コマ−シャルエクター実用への道

 二年ほど前に某国の通販でコマーシャルエクター14インチF6.3を見つけました。日本円にして僅か三万円!こりゃぁ、買いだと思ってすぐに注文しました。送られてきたのは・・・シャッタのないバレルだけのレンズ、つまり本当にレンズだけ。安いはずです。でも、すごく綺麗で、これはこれでやっぱりお買い得だわいなと思いましたし、いずれ使えるときが来るであろうとのんびり構えることにして、とりあえずジナーボードにだけくっつけてもらいました。
  さて、シャッタをつけなければ全く実用になりません。そりゃまぁ、カメラ・オブスキュラのレンズとして使うなら・・・。まぁ、そんな阿呆な事はさておき、シャッタを奢ってやるには、僕としては二つしか思い浮かびませんでした。1.ジナーシャッタを使う。2.ソルントンシャッタを使う。1.の方法は、そりゃまぁ、ジナーかホースマンを買って使えば結構なことでしょうが、シャッタだけでも十数万はします。3万円のレンズに10数万円のシャッタ?じょ〜だんじゃなぁい、そんなお金はありません。で、これは保留(ボツ!じゃなくて、いつかは捲土重来を思っていました)。次のソルントンシャッタですが、南船場の鈴木特殊カメラで物色しましたが、口径の小さいものしか有りません。大きいものが入ったら連絡してくれると店は言いましたが、まぁ、当然の事ながら連絡など有りませんでした。次にOSカメラサービス。ここには大きいものがありましたが、ひどく痛んでいる上に値段も高い。値切りましたが希少価値とのことで値引きは渋い。どっちにもがっかりして、そのまま放っておきました。
 
 それから二年の月日が過ぎ・・・たまたま梅田の中古屋で見つけたのが、この「武蔵野光機シャネル5番シャッタ」でした。なんとまぁ、ふざけた名前かと思いましたが、見ればかなりの大口径、「もしかしたら使えるかも」と思いましたので、家に帰ってエクターの口径の寸法を採ってきました。後日、ノギスを持ってカメラ屋へ出かけ、寸法を採ってみると・・・・ああ、なんということか、レンズの方がだいぶん口径が大きい。しかしせっかくのシャッタとの邂逅です、ええいままよとにかく買って帰ろうと言うことで、持ち帰りました。
 武蔵野光機は現在のウィスタ。大型カメラのメーカーで僕の初めての、そして今でも使っている暗箱もこのウィスタ製です。もちろん、金属の大型カメラも作っています。
 とりあえず、写真の仲間にいろいろ教えてもらった結果、イメージサークルの広さを信じて、レンズの前につけることを強行してみようと言う事になりました。そのために何が必要か?レンズ後部のリングがなんとか既製のものと合えばよいのですが、中途半端な口径でしかもメスです。メス同士をつなぐオス−オスのリングは口径が小さすぎるしさて困った、ところまたしても仲間の暖かいお言葉「エポキシでくっつけちゃったら?」。そんな荒仕事が出来るのも大型の世界ならではではないかという言葉に後押しされて、フィルターの枠でもくっつけたら・・・と思いました。そこでひらめいたのは、ケンコー製のフードやスクエアフィルタに使われているアダプタリング!あれなら糊代が大きいぞと思って、手元にたまたまあった口径67のリングをはめてみたら・・・あらま!ぴったりじゃないか?らっきぃ!これも日頃の精進の賜、これで、あとはレンズ側の口径72との間をステップダウンリングでつなぐだけです。(この写真は撮影のためにリングをくっつけるのとは逆にはめ込んであります)
 さて、お次の課題は邪魔になるレンズ後部のリングです。こいつは多分レンズボードに取り付けるためのものだったのでしょう、外側にもネジが切ってあります。当初は何とかこれを生かしたいと思ってはいましたが、なかなか時間もかかりそうだし、せっかく高まったモチベーションをわざわざ下げることも無かろうと、強行突破を決意し、こいつを邪魔な分だけ金ノコで切り落としました。
 あとはエポキシでこいつをくっつけ、口径72→67へのステップダウンリングを介して、レンズ本体にねじ込めば出来上がり。なんの苦労もなくあっという間に工作は終わってしまいました。レンズとシャッタの間隙も最小限に押さえることが出来ました。
 さてその出来上がりが下の写真です。格好悪いですが、背に腹は代えられません。これでめでたく激安コマーシャル・エクターは実用となったのでした。シャッタはかつて写真館ででも使われていたのか、あちこちにマジックインキでマークがつけてあります。レリーズソケットも壊れていて、これは市販のライカアダプターリングをやはりノコギリでちょんぎってエポキシでつけて再生しました。シャッタ前面には口径62のネジが切ってあり、そこには埃よけにフィルタをはめ込みました。

追記
 2000年秋に名古屋ボストン美術館で開催されたユーサフ・カーシュ展での展示で、このレンズと同型のものを彼が使用していたことがわかりました。彼が撮影に使っていた大判二眼レフのビューイングレンズとして使用されていました。テイキングレンズはシャッタ付きの同型レンズでした。
 試写の結果、きちんとシャッタは作動し、またイメージサークルについても、私のフィルスタンドのムーブメント範囲内では全く問題がありませんでした。いずれ作例を掲載いたします。



★うろぼろす堂