短歌mirage
短歌は「定型詩」であるが「内容まで定型」なのではない。
ここにそそり立つ《硬式短歌》群、星の数の中からの見立ての基準は「奇」「豪」「廉」などである。
けちくささは微塵もない。
花壇にだってエ・ス・プ・リは存在可能なのだ.
請うご高覧堂堂の一人一首
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《一本独鈷博多花龍界》
金色の檸檬の雫したたりてドライジンなる海にたゆたう
星の夜(森水晶)2009.12.24ながらみ書房
波をゆする陽をみたか陽を突き上げる海をみたか
しろうるり(高橋みずほ)2008.8.30邑書林
さかほこの天の力士が大沼を放り投げたる夏の雷かな
ヒカリトアソベ(池田裕美子)2007.8.30砂子屋書房
瞬後には溶解しゆく都市だろうすべての電線が朱に感応する
世界露(豊岡裕一郎)2007.4.9ながらみ書房
陽の匂ひのこる木蔭に年輪のなき雑木としてわれは立つ
漏告(外塚喬)2007.4.25角川書店
牛肉をさばきてあればしかばねの冷たき組織は痛えとこそいへ
シジフォスの朝(島田修三)2001.12.10砂子屋書房
摩擦音可聴のままに炸裂し 樹液動きつつ開花寸前
しあわせな歌(中村幸一)2006.9.20北冬舎
あんたも俺もリストに載ってる真っ青な凶悪言語操作者として
環状線のモンスター(加藤治郎)2006.7.25角川書店
いっせいに囀る皮膚が残照の響きの中に燃え堕ちるなり
ピュシス ピュシス(江田浩司)2006.7.25北冬舎
空が絶息するぞたちまち夕茜の濃きがいっせいに後方に退き
スサノオの泣き虫(加藤英彦)2006.9.9ながらみ書房
究極の選択を成せ二分法窮まる季節に野分を待たん
樹皮(小塩卓哉)2003.4.10本阿弥書店
延命拒否 献体登録 花散骨 わが生涯をかきくらませむ
白萩太夫(角宮悦子)2003.12.28短歌新聞社
輪廻など信じたくなし限りなく生まれ変わってたかが俺かよ
5メートルほどのはてしなさ(松木秀)2005.3.5Book Park
明日よりは八月と聞く八月は日々巨大なる糞放らむかも
ちゃらん亭風月録(田中佳宏)1998.2.25葉文館出版
天の軸つかまへずんと起つ北斗 氷海のはて突きぬいてくる
時のさざなみ(村上敏明)2004.9.17短歌新聞社
世の中よ世の中よ知るや一度ねぢ曲がったヘソは元に戻らぬ
地下水脈(高木孝)2004.8.30北冬舎
機能論膨らみゆきて起爆して原子分子に帰納してゆく
形状記憶ヤマトシダ類(吉田純)2004.4.15北冬舎
歌おうよぴっとんへべへべ春の道るってんしゃらんか土踏みしめて
プーさんの鼻(俵万智)2005.11.3本阿弥書店
感情はかほにあらはれ声に出づもはやどなたもおとどめあるな
みふぁそら(高田流子)2003.5.31ながらみ書房
格闘技に有効・技あり・教育的指導はないぞ一本を取れ
人間漂流(田島邦彦)2003.8.16ながらみ書房
しつけ糸引き抜いたから青空ははらりと落ちてくる・・・天気雨・・・
風ノカミ(青柳守音)2003.8.1ながらみ書房
止まるまで俺は止まらぬ、敵よ、俺を倒せるならば倒してみせよ
銀の鶴(本田一弘)2000.10.1雁書館
喰い込んで屠りもできぬ痛みなら飼いならさんかその名虎馬
ありふれた空(十谷あとり)2003.6.30北冬舎
天井ゆ紅き椿が降り来ると君が言ふならうなづいてやる
黒耀宮(黒瀬珂瀾)2002.12.28ながらみ書房
遺伝子に刷られし杳き記憶にて超自我あるは殺戮の快
メルヴェイユ(内藤三郎)1996.12.10不識書院
オイ俺の飲んだ盃なぜ受けねぇ?お前のバカがうつるじゃねぇか
B級教師(内山三九一)2004.6.5文芸社
やはらかに朱の若葉もえ朱の小花さきて楓の一身猩猩
フェベ(沢口芙美)1995.8.1砂子屋書房
そのとおりそんじょそこらの男だがそんじょそこらの吼え方はしねえ
読み人不詳
《悲体悲心愛恋哀憐界》
離りゆく汝が瞳の涯に棲ましめて我のみの浄きBeatrice佇つ
証言(武田孝一)2007.2.5短歌新聞社
夢のなかに遠く過ぎにしひとのゐて一つのifにしばし捉はる
薔薇は紺青(五十嵐裕子)2005.4.11角川書店
口づけを受けたるのちをびっしりと重き鱗の我に生えきつ
弱弯の月(久山倫代)2005.11.30本阿弥書店
壮年の壮のすべてをさらけだす木槿のごとく君ひらくとき
秘鑰HIKAKU(晋樹隆彦)2004.9.17はる書房
わたくしをエネルギーだという君も我が身の内のエネルギーと知る
彷徨(水井千恵子)2005.12.8ながらみ書房
鳩尾にほのとうづける性欲をたのしみながら会話に耽る
友達ニ会フノハ良イ事(矢部雅之)2003.12.18ながらみ書房
からだからのびる触覚器としてのおとこのこえがわたしにふれる
フォルム(冨樫由美子)2002.8.8ながらみ書房
腕を植えて生き直せれば永遠の植物としてあなたを愛す
青卵(東直子)2001.12.15.本阿弥書店
縞シャツに斜線垂線あまた引き辿り行きたし君の胸中
十三月の空(吉田千枝子)2005.10.29.ながらみ書房
君が火を打てばいちめん火の海となるのであらう枯野だ俺は
雨裂(真中朋久)2001.10..1雁書館
悲愴なるべくもなければ花散らふ腑分けのごとき愛を交せり
バードランドの子守歌(西王燦)1982.11.-.沖積舎
流れぼし裸身にあまた奔る夜のあなたに兆す天体異変
薔薇辞典(内山咲一)2002.3.25沖積舎
《身体髪膚使用観察界》
君の吐く二酸化炭素に染められて鮮やかな赤に一致する舌
君の夕日に染まってゐたい(濱谷美代子)2008.7.28〔角川書店〕
雪白二、三センチずり上がりゐしミニスカのよかりしやあの白きふともも
冬の昼顔(小谷博泰)2008.6.25〔和泉書院〕
おとがひを向くれば白き眼孔もわれに向きたり石膏像に、春
存在の夏(村木道彦)2008.7..8〔ながらみ書房〕
エジプトの女王のミイラ特定さる色香の漂う腿のふくらみ
胡蝶之夢(小久保晴行)2008.5.30〔短歌新聞社〕
知識的差配の中枢「海馬」なる臓器に効くとて飲む健康茶
シナプス遊行(鈴木諄三)2008.4.1〔短歌研究社〕
おのずから肋は折れるものならん春のからだの夢の夢図夢図
みずうみ(佐伯裕子)2007.8.1〔北冬舎〕
席を立つ女の細き足首に一瞥を投ぐ頑な踝
マニキュア(八木明子)2007.11.1〔角川書店〕
首こりり腰はぎりりと音立つる我が我が肉叢も苦楽をうたう
秧歌(佐藤千代子)2007.8.1〔ながらみ書房〕
おのずから肋は折れるものならん春のからだの夢の夢図夢図
みずうみ(佐伯裕子)2007.8.1〔北冬舎〕
濃い味を好みし咽喉を越えてゆく珈琲そのときルルと唄いぬ
水の回廊(相沢光恵)2007.6.13北冬舎
向風にアスリートらの大腿の四頭筋収縮はげしくなりぬ
朱を奪ふ(有沢螢)2007.3.3砂子屋書房
鞘鳴りの耳を押しあてて聴く心臓のこゑ音符に変へて君に伝へつ
新響十人(松本典子)2007.3.22北溟社
牧場を走る子牛の足のような筋肉がほしい関節もほしい
子牛の太郎(毛束純子)2007.4.3〔短歌新聞社〕
おお、体毛の概念をこえ頭部より山吹色にふきだすマグマ
時のめぐりに(小池光)2004.12.20〔本阿弥書店〕
むきだしの背すべすべとひかりおり 痴漢をむげに蔑しはしない
グローバル・スタンダード(栗明純生)2007.3.6六花書林
浴槽に浮くゴム毬の感触に幼くをりぬ吾がたなごころ
ドミノ倒し(舘川喜美枝)2007.3.6短歌新聞社
風を聞く 踵をなくしてしまうまで帰るところが海と知るまで
眼鏡屋は夕暮れのため(佐藤弓生)2006.10.25〔角川書店〕
頚動脈の上しづしづと氷ゆるび外の真白闇百合赤し赤し
矩形の空(酒井佑子)2006.9.15〔砂子屋書房〕
白鳥が啼けばわれの肋骨に響きやすくてこの世寒しも
羽觴のつばさ(佐波洋子)2006.7.7〔砂子屋書房〕
久久に坐禅を組むも肉叢のみしりと音のするに驚く
直綴・ぢきとつ(鈴木得能)2006.11.11〔短歌研究社〕
神妙にさせらるるなり早春は鼻孔の奥がつんとしてきて
海の角笛(長澤ちづ)2006.8.16〔短歌研究社〕
啓蟄の土を踏みたし仕舞湯に顰めつ面の蹠を擦る
セラピロード(山口和子)2006.9.1〔本阿弥書店〕
磐梯はおみなの山ぞ岩肌の胸押っぴろげ人を容るるも
マグマの歌(波汐國芳)2006.6.20〔短歌新聞社〕
ネクタイの先に一様に垂れさがる正中なべてつつがあらずや
そして白亜(多久麻)2006.5.5〔短歌新聞社〕
青空がふわりと顔を覆いきてもうこれ以上のものは要らない
カフカの椅子(早崎ふき子)2006.7.25〔角川書店〕
不敵なる貌の梟に間向かへばわが丹田に力のこもる
不機嫌な羊歯(渡辺恵子)2006.6.2〔短歌新聞社〕
一歩一歩鎖骨をたどって来てみたら跳ぶことさえも忘れてしまい
月のようなもの(まえだたみこ)2006.2.20〔ながらみ書房〕
目を凝らし見据えておれば眼球のやがて溶解してゆくこころ
黒砂糖(今井千草)2005.4.6〔ながらみ書房〕
右耳にサイレン聞こえ左耳に魚撥ねかへる 死ぬ日の音かも
蒼き水の匂ひ(北神照美)2005.12.1〔本阿弥書店〕
ふたひらの耳に二つづつ穴空けて四つのひかり掲げ歩くよ
街路(丸山三枝子)2005.10.5〔ながらみ書房〕
脳みそは一人芝居で生きていく自分で自分で持ち上げながら
真夜中の鏡像(小笠原魔土)2005.1.20〔北冬舎〕
ただのひとつもおぼえられないわたしたち指のすきまを埋めあいねむる
すばらしい日々(本田瑞穂)2004.6.4〔邑書林〕
きみを想ふわれの胸には美しきものが住まふとルージュを塗れり
未生(寺島博子)2005.6.1〔角川書店〕
おもいきり角に打ちたる親指の疼きは頭のてっぺん走る
桃色のてのひら(松井和子)2004.9.10〔本阿弥書店〕
門を出て片足に踏む小石あれば不安となりて残る足裏
現代短歌文庫花山多佳子歌集(花山多佳子)2000.2.15〔砂子屋書房〕
声のみに君を知りゆくこの冬の栞とならんわたくしの耳
冷えゆく耳(後藤由紀恵)2004.12.12〔ながらみ書房〕2
夢のなか梯子おろしていたるかな百会のあたり少しく窪み
蓑虫家族(前田えみ子)2005.9.10〔雁書館〕
背後から不意に抱きしめられないと安心しているうなじがずらり
渡辺のわたし(斉藤斎藤)2004.7.25〔Book Park〕
顔という恥部を晒して日の常の安穏なるをたしかめあうか
時の杯(宮田長洋)2004.5.15短歌新聞社
幾百のももいろ耳がひしめける最終列車は熱を帯びたり
硝子工房(関谷啓子)2004.3.15東京四季出版
うずまき管三半規管の向こうまでまっすぐにゆく音でありたし
ナチュラルボイス(岩下静香)2002.8.8ながらみ書房
仰向けに寝ねて腰椎反るときにすきまできたり何の通ひ路
水の束縛(岸本節子)2003.7.19ながらみ書房
食指といふなまぐさき語のうかび出づひいふう白き粥ふきさます
岩船寺のセミ(大森浄子)2003.7.23ながらみ書房
胃袋が休業すれば脳も眼も休業するらしとろとろ睡る
幻夢のやうな(佐和美子)2002.5.25短歌新聞社
ただ肉がつきたるゆえか重くなる乳房みのりて今生の秋
タワナアンナ(糸川雅子)2002.11.24砂子屋書房
おもむろに指紋のせたるコンタクトレンズで黒目覆はんとせり
縦書きの日々(大倉佳彦)2002.6.1近代文芸社
寒風のなか帰り来ておとがいひに触るれば仮面の外るる感覚
海ひめ山ひめ(笹谷潤子)2003.1.1本阿弥書店
水力のごとく女が立ちあがる桃色をする膝と踝
恋愛譜(小林久美子)2002.7.5北冬舎
更年期の身の芯熱くなりゆくを春の欅の幹に触れしむ
ガリバーの庭(古谷智子)2001.7.1北冬舎
水の星に真白き夢を遺しゆく身の奥に立つ骨というもの
闇のつばさに(岡貴子)2002.8.10不識書院
爪先だけを地球につけて生きてゆくマリオネットの魔女とわたくし
水晶散歩(井辻朱美)2001.2.1沖積舎
鼻削ぎの刑を思ひて鼻先の汗を拭へり二本の指は
海界の雲(内藤明)1996.6.22ながらみ書房
感情の奥なる粘膜いちまいを押しひろげつつあふるる涙
精霊とんぼ(吉浦玲子)2000.12.20砂子屋書房
体液は唐突に出て緑なす人間植物チューブゆらして
ビア・ドロローサ(大野道夫)1998.6.21砂子屋書房
天の岩戸むりやり開けた漢が居てそれから孤独になった瞳孔
行き止まる風景(中川菊司)2000.11.25北冬舎
花に逢ひはなを愛でたきこの春のわが大脳新皮質にてとらへたる桜
竜眼(鎌倉千和)1993.12.15砂子屋書房
死にたくもまた生きたくもなく膵臓が気化するやうな一日である
世紀末(荻原裕幸)1994.11.28沖積舎
骨盤のふくらむような心地して改札口を足早に過ぐ
カウントダウン(吉村実紀恵)1998.3.31ながらみ書房
破損して超回復して靭くなる筋繊維とぞ苦しきものを
弛緩そして緊張−リリース アンド コントラクション-(安部久美)120003.1砂子屋書房
もの惟ふ<隹>不在なる梢 わが脳髄のおもひ無機質
冬の神学(酒井次男)1998.4.30〔国文社〕
前正覚釈迦苦行像の眼のなかにナノ・メーターのエロス騒ぎぬ
宝相華文(林昭博)1999.11.10ながらみ書房
薄翅に透きゆく神経叢にしてつかみ出したし明るき方へ
花と爆弾(大谷真紀子)2001.10.10北冬舎
風の音に目覚めてしばしうつつならぬ耳に響ききている人語あり
夏の家族(村野幸紀)2000.6.10北冬舎
なぜにこう楽しき昼夜響き合う胸、腰、脚に骨いくつある
ガラのまぼろし(渡部洋児)1994.10.31短歌研究社
いつかまたいつかと言葉かはすとき口はかなしき器官とおもふ
コスモスの尾根(牛山ゆう子)1996.3.6砂子屋書房
風を聴き脚をそろへて眠るとき浮遊感あり脚より眠る
宇宙深草(木戸敬)1999.2.20ながらみ書房
吾子を守り夫を守り親を守る女は子宮で乳母車曳く
摩文仁の浜(大城静子)2003.6.23ながらみ書房
頭出で来しうつしみ頭より帰りたし、はや秀処まなかひに
女色夢幻−末法の存在論(野本研一)1999.6.15ジャパンビルド
《頭脳内外縦横無尽界》
NEWb脊柱に突き刺さりたる鉄鏃の錆びてうつすら朱を滲ます
夾竹桃と葱坊主(内藤明)2009.12.25六花書林
NEWc一瞬 Violetのそら現われ消えたり 轟音、走る 海まで
吉野裕之歌集(吉野裕之)200810.30 邑書林
益荒男の吾なれば言ふ積りなし言はれて甘んずる積りなし
なほ走るべしく(大山敏夫)2006.9.1冬雷短歌会
ししむらを一度抜ければ魂は会議ののちも帰り来たらず
寒風の文字(永島道夫)20088.11短歌新聞
右脇よりドレインに抜ける濁り水わが胸に棲む夕やけの色
帰路(一ノ関忠人)2008.5.31北冬舎
光合成しているわれとトラックを吹き上げてゆく木枯らし一号
解体心書(石川幸雄)2008.1.22ながらみ書房
叢に寝てゐるわれの肉体のどの部分より蛇になるのか
暗室に咲く白い橋(武藤雅治)2007.8.30ながらみ書房
ぬばたまの内ポケットへしまわれて わたしがwalletであればいいのに
霧笛橋(中川佐和子)2007.9.20角川書店
接線を一本引けば現れる まだ生傷の絶えない地球
銀河最終便(望月祥世)2007.4.25本阿弥書店
鞘鳴りの音にふりむけば花の森 MISHIMAに降りる武士の魂
新響十人(笹公人)2007.3.22北溟社
鞘お手を触れないで下さい永遠が動き始めてしまいますから
新響十人(松村正直)2007.3.22北溟社
義仲は家の子駆る武いさぎよき采ふる過去の兵儚しよ(回文)
お〜い16歳!(高村賢治)2006.12.10〔日月社〕
半球のてんたう虫は生えてこぬ片半球を思ふことある
夏羽(梅内美華子)2006.12.1〔短歌研究社〕
間脳の白質を行く獣あり行方不明の猫のすみかや
爬虫の王子(大津仁昭)2006.10.19〔角川書店〕
旅したき道暮らしたき街の名を両肺に詰め鳥渡るらむ
夜音の遠音(山吹明日香)2006.5.30〔北冬舎〕
ふはふはと馬のたてがみ 金色の馬のたてがみの風の三つ編み
猫の舌 Langue de chat (西村美佐子)2005.12.14〔砂子屋書房〕
そういえば雲母薄片ふれあえる音に頭蓋が統べられていた
渡河(釜田初音)2005.9.30〔北冬舎〕
「破れ傘」男踊りに舞い踊り力あまりて傘の骨折る
野良日和(武藤ナカ)2006.2.2〔桃谷舎〕
ずりり子が生まれ落ちたる朝の陽や再生されゆく私と思う
鈴木英子集;油月から(鈴木英子)2005.8.10〔邑書林〕
体重を一キロふやすにさくら食ふ祖国しづかに消化されゆく
墓地裏の花屋(仙波龍英)1992.9.25〔ガジンハウス〕
おだやかに過ぎる時間にむいむいと草を食みゐるうさぎ語れり
月と自転車(栗原寛)2005.12.7〔本阿弥書店〕
わが頭蓋流星のごとくよぎりたる言葉のあれば急ぎて記す
唖者睡る(荒川源吾)2004.4.27〔ながらみ書房〕
艦らこの豪夢に眉を深めつつすれちがいざま相撃つ霧砲
潮汐性母斑通信(高柳蕗子)2000.11.30沖積舎
愛といふはばたけない鳥胸に棲み ぎゆつと抱いだかれかなしみを食む
薔薇月夜(東雪)2004.8.15〔本阿弥書店〕
かみさまのふぐりというべき蜜蜂の巣が木より垂る蜜たらしつつ
天使の分けまえ(室井忠雄)2003.9.16〔雁書館〕
湯浴みするしろきけものを見つけたり雌豹を産みし覚えなけれど
フォルム(武下奈々子)2002.3.10〔BookPark〕
沸点を越えたる液は身軽なりわがたましひは これからは 風
響(綾部光芳)2002.2.21〔短歌研究社〕
さささいささささいさいと寄せ返す白き波ありこころの渚猩
樹の人(永田吉文)2002.5.121〔ながらみ書房〕
ああちろりちろりちろりと伸びてゆく下駄の鼻緒のごとき歳月
水鳥家族(大森益雄)2001.6.20〔短歌研究社〕
ももはなのももいろの道だしぬけに廃屋はいやの庭にどんづまるなり
認否罪状(三浦大和)2001.8.10〔ながらみ書房〕
水中に身を沈めれば内側の思想が徐々にわたしを流れる
永遠に夏(高田薫)2001.7.20〔ながらみ書房〕
わが影のなかに背骨のようなもの動きはじめて百足むかでとなりぬ
草の海(中野昭子)2000.10.10〔柊書房〕
胸郭に馬頭暗黒星雲がそだちつつあるこの冬である
奇魂・碧魂(小田原漂情)1998.11.18〔ながらみ書房〕
何で何で何でなんだよ水道の蛇口を抜けてほとばしる水
振り向かない(春畑茜)1998.11.9〔ながらみ書房〕
獅子身中の花と呼ばれしをのこごが十年長じて高笑ひせり
め・じ・か(今野寿美)2000.5.10〔短歌新聞社〕
グラフからはみ出すほどの勢いでX軸に夕立は降る
ブルー・グラデーション(
まぐろを切る 悪い奴をこんなに切れたらと思う
魚河岸のアナキスト(小倉三郎)1989.11.10潮汐社
転がるは百も承知のかぼちゃ哉一陽来復種の空空
灰姫の猫(西崎みどり)1999.7.30風心社
生卵、主食なんです。目・口・足 育ちかけのもたまに食べます。
たった今覚えたものを(玲はる名)2001.1.25Book Park
豹変のなりそこなひの豹われと猫かぶり被りおほせしきみと
恋のポートフォリオ(長江幸彦)1997.5.23新風舎
<プラグアンドプレイ>サシコミすなはちタノシメル デジャヴとおもふこのフレイズは
Cyber-Affections(川明)1998.10.10本阿弥書店
半月は正義の味方と思いたり直ぐなる線が弱きを助く
リオの海鳴り(高橋禮子)2005.10.29本阿弥書店
改悛の情あらわせる一途さが致命となりぬエセ油蝉
のどやける(村田耕司)1998.4.10雁書館
いくつかの野性を捨てて辿りつく正方形とは進化の終わり
フラミンゴ(八木博信)1993.1.1星雲社
あ かぶと虫がまっぷたつ と思ったら飛びたっただけ 夏の真ん中
ドライドライアイス(穂村弘)1992.11.30沖積舎
君とゆれる灯のなかやわらかに「あ」がこぼれている時間が沈む
白のトライアングル(彦坂美喜子)1998.4.20雁書館
よりあふはよろしよよよよよりよりに夜の縁に縒る夜光玉
五十音図の男(野間亜太子)1999.9.12雁書館
かき・くるみ・きのこ・くり・くこ・こめ・かうじ秋はカ行の稔り豊けし(2003.11.22更新)
花顔(丹波真人)2003.9.16不識書院
《哀歓勃勃酒池人倫界》
NEWaジン、ウォッカ、ロンリエやがてスピリタス 強いお酒を痛さうに飲む
サンボリ酢ム(田中槐)2009.11.30砂子屋書房
わが胸を突き刺す他人の言葉あり酒呷らむか夏夜のひとり
羅(うすもの)(田中八栄子)2007.5.30ながらみ書房
余目の恋川酒造の恋乃川飲みて人恋うことのあわれさ
宜春(家原文昭)2008.7.15ながらみ書房
亡くなりし友を見送る飲んだくれわれこそ提灯居士を名告らん
風に向く(武田素晴)2005.12.20ながらみ書房
頭のしびれ足裏のしびれほぐれつつ昨夜の荒酒身を離れゆく
桃太郎のうた(海津耿)2005.9.15短歌新聞社
いつ杯の酒をふふめばしやんしやんと佳き音の身に立ちてめぐれる
永田典子作品集(永田典子)2004.11.25短歌新聞社
樽平の樽の底まで呑みつくせわが影真直ぐあるかせまいぞ
モビールの魚(大湯邦代)2004.12.5短美研インターナショナル
春や張る膨らみ爆ぜるたまゆらを桜にわれを忘れさす火酒
水のミラージュ(管輝江)2003.7.29管道男発行
前のめりにいつそ生きむかゆふらりと土佐「酔鯨」を酌みかはしつつ
みづを搬ぶ(渡英子)2002.6.21本阿弥書店
ウオトカが指先にまで回るときある存在はつとに消えにき
水は襤褸に(生沼義朗)2002.9.13ながらみ書房
こんばんは。酒を呑みます、灯の下残りの今日をねぢりつづけて
夢歌人(甲村秀雄)1996.3.*短歌新聞社
ねじ伏せておきし悔しさ噛みしめし歯のすきまより酔えばこぼるる
久々湊盈子歌集(現代短歌文庫)1999.8.15砂子屋書房
吟醸の冷たさきららにしみとおりそつと消えたいはないちもんめ
風の迷宮(高崎淳子)2000.12.21角川書店
いの字からろの字を書きて歩きをり酔つてはをらぬとまたろの字書く
らんぱんうん(椎木英輔)1998.10.28ながらみ書房
己がこと得々と説く男いて我は苦酒とくとくと酌む
エトランゼ(諏訪部仁)2000.12.8ながらみ書房
おんななら誰もが母になれるという嘘はいうなよ居酒屋のたぬき
風を剖く(蔵本瑞恵)2000.5.29ながらみ書房
ふっ、うまい ジョッキのふちの白い泡ごと流し込むビーナスの味
ヨコハマ・横浜(吉田優子)2002.7.5ながらみ書房
《哀憐汲汲家族紐帯界》
天国に着いて野原を走り回るたろうは仔犬ワンワン吼えて
ふるさとに鐘は鳴る(小島資行)2008.12.16〔角川書店〕
十二年われを和ませくれし猫意識ある間は尾を振りてをり
(吉川一枝)2008.9.30短歌研究社
往きし猫を思ひ泣きたきときあれど妻滂沱たればわれとどまりぬ
碧き湖(山岡弘道)2008.9.1ホサナ舎
老い猫の寝息の柔く耳かすめ同床異夢に過ごすあかつき
刻を気ままに(大河内つゆ子)2008.8.31本阿弥書店
わが妻の弁当箱の小ささを洗へば胸に込みあぐるもの
スローライフに遠く(大熊俊夫)2008.4.20ながらみ書房
どの部屋のどこにも父が居ぬことでくらいひぐれの蚊遣火たく
蟹の散歩(小寺康平)2008.3.17青木印刷
たんぽぽの花に目線を合わせんとしゃがみこむとき傾く羊水
百年の眠り(鶴田伊津)2007.7.28六花書林
帰らむよ夫なき家のしづかさは言ふべくもなき海原の底
天蓋天涯(三井ゆき)2007.10.29角川書店
孫の嫁語尾長く引き「眞吾ォー」とその夫を呼ぶ憚らず呼ぶ
蝋梅坂(鎌家さきえ)2007.12.16六花書林
人に告ぐることならねども吾はかつてかくも美しき死顔を見ず
蓬(松平修文)2007.10.3砂子屋書房
西瓜の花の交配せんと屈みたる瞬時を胎児は痛きまで蹴る
弧を描く星(多賀陽美)2007.9.20北溟社
白き花、妻のみ墓に手向くれば、虚無、虚無、虚無、粉雪の降る
薔薇(福島信雄)2007.9.3短歌新聞社
よみがへるのも地獄なら、なあ妻よ、このままずつと醒めずにゐるか
妻へ。千年を待たむ(桑原正紀)2007.5.10〔短歌研究社〕
子よ愛が見えざれば見よ稜線を残して黒くわが吹雪けるを
木強(萩岡良博)2005.8.10〔北冬舎〕
お月さん大きくぼおんとあがりたり母のやう でも 絶対泣かぬ
ウィル‘WILL’(北久保まりこ)2005.3.25〔角川書店〕
賽の目に切ることばかり千代紙や豆腐やあなたの寂しい声や
野原のひびき(村松直子)2005.2.5不識書院
いまひとたび父が名残の溜池に水あらしめよ泥を清めむ
春鶯抄(久保田フミエ)2004.11.15角川書店
がっちゃん 音高く閉じ これの世とかの世をわかつ音のひびけり
槿花窈耀(山本りつ子)2005.3.10ながらみ書房
《絶壁森森孤絶涼風界》
生き残りまたの別れの五月晴あの世があるを信じませうか
榠樝の実(大和類子)2008.9.30ながらみ書房
独占をされたるきみを遠くみていまにも抜刀しそうなりわれ
ゼロの地点(相良峻)200.1.11ながらみ書房
われという容器に生きて逃れえぬ独生独死独去独来
眼中のひと(小高賢)2007.10.31角川書店
寂しさに頭を下げるな頭上げよ若林のぶが生きゆく日だまり
鳥は鳴くU(若林のぶ)2007.10.25六花書林
榛名まで関東平野まったいら俺を泣かせる返事も来ない
亡羊(奥田亡羊)20076.5短歌研究社
しゆんしゆんと南の風の迫る午後 柳の芽など見て泣くもんか
新響十人(石川美南)2007.3.22北溟社
はりねずみが互みに針の空間を保つは叡智あるいは孤独
クレパスの線(小島熱子)2006.4.28ながらみ書房
余り者に似たる思ひに盆過ぎし海を見てをり海無一物
相伴(角村知津子)2003.秋彼岸 私家版
君の音もう聞くことのない君の音の音からだごと君を失う
新響十人(永田紅)2007.3.22北溟社
ゆびにあらずまなこにあらずさびしきは塩に触れたるたましひならむ
ボクサー(押切寛子)2006.12.20 ながらみ書房
カーテンに抱かるるかたち夕風よ寂しくなくなるまで吹いておれ
ホワイトライズ(槌谷淳子)2006.12.10 Book Park
蛤をていねいに洗ふ雛の宵やがてひとりの飯を思ひつ
花のある卓(加藤満智子)2006.10.30短歌新聞社
ひかりなき朝のかもめよ悄々とわれに抱かれて清くけがれよ
百代(中川昭)2004.11.24河出書房新社
おれはいま深海ふかく孤つ火を灯して消して提灯鮟鱇
島山(田村広志)2004.11.1角川書店
咲きて花散りてなほ花 牽く力ひとつひとつの花片に及ぶ
截断言(蒔田さくら子)1988.11.11砂子屋書房
もう逢はないといふ、視線を外せば、空、空は沈黙してゐる
ヴォイス(朋千絵)2003.5.21ながらみ書房
この鼓動はたと絶えなば天空の冷たさに還る躯とし思はむ
蘇鉄の花(石川恭子)2002.9.30雁書館
かすれるはそらのうらがわ 道ゆきどまり音が 落ちている
鼬の天「具体」から「ゲルニカ」まで(佐藤信弘)1993.1.1風心社
愛撫するほど私を見つめてそして猫はネコに戻っていった
美しい水〜クラゲよ〜(藤森あゆ美)2001.6.11ながらみ書房
そそのかす鏡があればきさらぎのがまずみの花も開くだろうか
蒼時雨(水川桂子)2002.10.20砂子屋書房
棘のある人の言葉もわが胸に刺繍裏面の模様映す
むらさきの主張(谷垣美恵子)2002.12.10短歌研究社
戻るなら舎利になるまで待っている手鏡抱いて座ったままで
夜の姿見(武藤ゆかり)1999.2.15フーコー
《本来真当威風大見得界》
地球は洋梨の形であると書かれをり うふふふふふと読みつつ笑ふ
夏の終りの(王紅花)2008.8.11〔砂子屋書房〕
重ね来し思いの幾つにれがめばほのかに甘く壮年はあり
即今(大下一真)2008.7.2〔角川書店〕
Vの字が頭上に解けて降り始む鶴らは夕べの空戻り来て
出向(三平忠宏)2007.4.25ながらみ書房
白いスカートひらひらさせて女ゆくロラン・バルトの変異項かも
エチカ(徳橋兼時)20077.11青磁社
かの夏の焦土の記憶の歌幾つ朗読すけふ老いの集ひに
夏の記憶(木下孝一)2007.8.15短歌研究社
A piece of the rainbow/Appeaered
in a splash/Of watering/
I stretched my
arm/To touch it.
散水の/飛沫の中に/現れし/虹の欠片に/手を伸ばしみる
A Piece of the Rainbow―虹の欠片に―(佐藤冨士子)2007.8.1日本文学館
水を吸い水の匂いをまとうまでドレミファソっとことば沈めん
ガラスのクッキー(高橋禮子)2007.7.11角川書店
沈黙は金か、金なら根刮ぎに略奪されしピサロの金か
新響十人(島田幸典)2007.3.22北溟社
あざやかな黄の残菊 そぎ落としそぎ落としゆき身は素とならむ
倫敦塔まで(染宮千鶴子)2007.5.24六花書林
フォックスの尻尾のやうなフランスパン掴みてマダムは立ち話する
れいんぼーぶりっじ(平塚宣子)2007.4.3砂子屋書房
持ち来る水に喉を潤して重なり響く蝉の声聞く
漕ぎ手(桜井美保子)2007.3.1冬雷短歌会
結核性微熱もジャズも踊り子も左翼くずれも与太者も花
楽園(藤原龍一郎)2006.7.25角川書店
美しき終末やある 逆光のへやに勢ふドミノ倒しは
マドリガーレ(紺野裕子)2006.5.14〔砂小屋書房〕
にぎりめし拳がほどにか意志として貫くものの固まりゆきぬ
銀河街道(荻本清子)2006.10.20〔角川書店〕
厳かに雨から雪に変わるとき街は静まり素裸になる
東京遊泳(野口恵子)2005.12.19〔ながらみ書房〕
遊雲の下に番の蜻蛉飛ぶおびただしきかな声なき生殖
ウキタム通信(赤井橋正明)2003.11.24〔子崙書房〕
百日紅の花びら莞爾の文字に似るさればめでたき一夏の庭
昼のふくろふ(千葉さく子)2006.9.9〔短歌新聞社〕
朝焼けて西方の空 驕慢と卑屈のあわいを辛くも佇てり
西勝洋一歌集:現代短歌文庫(西勝洋一)2004.3.1〔砂子屋書房〕
極上の正しき忿り卓上の鮎は玄かに骨をほどきぬ
GIRAFFE(河本惠津子)2004.7.15〔短歌研究社〕
一枚の辞令しみじみ見つめたり塩か垂れかと焼き方悩む
チャンピオン(福島久男)2001.3.20ながらみ屋書房
中年に寄るな触るな思うべし光秀にして本能寺あり
雨にぬれても(寒川猫持)1996.2.23ながらみ書房
荒涼の肉体支へなお生きむ力燃えをり人間の芯に
蘇鉄の花(石川恭子)2002.9.30雁書館
ちゅうりっぷ結んで開いてまた閉じて時空の中に息づきている
黍の風(青野昭子)2006.8.16短歌研究社
「ふらんすはあまりにとほし」といふも杳し百聞とばしの一見のみ増ゆ
火の器(榊原敦子)2001.8.15BookPark
目の前の鉛筆削りに層をなす綾は楽しも仕事のはじめ
幽明(大島史洋)1998.6.10砂子屋書房
海よりの光は朝を反りきて射干剣状の緑におよばず
翼鏡(小中英之)1981.10.10砂子屋書房
満足の感覚は風呂に入るときつかめと依田仁美はおごそかである(スミレ幼稚園)
高瀬一誌全歌集(高瀬一誌)2005.12.7短歌人会