俳句Galaxy

俳句の侵食力殺傷性を愉しみたい

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■玉門関 □武馬久仁裕句集

2010.9.1 ふらんす堂

 

現代俳句の鬼才、ぶま・くにひろ氏初の《俳句紀行》である。

句と散文を織り交ぜての工夫の境地であるが、ここでは句のみを引く。

以下はその意味では「陸のみあって海のない地図」の恨みがある。

 

沙州とは全ての星の降るところ

星降る夜硬貨五枚を地に落とす

 

戈壁砂漠或る夜烈しく飛天堕ち

彼の女舌翻す戈壁砂漠

 

蝋梅密かに惹かれている私

偶像となった魯迅に狼狽し

 

玉門関月は俄に欠けて出る

 

昼顔がひそひそひそと誣告する

忠烈祠炎天軍靴雅語飛天

 

パイナップル爆弾のようないやらしさ

マンゴスチン食べて眺めて久保純夫

 

薺咲く道に来て故意に恋する

ボヘミアの離れ離れの雲に乗る

 

先頭から2句ずつは相前後して配されている。

明らかに2句カプリングの志向がある。

沙州(敦煌)での、戈壁(ゴビ)での大自然との抱擁、ロウバイの遊びもいわば旅心。

7句目以降で従来本来の境地が滲み出るようだ。

本来のゾリストが紀行文とのコンチェルトを奏するごとし。

このあたりは別項でゆるりと述べたい思いが強い。

武馬さんは『雑技団』等のメンバー、本集は『獏の来る道』に次ぐ第3句集である。

 

 

 

季刊 俳句と批評誌 光芒9号(200.5.15)発行人・久保純夫 編集人高橋修宏

 

亀丸公俊 吹き出し 10

荒びかな芋の露麻呂まろばすも

吹き出しとして白息にことば読む

 

大木孝子 糸尻 10

蝶生れてひたぶるうすき水の肌

黄粉鳥糸尻そんなに可笑しいか

 

久保純夫 団欒 20

いつまでも衣桁に掛かる絆かな

夕闇や大甕に棲む水として

 

大谷清 錦糸たまご 20

つらだましい蒼蠅のかゆいゆかい

角砂糖や角砂糖の燃える桜や

 

岡田耕治 春眠 20

野に遊ぶ明日と今日を分かつため

春眠の脳がたくらみ続けたる

 

久保るみ子 予言 20

真ん中を拒んでおりぬ蓮の花

天空へ靡いておりぬ蛇の衣

 

曾根毅 影と鴉 20

銅像の影より続く石の段

夏料理とぐろを巻いていたるかな

 

森澤程 黒潮 20

黒潮の中の絶壁風光る

白波と桜のあわい渋滞す

 

高橋修宏 破船 20

陽炎の底より破船浮かびけり

からからと脳天の鳴る白辛夷

 

久保純夫 特別作品 半実仮想W 76

青竹のまず尖が揺れ切なかり

百日紅風留まれば限りなし

蛇の衣あらゆる風の通りけり

 

曾根毅 特別作品 糸瓜60

堂に入る落花一片音もなし

悪霊と皿に残りし菊の花

仮の世をたしかめ合って息白し

 

森澤程 特別作品 入江 60

うぐいすの眼に人の転倒し

海原の青に親しき鳥の恋

首筋に滝音のまだついてくる

 

高橋修宏 俳句作品 帝国忌 60

国生る椿の中のがらんどう

朕の唾さくらふぶきとなりにけり

おおきみのへにこそしなめかたつむり

 

「光芒」の句を読むのはどこやら、野球で外野守備をやっているのに似ている。

まっすぐ飛んできて「オーライオーライ」となるフライもあるが

、多くは、背走、ジャンプ、ダイビングキャッチを強いられる。

グラブを差し上げたい気分の好捕もある積りだが、エラーも多かろう。

明らかにわたくしにはファウル、或いはフェンス越えで手の届かぬこともある。

無論、上掲は全て補球できたという認識の作品である。

今、「反実仮想」のシートノックを志願で受けていて、

つまり、大作を掌論で、ホームランボールを素手で捕る練習をしている。

そんなことから、今回の「反実仮想」は掌論で書くべき対象の作をはずして、

集中では少数派の「オーライ」系から引いて

いる。(2008.9.1)

 

第2次未定 88号(2007.12.30)編集部 西口昌伸 発行所 高原耕治

(2008.5.31)

 

新しく編集の任に就いた西口さんの問題意識が編集後記に溢れ、

かつ、本号の特集は『現代俳句批判俳句表現史観の位相について』とある。

『序論の序論』なる力説を要約するのは責任も重いが

西口さんは敢えて俗な筆致で「浮世物質格差社会」の思念伝達手段である言葉を介して

「浮世物質格差社会」を超えた事柄を書きおおせる手段として俳句を見ている

ということを教えてくれている。

わたくしのいう《硬式》と接するところがある、と一応整理したい。

いずれにせよ、門の先は深い。

さて、作品。

 

泉史
猿をひっぱたく

途中の燗酒の

香具師かな

 

蒟蒻の

プラトンの

女装する

洗面台

 

伊藤聖子

ひと皿の塩のにおいに化生あり

流刑よりもどるたなうら行方なく

 

神山姫余

                  つま先に

非常

    階

       段

 

                      冬 座敷

 

雪 投

   

   し

         少年/少女

 

     銀河系

 

 

木戸葉三

「言海」のなかの暗黒 椿落つ

うらがえる箪笥のなかの唇や

 

 

後藤貴子

胸間の鉄骨ずれる午睡かな

天高し天に斜線を引くなかれ

 

高橋比呂子

ワインの栓スポンと晩夏ぬすまれる

焼き場から目鼻なくして帰りけり

 

高原耕治

§

鬼蓮の

黄金律

 

    日を編み呆け

 

§

       とろりなつかし

水船

泥船

 石船よ

 

瀧口浩

   たなごころ我が詩魂いずくにありや

手のひらの筋をたどりて旅程とす

 

田辺恭臣

     果てしない

      王侯の行列

    積乱雲の

  真只中

 

中世

憂愁

     銅版画師の

       ネーデルランド

 

 

玉川満

      驢馬の町

      三丁目前

     荒物屋の

   チュー

 

     人間の町

    四丁目

      ふたご屋の

 ぐー

 

 

西口昌伸

     倒され

        燃され

       今は泉下の

  幾柱

 

      埴輪に並び

    影を脱ぐ

 

   耳を脱ぐ

 

花森こま

交差点渡りきれないかすていら

春夕べみつめ返してしまひけり

 

服部智恵子

マッコウクジラ密着して全長

みやまりんどうのあがり目さがり目あとすぐ

 

森田雄

        せめぎ合い太古の森の序列かな

幾つ峠を山姥になる型紙を

 

山口可久実

          数学を問う

       飴色の

                              告白室

§

         猫消えて

              五時十五分発の

                    列車

矢口昭

        何にてありし

 

               耳鳴りを飛び立つ羽音

 

 

         観音の不気味

 

   幻を

     雁渡る

 

吉村毬子

      蠢きて

       曇天の海

       薔薇坩堝

 

          樹を伐るやうに

       眼を閉じる

        孵化せむや

 

サイト上では排列が作家の意図通りにならないが

じっくりご覧頂きたい。

誌上の玉川さんのことばを借りると「一行棒書き」「多行形式」

の差は「一行棒書きの神」への信仰と冒涜の差だという。

 

 

 

ぶるうまりん8号(2008.3.31)編集・発行人須藤徹 編集チーフ田中悦子

 (2008.4.30)

須藤徹 作品40=越境の声

ギターケースから闇の飛び出す定家の忌

毀れやすいコギトと思う落とし文

たましいの腓返りは麩のように

田中悦子=『水の迷宮』出版記念新作30=いすみ線

冬海の青のきわみや懺悔録

冬枯れの安房を貫く「いすみ線」

虚と実の間を生きる綿虫や

伊吹夏生=特別作品30=春の空師(そらし)

狂ひなく降り立つ春の空師かな

負には負のよろしさがある枯向日葵

人知れず客死せりとぞ霜流れ

渡辺隆夫=特別作品30=酉の市

ヒラリーもおばばの声も酉の市

冬麗ら仁王も散歩するか吽

冬のカラスも辛い切ない

杉山あけみ=つと揺らぐ

とおばかり数えて宙の蝉の穴

メビウスの絵本つくづく馬肥ゆる

山田千里=尺八

母の軽さよ黒揚羽ゆく

哀しみを隠せりとろけるピッツァ

平佐和子=ぬれ煎餅の町

ホットココア冷める途中の男なり

冬うす日みなと見ているハイヒール

土江香子=be

ふくらんだ仮想冬の蚊ばたふらー

・・・冬ホホ・・・

成川寒苦=箱根駅伝

たかがホ句だからどうした花八手

いにしへの狼の道猪通る

井東泉=風のまま

哀しみのひとつふうっと風にのせて

勇気一つ風のまま

野谷真治=ひらめねんぶつ

どどんと花火かっこむ鰻丼

顔がこぼれる通夜の風下

高野尚志=憂国忌

ノーと言ふことの大事さ冬の鵙

枯蓮敗者復活戦を待つ

小倉康雄=私道論

ごつごつと冬の馬鈴薯えごいずむ

パスカルの葦折れている冬中州

吹野仁子=オカリナ

蹴爪あるかに奔放な彼女のブーツ

毛糸編むルノアールの溶けそう

正木喜美恵=無精卵

天の川漂っている臍の緒よ

呼吸器の尾と止み流星アンダンテ

村木まゆみ=オリーブ

オリーブは千年生きると話聞く

猫嫌いの隣の庭の金木犀

齋藤泉=結晶

混沌も結晶する寒の朝

朝陽さし天界となる芒原

横溢する俳句のシャワーをゴーグルをかけつつ読み次いだ。

一連からの抄出には、はっとさせられるものに照準をあわせたので

改めて眺めると、山田さん、井東さん、土江さんなど思い切った短縮形が目立った。

田中さんの『水の迷宮』評や「平成の新興俳句」など評論も意気盛んである。

 

 

季刊 俳句と批評誌 光芒8号(2008.2.10)発行人・久保純夫 編集人高橋修宏

(2008.4.13)

 

橋本輝久 索索 10

八月の狂はぬ時計ありにけり

にんげんの鎖野菊に囲まるる

 

松本ヤチヨ 焼いてまるめて 10

母の忌や焼いてまるめて寒卵

海を見て生家によらず猫の恋

 

久保純夫 帝國W 20

まどろめば欝吸いに来る黒揚羽

とどまれば黒く鎮まり甲虫

黒鳥に咥えられたる半旗かな

 

大谷清 ルネ・マグリット 20

鹿や御身炎の角を切らる

鯉を思えば雲の粒子のありけり

ジャワ更紗のいろいろの蝶むすび

 

岡田耕治 旅鞄 20

人住まぬ路のべたつく石榴かな

レーダーの圏内に入り秋螢

冬銀河音たてて曳く旅鞄

 

久保るみ子 相関図 20

鮟鱇の胸を開けば虚無いくつ

ジャパニーズスマイルやがて敗荷

きさらぎの終りは白き狼と

 

曾根毅 花氷 20

塩水に余りし汗と放射能

陰陰と密室に継ぐパイプの冬

増えてゆく口約束と石鹸玉

 

森澤程 傘雫 20

小包のあればほどきて六林男の忌

橙や空気の重い日を重ね

きさらぎのきれいに撮れしあばら骨

 

高橋修宏 聖餐 20

寒月光げんまんの指剪られけり

善人なおもて白鳥の穢れけり

ヘルメスの転げる小春日の地球

 

久保純夫 特別作品 半実仮想V 76

セロリ噛むときどき混じる骨の音

中心は外されている虎落笛

ここ押せば風邪のようなる聲を出し

 

大谷清 特別作品 モルフォ蝶 60

金柑たべ鳥のたましいは金柑

したがつて冬瓜の空間転移

千鳥そのまんまるい月光

 

岡田耕治 特別作品 きれいな脚 60

スカートを穿くと女になるという

春立てり二本のきれいな脚のため

頬杖をつくエンゲージ・リングの手

 

久保るみ子 俳句作品 千の眼 60

千両の千の眼は愛しかり

菜の花に開かずの扉などあらぬ

プラスマイナスゼロのあたりの破蓮

60句のオンパレードは正に重量打線。短打長打、さまざまが飛び交っている。

短歌族に大いに味わっていただきたい。

拡散的追尾と収斂的追尾の双方が錯綜、歌詠みの俳句読みを、今回こそ実現したいと、三たび思いつついる。

 

 

ぶるうまりん7号(2007.11.25)編集・発行人須藤徹 編集チーフ田中悦子

 (2007.12.22)

須藤徹 作品40=維納(ウィーン)遠し

維納(ウィーン)遠し子供のいない雛納

たまきわるいのちたまさかにだますかすう

丹田を草矢撃ち抜く姉の笑み

中烏健二=特別作品30=青い廃墟

父虚無僧娘花魁猫柳

太刀魚にいかに泣かれても蒼天

春昼の小屋の中だけ午前三時

山田千里=特別作品30=クローバーの行方

目尻にそっと風にじむ

超一流の燻製となる炎天下

指にくいこむ不安夏蜜柑の誘惑

田中悦子=巻き貝

海に出たくてどくだみの坂下る

黒揚羽祈るかたちに翅たたむ

疑問符の膨張凄まじ猛暑

西野洋司=冬海

秋風に隙閉ざされし高笑い

背に叫び止まぬ冬海おでん食う

駅前の雑踏栗焼く香の流れ

野谷真治=けっかんどらむかん

雨の一日真顔の墓がある

月のサーカス流星クラリネット

にんげんけっかんどらむかん

渡辺隆夫=海の藻屑

手にトンカチ初夏の断層研究会

パンストに伝線走る虎が雨

盧溝橋から始まる男の一生

平佐和子=外反母趾

梅雨茸ぴょこぴょこ結び直す靴

万緑のしぶきをあびて太鼓腹

端居して骨の音する半伽趺坐

土江香子=彗星

ベッドヘッド二頭の蝙蝠月より来

北鎌尾根全貌見せる御朱印船

雷鳥の七つの体温霧かすめ

武藤雅治=なきまねる

らうそくの芯をはなれて()はゆらぐ

劣情となるまで鶏を追いつめぬ

左右(さう)()がよろこびながら手をたたく

井東泉=桃の皮膚

乾いた朝に黄金の唾を吐く

ステンレス製の憂鬱夕焼け雲

土を掘るビニルな男の吐く息

成川寒苦=動植物綵絵

妻をれば蚊も喰はぬ吾冷血漢

天に花火地に浜木綿の開きけり

黒揚羽路上の影と対になり

高野尚志=昼寝覚

社長謝罪他山の石を読めぬ雨

六道の休み処の芒原

名人の高座を惜しむ鉦叩

村木まゆみ=花曇り

花曇りずっと並木の遠景図

幸せはしずかにしずかに十二月

ショッキングピンクあれはいつかの生の色

山田綾子=昔の離宮

スィトピー看護婦いつも小走りに

捨てられて大暑の魚の泡を吐く

夏の月尼の石仏赤く照る

誌面も盛んだが、フィールドでの活動も盛んで、

「詩の<時間>とは何か−短詩型における<時間>の諸相」と題してシンポジウムを開催

その成果が収録されている。

ぶるうまりん宣言のひとつに

『ジャンル外の芸術、思想等を摂取できる豊かな知性と感性』を地でゆく。

須藤さん、武藤さん(短歌から)、渡辺さん(川柳から)の発言がある。

 

 

季刊 俳句と批評誌 光芒6号(2007..1)発行人・久保純夫 編集人高橋修宏

2007.12.1

鳴戸奈菜 巻頭寄稿水沈黙の音 10

人体の蝶の部分や秋めきぬ

頭の中かゆしザクロを割りにけり

 

谷口慎也 巻頭寄稿日々好日 10

わけもなく正義と思う花八手

頭とは燃えやすきもの秋遍路

 

久保純夫 帝國V 20

ダリアから一枚の地図燃え出しぬ

わが骨も並んでおりぬ花野かな

報われなぬ庖丁となり切る西瓜

 

大谷清 黄金比 20

エネルギーはうすばかげろう保存される

うすばかげろうの円周に乗ります

不確定で夕顔煮ますあいさつ

 

岡田耕治 半分 20

操業を止め秋風の向き変わる

蜻蛉の向きの変わりし読書かな

葡萄吸う力を残し逝jきにけり

 

久保るみ子 無国籍 20

短夜の恃みとしたる貝柱

踵から疲れはじめし月見草

鶏頭やかたちのままに裁かれて

 

曾根毅 異邦人 20

青嵐孔雀の後ろより来たり

白菜に包まれてある虚空かな

ナイフより耀くものに春の波

 

森澤程 石の鍵 20

鶏頭の倒れしところ波よじれ

龍胆の花の裂け目に日の沈む

ときどきは洩れる微笑に鶴渡る

 

高橋修宏 望楼 20

鬣のまず見えてくる天の川

淋しくて乳房の浮かぶ銀河かな

地球より出る細胞の時の声

 

久保るみ子 俳句作品 新共生事情 60

たましいを重ねるために皿かさね

しみじみと戻る途中の凍豆腐

ひたすらに骨を折りゆく蝸牛

 

久保純夫 特別作品 半実仮想U 76

稜線を即かず離れぬ蒼き鳶

龍の玉肉に隠れてしまうらし

黄色からむらさき移る魔笛なる

 

岡田耕治 特別作品 大枯野 30

葉鶏頭四方へ痛み走りたる

葛藤に近づいてゆく天の川

私が最も遠し大枯野

本誌の構成に馴染みができてきて、圧倒的な作品数や振幅に対して

耐性ないし態勢がわたくしに出来つつある。

つまり、読めるようになってきている。短歌系の高覧諸子も同様であろうか。

とは言いつつ、前号で精読を宣言した『半実仮想』は、持ち歩いたのみで記載に至らなかった。

今号は再トライしてみたいように存ずる。勿論、今号も評論多彩である(2007.12.1)


水の迷宮(田中悦子)2007.9.4〔文学の森〕

2007.10.2

 

田中悦子さんの詩精神の稼動範囲は実に広域である。

左右上下と追尾しながら句境を跋渉させて頂いた。

先ず、日常に非日常との接点を模索する。

永き日の四肢張って考える犀

蜘蛛の囲のがんじがらめに時は金

観察・描写の妙には、はっとさせられるものがある。

稲妻や思わぬ近さひとの貌

ずぶ濡れて海へ傾く濃紫陽花

ビル街の西日太陽二つ見え

寒の海まったき色もて人拒む

みぎひだり変らぬ手相おぼろの夜

はたまた、喩を帯びた世界。

月朧帰るすべなきかぐや姫

実石榴やマグマは出口窺いぬ

初夢は水に呑まれてしまいけり

不安定な思惟の提示は具体を追い詰めるかたちで成立し、屹立している。

春嵐思惟こま切れに皿を割る

秋風という不確かな風生まる

春の野に私の色はありません

少年の通過儀礼の蛇殺め

田中さんはかなり毅然とした性格の持ち主のように見受けられる。

自己への問いからそれは察知された。

寒の海退路断たねば踏み出せず

あいまいは罪ですか模糊として梅雨

真っ正直という罪あり曼珠沙華

曼珠沙華真っ直ぐ生きて母泣かす

石榴割れ新たな火種抱え込む

そしてときどき、タナトスとエロス。

死神のまだ来ぬ私火の恋し

美しき首捨てられている芒原

死化粧男もすなり憂国忌

香水瓶女体ゆらゆら溶けゆくよ

しなやかに芒は誰にも靡きます

聖五月まだ全裸にはなれません

大き河四駆で抜ける日焼かな

田中さんは『ぶるうまりん』同人・編集チーフ、その第2句集である。

 


季刊 俳句と批評誌 光芒6号(2005..1)発行人・久保純夫 編集人高橋修宏

(200.5.21)

執筆者紹介欄に生年が必須項目のように記載されているが、それを見てもさまざま。

ここでも、ご訪問諸氏へのてがかりのため若干なりともその傾向差が出ればと配慮してみた。

 

豊口陽子 巻頭寄稿水の嵩 10

かっこうは一声ずつを水の嵩

藤の実は昨日をゆれるはずだった

まくら木を穂となる頃を観世音

 

高岡修 巻頭寄稿極死の蕊 10

永劫の包帯で巻く蜃気楼

かげろうの骨かと見れば立葵

爆死の木こうこうと夢接ぎ木せる

 

久保純夫 帝國U 20

あめつちを繋ぎ終えたりなめくじら

ガーベラのほとほと長き絶巓よ

戦友のために絡まり滑

 

大谷清 からふる 20

連翹は音である月の出になる

棒になるせつに黄金仮面のころ

印度孔雀の真つさかさまにあります

 

岡田耕治 枇杷の種 20

口づけの間ふくみし枇杷の種

夏の星突堤はまだ熱を帯び

入水す香水の香を強くして

 

久保るみ子 デラシネ 10

きっぱりと在り片蔭のデラシネ

乳房には無口な鴉突き刺さり

紫陽花を容れて男を志す

 

曾根毅 弥勒 20

淫らなる瞳のあたり鼓草

空蝉や開かれしまま忘れられ

ネオンのように乾きし街の一人なり

 

森澤程 焼却炉

水馬逆さ映りの男らに

青山河一重瞼のやわらかく

焼却炉グラジオラスを斜かいに

 

高橋修宏 あぶな絵 20

縄跳びにお入りなさい麦の秋

河骨のひとつは水子かも知れぬ

白蓮に光年という余白かな

 

久保純夫 特別作品 半実仮想 76

戦なり真空をゆく蝸牛

血迷いて軽くなりたるアマリリス

白鷺を宥めていたりみそかごと

 

朱に交わると却って本来の地色が際立つのではないか。幾つかの指標を定めてその程度をプロットすれば、相当に分散することであろう。俳句と評論が本誌の趣旨であり、山本敏倖氏、田中亜美氏、佐伯石画氏ほか同人諸氏の作品評がある。なお、『半実仮想』は別項で精読してみたいと思う。(2007.8.24)


ぶるうまりん6号(2005.5.20)編集・発行人須藤徹 編集チーフ田中悦子

 (2007.6.2)

 

須藤徹 特別作品40=律法

立冬や抹香鯨を空と思う

律法や半透明体に冬沈む

山姫に一滴抱擁はとこしなえ

 

山本左門= 特別作品30=野ぶだうを摘む

椿ひとつ時間の外へ落ちてゆき

野ぶだうを摘みしこころに水流る

西空に日輪濁る憂国忌

 

杉山あけみ= 特別作品30=乱反射

極月の皆透明になりたがる

氷壁の垂直もしかして奇数

いっせいに桑解け無声音のT

 

田中悦子=夜の奔流

死化粧男もすなり憂国忌

()ませり夜の奔流に()を立てる

寒の月信号のないけもの道

 

西野洋司=ケアンズ

冬眠のままなり盛夏の町通る

背景に密林イエローシャワーの花

どの店にも同胞夜涼のケアンズは

 

山田千里=点滅する

点滅する孤独のふちのクリスマス

ポインセチアの孤独から脱出

ピンクの靴下からはじまる不安

 

成川寒苦=落椿

大綿の二重螺旋に今をりぬ

結界を敷きたるごとく銀杏散る

樹上より地上に多し紅椿

 

渡辺隆夫=初鶯

雪女郎骨正月の骨しゃぶり

粉黛の夜に兵隊かケイタイか

亀戸の鷽替えられて初鶯

 

平佐和子=冬の金魚

鮫泳ぐ街手鏡のポリスマン

そのまんま世の中回る鮟鱇鍋

モンローの胸満月のかなしさの

 

土江香子=雪兎

さみしさよ何億ひきの雪兎

桜湯の桜おまえののぞみはなあに

化石かな脳の燭台もえつづけ

 

武藤雅治=さくらが散ったとか

はさみで切れないそこは花の笑み

きらきらとし若草きらきらと死

こゆるぎがいいのがれてきてもいつも海

 

井東泉=夕暮れの風

湖面ぷかぷか乾き切った穴の中

ビールの泡変人と焼きそば残し

ヘイヘイ平和明日首括る

 

野谷真治=全部赤ちゃん

ひぐらしうつりぎうつわはらはら

体内一つの架空が棲んでいる

そら全部赤ちゃんの海

 

冨田潤也=金剛

金剛の木枯しは透明ランナー

赤さびの魂の鳴る冬渚

春渚思想の残滓漂着す

 

村木まゆみ=刈田

刈田ばかりの大地に帰る旅の果

浮遊する意識の中の晩夏光

朝焼けに寒林の列並びけり

 

末永こるり=毒りんご

どのみちも行った切りの生命線

匂い立つ絶対黒の花と蝶

野に出でて磨くほど騒ぐ毒りんご

 

山田綾子=油膜の舌

竹皮を脱ぐ風致林のけものめき

湯上りに爪化粧鳳仙花散る

昼の月頬白疾うに棒の先

 

このうちの多くの句は生成過程のまま読者の体内に取り込まれるかのようだ。

体内での生成発展の余地を残してリリースされている。

特に、須藤さん、杉山さんの作品に顕著である。

わたくし得意のプリズム論が思い出される。

別稿で扱ってみたい思いが募る。


光芒5号(2005.5.1)発行人・久保純夫 編集人高橋修宏

(200.5.21)

 

桑原三郎 招待作品 雨の茶畑 

脳葉にさざなみ寄する揚雲雀

さびしさの毒吹き代わる桜狩

雪暗の欅を呼んでfinとしぬ

 

増田まさみ 招待作品 fin

脳葉にさざなみ寄する揚雲雀

さびしさの毒吹き代わる桜狩

雪暗の欅を呼んでfinとしぬ

 

久保純夫 特別作品 フォーシーズンズ 76

沈丁花あらゆる肉を自在にし

巻くほどに悦んでいる薇

黒揚羽おのが影吸うところなる

花水木紅を移していく途中

罪よりも科を選びし青葡萄

 

大谷清 特別作品 極楽鳥花 76

豊旗雲は添い寝してくれますか

マンボウの流刑になった月かな

あおへびのしばらくこんでんすみるく

鶏頭と絹糸の関係性

白梅に頭突きをくらわしてみようか

 

久保るみ子 特別作品 ジャングルジム 76

夕立や千の乳房のから騒ぎ

したたかや異国の貌の油虫

白菜の重きを抱え身ごもれり

億年の向こうにはじけ龍の玉

変容の光を赦し黄水仙

 

曾根毅 特別作品 袋の中 76

重力を粒子とおもう冬の蝶

おでんの底に卵残りし昭和かな

春の水まだ息止めておりにけり

滝おちてこの世のものとなりにけり

ひまわりの種になりゆく悪夢かな

 

高橋修宏 特別作品 美貌 76

猫じゃらしじゃらしじゃらされ誰か死ぬ

脳幹にたどりつきたる蟻の月

ピーマンのなか本日も晴天なり

山脈となれず寒夜の火打石

大氷柱三百六十度濁世

 

森澤程 雨戸

浅く寝て頭蓋に満ちるサイネリア

おっとりとほら貝の音をまといたる

新緑の点滅信号猫通る

 

岡田耕治 展翅板

マスクして見知らぬ眼現るる

めいめいに寝転んでおり雛あられ

沈黙を破ってゆけり展翅板

 

桑原さん、増田さんは寄稿。

特別作品は76首、5氏それぞれの世界。

それぞれくっきりした個が居並ぶ。

自我の主張にはあらゆる方向性があることのサンプルのようだ。

俳句という溶剤で日常と非日常を溶き合わせている。


桜狩118(2007.3.15)

 

わたくしの部屋 漠夢道

 

とパーズ唇まるめてみたけれど

傘をさしひとりの男そういえば

手をふりて別れてきたがゴリラとは

 

会ふことも 李錦上

 

丁亥の画材をひねる去年今年

マスクして心の言葉隠しけり

座右銘倦まず弛まず年明くる


光芒4号(2006.12.31)発行人・久保純夫 編集人高橋修宏

(200.3.3)

 

冬雲より陽の箭幾筋六林男の忌寺井谷子

冬の夜を読みて終わらす六林男の忌

 

雑草の実の出来秋と申すべし澤好摩

破れ蓮の父にしたがひ母は薺

 

くろぐろと神を迎えし蓮の花久保純夫

男のね女のかげのプルメリア

 

短日という枠の中散歩せり森澤程

白鳥の首に誇りのもどりけり

 

何も知らされていないハイヒール岡田耕治

風花のなかを不在の兆しけり

 

陶枕は皮膚につつんであげます大谷清

銀河衝突のうわごとにてかまきり

 

千両よ赤くなるまで科を溜め久保るみ子

大根を干す他はなし大男

 

燃えろ燃えろバーコード毎柩曾根毅

頬打ちし寒風すでに沖にあり

 

鏡中の指紋は消えず冬銀河高橋修宏

寒鯉の狂いはじめる荒天忌

 

相変わらず、多彩。分け入って、脚をとめさせられた作品を掲げた。

毅然とした寺井さん、下句をつけたくなるローレライの澤さん、久保さんは評論で「俳句とエロチシズム」を掲げている。

本号には森澤さんの句集『インディゴ・ブルー』の批評特集であり、藤原龍一郎さんも寄稿している。


ぶるうまりん5号(2006.12.20)編集・発行人須藤徹 編集チーフ田中悦子

 (2007.1.11)

 

特集が組まれていて 20063月に発足した『俳句W.W.W.(勉強会+句会依田注)』の活動状況が

田中悦子さんによって報ぜられているがそのタイトルが、やはり、『骨太の俳句へ』である。

よく姿勢が示されている。

わがフィールドから、といっては悪いか、その中に武藤雅治さんの名も見える。

またその武藤さんの硬質の評論『「詩的ジャンプ力」を』も『開放区』から

転載されている。須藤徹さんの句集『宙の家』が主題である。

 

 

須藤徹=代表 特別作品50=UNTITLED 2006-10

鶏頭へ金属の行く雨四粒

里山のどろんと緩む膝の上

退(しさ)る真夏の夢の齣落とし

愛咬や土蜘蛛の這う四畳半

陽炎は大地の吐息空から槍

 

 

田中悦子=特別作品30=純文学とは

さくらさくら生きて死ぬそれだけのこと

身の内の水使い切り昼寝覚め

人逝くや身を尖らせて冬に入る

 

成川寒苦=死を想へ(メメント・モリ)

咲きのぼる凌霄花「死を想へ(メメント・モリ)

その女不義者につきダチュラ咲く

 

山田千里=蛇口から

蛇口から梅雨になっていく

赤い爪に秋がとまる

 

杉山あけみ=端居して

桜蕊ふるや疑問符感嘆符

端居してヴェネズェラ産のカカオ豆

 

土江香子=地雷

脚一本腕一本ほしがる地雷

うろこ雲体制はなれ時空ゆく

 

西野洋司=梅雨明くる

短夜の立方体の睡りかな

梅雨明くる海靴紐を結ぶ間も

 

渡辺隆夫=フレンチカンカン

パリの夜はフレンチカンカンぞなもし

エミール・ゾラ背後に河合曾良

 

平佐和子=擦過傷

太巻きずしの端っこが好き

枇杷熟れる少年のどこか擦過傷

 

野谷真治=からっぽの墓

くうふくの空を喰う鰹節がある

9・11の空日ふりかかるからっぽの墓

 

井東泉=秋ぴぴぴ

放蕩や眠る白壁月笑う

鷹の目が画面を抜ける秋ぴぴぴ

 

末永こるり=千切れ雲

地平線おにぎりころころかくれんぼう

孝子さんおかくれのよし千切れ雲

 

村木まゆみ=でんでんむしむし

からっぽのでんでんむしむし冬の空

野池中西日一筋我が方へ

 

冨田潤也=跳躍

夏の海邪心という無心あり

鯉口を切ったまま秋老ける

 

藤井美智子=作り滝

あかさたなさてはサボテンさぼってん

こちらエッシャー作り滝見物

 

ことわりのないのは全て20句である。

題名を付ける必要性を感じた。

題名そのものの入った句はすべて抄出してみた。

あとはわたくしのつけあわせ。

一望すると全誌の姿がよく見えるようにわたくしには思える。

しゃりの握り方ねたの乗せ方はさまざま。

無論火を通したものもある。

別項でのべてみたい作家も少なくない。

 


光芒3号(2006.10.10)発行人・久保純夫 編集人高橋修宏

(2006.12.3)

 

早熟の鳥のよりどりマンゴー久保純夫

早網目よりメロンの鬱が始まりぬ

天空の沙の終りの乳房かな

 

短編のような横顔とろろ汁森澤程

露の夜を経てイヤリング大粒に

丸薬のころがりしまま二十五時

 

丹田に力を入れる法師蝉岡田耕治

恋愛の歩いて渡る天の川

裂け柘榴今のところはなだめおき

 

うつぼかずらうつかり情死しようよ大谷清

腫瘍めいて鳥目の鳥たちの交る

獏の世の音かと葛の花かと

 

男には隠しておきぬ牛膝久保るみ子

洋梨をなぞってゆけばくぼみけり

太刀魚の反りを確かめ切断す

 

炎天の瓦礫より書を掴みだす曽根毅

万年が晩年であり赤蜻蛉

罰として菊人形となりにけり

 

草莽のひとりふたりは猫じゃらし高橋修宏

どこからか国いつからか月夜草

体風の颱風の去りたるのちも猿のまま

 

光芒のバイタリティには圧倒的である。

上掲の全同人の書く20句はよいとしても、その他に同人4氏の殊別作品60句がある。

つまり、これを読み切るのには相当の時間を要した。

本欄もつまるところ感性で応じて引いているが、ある程度の説明可能性を頁主の良心として持つことも意識した。

そんなこともあり、歌関係の閲覧者にも見ていただきたく

本サイト《歌誌Oaks》に併載することとした。

なお、ゲストの齋藤愼爾、柿本多映両氏と特別作品は別項歌詠みの俳句読みに譲りたい。


空中底辺 8号(2006.11)編集発行人・十谷あとり

(2006.12.3)

ゆづられてどうぞの椅子に春のかげ十谷あとり

花散りぬ土葬の里の土に蘂

かげろうふや透明ランナー一・二塁

ピアニカのソの鍵盤の青嵐

シャツは白 炭酸水のひとくちめ

十字架のあまた枯れゆく秘密基地

 

今号は自身の歌を一切出さず、

加藤さんの『スサノヲの泣き虫』評と、

自作の漫画と上記をHAIKUとして14句書いている。

HAIKUは俳句と一線を画するものなのだろうか。

饒舌がイノチの十谷さんゆえ、これで表現が尽くされているようにも見える。


現代俳句文庫61久保純夫句集(久保純夫)2006.10.7〔ふらんす堂〕

2006.10.29

 

久保さんのこれまで全六句集からの360句自選+新作40句という集成。

かつ、巻末に『近頃は、読み手それぞれの水準で読めるような書き方を採っています

この方法は、私自身が読者になったとき、とても刺激的なのです』とある。

この表現自体が実は刺激的であった。

悪い癖で何か形に纏めようとしながらゆきつ戻りつした後でこのあとがきに出会ったので。

そうだ。ランダムが自然だという次第。

40年間異端を張り通したと思しい作家一代をシロウトの捕虫網が捉えうるはずもなく。

◆◆◆

木蓮よ「その白い魔女を風葬に」瑠璃薔薇館(第1集、22歳時刊)

ひかる産毛少年海星に釘打ち込む瑠璃薔薇館

先頭の作品は第1句集冒頭、つまり出発点の記念樹である。

この両作はともに自我と抒情の肌理の入り組んだ不織布である。美を操縦しようとする客気が際立つ。

◆◆◆

死にぎわの髪逆立つは薔薇の午前水渉記(2集、29歳時刊)

判らない句に立ち止まって、丹念にそれを吟味する作業はいつの場合もなかなかに尊い。

もとより、短詩形には、書き手と読み手のコラボという要素があるので当然とも言えるが。

但し、実際に、愚読によりひしゃげた短歌は実に数多く見聞している。

注意しつつ、さて本作品。

『薔薇の午前』は『午前の薔薇』を同値であろう。

俳句の手法なのか久保さんの手法なのか、いずれにせよ俳句定型の短歌定型に勝る緊密さの所産と読んだ。

盛りを過ぎた薔薇の老残に的を絞った意図は筆致にみなぎる腕力から、わたくしにも十分な刺激をもたらしている。

◆◆◆

夕焼の耳噛めば耳かたくなり聖樹(第3集、35歳時刊)

夕焼けの耳を噛んだら、耳が反応したのだという。

《呼応》というよりは《拒絶》だろうな。

その前段階は作者と夕焼けの対峙であろうから、余人はいない。

つまり、この作について、リバースエンジニアリングを試みれば

この句の《前言語状態》は、@社会からの淡い拒絶、とA自己の何らかの意味での夕刻的状況、の両者だっにちがいない。

その2つの光線を離れた2点から照射したところ、その交点たる脳裏に《夕焼》が浮かんだのである。

青春の晩期、青春の夢の残骸への愛咬の結果の、ややに寂しい歯ごたえ、とわたくしは読み、

コラボレーションを終えたい。

◆◆◆

鶏頭のうちなる色を問われけり

外剛内柔しからずば外剛内剛とやら。

外の赤いリンゴの中は白いが、同じく外の赤いほおずきの中は赤い。

鶏頭の内部は恐らくは実体的には赤いのだろうが。

構造自体が『問われ』たことを問うているという不思議複雑構造。

無論、日常語訳は「あなたは何者?」

◆◆◆

さて一転、最新句集『光悦』は完成体にて《以心伝心・不立解説》の香気が立ち込める。

蓮の花すべてを入れた感じかな光悦(第6集、57歳刊)

蓮の花先っぽだけでいいという

数珠玉やひとつ廻ればみなまわり

筍の放っておけば唸り出し

ゆきずりのよもつひらさかものの尻

おおむね、本然に起居、このうち4句目は孤絶に絶えかねる態を醸している。

なお、最初の句の『かな』は《かな?》と採っても行ける味である。

◆◆◆

肉体を水の途中と想いけり光悦以降書き下ろし

種茄子凄んでいるをふところに

「光悦」と同様波長での増幅バージョン、

以心伝心を言葉にするは悲しくも野暮ったいが、

前者には《色即是空《、後者にはに《男魂》を思い重ねる次第。風味絶佳、滋養秀抜。

◆◆◆

久保さんは句誌《光芒》発行人。現代俳句協会会員。

 


朱華(はねず)W(希の会合同作品集)2006.8.1〔希の会〕

2006.8.29

 

13家の一斉放水は壮観である。巻の後半には各人のエッセイがあって

それによれば句歴が深くないお人もおられるらしいが。それぞれに勇気りんりん。

《哲》

思念かな大鷲の目を光背に       長澤奏子

木々すべてゆるる山藤ゆるるとき    後藤澄湖

大牡丹咲かすさ枝の支へ竹       蛭川らくだ

《poesy》

鉄匂ふさりとて空は三月ぞ        伊藤風々

白釉の横に一筋銘野分          東浦枳実

風にゆれ耳立てているかきつばた    花岡佳子

《機微》

南風吹く手打ちの麺が整列す      小栗紀洛

薫風やバンジージャンプの背押されし 久保和枝

自然薯や庭にごろりと置き土産     西垣美幸

《心理》

犬の字に犬寝てゐたり暖かし       清水清美

実体を見抜く眼光懐手           津嶋 和

路地裏はすべて筒抜け青嵐       長澤雅子

《彎》

黒南風に路上ライブのチューニング   松田志麻

 

ここでの編集は、わたくしが、印象深いものを1句選、

それをわたくしの見出しでシャッフルした。

どうしても、振れ幅を検証ないし顕彰したかったのである。

であるから、原編集者の意図を損ねている危惧がなくもない。

***

さるすべりシロウトワザのあさはかや


未定;季刊同人誌 86号(2006.7.30)編集部 玉川満

(2006.9.3)

 

日常語で唯一の希臘語のholonを思い出す。

一見混沌の均整。

但し、全員がてのひらに《硬》という文字を書いて握り込んでいるかに見える。

またの日に別稿で読みほぐして見たい。

 

泉史

統治するブリキの虚無の魂まつり

ガウディの眼を鋸で挽き万年青の実

 

後藤貴子

膵臓がころがる朝のフライパン

わが子孫選ばん星の瓦礫より

 

伊藤聖子

詩語の質量 多宇宙(マルチバース)の 風に溶け

波のなかの獣のなかのわたくしの

 

神山姫余

 

爪噛みし

 少女に

  赤い

      羅針盤

 

孤 を

      えがく

    蜻蛉に

   赤い

    防腐剤

 

木村聡雄

りさちゃんはぐうよりぱあよりちょきだから

人形のたましい焦がし焦げる朝焼け

 

高橋比呂子

曲がり角利休もすなる懐手

序破急とさるすべりとはちがうのね

 

高原耕治

 

花三昧

 

亡霊と

花を泳ぎて

 

 

朝だ 瞳よ

脊髄を

極彩色の

魚群がのぼる

 

滝口浩

冷凍器の思いのままにさせず我が主体

山に入り出てこられない不安

 

田辺恭臣

 

卜形(ぼくけい)

亀裂(きれつ)

火灼(かしゃく)

咒 祝(じゅしゅく)

 

天平(てんぺい)

ひとり

比叡(ひえい)仮寓(かぐう)夜明(よあ)けを

ひとり

 

富永隆一

虚構的(フィクテフ)は目を伏せて見つ柿を噛む

天の月 地の膿 または狂い風

 

西口昌伸

 

柳のごとき

影と連れ立つ

 

非常口

 

 

この羽化

畢はるか

見返り美人の

立ちはだかれり

 

森田雄

蜂に刺されし天啓の雷鳴ぞ

万緑は精神腫瘍科医ならむ

 

山口可久実

夏の海沈む目玉を捜さねば

山霧ににんげんはみな尾を消して

 

山本翠

巨大なる 幻想球の 春に孵化

水の星 錬金術史に 降り積む 雪

 

吉村毬子

唖蝉が栖む脳天と足首

胎内の冬草だけが立ちあがる

 

五十嵐進

日本海を汲み上げて咲く梨の花

虫の音は猫の形をして歩く

 

鈴木晩菊

充血の子宮に宿る秋茜

内省をしずかに解ぐす秋の雨

 

村田由美子

楕円の彷徨する時の宴 七夕

海に鏡落として今日も晴れ晴れ

 


光芒2号(2006.6.30)発行人久保純夫 編集人高橋修宏

(2006.9.3)

 

歌の世界も生活界からは《異界》であるが

歌から見る俳句もまた《異界》である。

おそらく《みやび》《気取り》の牌を流し、《現実》《思弁》の牌を連ねて

役満願に組み立てたり、

意表一転、当意即妙の即立直をぶつけたりする世界なのである

 

津沢マサ子

天と地のつなぎ目みえて夏近し

晩夏とは頭の中の地平線

 

宗田安正

赤椿にもゆめゆめの禁句あり

陣痛のきざせし男芒野へ

 

久保純夫

肉体を水の途中と想いけり

少年はいつも菫に誘われ

 

森澤程

蜘蛛の糸みずうみはもう溢れそう

遺伝子の暴れつづける青山河

 

岡田耕治

恋猫の残りし方と目を合わす

向こうから声のかかりし春の山

 

大谷清

名馬あれはなみださしぐみさんしゆゆ

鹿よぬすまれはなびらのひらがなの

 

久保るみ子

なめくじら天才なれば戦わん

夕顔の百を数えて死にゆけり

 

曽根毅

鯉の上に群がる鯉の口かなし

しばらくはこの道をゆくくちなわよ

 

高橋修弘

発火する旱の森の爪楊子

天啓のまなこ明るき蛇苺


ぶるうまりん3号(2005.12.20)編集・発行人須藤徹 編集チーフ田中悦子

 (2006.9.3)

 

文芸を評するのにスポーツを引くのも能がないが、個人演技の競演は

フィギュアスケートを見るようだ。

自由にして円滑。

尤も、突出度、危険度はこちらの方が遥かに高いが。

ところで、

ぶるうまりんの2号を評して武馬久仁裕さんがこの号に書かれている。

『一人ひとりが個性を思うがままに発揮している』から『実に面白い』と。

この言に励まされて、わたくしの愉しく読むスタンスに自信が持てた。

 

須藤徹

婀娜の人の腓返りも四月尽

頭蓋の中人声昏し菖蒲園

 

田中悦子

あいまいは罪ですか模糊として梅雨

たましいの漂うに似てひまわりは

 

平佐和子

領分は犯すものなり凌霄花

三枚におろす二枚目鯵一品

 

村木まゆみ

青田中 霊の世界の話聞く

野薔薇にも捧ぐフォーレのレクイエム

 

山田千里

心臓からとびだしているおぼろ月

アマリリス最後のキスはいつですか

 

渡辺隆夫

おーいクジラ湾内遊泳禁止だぞー

短か夜や今宵殺られちゃたまんない

 

土江香子

泳ぐ 海につつまれ体なくなる

冬雨の常連客気化液化

 

成川寒苦

蟻の巣見てをれば蟻の句できるか

補陀落へ船乗りせむと黄釣船

 

西野洋司

スイスにも青葉の桜バスを待つ

いまふるる氷河の肌太陽よ

 

野谷真治

紙屑からっぽ死のぬくもりがあった

みずみずしい光の中秋刀魚の矢印

 

井東泉

白い夏青く青さへ気がふれる

男と男もののけ女囮籠

 

末永こるり

夏粘る秋の気配をいまここに

いつまでも夜が真昼の中にいる

 

杉山あけみ

薄目して鰐の憂鬱仏生会

ツーアウト一塁蜥蜴穴を掘る

 


船団69号(2006.6.1)代表・坪内稔典

 

世界吟遊なる競詠がある

34ペア7組、ひとり旅16人のバーチャルの旅という趣向。

数句の競泳のあとで旅行について対談をする念の入れようである。

 

カイロ

テンペラのホルス神笑む日永かな  丑丸敬史

春筍やデルタやたらと目について  芳野ヒロユキ

バンコク

万緑と咲き誇る也ホーチミン  江渡華子

涅槃寺を隠すカーテン虎ヶ雨  倉橋愛

 

***

えんやこりゃヘイラーホップ七面鳥  為成暮緒

  クレヨンの集団脱走無月の夜  中島砂穂

サンドレスアップダウンが生きてる証  荒川直美

ぱらりぱらぱらりぱられろ春の海  赤石忍

死せる百足生ける細君走らせる  大年厨

立っているここが地球の春の臍  久保エミ

   恋い漣k戀ひとつころ

がしておる  蘓原三代

夕立やほめもそしりも鬼瓦  平井奇散人

 

わたくしの引き方にも大いに拠るにせよ

自己発の照射への執念はきわめて高い。

ときに水、ときに火炎、ときに光線、ときに元気玉。


 

四季十段 酔夢(長澤奏子)2006.初夏〔らくだ文房〕

2006.8.8

 

バイリンガル2句以外は全て「折句」という異色作品集。集全体に自在さが漂う。

長澤さん自身の言に「五七五で遊んでみた。それでも一句一句はまじめに書いたつもりである」とある。

先ずは数を埋め込む。

夜草ひよ世を吾と道連れに(春)

無三泳いで行けり沖の歩へ(夏)

二十夜の月待つ何を願ひとし(秋)

冬濤の堺泡立ち止まざりき(冬)

◆◆◆

実際の排列はそれぞれ季語を伴なう春夏秋冬別であり、それぞれ一は1字目、二は2字目となり

一連十句仕立てである。ここでは、あや織り編集にしているので原著とは風合いが当然違っていることを承知されたい。

であるから、当然、十は10番目に位置される。

『四季 十段』の名はこれに由来する。

春日の石積んでゐる字路に(春)

憂き人の軒陰に干す約かな(夏)

敗れ蓮の鋭角なりし全かな(秋)

雑踏を来て個に戻る二月(冬)

◆◆◆

さて『酔夢』の方は、書き出しを《いろは・・・》《あかさたな・・・》で織り綴る。

内容もまた変幻自在。印象的な句も多い。

海ばかり見てゐて蝶になり損なふ

山路来て菫をしかと見定めむ

定型を串刺しにして晒しけり

◆◆◆

バイリンガルの作は筋肉質である。

冬湊私自身蜃気楼

Winter harbor

Gazing on a Mirage far beyond the shore

Felt was I in it myself.

句の小回り・大柄を堪能した。


句集・つづら(福井(たか))2006.4.5〔星雲社〕

2006.6.28

 

福井さんは大刀(短歌)小刀(俳句)をたばさんでいるが、先に抜いたのは小刀であった。

元来、狂歌と川柳の例でも明らかなように長いものは叩き斬るに適し、短いものは刺すに適する。

◆◆◆

蝶ふたつ飛線のくさりあるごとし

湧水のほこらほこらと寒明ける

破れがさ骨を拾ってくれますか

雲たれし花野沖からまったいら

三日月や投げ縄ひょいとかかりそう

両刀使いだけに、その差異をわきまえたものか小太刀はあくまでも軽妙である。

さしあたり、初手の先の先の業。

◆◆◆

花吹雪ときに剃刀かもしれず

新涼や身辺に猫ふえており

いなご食む文明論の分岐点

散り紅葉肩に触れさせ縁となす

しかし、八双に構えて、攻防を勘案するとき、世の中の重みを量るときの剣尖はギラリと光る。

◆◆◆

絵心に火のつく速さ蕗の薹

大太鼓どんどこどんどこ銀杏散る

空っ風屋根の夕日の大きすぎ

序破急の急も随所に展開される。フォルテが示されると句も炎上するようだ。

軽捷60句の本著は「ことばの贈り物シリーズ」と銘打たれている。


日常六句(2006.5.4

 

閏 牙彦

 

六区より《つくば新線》滑り出す

 

仰角に思い出かざす寸秒や

 

数瞬を待つ間に牡丹熟れており

 

四苦八苦指折り直し紫の節句

 

突き指にとどの詰りの捨て台詞

 

唐突に篳篥泣くや草蒼蒼

 


桜狩111(2006.1.15)

 

月の砂漠 漠夢道

 

人形の唇らしく午前午後

夏草へからだ沈めてみればわかります

先ず椅子に座る男その1昼下がり

 

流木 李錦上

 

灯の色は萬紫千紅秋まつり

流木 犇き合ひて月流る

 


拾遺(某日)

 

川村平

 

戯れごとの果ての果てなる寒さかな

 


HAIKU(空中底辺)(2004.5)

 

十谷あとり

 

たこ焼は経木の舟に実朝忌

天鼠くるめく五線の中のモーツァルト

ストローに病痾吹き込む水圏戯

老いぬればひなたぼこりのぐりとぐら

 


 

未定85号(2005.5.30

 

伊藤聖子

 

同一性に回収される (まち) のにおい

粉雪のもとにふらっと真肉の木

 

清水昶

 

鬼面舞ふ桜吹雪の能舞台

初産の悲鳴が聞こゆ春の闇

 

矢田 鏃

 

繊細に八頭など思ふべし

一一の通草一一歪み見る

 

吉村毬子

 

磯姫の宙なんなんと追儺かな

角面張力の冬日になる鷗

 

高原耕治

(四獣門)

 

虚名残の海嘯

喪神

海に

鎖されて

 


未定82号(2002.6.7

 

吉村毬子

 

母透かし青水無月の赤子かな

 

死真似す桔梗の涼しき破裂

 

 

豊口陽子

 

どの家も棲処ではない渡河の藪姫

 

薮原に藪の諧調薄日を吹く

 

志賀 勝

 

見上げれば雨後出あとだしの大八州

 

勇気こそかの避雷針の角度なれ

 

高原耕治

(四獣門)

 

虚空鈴慕

 

四肢の金粉

けぶらせゐるに

 


偽凶銃ワルサーP382002.2.17

 

閏 牙彦

 

春怒鳴り軍用ワルサーP38

 

春立てば凶銃凛乎応じ立つ

 

装填を集めて早き試射誤入

 

起傾斃の文字列何ら作為なし

 

偽凶銃(モデルガン)黒そこそこの男伊達

 

将門のリベンジ近しカタン糸


未定81号(2001.11.30

 

大西泰世

 

向日葵の折れて天地を所有せり

 

大欲の無欲の曼珠沙華手折る

 

木村聡雄

 

A fixed form

That had discovered

Jamais vu

 

見出されたる定型という未視感よ

 

Where does the reality bigin?

And the doze end?

どこからがうつつ どこまでがうつらうつら

 

泉 史

 

向日葵の折カーネーション枯れ奥浩平のために買う

 

名月や蚤の幽霊ふわつと浮く

 

奥浩平は頁主の家に遊びに来たことがあった

 

豊口陽子

 

液化する途中の耳に視力あり

 

思弁は風へ、花弁は女神柱を去れ

 

中里夏彦

 

瑞照みずでりの頭蓋ずがい蒼穹さうきゅうひあへり

 

天蓋不覚てんがいふかく嗚呼ああと日輪にちりんこたへたる

 


未定80号(2001.8.10

 

高原耕治

 

四獣門・序

 

死霊まじりの

なま雪

霏霏と

降る なま富士

 

虚空

死す

香枯木の万歳

死木の叫喚

 

 

***

 

研生英午

 

淫 雨

 

水音

の 中から

黒豹

還り来よ

地母

 

走り止めぬ 日

哭き止まぬ 風

蔭り出す

 

西口昌伸

 

闇を陣取る

大花火

 

けむり遺れる

 

田辺恭臣

 

鐘 打ち鳴らす

喚起の

伽藍

さあれ 絶嶺

 

豊口陽子

 

夥しき草かんむりや揚雲雀

 

は花独活はまろうど月夜の開脚跳び

 

伊東聖子

 

喉の中に複眼をたたむ 距離 の 介在

 

死の理論 精神の陽動 白い芥子


ES創刊号群蝶(2001.5.31

 

生野 毅

 

沖へ泳ぐ緑青の四肢を刃とす

 

千年は野の群狼を影となす

 

浮き舟や野焼きの縁に青痣せり

 

初雪に胡散散る地下茎のほくそえみかり産卵期

 

層雲をあまた蛇行が狂いおり

 


ワルサーP38(初公開 2001.1.11

 

閏 牙彦

 

遊底にひたと副えたるたなごころ

 

機には敏摸擬銃なりのそこびかり

 

空絶句それはそうだろ初絶句

 

初雪に胡散散るかや鬱金染め

 

俺の爪銃爪の脇鷹の爪

 

妄執や春雷こそが落し主


未定79号(2000.10.25

 

高原耕治

 

四獣門・序

 

永劫

剣にしづみ

炎ゆ

素粒子の高祖よ

 

海峡

耳に昏れたり

独走の

帆となる鼓膜

 

 

***

 

研生英午

 

水 霊

 

白狐

刹那

の 咆哮

極星

蒼き

 

 

三たび

揚羽

濡れにけり

 

 


 

「貴腐」藤原月彦著  1981..16 深夜叢書社

 

 

昔日のロシヤは露の西ならむ

 

春は雪西より電気来つつあり

 

母系の火父系の天の夕雲雀

 

死火山の裏側凄き没日かな

 

ゆく秋の午前の黙秘午後の舌


 

「弾道」八木博信著  1994..10 弘栄堂書店

 

 

金星の支配逃れて俺滅ぶ

 

猟師なら通草黙せるまま食べる

 

わが足下深く地球の汽笛鳴る

 

俺も走る虎になりたき夜明け前

 

流鏑馬の射る矢が残す同位角


 

「メトロポリティック」夏石番矢著  198..25 牧羊社

 

 

斬るぞ夏石番矢の匂ひを着る女

 

風吹かば丘の麒麟の鏖みなごろし

 

百日紅この国もまた地の創きず

 

立入禁止かんらからから・Coca-Cola

 

裸木よ今夜も星星は誤植だ

 

ゆく秋の午前の黙秘午後の舌


未定68号(2000.6.25

高屋窓秋特別追悼号より同氏追悼句

 

 

有賀眞澄

 

 

白から白へ白の悲しみ飛び火せり

 

相転移うゐ術中初明り

 

砂場より黄泉へキメラの砂遊び

 

***

 

高原耕治

 

 

恩讐

無尽

啜り泣き泣く

白い夏野

 

招くは美神

霞の奥に

白虎を

薫じ

 

降る雪の

素顔の

ここが天蓋

白装束がくだる

 

 

***

 

研生英午

 

転 生

頭の中の夏野寂しや童子の輪

花吹雪空より四ひらの露の兎

 

白 夜

陽の影は虚空の影なり午ひるの極星

鶴の声高々「時の踊り終へ」

 

風 塵

風花のちりぬる太古の海遠き

ふいに無音卜なる時間蝶蝶登仙

 

「   」

空蒼き昨夜きぞ此処の栖すみかの高さよ

鳥風は天の響きぞ窓の秋

 


 

 

「斐の学派」に林立する屈強句

 

**

きのふ女今日妻あすは葱坊主(大木あまり)

 

想念とまっかな薔薇をクレラップ

**

 

泥まみれ月の背深々破船の行方(研生英午)

 

遠ざかる水の惑星闇尖る

**

女だてらを問はず語らず冷やし酒(風花銀次)

 

つゆほどの昔かたぎや菊の酒

**

まほろばの風を射落とす裏メシヤ(内田正美)

 

その前夜海を吸い上げ太る空

**

すさまじき夜寝る獣とその餌たち(有賀眞澄)

 

霧これも俺を浮力の帆船か

 


 

「虚神」高原耕治著  1999.9.5沖積舎

 

この旅

恐ろし

うみは うみ噛み

そらは そら噛み

 

さあ かす たけ なは

立つ

抽象の

絵ろうそく

 

白き大鈴

夢に荒なり

<来い>とのみ

 


 

                                 

「貘の来る道」武馬久仁裕 (ぶま くにひろ) 1999.7.7北宋社

 

 

淋しさは身体髪皮膚蜃気楼

 

左手に古事記右手に百日紅

 

風を待つあばら花びら無人駅

 

 

 

 


 

リシアのアの音ひびく雨あがり    鎌倉佐弓

 

暗号のやうにサクラのふりそそぐ   宇田川寛之

 

美酒しきり臥龍もどきの我流とや   閏 牙彦(うるふ きばひこ)