2001.1.13

King Of The
New York Streets

Dion
(The Right Stuff)


 ぼくのホームページにやたら名前が登場している感じのディオン。

 すんません。でも、好きなもんで。仕方ない。フランキー・ヴァリ、ラスカルズ、ジョニー・マエストロ、ブルース・スプリングスティーン、サウスサイド・ジョニーなどなど、東海岸つーか、ニューヨーク周辺というか、そういう手触りをたたえたシンガーがたくさんいるけれど。そういった連中の“象徴”的イメージ。ぼくにとってのディオンは、そういうものだ。基本、ね。だから、仕方ないです。嫌いなわけがない。

 で、先日、昔ながらの録音方法で制作されたごきげんな新作『デジャ・ニュー』を出したばかりのディオンさん。ほとんど間を置かず、今度は3枚組アンソロジー・ボックスをリリースした。50年代のディオン&ザ・ベルモンツ時代の珠玉のホワイト・ドゥーワップから、最新作『デジャ・ニュー』へと至る40年以上の歩みを一気に総括する内容。すばらしいっす。

 ディスク1が「ザ・ワンダラー」、ディスク2が「エイブラハム、マーティン&ジョン」、ディスク3が「ブルックリン・ドジャー」。各時代の代表曲の中からその時期のディオンのイメージを的確に言い当てた曲名を副題に冠して、クロノロジカルにキャリアをたどってみせる。とはいえ、まあ、さすがに40年だからねぇ。CD3枚じゃカバーしきれないわけで。すべての活動期をまんべんなく…というわけにはいかない。時代によってはものすごく綿密だったり、あるいはものすごくあっさりしていたり。そうしたバラつきはしょうがないね。

 ディスク1にコンパイルされている1958〜66年、初期の躍動感が、やはりディオン最大の魅力か。イタリア系アメリカ人ならではのスウィートな味と、チンピラっぽいやばさとが絶妙に交錯。ジャンプものからバラードまで全米ヒット満載で、ディオンでなければ表現できない“ブロンクス・ブルース”の底力を思い知らせてくれる。「ライフ・イズ・バット・ア・ドリーム」は当時の3トラック・マスターから新たにこのボックス・セットのために作られたアカペラ・リミックスだ。もう1曲「リトル・スター」もアカペラ・リミックスとクレジットされているけど、これはしっかり演奏入っちゃってます。どーゆーわけだ?(笑) その他、ボブ・ディランの未発表曲を取り上げた「ベイビー、アイム・イン・ザ・ムード・フォー・ユー」も入っている。

 で、ディスク2が68〜78年。自作の曲のほか、ジミ・ヘンドリクスとか、フレッド・ニールとか、トム・ウェイツとか、時代の移り変わりを象徴するシンガー・ソングライターたちの曲も積極的に取り上げながら、音楽性の幅を広げていったころの歌声が楽しめる。フィル・スペクターのプロデュースによる「ボーン・トゥ・ビー・トゥゲザー」も、もちろん入っている。

 そして、ディスク3が78年以降、現在まで。80年代、ゴスペル方面に向かっていた時期の曲が全然入っていないけど、その辺は英AceがコンパイルしたベストCDがあるので、そいつで補いましょう。89年の傑作アルバム『ヨー・フランキー』の収録曲がたっぷり。「オールウェイズ・イン・ザ・レイン」は超名曲だなぁ。ポール・サイモンが「リトル・スター」の一節をはかなげに歌う「リトゥン・オン・ザ・サブウェイ・ウォール」もいい。98年のライヴ音源もあり。ブルース・スプリングスティーンの曲をカバーした名品「イフ・アイ・シュッド・フォール・ビハインド」と「ブック・オヴ・ドリームズ」もしっかり収められた。ただし、これ買った人へのご注意ですが。クレジットでは16曲目が「シュ・バップ」、17曲目が「ブック・オヴ・ドリームズ」となっているけど、実際の音は逆になってます。クレジット通り「ブック・オヴ…」で終わる構成のほうが泣けた気もするけど、ディオン&ザ・ベルモンツ時代の得意のコーラス・スタイルへと里帰りした感じのスウィート&ジャンピーな「シュ・バップ」で終わるってのも、一回りした歴史をたどった感じがして、これはこれで悪くないかも。

 とにかく、すばらしい箱です。時代とともに様々な音楽性を渡り歩いてきたようにも見えるディオンが、実はまったく何ひとつ変わることなく、いつの時代も常にニューヨーク/ブロンクスの香りをぶりぶりにふりまき続けていたのだなってことを再確認できる。デイヴ・マーシュの熱いライナーも、ディオン自身による楽曲解説も興味深い。前述した英Ace盤と合わせて4枚組で楽しむのがよろしいか、と。


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