Variations Fugue et Envoi sur un theme de Haendel

作曲
 
イゴール・マルケヴィッチ
演奏
 
藤井一興(ピアノ)
 
  指揮者として有名なマルケヴィッチであるが30歳ごろまでは作曲をしていた。ピアノ協奏曲やコクトー作詞によるカンタータ等の作品が残されている。ピアノソロ作品ではこの「ヘンデルの主題による変奏曲、フーガとアンヴォワ」が20分近い規模の大きな作品であろう。

 主題はヘンデルの「調子のよい鍛冶屋」である。その後に15の変奏とフーガ、アンヴォワ(フランス語で反歌、献辞の意)と続く。全体はホ長調を基調に近代和声を絡ませたモダンな変奏曲であるが2度や9度を多用したところ、明るいジャズっぽい響き、ハーモニクスの使用など戦前のパリの雰囲気を伝える作品である(1941年作曲)。フーガは細かな音符が絶えず動き廻り目の廻るようなものだが途中低音部レ音上に(こういうのもオルガンポイントというのだろうか?)基本テーマの一部分が回想されるのが印象的である。そして目ぐるましいフーガに戻り華やかに終結する。その後、静かに「アンヴォワ」が弾かれ曲を閉じる。

 今回楽譜を見ながら聴いてみたのだが藤井一興は大健闘である。少なくとも片手間にちょっと弾いてみようという気にはなれない作品である。まず第一変奏。右手の一癖あるアルペジオに左手の和音が絡んでくるのだが両手が完全に重なっている(譜例)。

 この第一変奏がすでにこの作品の行き先を暗示するかのような弾きにくさである。更に第4変奏。

 これも相当難物である。少なくとも初見で弾く(事のできる人もいるだろうが)のは大変だろう。実際音にすると実に軽妙で面白いのだが相当練習しなければ弾けないだろう。この手の変奏が15続くのである。聴いている分にはいいが演奏は大変である。フーガはレーガーなどに比べるとテクスチュアは軽く藤井一興も結構な速さで弾いているのだが、だからといって簡単という訳では決してない。先も書いたように目の廻るような速いテーマが鍵盤上を交錯するようなフーガである。

 全体を聴きとおすと上記のような演奏上の難しさから考えられないほどドライで軽妙な響きの作品である。それは勿論難しさを感じさせない藤井一興氏の演奏によるところが大なのだが。マルケヴィッチは13歳の時コルトーに自作曲を演奏しパリへ留学を進められ、17歳で自作の協奏曲を演奏しているくらいだからピアノのうまい人だったのであろう。この作品に使われている技巧も作曲者本人にとっては使い慣れたものだったのかもしれない。私はこの作品、実は結構好きな作品なのだが、今のところ自分で弾こうという気はない。「難しい」ピアノ曲は練習をこなせば何とかなるかもしれないが「弾きにくい」ピアノ曲は最後まで弾きにくいからである。

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