ぜんざいの悲劇

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1200年の歴史を持つ和漢薬「陀羅尼助」(だらにすけ)を作っていた大竈や、中将姫剃髪の場所と伝えられる剃髪堂、優美な庭園などを有する中之坊、その白壁の側まで戻ってきたが、未だ午後2時半だというのに辺りはもうだいぶ薄暗くなってきてしまった。雨に会うことも懸念されたので、中之坊はパスしてそそくさと帰路についた。

当麻寺駅の側まで来ると「中将堂本舗」という茶店が目に付いた。「寒い〜、お腹が空いた〜」と愚痴を漏らしていた妻の視線がその暖簾の上に張り付き、動かなくなった。私はまだあまりお腹は空いていなかったが、やむなく小休止をとることにした。店内では先ほどの當麻寺境内の紅葉を枝から摘み取っては、「おとうちゃんに見せたろ」などと大声を上げていた関西弁のおばちゃん連中が既に陣取っていて、賑やかに談笑をしていた。

注文したぜんざいにはほどよく表面を焦がした草餅が2つ入っており、口にすると香ばしい香りが口内に溢れ、大いに食欲を誘った。ぜんざいは瞬く間に我々の胃袋へと収まり、食卓から姿を消した。脇に付いていた塩昆布の味を思い出すと、今でもじわっと唾液が涌いてくる。

再び近鉄線に乗り、西大寺まで戻る。次の目的地の秋篠寺へ行くためだったが、大和西大寺駅に着いたときには既に午後4時になろうとしていた。冬期の寺の拝観時間はどこも午後4時30分までなので、急ぎ足で駅前のバス停に出てみた。しかし、秋篠寺行のバスの出発時間までは15分もあることが分かり、その日の拝観は諦めざるを得なかった。結局、この日奈良に来て訪れた寺は當麻寺の1つだけということになってしまったのだった。やはり、あのぜんざいが余計であった。うらめしや〜。


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