CD-ROM版 多久麻(おおのきゅうま)6歌集2006.6.20〔ながらみ書房〕

2006.9.15

 

多久麻6歌集というのはCD-ROMに収められた多さんの全既刊歌集の総集版である。

もっとも、この他に弊サイトでもご゙承知の音声歌集がある。

多さんも川明さん風にいえば、「CYBER AFFECTIN」のお人で、どうしても《紙離れ》がなさりたいらしい。

ならば、こうせざるを得ないのでしょう。

もっとも、わたくしごとながら電子出版を試みたところ、意外や多くの方にご覧頂いているようだ。

PCのモニタで見る歌もそこそこの場を得つつあるのだろうか。

本編はAcrobatにて71774KBというお姿。無論、ハイパーテキスト型。

無論無論、プリントすれば紙歌集になる。

そしてラインナップは次の通りである。

 

 

残像 珊瑚礁社 1953年刊

礫層 短歌新聞社 1957年刊

多久麻歌集 短歌新聞社 1579年刊

象牙と琺瑯 短歌新聞社 1983年刊

ベニヒモの木 短歌新聞社 1989年刊

蕾状期 短歌新聞社 1995年刊

 

 

湖の面に魚鱗をどれば()に散りて

朝の光すでに秋に近づく

 

逆光は破線となりて空に降り

街の向ふに入日沈めり

 

 

 

 

 

 

飛行雲月のあたりを流れゐしが

忽ち海月のごとく淋しも

                                  

楔形に夜を穿ち行ゆく車燈あり

その範囲にて霧は息づく

 

 

 

 

 

 

 

多さんは振幅の大きいお人である。

新宿での第一印象は《酒豪》。

日立の中央研究所を逍遥したときは研究者。

本筋の歌の考察はここでは休止、作品の触れ幅に全ての意を用いた。

 

 

 

 

弛緩せし身の内外の寂しきに

春の嵐は永くとどろく

 

しびれゐる耳朶を擦過し凩は

現身の熱度に触るる音立つ

 

 

 

 

 

 

標的をここにしぼるは奴の目か

奴といへども俺の分身

                                     

権勢にはとにかく寄らぬことにして

目をじっと凝らして切り抜けよ

 

 

 

 

 

昨年今年かけて脹らむ仕事欲

ねじ伏せにつつ正月を飲む

 

夜半過ぎて再び飲みに繰り出す

君らと別れてまた飲みに行く

             

 

 

 

 

 

 

 

二次林は陰樹陽樹のいとなみの果てに繁茂を遂げて立ちたり

茜地の棒グラフかな西空は高層ビル群の立つ乱高下

 

多さんのご本業は《歯科学》。歯の状況を示す難解な歌集名のヒントはここにある。

ご興味あればご調査を。