妖華−女神館の住人達
第百六十二話:使わないと狭くなるんです
「あ、来た来た」
視界の端に黒い物体を認めたシンジが、ふふっと笑った。
一見すると自衛隊の輸送ヘリにも見えるが、その中味はと言うと天と地ほども違う。
無論、輸送ヘリなどではない。
普段は本邸の地下でひっそりと出番を待っているが、有事の際には即座に戦闘用のヘリと化す代物で、触れられる者も限られている。
元はシンジが安く手に入れて、メイドの一人に贈った者だが、それが誰かなどと言うまでもあるまい。
ローターの巻き起こす風を殆ど感じない位の距離に、ゆっくりとヘリは降りてきた。
全身を漆黒のスーツに包んで降りてきたのは、本邸のメイド達の中でも群を抜いた戦闘力を誇る薫子とその子分遥佳であった。
二人ともスタイルはいいが、やはり薫子はこういう服が似合う。
鍛え抜いていて、それでいて硬すぎない肢体を――柔らかいともいう――持っているが、それよりはむしろ全身から漂う気の方が引き立てる。
同じ服を着せても迫力がまったく違うのだ。
大事そうにバッグを持った薫子が、遥佳を従えて歩いてくる。
「若様…」
無論、本邸に自分の容姿など伝えていないが、薫子の視力は、とっくに変貌した主の姿を見つけていたに違いない。
「これ?」
自分の髪を指したシンジに、薫子は哀しげな視線を向けた。
何があったのかは分からない。
だがこの若き主人が、腰まで伸ばした黒髪をどれだけ大切にしていたか薫子はよく知っている。
多少焦げた位なら分かる。
シンジならやりかねないからだ。
しかし、シンジの髪はどうみてもばっさりと落とした風情のそれであり、第一雰囲気からして以前とは異なっているではないか。
「訳ありでね、巴里に置いてきた」
「巴里?この間の大暴れですか?」
「違う」
シンジは首を振った。
「中暴れだ」
シンジの答えに、薫子の表情が漸く緩んだが、すぐに曇った。
「俺もまだまだ子供でね。あまり思い出させないで」
(シンジ様…)
その顔に浮かんだ色はすぐに消えたが、シンジのこんな表情など薫子は一度も見た記憶がない。
生まれと育ちが関係して、元から引きずるタイプではなかったし、名前の未記入で落ちるという初めての汚点にも、別段気にした様子はなかった。
おまけに大切にしていた髪まで落とすとは、一体何があったというのか。
「それはそれとして、持ってきてくれた?」
「は、はい。あの…」
「何?」
「仰せの通り、部屋から持ってきただけですので中味は見ていませんが、良かったのでしょうか」
クローゼットの中に羊皮紙で封印してあるバッグがあるから持ってきて、シンジからいきなり入った連絡はそれであった。
「あ、いいのいいの。中は見られたらまずいものだから」
「え?」
ふふっと笑ったシンジに、ほんの少し安堵した薫子だったが、ふとシンジが自分の顔を見つめているのに気が付いた。
「若様?」
むう、と唸ってから、
「まずいな」
「はい?」
「ちょっとこっちおいで。痛くしないから」
幼女を怪しく拐かす男みたいな声で囁くと、薫子の手を取って引っ張っていく。
遥佳が呆気に取られる中、木陰に連れ込んだシンジは薫子の顔を両手で挟んだ。一種キケンを感じたのは、傭兵としての能力ではなく女の本能であった。
キケンであって、危険ではない。
太陽が頭上にあってじっと眺める中、二人の影がすっと重なった。薫子は一瞬身体を固くしたが、すぐにその目が閉じられた。
が、くっついた影は離れず、おまけに異物まで入り込んできた。
(若様!?)
シンジに取って、メイドとは屋敷で働いている人であって性奴ではない。
金や権力にあかせるのを嫌う元からの性格もあったが、シンジが抱いたのは綾小路葉子一人である。
勿論、薫子には手など出していない。
影が離れた時、一瞬薫子は蹌踉めいた。銃弾を受けて蹌踉めいた事はあるが、苦痛を伴わぬそれが原因で体勢を崩すなど、銃を手にするようになってから初めてである。
「シンジ…様…」
口許をおさえたその顔はほんのりと染まっているが、
「よし。それでいい」
何を思ったのか、シンジは頷いた。
まさか、薫子の女の顔も見てみたい、などと言うわけではあるまいが、薫子の脳裏に?マークが点滅した。
「さっきの顔で帰すと、九割九分三厘の確率で呼んでもいないメイド達が押しかけてくる。少し顔色が良くなった」
微妙な確率である。
(シンジ様…)
薫子は何も言わずに頭を下げた。
それから三十分後、バッグの中味を見てにんまりしているシンジを後に、二人の姿は機内にあった。
「あの、薫子さん」
見ていた訳ではないが、二人だけで木陰に入り、出てきた薫子の顔がやや紅潮していればすぐに察しは付く。
だが、ヘリが離陸する前にもうその色は消え、それどころかむしろ暗いようにすら見えた。
「見て――はいなかったな。尤も、誰でも見当は付くだろうが」
「は、はい」
よほど嫌だったのかと思ったのだが、薫子の台詞は意外な物であった。
「仕事ぶりが褒められて口づけされる事などないからな。嬉しくない訳じゃない。それに何と言ってもお上手だ」
「え!?」
前を見たままの台詞に、思わず操縦桿が乱れる。
「馬鹿者気を散らすな」
「す、すみませんっ」
女神館で時折見られる光景に似ているが、多分同族ではあるまい。
「ただ、問題は私が未熟だった事だ」
「未熟、ですか?」
遥佳から見れば、本邸に仕える者の中でもきっての戦闘力を誇る薫子は、本来の役目からすれば理想的なはずだし、家事だって別に問題はない。
その心中を読んだのか、
「そんな事ではない。本来なら、私から口づけの一つもして差し上げて、若様を驚かせて多少なりとも立ち直って頂かねばならぬところだ。それを逆に心配されるなど、私もまだまだ足りんな」
「……」
自分がシンジにキスなどされたら、ぼーっとなるだけで思考が完全停止するだろう。
百歩譲っても、その前後を考える余裕などあるまい。
やはり薫子はまだまだ雲上の人だと再確認したのはいいが、
(でもシンジ様がお上手だったって…)
ぽうっと赤くなった途端、手榴弾のピンが飛んできた。
無論、常識を弁えぬ破廉恥な記者が持ち込もうとして爆発した挙げ句、見苦しい言い訳と保身に終始する原因となった物とは似ても似つかぬ代物である。
月夜の下を一組のカップルが歩いていた。
男の方はすらりとした長身だし、女の方も後ろから見る限りスタイルはいい。
がしかし、女の歩みはどうも妙であった。
一応まっすぐ歩いてはいるのだが、数歩も行かぬ内に立ち止まるし、よく見ると全身をもじもじさせているように見える。
「まだ持つ?」
「は、話しかけな…んんっ!」
目下、トイレに駆け込みたい壮絶な悪寒をぎりぎりのラインで防いでいるところだ。
ただ、幸か不幸か膣口から伝わってくる快感は、相乗効果ではなく相反してくれている。これで相乗になっていれば、今頃はどうなっているか分からない。
「その分なら当分大丈夫だね」
ニマッと笑ったシンジが頷いた。
元気になったらしいのはいいが、自分の方にはとんでもないとばっちりが来ている。
この恨みは三十五倍にして返してやると決意してはいるが、取りあえず後三キロの行程を堪え忍ぶ方が先決だ。
しかし相反するとは言え、決して緩んだわけではない。
おまけに、ローターが伝える刺激で、既に下着が濡れているのは分かっている。
何とも言えない気持ち悪い感覚を、どうにか堪えて歩く葉子の背が不意にびくっと伸びた。
反応が物足りないと見たのか、シンジがにゅうと首を伸ばして、葉子の首筋に歯を立てたのだ。
無論、がぶりと噛んだわけではなく甘い噛み方だったが、今の葉子にとってはクリティカルヒット――会心の一撃であった。
「ば、ばかぁ」
甘えているように聞こえるが本人は精一杯――その場にへにゃへにゃと崩れ落ちた。
「どしたの?」
心配そうに覗き込む姿だが、声と表情は実に楽しそうである。
「お、おねがいもう駄目…」
既に体内では雷鳴が轟いており、今の落雷でトドメとなった。命に別状があるわけではないが、こんな所で漏らすような事だけは何としても避けたい。
目に涙を浮かべて見上げる葉子に、
「あっそ」
「え?」
一瞬拍子抜けしたほど、シンジはあっさりと頷いた。
「よく考えたら、ここで漏らされると後の始末が面倒なんだ。おむつ穿かせるのも楽しそうだけど、夜中に路上で汚れたパンツ脱がしておむつ付けるなんて怪しすぎるし。右側二十メートルほどの所に公園があって、ついでにトイレがある。行くなら気が変わらない内に」
勿論、葉子の気分ではあるまい。
「ほ、本当に?」
妙と言えば妙だ。
散々煽るだけ煽っておいて、簡単に解放しすぎる。
とは言え、今の葉子にそんな事を考える余裕など無く、よろめく足を踏みしめながら何とか歩き出した。
緊張の糸、とはよく言ったもので、ピンと張りつめている時に想定外の力が加わると簡単に切れてしまったりする。今の葉子は、まさにそれであった。
ローターの刺激を脳内変換で盾にしているから、むにゅっと押し込まれたそれも取るわけにはいかない。
最後の力を振り絞り、倒れ込むようにトイレへ入り腰を下ろす。
引きちぎるように下着を外した数秒後、葉子の顔から血の気が引いた。
既に腸内は限界に達しているはずなのに――解放された肛門は、排泄機能を失ったかのようにまったく作動しなかったのだ。
「ど、どうして…」
呆然として呟いた葉子は、トイレへと急ぐ後ろ姿を見送ったシンジが、うっすらと笑ってどこかへ連絡を取っていたことなど知るよしもない。
「ちょ、ちょっとレニっ!?」
またいつものようにレニで遊ぼうと、そうっとベッドへ侵入したアイリスだったが、この日の反応は違っていた。
滑り込んだ瞬間に捕縛され、あっという間に裸にされてしまったのだ。
痛くされてはいないが、押さえられている両腕はびくともせず、ふくらみかけた胸も筋の一本しかない秘所もむき出しのまま、レニの下に組み敷かれている。
「最近アイリスにされてばっかりだったから、今日は僕がしてあげるね」
ジタバタ藻掻くも全く効果はなく、まだ幼さを残す乳首に軽く歯を当てられて、ちゅーっと吸い上げられるともう力は抜けてしまった。
舌が乳房から首筋へ、そして唇へと上ってくる。
(んっ…)
そっと差し入れられた舌に、アイリスは自分から舌を絡めていった。その反応で、もう抵抗勢力にはならずと見たか、レニは手を離すと起きあがった。
自分もするすると服を脱ぐと、腰を下ろして膝の間にアイリスを抱き上げる。
胸の前で交差して自分を抱きしめている腕にアイリスが手を添えた途端、その肩がびくっと震えた。
レニが首筋を軽く噛んだのだ。おまけに、そのまま離さず歯を当てて吸われると、血がそこへうぞうぞと集まってくる。
「だ、駄目だよ痕が付いちゃうよぅ…」
やっと離れたレニがくすっと笑って、
「だって、アイリスは僕とシンジの物だもの。ちゃんと痕を付けておかないとね」
早くもキスマークが形成されたそこに指を這わせたが、数百キロ離れた地で、元メイドだった娘の首筋へ軽く歯痕を付けてとどめを刺したそれと、全く同等の物だとは本人も分かっていない。
無論、従兄の方もつゆ知らぬ筈だ。
親戚関係だと、性癖も似てくるのだろうか。
後ろからむにむにと揉まれ、小さな乳首をぷっくりと尖らせているアイリスが、
「ね、ねえレニ今日はどうしたの」
荒い息を吐きながら訊ねると、口許に笑みを浮かべたレニがまた唇を合わせてきた。
咥内を蹂躙されて目を白黒させているアイリスに、
「アイリスはもう子供じゃないんだよね」
妙な事を言いだした。
「え?う、うん」
「じゃあ、僕が言うことを絶対誰にも言ったりしないって、約束出来る?」
淫靡さえ含んだ笑みは消え、じっとアイリスの目を見つめるレニ。
「分かった、約束する」
その表情に押されたかのように、アイリスは頷いた。
「女と女の約束だからね」
「うん」
男と男の場合には、誓いやら何やら色々存在するが、女と女でもそんな関係はあるらしい。
きゅっと小指を絡めあったが、レニの方は濡れている。
無論、アイリスの愛液だ。
ねっとりと絡みつくそれを見ながら、
「アイリスもえっちな身体だよねえ」
引き出したのは自分だが、レニのくすぐるような囁きにかーっと赤くなった。
「そ、そんな事ないもん…」
もにょもにょ言ってるアイリスだが、
「あのね、アイリス。もうすぐシンジが帰ってくるの」
「え!?」
レニの言葉に、ぴょん、と飛び上がった。
「ほ、本当にっ?」
「本当だよ。どこにいるかは言えないけど、そんなに経たない内に帰ってくる筈だ」
「ん〜…」
何やら考え込んでいたが、不意に腕の中から抜け出して向き直った。
素早く股間に指を走らせると、二本の指を誇らしげに差し出した。それは、アイリスに負けず劣らずねっとりと濡れている。
「レニだってこーんなにおまんこ濡らしちゃって、アイリスの事言えないじゃない。おにいちゃんの事考えて濡らしてたんでしょ。今度はアイリスがしてあげるっ」
到底、ついこの間中等部に上がったばかりの娘とは思えぬ淫らな台詞と共に、レニの股間に顔を埋めた。
「ア、アイリス止め…あっ」
今度はレニが喘ぐ番になったが、レニにもメンツがある。大体、胸のサイズに至っては四つほども違うのだ。
負けてはいられないと、上体を倒して手を伸ばし、アイリスの乳房を揉むと一瞬顔が上がった。
その隙を逃さず、身体をぐいっと倒してアイリスの両脚を引き寄せる。
「今日は僕がしてあげるんだから、アイリスはじっとしていていいの」
言うなり舌を伸ばし、粘りを帯びた液をすくい取った。
が、アイリスも負けてはいない。
がしっとレニの太股を抱え込むと秘所に舌を這わせ、殊更に音を立てて舐め上げる。
自分の股間が立てる音に、お互い顔を赤くしながらも相手の秘所を責めるのを止めようとはしない。
数十秒が経った時、二人は同時に顔を離した。
言い合わせた訳ではないが、二人の視線がぶつかり、
「先にいっちゃった方が」「されっぱなしになるんだからねっ」
同時に股間へと顔を埋めていく。
淫らさを帯びたくぐもったような声が室内に充満していったが、数分後、猫が尻尾を踏まれた時のような声がして、もう一つ続いた。
もう一つの攻撃場所を選択し、相打ちになったようだ。
「もう、シンジ様の馬鹿っ!」
「はう!」
きゅーっと、さっきから首を絞められているのはシンジであり、絞めているのは勿論葉子だ。
浣腸用に流し込まれた下剤で限界になっていたのに、結局排泄は一度もなく、あまりの苦しみで気絶しかかった所へシンジが顔を出した。
「大丈夫?」
やけにのんびりした声に、葉子はこ奴が事情を知っていると直感で見抜いた。
殺気と怒気を足して三倍し、ついでに二乗したような眼光に射抜かれ、シンジは白状したのだ。
これが下剤では無かった、と。
何なのかと噛みついた葉子に、
「直腸から効いてくる媚薬。ほら、要するに秘薬ってやつ」
何がほらだと、絞め殺そうと思ったのだが、体の自由が利かない。
効果が予想外だったのか、予想範囲内だったのかは分からない。ただ、葉子の全身を眺めたシンジは、ポケットから丸薬を取り出した。
「飲んどいて」
葉子が従ったのは、追い打ちは掛けないだろうと踏んだからだ。もし追い打ちでも、もう抗う気力も術も残ってはいなかった。
どんな成分が含まれていたのか、十秒ほどで身体は楽になったが、
「あっち向いて!」
「はい?」
「歩けないから負ぶって下さい!」
「ウイース」
斯くして葉子はシンジの背中にいるのだが、勿論怒りは納まっておらず、さっきからキリキリと首を締めあげているところだ。
「だから俺が悪かったっ…ふぎゅ」
「そんな事言ってるんじゃありません!」
「じゃ、何さ」
「若様、あの薬を実験しないで使ったでしょ。あたしがどんな目にあったと思ってるんですか」
「だって、それはほら」
何を言い訳するかと思ったら、
「実験対象(モルモット)がいないんですもの」
言った途端、ひときわ強く締めあげられ、夜道に潰れたイボガエルのような悲鳴が響いた。
「ま、実験しないで使ったのは謝るよ――微妙にね」
「……」
シンジがこういう事を言う場合、どこを悔いているのかが大きな問題点になる。
単に苦しめて御免ね、であるケースはブラジルの首都に二十センチの降雪があるよりも可能性は低い。
とは言え、突っ込むのも面倒だと黙っていると、
「さっきお風呂を手配しました」
「え?」
「この先に銭湯があったでしょ」
「銭湯?あれ温泉ですよ」
「今夜一晩貸し切りにしてくれるそうです。さっき頼んでおきました」
「さっきって何時の間にそんな」
「内緒」
ふっふと笑ってから、
「身体もいろいろとばっちいかもしれないから、洗ってあげる。それとも一人ではい…くえっ」
一人で入るかと訊きかけたら、また絞められた。
さっさと連れて行けという事らしい。
それから三十分後、二人の姿は露天風呂にあった。
シンジの膝の上に乗った葉子が、シンジに身をもたせかけている。漸く機嫌も直ったようだ。
無論二人とも服は着ていないが、帝都にいる住人達の中で、シンジの裸身を知る者は一人もいない。
かつて成都で、シンジと身体を重ねる寸前まで行ったマリアでさえ、知らないのだ。
もっとも、あの時には前を断念したシンジが後ろの開発に指を使ったため、脱ぐことは無かったのだが。
ぼんやりと月を見ていた葉子が、ふと顔をこちらに向けた。
「ねえ」
「何?」
「しよ」
気怠げな口調だが、内容には合っている。
「ここで?」
「うん。あ、勿論お湯の中じゃなくてそこの岩場がいい。後ろからして欲しいの」
(あり?)
シンジは首を捻っていた。
こんな風にねだられるのは、それはそれで萌えたりするのだが、製造・発売元はあの薬を媚薬入りだと言っていた。
なのに、葉子にはそれが効いている風情がない。
(あの藪院長め、騙したな)
勝手に決め付けているが、とまれ入手先は黒瓜堂ではなかったようだ。
「ね、いいでしょ」
「ん」
シンジが頷くと、葉子は全身から湯を滴らせながら立ち上がった。まるでコーティングでもされているかのように、湯が玉となって弾かれていく。
さぞかし脂がのっているに違いない。
岩に手を付いた葉子が、こちらに尻を向けて足を開いた。
淫毛がしっとりと貼り付く奧で、薄いピンク色の淫唇が誘うように揺れている。
シンジが丸く白い尻に手を掛けた時、葉子が向き直った。
「あ、待って。やっぱりシンジ様の顔見ながらがいい」
シンジが腰を下ろすと、その太股を跨いだ葉子がゆっくりと腰を下ろしてきた。男根の先に手を添え、自らの秘所にあてがう。
シンジには懐かしい感触だったが、葉子は一瞬顔をしかめた。
「ん…入った」
根本まできゅっと受け入れた葉子が、
「シンジ様…なんか、またおちんちん大きくなったでしょ」
「ほんの少し」
薄く笑った。
葉子に取っては、何時までも手の掛かる若様のままらしい。
(さして進歩もしてないしね)
幾分自嘲気味に呟いたシンジに、
「だって、入れただけで奧に当たって…ごりごり擦ってるんだもの。前はここまでじゃなかったのに」
「嫌?」
訊くと激しく首を振った。
「そんな事ない…んっ、だってシンジ様のだもの…あっ」
小さく喘ぎながらも笑ってみせた。
「でも、さっき痛がってなかった?」
「ああ、あれは久しぶりだったからちょっと狭くなってて」
首を傾げたシンジが、
「でも一人でしたりしなかったの?バイブとかあるでしょ」
ろくでもない事を訊いた。
「ゆ、指だけですっ。シ、シンジ様の以外奧まで入れる訳がな…はあんっ」
揺れた拍子に、また奧に当たったらしい。
「もう、シンジ様が変な事言うから」
「分かった分かった。少しだけ寂しかった?」
頭を撫でながらシンジが訊くと、葉子は目に涙を浮かべて頷いた。
「じゃ、今日は満足するまでしてあげる。少しは持つようになったの」
百度の交わりを強いる魔女医でさえ、逆に喘がせるようになったシンジの少しとは、一体どれだけを指しているのか。
何も知らず嬉しそうに頷いた葉子が、自分から腰を前後に動かし始めた。
草木もぐっすりと眠り、姑との闘いに疲れた嫁が白装束に身を包み、五寸釘と藁人形を持って出かける頃――。
静かに寝息を立てる葉子の尻を、シンジは軽く撫でていた。
達する事七回、それでも最後まで愛液は新たに湧き出していたし、シンジが一方的に責め立てた訳ではない。
前から後ろから、体位は幾度も変えたが、最後は必ずシンジと向き合う姿勢に変えた葉子。
いく時はシンジの顔を見ながらがいい、と本人が望んだのだ。
汗と愛液がたっぷりとまとわりついている尻に触れると、勢いを抑えた水がその身体を流れていく。
「使わないと狭くなるんだっけ」
白い月が見下ろす中、もう少しまともな台詞もありそうだが、シンジはうっすらと笑って自分の男根に触れた。
シンジは一度も放っていない。
軽く指で押すと、天を向いていたそれがゆっくりと収まっていく。シビウ病院の院長が見たら、激怒するかもしれない。
勝手に収めるとは何事だ、と。
「会うと恨まれそうだし、明日は会わずに帰京だな。一度くらいは見舞いに行きたい所だけど」
呟くと、葉子を抱いて立ち上がった。
葉子に何も言わず、の意味ではないらしい。
だが、シンジは知らなかった。
今回の旅行は、基本的にシンジの思い通りには行かないことを。
しかも、上手くいっているように見えて、一気に突き落とされる羽目になっていることなど、知りもしないのだった。
結局葉子は家に帰るまで、シンジに抱かれたまま目を覚まさなかった。
葉子を抱いたシンジが玄関をくぐってから数時間後。
「洗脳完了。さ、お仕事の時間よ」
さほど離れていない場所で、情念を帯びたような低い声がした。