4月の終わりの日は、網膜の裏まで青が沁み通る素晴らしい好天だった。
紺碧の背景にランドマークタワーが漆黒のシルエットととなって立ちすくむ様や、 空から落ちてきた初夏の光が物干し竿の洗濯物に弾けて白く輝くのを、 暗い居間の椅子から見ていた。 頭の中の無意味で希薄な沈殿物が蒸発を始め、揺動しながら徐々に凝集し、 見覚えのあるおぼろげな形を作っていく様をぼんやりと眺めていた。 「日向薬師に行こう…」そうわざと口に出して、空間に浮かぶ曖昧な物体に 意味を与えてみた。
明るい灰色の草葺き屋根の仏殿が緑の木々や裏山を従えるように立ち、 その中の暗い空間に仏たちが静かに瞑想に耽っているに違いない。 屋外から中に入ると暫くは黒くうずくまるようにしていた仏たちの表情が、 目が慣れてくるに従って次第に迫ってくるのだ。 如来たちのあの慈しみの怜悧な視線や、菩薩の穏やかな救いの表情が。
そんな光景を想像していると、いつしか、どうしても行かねばならないと 思うようになっていた。