妖華−女神館の住人達
 
 
 
 
 
第九十一話:とりあえず三百八十五倍返し
 
 
 
 
 
 二人の娘に立て続け−濃度は大分違ったが−キスされたシンジは、軽く口元を拭うと窓からふわりと浮かび出た。
 住人の誰にも決して真似できぬ姿勢で、そのままふわふわと門の外まで飛んでいき、結界を出た所で下に降りた。
 ふわあ、と一つあくびしてからゆっくりと歩き出したシンジを、夜の冷気がひっそりと包んだ。まだ三月だし、春めいてきたとは言え夜は冷える。灼熱も極寒も大して変わらないシンジでなければ、こんな格好でうろうろしていたらたちまち風邪引きさんだ。
 一応目下の光景は静かな夜の街だが、これも少し歩けばがらりと様相は変わる。わざわざ歌舞伎町になど、行く必要もない。
 と言うよりもやはり、降魔大戦がすべてを変えたと言っても過言ではあるまい。降魔と言う存在は、ここに来て脇侍や銀角となっているが、それは降魔大戦時に見られた物とはやや形態を事にしており、そもそも利用しようとしたのが人間である事を、シンジは既に知っていた。
 もっとも、そうでなくて降魔が現れたのならば、とっくに人間界はその支配下に置かれているに違いない。飼い犬に手を噛まれる、ならぬ実験動物が反旗を翻すのは映画を見るまでもない。
 ただそう考えると、最初の間抜けな夫婦のおかげで暗黒の苦しみを背負っている人類同様、間抜けなご先祖のおかげでシンジ達は迷惑していると言う事になる。
 いつの時代でも、先祖の野望というのは子孫に取ってろくな事にならないのだ。
 がしかし。
 シンジのとんでもない力は、頬に傷を持つ名医に改造してもらったのではなく、生まれついて持っているものだ。そしてそれは、無論問題なく生かされているわけだが、もしこれが平和で単調な世の中だったら、とある天啓を受けた少女戦士よろしく、磔にされた上に火あぶりにでもされたかもしれない。
 女神館の住人達だって、その力故に迫害されたかもしれないのだから。
「ま、エッチな変態娘は別だがな」
 本人に聞かれたら逆さ吊りにされそうな事を呟いた時、
「今晩は、碇様」
 斜め上から降って来た声に、その足が止まった。
「麗香も夜遊び?」
 それには答えず、吸血鬼の娘はふわりと着地すると、すっと顔を寄せてきた。
「…女の匂いがしますが。それも複数の」
 どうやら今の呟きを聞かれたらしい。
「い、いやこれはその、複雑な事情が絡み合ってその−」
「碇様のご本意ではないのですか?」
「え?ち、違っ、麗香待ってっ」
 慌ててシンジは麗香の腕を押さえたが、後一瞬遅かったらたちまち吸血コウモリ達が女神館を襲撃したに違いない。
「あ、碇様…」
 ぎゅっと握られた手に、麗香の顔がぽうっと染まった所へ、
「誰がお前に余計な手出しをしろと命じたのだ」
 巨大な黒翼の羽ばたく音が聞こえ、冷ややかな声が落ちてきた。
「あ、兄上これはその…」
「あー、いいのいいの」
 ダークグレーのスーツに身を包み、その背から巨大な翼を生やした夜の貴公子が、冷ややかな気を崩さぬまま降りてくると、シンジは軽く手を振った。
「ウチの住人に襲われてな、どうお礼しようか考えてたとこだ。しかし夜香、吸血鬼って鼻も良かったっけ?」
「浅ましい事ばかり考えているからです」
 兄に冷たい視線を向けられ、麗香はもう顔を上げる事すら出来ない。
「そうそう断定するものではないよ、夜香。人には得手不得手があるのだから」
 そこへ、
「あ、あの碇様…」
「ん?」
「その、お手をあの…」
 言われてやっと、麗香の手を握ったままなのに気づいたが、シンジは放そうとはせずにしげしげとその手を眺めた。
「荒れてはいないから、水仕事などさせてはいないだろうが…そうだ夜香、思い出した」
「何でしょう」
「パンツとブラはどうした」
「…は?」
「麗香の下着、増量しとけってこないだ言っただろ」
「あ、あれはそのまだ…」
「まだ?」
「いえすぐに手配しますので。決して忘れていたわけでは」
 無論忘れていた訳ではないが、ランジェリーショップなど配下が身を挺しても決して行かせまい。
 いかにシンジの言葉とは言え、吸血鬼一族の当主ともなると、行動にも色々制限が入るのだ。
 それよりも、こんな所など配下に見つかったら、それこそ月のない夜はシンジが安心して歩けなくなるに違いない。
「さては忘れてたな?まあいい、それより麗香」
「は、はい」
「女神館でどたばたしてる間に、乗り物に逃げられた。悪いが抱いてって」
「フェ、フェンリル殿にですか」
「そう、フェンリル」
 抱いて、の単語に反応してしまい、既に首まで赤くなっているのは無論、握られっぱなしの手にも原因がある。
「いやならいいんだけど」
「い、いえっ、わ、私でよろしければ喜んでっ」
「そう。じゃ、よろしく。夜香、妹君借りるよ」
「三途の川の岸に返却して置いて下されば結構です」
「あ、兄上…」
「と言うわけで、冷たい兄貴は放っといて、さ、行くよ」
「は、はい…」
 冷たい視線が萎縮させるものの、握られた手から伝わる温かさの方が優先され、麗香はそっとシンジをくるむと夜の街へと飛び立っていった。
 それを見上げながら、
「下着を…まさか本気で言っておられたとは…」
 配下の者に手配させようかと考えていただけに、これは本気で変装でも考えなければならないかと、美しき吸血鬼の青年はわずかに首を傾げた。
 夜空に舞い上がった麗香だったが、今までこんな頼みはなかっただけに、幾分戸惑ってもいた。
「あ、あの碇様」
「何?」
「あの、なぜ私なのでしょうか」
「身に覚えない?」
「は、はい?」
 ちょっと止まって、と麗香を空中で停止させ、シンジはすっとその腕の中から抜け出た。
「麗香」
「はい、ん…」
 改まって呼ばれ、何事かとシンジの顔を見た途端、その顔はそっと捉えられていた。
 重なった影はすぐに離れ、
「い、碇様…」
 ぼーっと口元に手をやった途端、へにゃへにゃと落下しかけたのを慌ててシンジはおさえた。
「過日、吸血鬼に取っては命そのものの血を俺に注いでもらった」
「あ…」
 その言葉でやっと思い出したらしいが、衝撃がまだ残っているのかこくんと頷いた。
「命の代償にしてはあまりにも安いが、俺からのせめてものお礼だ」
 シンジの言葉をどう受け取ったのか、麗香はわずかに俯いたまま激しく首を振った。
 
 
 
 結局抱いて行くように言ったものの、シンジのお礼にすっかり力が抜けてしまい、仕方なしに麗香を腕の中にしたまま、シンジは夜の空をへろへろと飛び回ったのだ。
 お礼、とは言ってもそのままホテルに連れ込んだ訳ではなく、ほんの少しキスしただけに過ぎない。
 が、そのままシンジの腕の中で飛び回ったものだから、屋敷に帰って来た時にはもう頬は上気した上に失神寸前であった。
 かなり純情と言えるが、連れて戻るとさすがに夜香は原因を一目で見抜き、
「すぐに寝かせます」
 シンジの腕から受け取ると、二分ほどで戻ってきた。
「え?」
「どうかしましたか?」
「どうかしたって、二分くらいしか経ってないぞ。廊下に放り出したりしてないだろうな」
 まさか、と夜香は乱杭歯を見せてうっすらと笑った。
「そんな事をしては、私がシンジさんに滅ぼされてしまいますから」
「訳の分からん事を言う。なんで俺が、吸血鬼に恨まれるようなことしなきゃならんのだ…もしもし?」
「私は別に構いませんが。幸い妹はそれなりの出来ですから、後は任せて私は冥府から碇さんを眺めている事にしましょう」
「ふーん。じゃ、一人で逝って…ってなんで迫ってくるの?ちょっとってば」
 じりじりと後退するがあっという間に追いつめられ、
「墓碑は碇さんにお任せしましょう。では−」
 じたばたと藻掻いたが逃げられる筈もなく、夜の一族の証−真っ白な乱杭歯が危険な美しさを湛えてみるみる迫ってきた。
 
 
 
 
 
 さくらがいつも通りの時間に起き、トイレに行こうとドアを開けると、食堂まできりきり来いとシンジの字で書かれた紙がぶら下がっており、何事かとやってきたら織姫がいた。
「あら、織姫さんどうしてここに?」
「さくらさんこそ、なんでこんなとこにいるですか?碇さんは私だけ呼んだのに」
 お邪魔虫、みたいな言い方にむっとして、
「あ、あたしだって碇さんに呼ばれたんですっ」
「ふうん。でも、本当に用があるのは私だけに決まってまーす」
「むー」
 言い返してやろうかと思ったが、何とか抑えてぷいっとそっぽを向く。
 二人ともほぼ背中合わせみたいにして立っていたが、先に沈黙を破ったのは織姫の方であった。
「ところでさくらさん」
「…何ですか」
「あなた、碇さんの事好きですか」
「え!?」
 単刀直入に突っ込まれて一瞬うろたえたが、何とか平静を取り戻し、
「そ、そう言うあなたこそどうなんですか」
「私?もっちろん大好きに決まってまーす」
「え…」
 まさかこんなストレートに返ってくるとは、さくらも思っていなかった。
 いやそんな事よりも、またライバルが一人増えたのは間違いなく、
「で、でもっ、い、碇さんはっ」
 言いかけたら、
「もうキスもしちゃいましたー」
 えっへんと織姫は胸を張った。
「キッ、キスー!?」
 昨夜の事を思いだして赤くなったが、幸い織姫には違う意味に取られたらしい。
「そう、キスです。さくらさんはした事ありますか?」
(碇さん…夕べは誰でもいいからキスしたかったんですね…)
 シンジをとっ捕まえて、一刀両断の元に切り捨てたくなったが寸前でおさえ、
「私はまだ…したことないです。そ、それでキスって、碇さんの方からしてくれたんですか?」
「え…そ、それは…も、勿論そうに決まってまーす」
(ふふん、やっぱり)
 織姫の反応に、シンジが自分からしたのではないと女の勘でさくらは見抜いた。
 だったら初めてで、恋愛とは遠く位置しているもののディープキスまでした自分の方が有利だと、
「それで、碇さんはどんな風にしてくれたんですか?」
 疑うそぶりは見せずに訊くと、
「頬にね、ちゅっとしてくれたです。気持ちよかったですよー」
「本当ですか?」
「なっ、さくらさんあなた自分がした事ないからって疑ってるですね。そう言うのはやな性格で−す」
「だって、ほっぺたにちゅ、なんて気持ちよくないですよ。やっぱり舌は入れないと」
 きゃっと頬をおさえたさくらに、
「…い、今なんて言いました?」
「本当は夕べ、あたし碇さんとキスしたんです−手当だったのはちょっともったいなかったですけど」
 告白みたいな台詞だが、シンジに面と向かっては決して言えない台詞だ。
「碇さんと…キス…」
「本当のキスって、気持ちいいんですよねえ」
 自分のはどう見てもチークキス、とも呼べぬような代物であり、されたシンジの手から炎が立ち上っていたから、どう考えても熱烈歓迎されたとは思えない。
 それをこの娘は、手当だかなんだか知らないが濃厚なキスをしたと言う。
 ぶるぶると織姫の手が震えた次の瞬間、
「み、淫らな事したのはこの口ですねーっ!」
 さくらの口に手を掛けると、思い切り両側に引っ張った。
「い、いひゃい、ないを−ふるんえすかっ!」
 さくらもすぐに引っ張り返し、二人の娘は相手の口を思い切り引っ張り合った。
「らいたい、あたしがろんなキスしたって関係ないれしょっ」
「碇さんがふきなのはこのソレッタ・織姫だけれーす!!」
「ふぬー!!」「ふぐうー!!」
 睨み合い、お互い一歩も譲らず顔を引っ張り合っているそこへ、
「朝から親睦を深めているようで結構な事だ」
 冷ややかなに加えて五パーセントほど不機嫌の入ったような声がして、二人の手がびくっと止まった。
「『い、碇さん…』」
「おはよう」
「『お、お、おはようございますっ』」
 慌てて手を離し、ぺこっと頭を下げた二人に、
「うん。どうやら気兼ねなく出来そうだな」
「何がですか?」
「いや、こっちの話だ。それより二人とも、ほっぺた痛くない?」
「あ、だ、大丈夫ですっ」
「ううん、大丈夫ですよ」
 二人は首を振ったが、
「いーや、良くない」
「『え?』」
「ほら、少し腫れてる。あまり引っ張り合ったりしちゃ駄目だよ」
「『は、はい…』」
 優しく、そっと触れられて頬を染めた二人だが、この辺り織姫は仕方ないにせよさくらもまだシンジの事が分かってない。
 おまけにこの男、何を思ったか二人の鼻にちょんと触れたのだ。シンジを知る者ならこの時点で逃走を試みているところだ。
 二人が頬を染めたのを見ても、別段シンジの表情は変わらず、
「二人にお願いがあるんだけどいい?」
「お願い?」「なんですか?」
「カレーをちょっと作ってみたんだが、昨晩色々あって舌が麻痺している。悪いけど味見してくれない?」
(色々…舌…)
 口に出さずとも、小娘達の脳裏に何が浮かんだかは表情を見れば一目瞭然である。
 シンジは反応せず、
「じゃ、ちょっと待っててね」
 二人をテーブルに着かせると奥へ消えた。
 
 
 
 
 
「『ぶっ!?』」
 アスカにすみれ、それにマユミまでもが一斉に吹き出したのは、それから数十分経ってからであった。
 文字通り、変わり果てた姿の二人がテーブルに座っていたのだ。
 唇は大きく腫れ上がり、なぜか目は泣きはらしたように赤い。何よりも、短期間で無理なダイエットをこなしたかのように、その頬はげっそりと落ちていたのだ。
「ふ、二人ともどうしたのよその顔は…」
 掴み合い、殴り合いの喧嘩をしたってこうは成らないだろうし、大体そんな事をする二人ではあるまい。
 やや呆然としながらアスカが訊いたが、二人とも揃って首を横に振るだけであった。
 とそこへ、
「放っておいてくれたまえ」
 シンジが姿を見せた。
「くれたまえって、これあんたが犯人なのっ」
「おかしな言いがかりはつけないでもらおう。何で俺がこんな顔を作らなきゃならないのさ」
「じゃ、じゃあどうしたのよ」
「若さから来る食欲の結果だ」
「しょ、食欲〜?」
 
 
 さくらと織姫を待たせ、シンジが運んできたのは一見して既にカレーではなかった。
 ライスの上にルーらしき物があり、福神漬けが付いているからカレー科の代物ではあろうが、あちこちに唐辛子の破片が乗っており、色からしてもう真っ赤と言った方が近いのだ。言い方を変えれば、福神漬けの汁をたっぷり乗せた物と言えば納得するかもしれない−ただし、その凄まじい匂いを別にすれば。
 辛さを大声で叫んでいるそれは、正常な嗅覚の者なら顔に近づけただけで汗が噴き出してくる。
 にもかかわらずさくらと織姫が反応しなかったのは、無論シンジが嗅覚をいじったからだ。
 そして、口に入れた瞬間、二人の口は揃って火を噴いた。
 しかも、量を競うように大盛りにしたから、文字通り核弾頭に着火したようなものである。口内で連鎖的に点火し、込められたすべての香辛料が爆薬のように暴れ回り、体中の毛穴という毛穴すべてから猛烈な汗が噴き出した。
 慌ててコップの水を飲んだが、どんな仕掛けがしてあったものか、一口飲んだ途端それが却って煽る役目を果たすのに気づき、二人はすぐコップを置いた。
「夕べの熱いお二人に、私からの礼だ」
 そう言って冷ややかに二人を眺めるシンジの視線は、嗤っているそれはないものの、実験成果を吟味する科学者のそれに近い。
 いずれも見逃したシンジだが、これがそのお礼だというのか。
 織姫のは無論、シンジが差し出した頬ではない。一方さくらの方は、シンジが悪魔の化身よろしく誘惑はしたものの、殆ど照れ隠しに奥義までかましている。
 いずも、相手を考えればすべきではなかったろう。
 して頂いた事にはきっちりお返しを、普通はそんな事を言ってもすぐ限度が来るものだが、シンジに関しては文字通り相手問わずなのだ。
 今年のバレンタイン、諸般の事情と言うか陰謀絡みにより、シンジの手元に初めてチョコレートが届いた。
 デパートで購入したらしい物から、あれこれ考えて作ったらしいものまであったが、その返礼にシンジが掛けた費用はざっと四百倍であり、大した物を送ってないくせに倍返しなどを要求するどんな鉄面皮の女も、真っ青になる係数である。
 しかもそれに、リツコのカードからは一銭も使わなかったのは、やはりシンジらしいと言えるかもしれない。
 そんなシンジだから、お礼するのはもらったチョコレートにだけではないのだ。
 
 
「うっ、な、何よこれ…」
「い、碇さんなんですのこれは…」
 乙女の涙を見て、シンジはにやっと笑った。
 無論、原因を知りたがる彼女たちに、さくらと織姫に一口食べさせた代物を持っていったのだが、マユミはスプーンを突っ込む事すら出来ず、アスカとすみれは自分は別格だとスプーンに取ったものの、やはりそこまでで鼻先まで持ってきた途端、ぽろぽろと涙が出てきた。
「お礼をするのはバレンタインのみではない。碇シンジ的換算法にして、ざっと三百八十五倍ってところだな」
「シ、シンジ〜、こ、この二人何したのよ〜」
 まだ止まらぬ涙をもう拭おうともせずにアスカが訊くと、
「さあ?」
 シンジは首を傾げた。
「さ、さあってあんたがやったんでしょ」
「乙女の秘密なんだって。従って口外すると天罰が当たるらしい」
「て、天罰って碇さん…」
 どんな天罰でも、これを食べさせられるよりましだと思った三人だが、ふと妙な事に気づいた。
 そう、自分たちの手は口に入れるのを拒むのだ。
 それが正常な反応なのだが、この二人は食べたらしい。しかも、口に入れた途端吐き出したのではなく、嚥下までしたらしい。
 なぜそんな事が出来たのだ?
 思わず三人が顔を見合わせたところへ、
「シンジ、おはよう」
「おにいちゃんおはよう〜」
 アイリスとレニが顔を出し、
「…この凶悪な指名手配犯みたいな二人は何?」
「俺からの恩返し」
「お、恩返しってこれが?」
 うん、と頷きかけた瞬間単純な、そしてなおかつとんでもない事に気づいた。
「アイリス駄目っ!」
 さくらと織姫は揃って仲良く放心状態。と言う事はつまり、思考はほぼがら空き状態である。
 叫んだ時にはもう遅く、
「お〜に〜い〜ちゃ〜ん」
 ピンピンピン、とアイリスの前髪が数本逆立った。
 
 
 
 
 
(つづく)

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