Q1-4 特定目的鉄道事業者とは


A1-4 許可基準が緩い観光用などの鉄道

 2000年3月施行の改正鉄道事業法で鉄道事業への参入の需給調整規制が廃止され、従来の免許制が許可制に緩和されたのは前述の通り(Q1−3参照)ですが、許可の基準は原則として、免許時代のまま維持されました。ただ、一部の鉄道事業については基準を緩くしても良いのではないかとの考えから、改正法では「特定の目的を有する旅客鉄道」を経営する特定目的鉄道事業者に関する規定が新設されました。

 ■採算性、継続性問わず

 通常の鉄道事業の許可基準として、鉄道事業法は第五条一項で、事業計画が(1)経営上適切(=採算性)(2)輸送の安全上適切(=安全性)(3)事業の(継続的な)遂行に適切(=継続性)(4)事業を的確に遂行する能力がある−−の4条件を規定しています。鉄道は不特定多数の人や貨物を運ぶ公共性の高い産業ですから、簡単に経営が破綻したり、安全面で問題が生じたり、勝手に事業を投げ出されたりしてはならないことは改めていうまでもないでしょう。

 しかし、こうした基準は「鉄道」と名のつくものすべてに一律に適用する必要があるかというと、そうとも言い切れません。例えば、ある遊園地への集客だけを目的とした鉄道を考えると、事業の継続性は問わなくても良いかもしれません、。仮に鉄道がなくなっても困るのは遊園地の経営者ぐらいで、地域の交通体系全般にはさほど影響がなさそうだからです。こうした観点から、改正法の第五条第二項では、特定目的鉄道事業者については、前記4基準のうち(1)と(3)、すなわち採算性と事業継続性を事業を許可する際の基準からはずし、(2)の安全性と(4)の事業遂行能力だけで判断することにしました。もちろん規制を緩和したといっても、安全性など残る基準については、通常の鉄道と同水準が求められていることはいうまでもありません。

 ■対象は観光用

 それでは、具体的にどのような鉄道が緩和された基準に該当するのでしょうか。これについては、鉄道事業法施行規則第六条の二で「景観の鑑賞、遊戯施設への移動その他の観光の目的を有する旅客の運送を専ら行うもの」と規定されました。つまり、上で例示した遊園地への足などが該当するわけです。基準の緩和により、許可申請の際に提出する書類も少なくなります。その分、事業者の負担は軽減されることになり、従来よりもこの分野の鉄道事業の参入のハードルは低くなったといえそうです。

 意欲的な内容が盛り込まれた改正法でしたが、施行後しばらくの間は、この条文を利用して特定目的鉄道事業の許可を申請しようとする動きはほとんど見られませんでした。
 それどころか、せっかくの法改正の内容をPRしようという動きも見られず、「特定目的鉄道」という表記は、このページ以外にはネット上でもほとんど目にすることがないという状況が長らく続きました(やや手前味噌な記述ですみません)。

 ようやくクローズアップされるようになったのは、2006年のことです。北陸新幹線(長野新幹線)高崎〜長野間の開通と引き替えに廃止になった旧・信越本線横川〜軽井沢間の復活を目指す「碓井峠交流記念財団」が、鉄道事業法の許可基準を特別に緩くする「構造改革特区」の指定を国に求めたところ、国土交通省側が「現行法の特定目的鉄道の規定で対応可能」と回答したのです。残念ながら同財団は、諸般の事情から今のところ、実際に許可を申請するまでには至っていませんが、実現に向けて少しずつ前進しているようですので、今後に期待したいと思います。

 ■実質第1号は北九州に

 横軽復活を目指す財団の動きが広く報道されたことで、特定目的鉄道について知った関係者も多かったとみられ、これ以降、廃線を復活させる手段として、特定目的鉄道に言及した報道が散見されるようになりれました。
 具体的には、(1)2005年9月に台風で壊滅的な被害を受けて休廃止に追い込まれた高千穂鉄道(2)2006年12月に廃止された神岡鉄道――の2つです。
 高千穂鉄道は、地元関係者が出資した別会社「神話高千穂トロッコ鉄道」が運行再開を計画しましたが、資金集めが不調で頓挫。その過程で、特定目的鉄道として再開を目指すことも検討されたもようですが、出資者構成を改めたうえで社名を「高千穂あまてらす鉄道」と改めた後、まずは鉄道事業法に基づかない公園の遊戯施設として一部区間を運行する方針に切り替えたようです。
 一方、神岡鉄道の観光鉄道化は当時の岐阜県飛騨市長が表明。同市は、親会社だった三井金属鉱業から15億円もの寄付金を受けましたが、2008年2月の市長選で計画を推進していた現職が落選。計画は白紙に戻ったようです。

 このように、なかなか実現までこぎつける例が現れませんでしたが、2008年3月、かねて門司港レトロ観光の一環として観光鉄道の整備を計画していた北九州市が、日本貨物鉄道(JR貨物)の休止区間を買い取るとともに、駅構内の側線扱いとされている旧「田野浦公共臨港鉄道」の一部を整備し、旅客列車を走らせるプランをまとめ、運行事業者となる平成筑豊鉄道とともに、国土交通省九州運輸局長に特定目的鉄道事業としての許可を申請しました。2009年度から観光シーズンの週末を中心に運行する予定で、この路線が、普通鉄道としては全国初の特定目的鉄道事業となりそうです。
 門司港レトロ観光線の成功を願うとともに、今後、全国各地で後に続く動きが起こることに期待したいと思います。

 (備考)
 (1)田野浦公共臨港鉄道を巡る経緯については、「Q5−2無許可の鉄道はあるか」を参照のこと。
 (2)北九州市を「普通鉄道としては」全国初と断ったのは、愛知万博の会場内交通機関として期間限定営業した(財)2005年日本国際博覧会協会「愛・地球博線」が特定目的鉄道としての第1種鉄道事業許可を受けたとの記述がネット上に見られるため(鉄道ホビタス「編集長敬白」2008年3月31日)。同路線の事業許可に関する2003年7月8日付中部運輸局鉄道部監理課のプレスリリースには、明確な記載はないものの、業務の範囲として「二千五年日本国際博覧会 愛・地球博の観覧、施設間移動のための旅客運送に限る」との記述が見られることからすると、特定目的鉄道の基準によって許可された可能性は高そうだ。なお、この路線は特殊鉄道「磁気誘導式鉄道(IMTS)」のため、普通鉄道としては北九州市が第1号であることは揺るがない。
 (3)北九州市や2005年日本国際博覧会協会の許可手続きが国土交通省本省(国土交通大臣)でなく、出先機関(「地方支分部局」という)である地方運輸局(長)によって処理されているのは 特定目的鉄道事業者の許可権限が施行規則第七十一条第一項第十三号により、地方運輸局長に委任されているため。なお許可権限が地方運輸局長に委任される鉄道としては、ほかに<1>期間限定営業の鉄道(Q1−2参照)<2>無軌条電車(トロリーバス)<3>鋼索鉄道(ケーブルカー)−−がある。
 (4) 現実問題としては、観光施設に関連した鉄道はこれまでも存在していたが、従来は「遊戯施設」として鉄道事業法の対象外として扱われることが多かった。(例えば、阿武隈急行に接続している福島県の「やながわ希望の森公園鉄道」や、碓井峠交流記念財団が碓氷峠鉄道文化むら〜碓氷峠の森公園交流館「峠の湯」間で運行中の「トロッコ列車」など)。公園などの施設内で完結しており「2地点間の輸送を目的としていない」ことから、こうした扱いとなっているようだが、今後、遊戯施設と特定目的鉄道とがどのように区分けされていくことになるのかは、趣味的には興味深い点である。

(2008年5月7日最終更新)


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