内科・在宅医療担当の武藤医師が、2019年度の日本老年薬学会にシンポジストとして招聘いただきました。薬剤師さんばかりが集まる学会の中での講演で、「薬局薬剤師に期待すること」と題して、院外処方箋の現状の課題を述べさせていただいたので、その一部をご紹介します。
「院外処方の問題点」
本日は、細々と外来と訪問診療を行っている一開業医の私に、このような発表の機会を与えて下さり感謝を申し上げます。周りのほとんどが薬剤師さんというアウエイの状況で、言いたいことを言いまくったら帰れないんじゃないかと当院のスタッフに心配されましたが、せっかくの機会なので、日頃思っていることを述べさせていただきたいと思います。
このスライドは、日本薬剤師会HPの「医薬分業とは」という説明文をそのままコピーペーストしたものです。
要約しますと医師は複数の薬の相互作用や副作用等の安全性について薬剤師のようには詳しくない。それでも医師は処方する薬を増やそうとする。開業医が薬剤料で生業を立てていたことも、過剰投薬と薬害を助長する土壌となった。医薬分業は患者さんの安全を守り、最小の薬剤で最大の効果を上げ、薬剤費の適正化に役立っている、と書いてあります。
日本薬剤師会は、医師は薬の安全性に詳しくないのに過剰投与をして薬害を助長し患者さんの安全を脅かし、不適切な薬剤費で利益をむさぼると言っています。医師を悪者におとしいれる表現は、薬剤師の存在意義を強調するためと思われますが、これはまずいのでないでしょうか。少なくとも私と私の周囲には、不適切な薬剤費で利益を得ようとしている医師はいませんし、常に薬に対して勉強し新しい知見を得るために努力をしています。どうして薬剤師にここまで言われなければならないのか納得ができないし、何よりこういうことを堂々と主張する薬剤師達と連携したいと思うでしょうか。いくらお人好しの医師でも「どうぞご勝手に」と言いたくなるのではないのでしょうか。
はじめに私の結論を言いますと、「医師と薬剤師は連携して、様々な患者さんそれぞれに対応していくことが地域社会貢献において重要な課題である」です。ですが、連携するためにはお互いの立場の尊厳が不可欠だと思います。もしも皆さんが私の結論に賛同していただけるのなら、日本薬剤師会に、この文章に対して抗議をしていただきたいと思います。そして、別に医師を落とさなくても、薬剤師は、地域社会から信頼され、大変重要な役割をになうことができるということを是非知っていただきたいと思います。
現状の医師と薬剤師が連携できていない弊害は、特に外来にあります。薬剤師が医師から得る情報は院外処方箋しかありません。あとは患者さんからの聞き取りで、どうしてこのような処方内容となったかを類推するしかないのは、きわめて不十分で、これで的確な指導ができるとは到底私には信じられません。いやいや「疑義照会」という方法がある、とおっしゃるかもしれません。しかし、この疑義照会ほど受ける医師にとって厄介で面倒なものはありません。
医師は診察の最後の診断の結果として処方箋を出すのであって、それから処方内容に意見を言われるとすでに終わったはずの診察と診断から検討をしなおさなければならず、それは医師にとって大変な労力を要します。重要なご指摘ならば甘んじて受けますが、重箱のすみをつつくような問い合わせは心から自粛をお願いしたいと思います。
疑義照会は、薬に詳しくない医師の誤った処方をただすためにあり、薬剤師の存在意義を示せる手段だそうですが、ノルマでもあるのかと疑いたくなるほど当院に頻回に問い合わせの電話があります。当院は院外処方と院内処方を併用しています。当院は門前薬局と言われるような関連薬局はなく、患者さんはそれぞれご自分の生活に便利な薬局に行かれます。そのため、当院に疑義照会をする薬局も様々です。
薬局さんとしては処方箋をみながら電話をします。しかし、電話を受ける医師がその患者さんのカルテを目の前において電話を待っているわけがないことを是非知っていただきたいと思います。例えば、です。このような緊迫した場面(スライドには呼吸停止状態の患者さんの救急治療をしている場面)に外線から電話が入り「本日処方された何々さんですが・・」と言われても、こんな場面ではカルテを探しに行く暇はありません。そこで「緑内障を既往にお持ちですがPLが処方されています」とかいわれると、あれ、あの患者さんは緑内障の手術をして今は眼圧正常だったんじゃないかな、と思っても確認する時間もないし、ないと命にかかわる薬でもないし、となれば「処方中止にしてください」と言うしかありません。それが薬局の手柄となり、それで使命をはたしたと言われてもなあ、と思います。
「疑義照会は絶対受けない、電話に出ない」というつわものの先生の話もありましたが、それでも私は受けるようにしています。人は必ず間違える」と考えることが、間違いをなくすための第一歩、という考えからです。本当に自分が間違えて処方していて、それを指摘してもらえることはもちろんあります。ですから、疑義照会を私は完全に否定はしませんが、せめて薬局薬剤師さんは疑義照会を受ける医師のことを少しは考えて欲しいと思います。まさか、本当に日本薬剤師会HPの記載のように医師は不適切な薬剤で利益をむさぼる暇な悪人だと思っているのではないか、と疑いたくなる時もあります。
疑ってみたら、ではないですが、調剤薬局で薬を受け取る時の患者さんと薬局にどのようなやり取りがあったか興味がでてきたので、疑義照会を受けたらできるだけ次の外来受診の時に事の顛末を聞くようにしています。あきれることで多いのは、薬局から「いつも出ている湿布または頓服薬が、今回処方がありませんでした」と電話があるケース。電話を受けた当院事務員が、大変先生処方を忘れたか、とあわてて終ったカルテを取り出し直して電話を取り次いでくれるので、他の患者さんの診察を中断してカルテを確認したら、「余っているから今日はこの薬はいらない」と湿布や頓服を辞退されたと書いてある。電話を替わって「患者さんからいらないと言われたのだけど」と答えても「処方を希望されています」とのことなので、「では前回と同じでお願いします」と答えるしかありません。
そして次の外来受診のときに患者本人に心変わりの理由をきくと「なくても大丈夫か、とあんまり薬剤師さんに聞かれるので不安になって」とか「家族に取りにいってもらった。もらえるもんならもらっとこう、となって」とのこと。
どこが医療費抑制か、と思う以上に、こちらは忙しい中大変な思いをして電話に出てるんだけど、とむなしくなります。
他には、「20mgの錠剤は薬局においていないので10mg2錠でもいいか」とか「一般名で処方されているがジェネリックがないので先行品で良いか」の問い合わせのケース。たいてい患者さんを待たせているので急いで返事が欲しいと言われ、事務さんがあわてて取り次いできます。医者より詳しい薬の専門家なのだからそっちで考えてよ、薬局の事情でしょうに、と思いつつその場合は、「負担金が変わってくると思うので、患者さんの了解があるのなら変更してかまいません」と答えることにしています。それで次の受診の時患者さんに聞くと「先生の指示で変更しました、と言われました」といわれるとやはり腹が立ちます。
医者は間違えるから薬局薬剤師がチェックする。では薬局薬剤師が間違えたらどうなるのでしょうか。「人は必ず間違える」と疑うことが私の信条ですので、可能な限り、きちんと薬局でこちらが処方した薬を患者さんが受け取っているか確認するようにしています。外来ではお薬手帳の確認ですが、在宅医療では実物を見て確認できます。すると間違いを見つけることが多々あることに驚かされています。
統計を取っている訳ではないし、粉薬など確認のしようがない場合も多いので、あくまでも印象の範囲ですが、期限切れの外用薬が渡されていたり、処方が抜けていることをお薬手帳で確認することは一度や二度ではありませんでした。抗生剤で勝手に違う成分の薬剤に変更されていたり、利尿剤やホルモン剤など、命にかかわるような重要な薬剤が抜けていることを発覚したこともあります。間違いをみつけた時は患者さんから薬局に抗議してもらいますが、私の知る限りきちんと誤りを認めて原因を追究し以後の改善策も医師の私に報告してくれたのはひとつの薬局だけでした。その薬局の薬剤師さんは今最も信頼しているうちの一人です。このように、日々の診療において、一口に薬局薬剤師といってもいろいろだなと実感しています。
薬局には薬局の事情があるだろうとは思います。無駄な在庫はかかえたくないでしょうし、患者さんが医師に伝える言葉と実際の薬局でのやりとりが全く同じではないだろうとも思います。やはり医師と薬剤師、お互いの事情を思いやることが必要ではないでしょうか。その上で、医師の立場として私は、薬剤師とは処方箋を出す前に連携したい、そうでなければ医師は薬剤師に協力することは大変な労力を要することだということを申し上げたいと思います。
(後略:後半には、薬剤師が地域社会から信頼され、重要な役割をになうことができる提案をしましたが、長くなるので略します。)
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