妖華−女神館の住人達
 
 
 
 
 
第百八十五話:管理人の妖しい実験――需要と供給(後)
 
 
 
 
 
 二分後、剃刀を手にしたシンジがすみれの秘所に押し当て、すっと上に引いた瞬間、織姫とさくらは耳を疑った。
 確かに…確かにすみれの口から甘い声が洩れたのだ。
(き、気のせいよね)(うん)
 だがもう一度シンジの手が動いた時、
「はぁ…んぅっ…」
 今度は空耳ではなく、間違いなく聞こえた。
「い、い、碇さんっ」
「成功したみたいだね。無意識でもちゃんと作用するらしい。良かった良かった」
(良かった良かったって…でも…なんかすごくえっちに見えます…)
 無意識だから、反応は文字通り本能から来るもので、ほんの少し開いた唇から洩れる悩ましい吐息とぴくっと揺れる肢体は、同性とは言え乙女二人を釘付けにするには十分であった。
 薬自体の効用に加え、シンジが少し押しつけ気味に剃刀を動かしている事も大きい。
 どうみても初めてとは思えない手つきで、みるみる内にすみれの秘所は生まれた時の姿にされていく。十分が経過してシンジの手が止まった時、さくらの眼前には自分のと変わらない秘所があった。
「よし出来たと」
 シンジの顔に満足そうな色があるのは良いとして、依然として欲情の色は微塵も見られない。一方、寝ている間に秘所を剃られてしまったすみれは、身体をほんのりと上気させており、見ていた二人も感じるところがあったのか、目許を赤く染めている。
「ね、ねえ碇さん…」
「ん?」
「あたし達もその…」「身体がむずむずしてきたデース」
 二人が左右から、そっと身体を押しつけた。他の娘がこれだけ弄られて感じながら、ただ見ているだけというのはやはり酷だろう。二人とも、ごく普通の年頃の娘なのだから。
「どの辺?」
「『こ、ここ…』」
 二人とも既に下着は脱いでおり、揃ってシンジの手を乳房にあてた。間髪入れずシンジにふにゅふにゅと揉まれ、小さく喘いだ二人だったが、
「じゃ、これで」
「え…?」「もう終わり?」
 うん、とシンジがあっさり頷いた瞬間、その背後に紅蓮の炎が吹き上がった。
「あ、あれ?」
 空気を読まない管理人に、何倍にも増幅された乙女の恨みが迫る。焼死しそうになったシンジが慌てて諸手を挙げた。
 全面降伏だ。
「ごめん、ちょっと冷たすぎた?」
 二人が勢いよく首を縦に振る。
(とは言っても…)
 抱く、と言う発想はないし、完全に除外されている。かといって熱い身体のまま返すと、住人との関係が悪化するのは目に見えている。
 むう、と首を捻ったシンジがぽんと手を打った。
 何かイイ事を!?と期待した二人だが、その口から出たのはとんでもない言葉であった。
「生理用品ですが」
「『え!?』」
「貼る方?入れる方?」
 自分達の想い人がろくでもない事を訊く時は、一応それなりの理由があると分かっているから、
「り、両方ですけど」「わ、私も」
「いやさくら…」
 言いかけて止めた。以前にとある一件で訊いた事があるのだが、今は二人きりではない。その時は確か貼る方、つまりナプキンだと言っていた筈だ。
 趣向が変わったのだろうか。
「あたしが何ですか?」
 その顔は思い出しましたと言っており、明らかにさくらちゃんのは聞いたからと言われる事を期待している。
 が、わざわざ地雷を踏んづけるほどシンジも物好きではない。
「何でもない」
 さくっと切り捨て、
「さっきのあれ使ってみよっか」
「あの、ローターとかいうのですか?」
「そ。結構動くけど、入れて痛いような大きさじゃないからね」
 そう言ってシンジは小型ローターを取り出した。
「じゃ、使い方を教えるから自分で――」
「『こらっ』」
「え?」
 又しても抗議の視線が飛んできた。こらっ、などと言われるのは初めてである。
 これはもう仕方無しと諦め、
「織姫、さっさと脚開いて」
 命令形の口調に怒るかと思ったら、
「は、はい…」
 顔を赤らめて素直に脚を広げた。淫毛に覆われた秘所が、シンジの目に飛び込んでくる。少し我慢してね、と膣口を左右に開いてローターを押し込む。たっぷり潤っているそこは、すんなりと玩具を受け入れた。
 続いてさくらにも入れる。
 二人の秘所からコードが出ている状態でリモコンのスイッチを入れた。
「ふはぁっ!?」「うひゃっ」
 声は違うが、二人とも一瞬お尻が浮いた。
「ど?」
「そ、そんなに動いてないのに中がすごく熱いです…」「うん、イイ…感じっ」
 レベルは上げていないが、既に身体は出来上がっていたようで、二人とも手で前をおさえてもじもじしている。
(?)
 織姫が股間をおさえている手に触れようとした途端、
「だ、だめっ」
「どしたの?」
「さ、触られたら…お、おかしくなっちゃうデス…」
 ふふ、とシンジが笑った。
「そゆ事言うなって、教わらなかった?」
「!?」
 身構えた時にはもう、シンジの顔が迫っており、あっという間に唇が重なった。
「ふむう…んっ…!」
 吸い込んで嬲るようなそれではなく、舌と舌を絡めて摺り合わせるような口づけに、織姫の快感はあっさりと限界を超えた。秘所から少し白濁した液が吹き出し、同時に織姫の全身から力が抜けていく。
(いいな…あっ!)
 シンジにキスしてもらって達した織姫を、羨望の眼差しで見ていたさくらだが、それは予想もしない副作用をもたらした。身体が出来上がっていたのはさくらも同じで、見ていたさくらの中で不意に快感の波が大きくうねったのだ。
「い、いやっ…」
 抑えようとするが、身体は言う事を聞いてくれず、さくらもまた達してしまった。しかも織姫とシンジに刺激されて、だ。
「もう…碇さん意地悪デス…」
 恨めしげな口調だが、見つめる視線は満足げだ。満足した?と耳元で囁くと、小さく頷いた。が、問題は背後にある。既にシンジは、さくらが望まぬ形で達したらしい事には気付いていた。
 振り向くとこっちは本当に恨めしげな視線で、目に涙さえ湛えてシンジを見ている。
 何を言っても逆効果なので、何も言わずに軽く頭を撫でて、
「織姫、こっちへ」
「…何をするんで…はむっ…むちゅ…んっ…」
 尖った声で言いかけたさくらの唇が塞がれた。侵入してきた舌が、一方的に口の中を嬲っていく。二人の唇が離れた時、その間を透明な糸が繋いでいた。
「こ、こんな事じゃ騙されないんですからね」
 とは言ったものの、視線はさっきよりだいぶ緩んでいる。
 だから、
「ふうん?」
 シンジの反応に、何でもないですと首を振るだけの余裕はあった。強行するとどうなるかは、目の前に例が転がっている。
「織姫おいで」
「はあい」
 こっちはもう、満足して達した織姫が側まで来ると、
「足広げて」
「こ、こう?」
「そう。でもってさくらも」
 言われるままに足を広げた二人だが、やはり少し恥ずかしいのか、お互いをちらちらと見ている。が、次に告げられた言葉は、思考の斜め上を行くものであった。
「足を交差させて身体くっつけて」
「足を交差させて…」「身体をくっつける?」
 首を傾げた次の瞬間、二人の顔がかーっと赤くなった。
「おっ、女の子同士でなんて何考えてるんですかっ!」「い、碇さんのえっち!!」
「レベルアップを」
「『レベルアップ〜?』」
「二人とも確かに感度はいいから、弄る分には問題ない。でも抱き合うには不足している。抱き合うというのは、自分だけ良くなればいいってものじゃない。特に男と女じゃ感じ方の波も違うから、同時に達するのは結構難しい。相手の快感を引き出して、自分も一緒に良くなると言うのは、頭だけじゃ無理だよ」
「で、でも…ど、どうして女同士なんですか」
「その方が簡単だから。それに、二人ともイったばかりだから、波は収まってるところだ。お互いを感じながら高めるにはちょうどいい。尤も、見て楽しむ訳じゃないから、どうしても嫌なら無理にとは言わないよ」
 二人とも完全に納得した表情ではなかったが、じゃあ止めますというのもちょっとしゃくに障る。少しの間顔を見合わせていたが、うんと頷いた。
 その気になったらしい。
 足を上げて格好で交差させ、ずりずりと進む。秘所同士の距離が数センチになった所でお尻の動きが止まった。
「じゃ、じゃあ織姫…」「い、いくデース」
 愛液で潤った柔らかな秘所が、ふにゅっとくっつき合った瞬間二人の背が反り返った。
「あくぅっ」「はふう…んっ」
 さくらの話では、さくらは経験があるらしいが、織姫は初体験だろう。後ろに手をついて秘所を摺り合わせたまま、視線はお互い微妙に外している。
「織姫どんな感じ?」
「んっ…さくらの股間がきゅーって、吸い付いてくるの。すっごく熱くて柔らかくて」
「そっ、それを言うなら織姫だってこんなにしてるじゃないっ」
「だから、それは二人が感度いいからだってば。品評会じゃなくて、さっき言った通りにしてみて」
 足を広げた姿勢で秘所をくっつけ合ったから、お互いに触れ合っている箇所は普通に足を交差させた時よりも広い。快感ではなかったが、体温より明らかに高い熱が重なり合った秘所から伝わってくる。
 少し動いてみた。ちょっと腰を引いてまた押しつける――あまり気持ちいいとは感じない。妙だと内心で首を捻ってから、シンジが言った事を思い出した。二人とも達した直後で、また火がついていないのだ。
(確かに気持ちいいのは間違いないみたいだし…織姫いい?)
(うん)
 ぎこちなく、それでもお互いを感じるように腰を動かしだした二人を身ながら、
(ま、一回で覚えたら苦労はしないよね)
 ろくでもない事を内心で呟いた時、背中がつつかれた。
「起きた?」
「遅まきながら目覚めましたわ…碇さんこれは何ですの」
 視線の先には、きれいに剃り上げられた股間がある。
「何って、すみれの希望通り完全手工業で…ひてて」
 むにっと頬が引っ張られた。
「そうじゃなくて!どうして私が起きていない時なんですの」
「どゆこと?」
「だ、だからその…」
 そこまで言ってさくら達に気付き、声を潜めて、
(起きていればその…わたくしきっと、み、見ているだけで達していましたのに…もう、碇さん意地悪ですわ)
 遅まきの意味はそれだったらしい。
(あまりお勧めしないけどね)
(どうしてですの)
(これ以上そんなに感じまくったら、一週間位足腰立たなくなっちゃうよ?すみれちゃんまだ処女なんだから)
(そ、そんな訳ありませんわよっ)
 顔を赤くして、ぷいとそっぽを向いたが、やがて自分から戻ってきた。
「あの、さっきわたくしが言った事…」
「気が変わったって話?」
「べ、別に気が変わった訳ではありませんわよ。ただもう少し…さくら達にも優しくしてみますわ」
「上出来だ」
「本当はね…最初はわたくしを晒し者にする気かなって、ごめんなさい…少し思っていたんですの。でも全然そんな事はなくて…いっぱい感じる事が出来て、ちょっと幸せでしたわ」
「そいつは良かった」
「それでその…い、碇さん」
「ん?」
「こ、今度…教えて下さいな。その…い、いっぱい達しすぎるとどうなるか…」
 すみれとしては、精一杯の言葉であった。何せ、好きだの何だのが完全に空回りする相手なのだ。
「いい女になったらね」
 ええ、と小さくすみれは頷いた。
 一方さくら達は、だいぶ感覚を掴み始めていた。触れ合っている肌から相手の体温を感じ、相手の感覚を知ろうとする。敏感な性器同士の絡み合いに、最初は頭の中が真っ白になる程の快感だけだったが、何とか堪えると徐々に分かってきた。二人が一度達した後だったのも幸いした。
(コツが分かってきたみたい…織姫、も少し呼吸合わせて)(んっ…)
 さくらは一度、すみれとシンジのベッドを取り合って勝負した事があるが、その時とはまったく感じ方が違う。性器が擦れる度に二人の混ざり合った愛液が淫らな音を立て、淫唇がきゅうっと収縮する。今までなら、単に気持ちいいだけで終わっていた。
 でも今は分かる…多分さくらの方が感じており、織姫はまだそこまで来ていない。それならと、少し顔を出しているクリトリスに指を伸ばし、指で挟んできゅっと摘み上げた。
「ひむぅっ!?さ、さくら何するですか」
「これで同じになったでしょ?」
 ふふっと笑ったさくらが、引いた腰を前に突き出して押しつける。不意の快感に、織姫の肩がぴくっと揺れた。
 快感も大きいけれど、楽しいという気持ちも強い。相手に合わせて自分も良くなるのは結構楽しい物だと、さくらは少し男の気分が分かったような気がした。
 とまれ、秘所同士を摺り合わせている上に、お互いに相手の事を思って身体を動かすから、上り詰めていくのも早い。感覚が共有出来てからは数分と掛からなかったが、ギリギリのところで止めた。
 闖入者がいないかと、ちょっと期待したのである――来た。
 初体験で夢中になって気付かなかったが、いつの間にか背後に忍び寄っていた。
「よくできました。さくらの方が覚えるの早かったね」
 耳元で囁かれ、胸の中がふわっと温かくなる。縛られたり吊されたりする事も多いが、やはりシンジに褒められるのは嬉しい。
 二人の顔がくいと持ち上げられ、寄せられる。
 シンジと目が合い、奥の光を読んだ織姫が先に、そっと赤い舌を出した。
(あ)
 一瞬遅れてさくらが。
 三人の舌が妖しく絡み合った。
「はむ…んんっ…んくっ…あふぅっ…」「んぅ…ちゅっ…はぁふ…イッ」
 一度セーブされた快感の波が、三人でのキスという奇妙な状況と相俟って、一気に昂ぶっていく。
 倒錯的というのは、時に強力な薬になる。
(い、碇さんあたしもうっ)(わ、私も…)
 知らずして腰は勝手に動き、秘所同士がぬちぬちと蠢き合って、また流れ出してきた愛液が二人の股間で混ざり合う。上の口と下の口、二カ所からの刺激で乙女達が達しそうになった寸前、シンジは顔を持ち上げていた手を離した。
(あれ?)
 一瞬バランスが崩れた直後、二人の目が大きく見開かれた。
「『ふひゃあぅっ!?』」
 つうっと背中を滑った指が、愛液でもうほぐれているアヌスへいきなり侵入したのだ。しかも、中でくいっと指を曲げたのである。
(お、お尻で…)(イクなんて…)
 ぐしょぐしょに触れ合った秘所でも、無我夢中で絡め合った舌の気持ちよさでもなく、アヌスの中で曲げられた指で、一気に持って行かれてしまったのだ。
(でも気持ち良かった…)
 ぐったりと身体を弛緩させた二人が、恨めしげにシンジを見る。
「ま、またお尻でなんて…」「碇さんのばかぁ…」
「イっちゃったのに?それとこれが――」
 まだ繋がっている二人の秘所に手を伸ばし、白濁している愛液に触れた。
「織姫とさくらを足した味?」
「『し、知りませんっ』」
 かーっと首筋まで赤くして、二人が顔を背ける。
 先に戻ってきたのはさくらであった。
「で、でもあの碇さん…」
「ん?」
「ありがとう、嬉しかった…」「うん、私も…」
 最後はアヌスだったが、やはりシンジとのキスが大きかったのは間違いない。
 身体を離すと、股間と股間の間をぬちゃっと液の糸が繋いだ。二人の股間からたっぷり流れ出した愛液は、白濁して混ざり合っている。それを見ないようにして身体をずらした二人が、そっとシンジに身をもたせかけた。
 二人の髪を軽く撫でながら、
「相手の快感を掴むというのは、守備にも攻めにも使える。覚えておいて損はない」
「うん…」
 この時シンジは、特定の何かを想定していった訳ではなかったが、この時の事が後に役立つとは、言った方も言われた方もまったく予想していなかった。
 十五分ほど、三人は動かなかった。さっさと起き出すには、身体が疲労しすぎていたのだ。
 女の子同士で秘所を摺り合わせたり、アヌスを弄られたりしたが、これでもまた処女で前の方の男性経験はない。過剰な程の快感だったが、二人にとっては心地よい疲労であった。
(そういえば…)
 すみれはどうしたかと思いだし、視線を向けると俯せになっている。さっきは起きたような気がしたが、気のせいかも知れない。
「間もなく一番鶏が鳴き出す頃だ。そろそろ行こうか?」
「『はい』」
 立ち上がろうとしたシンジの手がくいと引かれた。
「ん?」
「耳貸して」
 顔を寄せたシンジの両頬で、ちゅっと音がした。
「『あの…ありがと』」
 うっすらと頬を染めたそれは、至極普通の乙女のものであった。
 結局、娘達は三人とも腰砕けの状態になっており、自分で立って歩く事は出来なかった為、シンジがよいしょと担いで部屋まで運搬した。皆が、初夜に花嫁を担ぐような姿勢を希望したものだから、最後にさくらを部屋まで運んだ時には、シンジの腰は微妙に曲がっていた。
 浴場を掃除し、痕跡を消去してシンジが伸びをした時、もう辺りはうっすらと明るくなり始めていたが、
「ちょっと出かけるか」
 シンジは蹌踉とした足取りで出て行った。
 
 
 
「お待ちしておりました」
 シビウ病院に着いたシンジを、入り口で出迎えたのは人形娘であった。
「おはよう、姫」
「お早うございます碇様。お姉さまが地下の浴場でお待ちになっておられますわ」
「何時から?」
「一時間ほど前からですわ。必ず来られる筈だから、私にここで待っているようにと」
 無論、行くという連絡はしていないし、約束もない。だが妖艶な院長は、シンジが来る事はお見通しだったらしい。
 占いか何かは分からないが、見張られていないのは分かっている。そんな事など、プライドに賭けてもするような女ではない。
「だいたい時間通りね」 
 浴場に入ったシンジを、シビウは珍しく白い花のような笑みで出迎えた。
「えーと…」
 言いかけた唇が指で塞がれ、
「話は後で聞くわ。今、ちょっと溜まってる所なのよ。付き合ってくれるわね?」
 一転して、職員が見たら卒倒しそうな妖しい視線をシンジに向けると、腕を伸ばして引き寄せた。このほっそりした腕のどこに、と思うような力でシンジは抗う事も出来ず、あっさりと捕まった。
「君も欲求不満でしょう?顔に書いてあるわ」
 耳元で囁いた妖しい口調は、女神館の娘達が百年かかっても出来そうにない。
 蹌踉と入っていったシンジが解放されて、病院からこれまた蹌踉と出てきたのは昼過ぎの事であった。こんな歩みの患者など、いたら病院の評価を下げかねない。
 なお、さくら達三人娘は、夕方まで一度も目を覚まさなかった。無論、朝の稽古はしていない。
 たたき起こそうかと思ったマユミだが、結局数度揺すっただけで止めた。
 マユミは見たのだ――妙に色つやが良く、そして幸せそうな顔で眠る友人の寝顔を。
「昨夜は一人でお楽しみ過ぎたのかしら?」
 ちょっと小首を傾げてから、軽く肩を竦めて出て行ったのだが、真相を知れば何と言ったろうか?
 
 
 
 
 
(つづく)

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