『效果ある嫉妬の仕方』


【度を越えた嫉妬は禁物】

「女の一晩の嫉妬は男の愛情を一年縮める」といふ言葉がありますが、これは誠に尤もな戒めであります。程度の越えた嫉妬が思はぬ不幸を招いた例は、これまで世間に數限りなく示されてゐます。西洋の諺に「嫉妬は愛の焔」といふことがある通り、嫉妬は時に愛を彩り、暖めるものでありますけれども、それがまた、一寸でも度をこすと、さア大變、觸れる限りのものを燒きつくさずにはおかない、蛇の舌のやうな恐るべき火焔となることがあります。つまり嫉妬は劇藥のやうなものだと云へるでせう。よく調劑すれば、病者には必要な藥品となりますが、一寸間違ふと人の命を取る恐ろしいものなのです。嫉妬もそれと同じで、餘程氣をつけておかないと、調合を誤ります。そんな危驗なものなら、嫉妬は女の惡徳として絶對に封鎖してしまへばいゝぢゃないか、といふ人があるかもしれませんが、用ひ方により效果のあるものと知つては、完全な愛の持續を願ふものにとつては、敢えて此の劇藥「嫉妬」の適度の調合方法を覺えておく必要があるのであります。

【嫉妬の仕方】

 そこで嫉妬劑の調合法でありますが、この藥は元來が劇藥ですから、何かで薄めて使用しないと直ちに恐るべき反應を來たします。それならば何を配劑するかと云ふに、大體次の三劑を適當に調合することであります。

嫉妬(しつと)  ◯ .四

諧謔(ウヰツト) ◯ .三

滑稽(ユーモア) ◯ .三
___________________
      計  一 .◯

 さア、これで理想的な最新奇藥が出來上がりました。そこでこれを使用するのには、是非とも「機智」といふ注射管でする事が、また大切な用法です。

         無斷轉載:昭和三年一月一日發行
『婦人倶樂部』

         大日本雄辯會講談社


 嫉妬するには體力が必要だ。

 嫉妬するのは面倒だ。

 嫉妬されるのは煩はしい。

 嫉妬させるなんて失敬だ。

 嫉妬は曲者。

 嫉妬は魂の貧困。

 嫉妬は愛を生産しない。

 嫉妬は敗北。

                  燒き餅なら磯邊巻きが好きです。

                     


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