B 準備と旅立ち 2014.7.29

いよいよ巡礼の始まり。(1番・霊山寺)

 出掛ける前、2ヵ月は多忙だった。全て歩くのなら、一番の霊山寺の門前から歩き始めれば遍路は始まるが、私は交通機関を使わなければならない。一日どのくらい歩けるか、スピードは、疲労は、分からないと利用する交通機関が特定できない。その基礎がないと、日々の計画も宿泊場所も定まらない。そのため、歩き遍路の地図(へんろみち保存協力会編)を読みながら予定表を作った。

 午前中は目標を定めて歩き、午後からはパソコンで資料づくりの日々。何度も地図を行き来し、歩行時間を定め、可能性を確認し、一日一日を積み上げ、29日間の計画ができた。あとは実行するのみ。持ち物は、着る物、雨具など最低限にし、靴擦れや湿布薬も準備し、長歩きに備える。それでも、納経帳や参拝のための山谷袋を含めて8sとなった。これらが1ヵ月のわが友と思うと、山行のザックが違って見えた。

 列車は順調に私を四国へ運んでくれた。岡山駅で編笠と金剛杖を持った人とすれ違う。羨望と不安が心を過ぎる。一番札所・霊山寺の下車駅で、福岡の2人づれと会う。2人は徳島を区切り打ちで歩くとか、宿は一緒ではなかった。

 予約をした遍路宿は、家主が玄関前で片づけをしていた。私は躊躇した。「宿ではない、豪邸だ」。優雅に生活をされている豪邸である。大きな敷地にお寺の伽藍のように建物が並び、手入れの行き届いた中庭、重厚な調度品、そして夕食時にピアノの調べ等。伺えば、ご主人は彫刻と絵画を趣味にされ、奥様は書道。東京にお住いのご子息は音楽の先生と、芸術一家のご家庭に宿泊させていただいた。遍路宿のイメージを変え、非日常の入り口に相応した一夜だった。(Y.I)