輝ける白砂の島


 マニラから南へ約300キロに、パマリカン島がある。
この島ひとつが、「アマンプロ」と呼ばれるリゾートになっている。
プーケットでこの島のパンフレットを見てからというもの、
本当にこんなに美しいところが世界にはあるのだろうかと疑うばかりだった。
しかし、プーケットがパンフレットどおり、いやそれ以上に素晴らしかったのだから
有得るかも知れないと思った。
行ってみたい。
本当に、こんなに輝く白砂に囲まれているのだろうか。

 カード会社に往復の航空券と、ホテルの予約を依頼したのは宿泊予定の一年前。
まだ、航空券の発売の前だったので、決定と同時に予約してもらい
その便名をもとにホテルの予約をしてもらった。
なにしろ、飛行機が決まらないと申込が出来ないと言われていたのだ。
11ヶ月前に手配を済ませ、仕事の都合を合わせていく。
夫婦でお互い様仕事を抱えているとなると、かなり前から計画を練り準備をしないと、
一週間もの休みを取得することは出来ない。
長い時は10日くらいの旅行も計画するとなると、どうしても手配は一年位前からとなってしまう。
どんなに短くとも、3ヶ月前には決まっていないと仕事で身動きが取れない。

 そんなわけで、ホテルと航空券が決定するとほとんどの準備が終わることとなる。
つまりは、計画段階からすると2年の月日を費やして、リゾートに臨むのであるから、
力が入らぬわけがないのだ。
 
 マニラから小型飛行機で約80分。
マニラに一泊してから向かう事となった。
アマンプロのラウンジは、一瞬今抜けてきたマニラの街との余りの格差に眩暈がしそうになった。
ラウンジの建物は殺風景で、隣の建物は廃墟と化していた。
それなのにラウンジに入ったとたんに、豪華絢爛。清潔で品がよく・・・
 19人乗りの小型飛行機に乗り込み、フワッと飛び上がった時はドキドキしてしまった。
本当に、どんな所へ行くのだろう。ドキドキからワクワクへ・・・

 飛行機が島の真中にある飛行場に着陸すると、ずらりと並んでスタッフが出迎えてくれた。
ジェネラルマネージャーが先頭を切って握手を求め、きちんと名前を呼んで出迎えてくれた。

     

そして我々のコンシェルジェがカートに案内し、カシータと呼ばれるヴィラに案内してくれた。
カシータでチェックインの手続をして渡されたのが、手のひらぐらいもある大きさの、
亀のキーホルダーについた2本の鍵。
1本はカシータ用、もう1本はカート用。そう、滞在中はマイカートを自由に乗りまわせるのだ。
とはいっても、精一杯踏み込んだところで、せいぜいジョギングしている人の速さくらいにしかならない。
しかも、ペダルを放すと止まってしまうという代物。無免許でもOK。

 はじめの頃は、伴侶が運転するとどうしても左を走ってしまい、「ひぇー」と言う思いを幾度かした。
その点、私は20年来運転していないペーパーなので右だろうがお構いなし。
あっという間に順応。ただし、珊瑚で作られた縁石にバックで乗り上げ、
挙句に転がしたまま逃げたのは内緒の話である。
伴侶曰く,「スタッフ、心配そうに見ていたよ」・・・バレバレ
 このカートで、暇があるとペダルを踏み込んで走り回っていた。

ある時、ふと見るとスタッフのカートが後方に見える。
珍しいなと思いながら、滑走路を横切り反対側海岸の海の色に惹きつけられて袋小路へ。
するとスタッフも付いて来るではないか。
「?」と思っているうちに、ニコニコしながらスタッフが降りてきて、
おもむろに我々のカートのタイヤに空気を入れ始めた。
な、何と追われていたのか。無念!!分かっていれば・・・逃げ切ったのに・・・

 パマリカン島一周、徒歩の旅にでてみた。
ふかふかなで真っ白な砂浜が続く。
素足で出かけたものだから、ふかふかのパウダーサンドに足をとられて歩きにくかった。
一周6〜7キロあろうかという砂浜を歩いていくうちに、かなり疲れてしまった。
音を上げそうになったとき、向かいから老夫婦が手を取り合って歩いてくるのとすれ違った。
明るく挨拶を交わして、「負けられない」と思い起こし、1時間45分かけて完歩。
2度目のチャレンジは無かった。軟弱者。



 海の色は信じられないほど綺麗で、滑走路をはさんだ右海岸と左海岸では色が全く違って見えた。
海岸のあらゆるところに、ひっそりと隠れ場所のようにディベッドがしつらえてあり、
こまやかなサービスを提供してくれる。

スタッフも見かけないような場所には、大きなリザードが鎮座していたりして、
お互いビックリして逃げ惑うなんてこともあった。
決して危害を加えるようなことは無いのだけれど・・・いきなり出会うと、やっぱり驚いてしまう。
 翼の退化した鳥が歩き回っており、カシータの中にヤモリ君が我が物顔で闊歩していたりして、
パマリカン島は生命力にあふれた島だった。

 ホテルには2箇所レストランがあった。メインレストランとビーチクラブ。
どちらも素晴らしかったのだが、ライトダウンしているのでメニューを見る為に、
ペンライトを使用するという裏技を駆使していた。
メニューでの一番のお気に入りは「本日のお魚料理」。
取れたての魚をグリル・スチーム・フライドで料理してくれるという。
もうそりゃスチームでしょ。日本から持ち込んだ丸大豆醤油で味付け。
フィリピンでこんなに美味しい魚が食べられるとは・・・

 翌日も魚を見せにきてくれた。
昨日は黒い魚だったが、今日は赤い。魚の種類をたずねると「ラップラップ」という。
昨日の魚は?「ラップラップ」????
つまり、深いところで獲れた魚は皆「ラップラップ」なのだそうだ。
まっ、美味しかったから種類はどうでもいいけれど、大雑把なのだなぁ。


 ビーチクラブでは、床にマットが敷いてあり座れるようになっている。
我々の隣に西洋人のカップルが座ったが、慣れなくて落ち着かなかったらしくすぐに席を替えていた。
やはり座っていられたのは、東洋人が多かったようだ。
ぼうっとしながら食事をしていたら、白人の女の子が二人、我々が何を食べているのか偵察にきた。
手に手にペンライトを持ち、我々の食卓を覗いていった。
浴衣を着ていたから、珍しかったのかもしれない。
私にすれば、彼女たちのほうが珍しかった気もするが・・・


 メインレストランの脇にバーがあり、そのすぐ横で天気さえ良ければスターゲイジングが行なわれている。
天体望遠鏡で星を見せてくれるのだ。私は生まれて初めて、土星の輪を見ることが出来た。
南半球で一番明るい星、カノープス。土星と火星の姿。
担当のスタッフが私のために、出来るだけ分かりやすい英語で説明してくれる。
深夜になると南十字星も見えると教えてくれた。
 翌朝、午前三時頃起きだし南の空を見上げてみた。ぼうっと流れる天の川の中に、
ゆったりと浮かぶ南十字星を見ることが出来た。
決して大きい星座ではないけれど、南の島でしかも冬の時期でないと見ることの出来ない星座。
ちょっとぐらい寝不足になっても、見るだけの価値はあると思う。



 近視の強い夫婦なので、自前のマスクで無いとシュノーケリングに行っても何も見えない。
このチャンスにと度付のマスクを作成し、シュノーケルを購入した。
持参したシュノーケルの道具を持って、ホテルのシュノーケリングボートに乗せてもらった。
生まれて始めて海に浮いた時、想像を越える風景に圧倒されてしまった。
まるで空を飛んでいるような気分だった。
自分が泳げるのだと改めて知った。
息さえ自由に出来るのなら、水なんて怖くない。
まるで自分が大空を自由に飛んでいる鳥のような気分になって、腕を大きく広げながら泳
いでいく魚たちを眺めていた。色様々な魚たちが、集まってくる。
手を伸ばせば触れられそうな気さえする。
なんて綺麗なのだろう。なんて暖かくて気持ちが良いのだろう。
この時から旅行へ行く時は必ずトランクの片隅が、マスクとシュノーケルに与えられるようになった。



 プールサイドに3箇所だけ東屋がある。
その中でも目立たないように、そっ
と立てられたひとつがお気に入りだった。感覚的に四畳半もあるかという大きなディベッドに、
屋根がついているという印象。そこに寝転んで、本を読んだりMDを聴いていたりする。
静かで、風が渡っていく音しかなく、強い日差しは遮られている。
まるでいつもの生活時間の流れとは、違う時間が流れているようだ。
何時眠り込んだのか、何時目覚めたのかもはっきりしない。
穏やかで静かな時が流れていく。
時折、スタッフが冷たいお絞りと冷たい飲み水を運んできてくれる。
空腹なら、注文メニューを持ってくる。時計が無ければ、時間さえもわからない。



通り過ぎる風が気温の高さを知らせ、同時に快さも運んでくれる。
パブリックスペースのような、人に見られているという緊張感がない。
もしかしたら「アマンプロ」の中で、あの東屋が自分のカシータ以外でなら、
一番のとびっきりの場所だったのかもしれない。

   


   


   


   

 帰りの飛行機から、私はパマリカン島の全貌を初めて目の当たりにした。
着いたときは、残念ながら角度的に見えない位置に座っていたのだ。
上空から見たパマリカン島は細長い島で、緑に覆われた小さな島だった。
きっと操縦席の機長が、乗客のために島の上空を一周してくれたのだろう。
贅沢な思いを沢山させてくれた島の姿を、しっかり目に焼き付けることが出来た。
また、行くことが出来るだろうか。

 

今のフィリピンの状況だと、しばらくは様子を見ることしか出来ないような気がする。
いつかあの真っ白な美しい砂浜で、再び南十字星を見上げることが出来ますように。

その日を夢見ている。

旅程
  2000年2月 5日 成田発 マニラ着 マニラ泊
        2月 6日 マニラ発 パマリカン島着
                     アマンプロ泊   http://www.amanresorts.com/
        2月13日 パマリカン島発 マニラ経由 成田着