またまたビーチ・ボーイズの保守性にばかり目がいきそう。素直になれない秋口のケンタでありました。
(for What's In? Magazine, Aug 1996)
ッマカレナッ……ッマカレナッ……と、この原稿を書いている時点でも、いまだ例のワケのわかんないビッグ・ヒットが全米チャートを席巻しているわけですが。それは置いといて。ぼくの興味は、もはやまったく別のところに向かっちゃってるのでした。向かっている場所はといえば、全米カントリー・チャート。ななななんと、9月7日付けビルボード誌のカントリー・アルバム・チャートに初登場19位で、われらがビーチ・ボーイズの新作『スターズ・アンド・ストライプスVOL1』が飛び込んできたのだ。全米ポップ・チャートのほうでは初登場136位ながら、カントリー・チャートで19位。大人気カントリー・シンガー、ビリー・レイ・サイラスの新作が初登場20位なんだから。おいおい……って感じですよ。
まあ、事情を話せば当然っちゃ当然。今回のビーチ・ボーイズのニュー・アルバムは、彼らの往年の名曲を、特に大きくリアレンジすることなくナッシュヴィルの現在第一線のスタジオ・ミュージシャンが演奏し、トビー・キース、リッキー・ヴァン・シェルトン、ロリー・モーガン、ウィリー・ネルソンらカントリー界の人気者が歌い、ビーチ・ボーイズがコーラスしたもの。カントリーの総本山ナッシュヴィルで毎年開かれている“ファン・フェア”って音楽祭で同趣向のコンサートが大々的に催され好評だったことからCD化が実現したものだとか。うーむ。ビーチ・ボーイズとカントリーねぇ。確かにどちらもそれぞれのやり方でアメリカを代表する音楽ではあるのだけれど。こんな大雑把な形で一気に結びつくとは思わなかった。まあ、ビーチ・ボーイズのメンバーであるカール・ウィルソンは近ごろナッシュヴィル住まいらしいし。今回のアルバムから再びメンバーに復帰した偉大なるブライアン・ウィルソンともども、ヴィンス・ギルの大ファンらしいし。マイク・ラヴやアル・ジャーディンは資質的にカントリー寄りの性格だし。そもそも最近はカントリーという音楽自体、ぐっと古きよきアメリカン・ロックンロール寄りにシフトチェンジしているし。いろんな面で機が熟した、と。そういうことかな。
アルバムからシングル・カットされたキャシー・トロッコリ歌うところの「アイ・キャン・ヒア・ミュージック」がアダルト・コンテンポラリー・チャートに、ロリー・モーガンが歌うセカンド・シングル「ドント・ウォリー・ベイビー」がカントリー・チャートに各々ランクイン。ビーチ・ボーイズ・ファンにとってなんだか不思議な夏の終わりとなりましたとさ。
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