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Gone Again
Patti Smith (Arista)

 8年ぶりだぁ。70年代に4枚、80年代にはたった1枚だけアルバムをリリースしたパティ・スミスが、90年代に入って初めて作り上げた新作。この長いブランクの間に旦那さんのフレッド・スミスが亡くなったり、弟のトッドが亡くなったり。いろいろ精神的にも大変だったと思うわけですが。そうした葛藤も含めて、まさに今、96年のパティ・スミスそのものが、何のギミックもなしに、まっつぐ、ストレートに表現されていて。これは、またまた名盤です。

 アルバム・タイトル曲の「Gone Again」は亡夫フレッド・スミスに、そして「About A Boy」って曲はカート・コバーンにそれぞれ捧げられている。ボブ・ディランの曲を歌ったりもしている。ジョン・ケイル、トム・ヴァーレイン、ジェフ・バックリーといった魅力的なゲストも迎えて、淡々と、しかし深々としたエモーションに裏打ちされた歌声を聞かせてくれる。

 結局、70年代のニューヨーク・パンク登場以降の女性シンガー・ソングライターというのは、すべてパティ・スミスの影響下にあるんだと思う。そうしたカリスマ性も当然彼女の魅力だけれど、そうした周囲の熱いまなざしに惑わされることもなく、常に自分の内側を見つめ続ける、なんつーか、こう、集中力というか、んー、もっと違う言葉があればいいんだけど、つまり、すんごい集中力というか(笑)、そういうのには感服するっきゃないですよ。恐るべし、48歳。

 日本のさ、ガール・ポップとかなんとか言って、明日を信じようとか何とかぱーぱーぱーぱー無自覚に歌ってる女性歌手もどきに聞かせてやりたい気もするけど、やっぱダメだ、やめた。もったいないもん。





Broken Arrow
Neil Young with Craxy Horse(Reprise)

 しかし、ニール・ヤングって人にも感服だ。今なお現役バリバリで活動を続けているこの人の底力には脱帽するしかない。かつて“I'd rather burn out than fade away”と歌ったその人が、今なお燃え尽きることも、みじめに消え去ることもなく、シーン最前線で吠え続けているのだ。

 たとえば、今なお現役のロック・スターというと、リトル・リチャードとかジェリー・リー・ルイスみたいなキャリア40年組は完璧に懐メロ歌手状態だし、ボブ・ディランとかローリング・ストーンズあたりのキャリア30年組もそろそろ大物ボケ気味。ニール・ヤングと同期のキャリア25年組でも、同輩のクロスビー、スティルス、ナッシュをはじめ、ロジャー・マッギンとかザ・バンドの一派とか、ほとんど瀕死。こういうベテラン勢とくらべればまだまだヒヨッコのような存在であるはずの、んー、たとえばヴァン・ヘイレンとかさ、そういう連中でさえ、近ごろはすっかりアメリカン・ハード・ポップの伝統を守る保守派バンドみたいになっちゃってるし。

 そう思うと、やっぱニール・ヤング。すごいや。REMやニルヴァーナ、ストーン・テンプル・パイロッツ、グリーン・デイあたりと並べて聞いても同じ時代の先端を走る息吹ががんがんに感じられるもんなぁ。人間、こんなふうに年を取っていければ最高です。風当たりはつらいだろうけどさ(笑)。

 そんなわけで、朋友クレイジー・ホースとタッグを組んでの新作。バッファロー・スプリングフィールド時代の想い出の一曲「ブロークン・アロウ」をタイトルに冠し、なんとも荒く、ずるっとした円熟ロックを聞かせてくれやがる。ジミー・リードの古いブルース「ベイビー・ホワット・ユー・ウォント・ミー・トゥ・ドゥ」のカヴァーも、だらけてやがって、でも、他の人には絶対に出せないそのルーズな味にコウベを垂れる健太なわけですよ。





Greatest Hits Live
Ramones(Radioactive)

 こいつら、まじに解散しちゃったのかなぁ。今年の2月、本拠地のニューヨークでのライヴ盤。やー、ホント、いいのに。かっこいい。全編「わつすりふぉっ! どががががっ」の雨アラレ。たまんないっす。グリーン・デイとか、ああいう若い連中の疾走ビートもかっこいいけど、こんなシンプル&ストレートなビート“だけ”を武器にここまで太く豊かになりやがったラモーンズの破壊力ってのは、すごいと思う。心底。

 はじめてこいつらのファースト・アルバムを聞いたとき、曲が終わったんだか、ブレイクなんだかわからない、その一本勝負的勢いにぶっとんだものだけど。そのころの熱い思いがよみがえってきましたねー。タイトル通り、代表曲のオンパレード。1曲1分半とか2分とか、もうとんでもない。新録のスタジオ・ナンバーも2曲オマケに入ってる。パティ・スミス同様、ニューヨーク・パンクのよき頃のエナジー炸裂って感じざんすね。燃えるぜっ。





Dedicated To The One I Love
Linda Ronstadt(Elektra)
 リンダおばちゃまってば、右の写真がジャケットのブックレットには載ってたんだけどさ。こないだ見たブライアン・ウィルソンの才能を探るドキュメント映画にコメンテイターで登場したリンダさんは、もう、なんだこりゃ、誰だこいつは的、ぷんぷくりんのおばちゃんでした。だからどうしたってわけじゃないすけど。

 とにかく、そんなリンダおばちゃまの新作は、懐かしのメロディ集。シレルズの「デディケイテッド・トゥ・ザ・ワン・アイ・ラヴ」とか、ロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」「ベイビー・アイ・ラヴ・ユー」、ビーチ・ボーイズの「イン・マイ・ルーム」、エヴァリー兄弟の「デヴォーテッド・トゥ・ユー」、ロージー&オリジナルズの「エンジェル・ベイビー」、ビートルズの「グッドナイト」、ブラームスの子守歌、そして、なんとなんとクイーンの「ウィー・ウィル・ロック・ユー」まで。なんでもかんでも取り上げて、実に地味な、もう何にもしてないといっても過言ではないバック演奏に乗せて、しみじみ歌ってくれちゃってる。

 だから、何か新しい時代の息吹を……とか、そういうこと関係なしに、ぷーんとした気分でのんびり耳を傾けると、けっこうハマりますよ。名曲ぞろいだしさ。






Live From Neon Park Little Feat (Zoo/BMG)

 あのね、正直なとこ、この盤買うのやめようかと思ったわけですよ。なんか、ローウェル・ジョージが他界して解散しちゃってから、しばらくして再結成されたリトル・フィートってのは、どこかまがい物っぽいイメージもあって。なんか素直に接することができなかったんだけど。

 でも、この2枚組ライヴ、思ったよりよかった。ビル・ペイン、ポール・バレア、サム・クレイトン、ケニー・グラッドニー、リッチー・ヘイワード……と、故ローウェル以外のオリジナル・メンバーは勢揃いしてるし、ギターの面ではフレッド・タケットががっちりローウェルさんの穴を埋めてるし。往年のフィート・グルーヴの、ほぼ8割がたを再現できているんだな、これが。

 たとえばリトル・フィートに影響を受けたとか言ってる若いバンドがいたとしても、経験から言って、ほとんどの場合、往年のフィートの持ち味を6〜7割しか再現できないわけで。となると、この新生フィートの存在価値っては、あるんだね。まじに。以前、ここのレビューでも取り上げたロードってバンドで歌ってるローウェル・ジョージの愛娘アイナーラ(って読むのかな)ちゃんや、一時リード・シンガーとして新生フィートに加入していたクレイグ・フラーなどもゲストとして参加してる。