「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
 
息がものすごく苦しい、足も思ったように動かない・・・
 
「シンジ君!頼む!追いついてくれ!」
 
カヲルの声が後方で大きく響いた。
 
目の前にボールが転がっているのに、あと少しだけ届かない。
 
でも、これがラストチャンス。決めなきゃ僕らの夢は終わりを告げる。
 
ふと前を見ると、出てきたキーパーの姿が見えた。あと少しでとられてしまう・・・そう思い、いちかばちかで滑り込んだ。
 
ボールと一緒にぶつかりあう僕とキーパー。
 
大きな音が響き、ボールがゴールへ、転がっていく。
 
それを目で見送る、僕・・・
 
追いかけるDF・・・頼む!取らないでくれ・・・サッカーを始めてから、初めて願った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                  僕らの誓い    第4話
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
私立双葉高等学校・・・スポーツでは多少は名の知れた学校だ。
 
バスケットでは、いつでも全国ベスト4には残るし、他の部活もある程度の成績を収めていた。
 
サッカー部を除いては・・・・
 
予選大会ではいつでも2回戦か3回戦で姿を消し、有力選手も他の学校にとられてしまう。
 
そんな状況を見かねた学校側は、今年からサッカー部にも推薦枠を設けることになった。
 
その有力候補となったのが、中学時代、全国大会にも出場した地元中学の4人組であった。
 
その中心は碇 シンジ・・・中学生ながら、日本代表アンダー19に選ばれている卓越した実力の持ち主である。
 
他の三人も、県選抜には選ばれており、加入させることにできれば、一気に優勝候補と肩をならべることができると考えたのだ。
 
シンジがブラジルへ行ってしまうというハプニングもあったが、地元ということを活かして、他の三人は獲得できた。
 
中心のシンジもブラジル時代から親と連絡を取り、10月から始まる全国高校サッカー選手権大会には、間に合った。
 
 
 
そんな訳で、学校の思惑通り、双葉校は一気に優勝候補として、他校にマークされる存在になったのであった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「なあ、俺達って強くねえ?」
 
これは、予選1試合目が終わり、キャプテン田中が、みんなに向けて話した言葉。
 
今まで、勝つにも1−0とか、2−1のチームがなんと5−0で圧勝したのだ。
 
相手もそんなに弱いところではない。例年通りなら、ベスト16には残れる戦力をもったチームだ。
 
実際、シンジが加入して、チームのバランスはとてもよくなっていた。
 
得点力不足は解消され、守備にも不安はない。みんなの調子も絶好調♪
 
問題はないように見えた。
 
「なんか、シンジ君に頼りすぎている気がするよ」
 
カヲルとケンスケが何度かミーティングで発言する以外は・・・
 
そんなときは決まって、「あいつを止められる奴は高校サッカー界には存在しないよ」
 
という言葉によって消されていたが・・・
 
その言葉を証明するように、シンジは得点やアシストを量産していった。
 
そのおかげで双葉校は、2回戦、3回戦の壁をあっというまに乗り越え、ついに準決勝までたどり着いたのであった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「さすがにここまでくると人が多いな」
 
田中は会場を見回し、一人呟いた。
 
「ですね。みっともない試合はできなくなりましたよ」
 
ケンスケもそれに続く。
 
「優勝候補の桐光学園 との試合とはいえ、ここまで人がくるのか?」
 
スタジアムは既に満員状態・・・マスコミがシンジやカヲルを特集し、土曜日ということもあいまって、人が多く押し寄せた。
 
「ちょうど、ええっちゅうねん!」
 
両手で拳を突き合わせ、トウジは大声で叫んだ。
 
「優勝候補がなんぼのもんじゃい!ここをぶち破れば、全国が見えるで!」
 
全国の言葉に皆が顔を合わせる。
 
「そうだね。みんなで力を合わせて、壁を破ろう」
 
「おう!!」
 
シンジの言葉に、何かを確認するように声を合わせた
 
「作戦はいつもと同じだ。ボールを取ったら、カヲルに集めてくれ。もし、駄目なら、シンジに直接でいい。」
 
田中が作戦を確かめる。
 
「これまでの相手とは一つも二つも違う!でも、俺達は全国に出てもおかしくないものをもってるはずだ!
 
チケットは一つしかねえ!てめえら!ぶちとるぞ〜!!!!」
 
「おぉぉぉぉぉぉ〜!!!!」
 
大声をあげてグラウンドへ出て行く。戦いは始まった。
 
 
 
 
 
 
 
 
「ピィ〜」
 
審判のホイッスルが鳴り響いた。
 
 
 
相手の桐光学園の布陣は5−3−2の守備型だ。今までとは差がありすぎる。
 
何か意図があるのだろうか?
 
ボールをうけたカヲルは、少し考え込む。
 
しかし、シンジにボールを預けた時、謎は解けた。DFが一気にシンジを囲んだのだ。
 
なんと三人も・・・2人がマンマーク・・・もう一人はカバーリングという具合に。
 
元々、桐光学園は守備力に定評がある。そのDFに囲まれればシンジも仕事ができない。
 
たとえ、二人をぎりぎり抜けたとしても、カバーリングの選手によって狙われているのだ。
 
「カヲル君!」
 
仕方なく、ボールを戻す。
 
カヲルは戻ってくることを予期していたのか、そのボールをダイレクトに右サイドに走りこんでいたケンスケに大きくフィードした。
 
素晴らしいボール。今までの相手ならば、万全の形で通っていたであろう。
 
しかし、ボールは敵DFによってカットされてしまった。
 
読まれていたのだ。一連の流れを・・・
 
カヲルとシンジに抜群の信頼を置く、双葉校は気を抜いていた。
 
DFラインを上げ気味にしておいてしまったのだ。
 
一気に押し上げてくる桐光学園。反応しきれていない双葉校・・・
 
勝負は一気についた。
 
MFとDFに間があいたところを狙われ、そこから放たれた、ものすごいロングシュートがトウジを襲った。
なんとか、パンチングで弾くが、むこうのFWに押し込まれ、先制点を許した。
 
あまりにも早すぎた一点・・・すべては形どおりに進められた。
 
 
 
それからというもの、ボールは支配するが、攻撃の要のシンジとケンスケを完全に抑えられ、なかなか点が奪えない。
 
ムサシに渡しても、技術が違いすぎるため、あっというまに奪われ、カウンターをくらう。
 
糸口さえ、掴めないまま・・・
 
「ピィ〜」
 
前半終了の笛がなった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「打つ手なしだね・・・」
 
控え室にカヲルの言葉が響き渡った。
 
「なあ、センセ、あいつら、いつもみたいにちょいちょいってぬけんのか?」
 
「う〜ん、それは無理だよ。スピードに乗る前に囲まれちゃうし、抜いて、スピードに乗ろうとしても、カバーリングがいるから、
 
とめられちゃうんだ。」
 
シンジの珍しく弱気な発言・・・より一層、控え室の空気が重くなる。
 
「仕方ねえ。うちにはシンジに頼るしか、まだ攻撃の形はないんだ。今更、考えても、意味がない。
 
ケンスケ、お前のサイドはどうだ?」
 
「こっちも無理ですよ。抜ける気がしません・・・」
 
「だったら、あれしかねえな」
 
「あれってなんです?」
 
みんなが一斉にキャプテンの所に集合する。
 
「もし、終了前5分になっても、点をとれてなければ、捨て身の作戦に出る。わざとカウンターをさせるんだ」
 
「なっ・・・前半と同じように、やられちゃいますよ!」
 
「んなこといったって、あいつらがラインをあげる瞬間とシンジから眼を離すのはそれしかねえんだよ。」
 
「・・・・・・」
 
皆は顔を合わせる。成功の可能性は極端に低い。
 
もし、防ぎきれずに点をとられてしまえば、そこで終わりなのだ。
 
「でも、それしかねえんだ。皆、腹をくくってくれ」
 
重苦しい雰囲気の中、ハーフタイムは終わった。作戦はある。切り札も・・・
 
だから、やる!勝つ可能性があるうちは。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ピィ〜」
 
後半が始まる。シンジは前半より、大きく動き回った。
 
ボールが回る。
 
しかし、決定的な仕事はさせてもらえない。
 
いつでも、人がついてくるのだ。
 
「カヲル君、僕がパスを送る。だから、僕がボールを持った瞬間に、裏に走りこんでくれ」
 
すれ違った瞬間、シンジはカヲルに話す。
 
カヲルは了解の意図をこめて、一回手を上げた。
 
その時、ケンスケから大きく、サイドチェンジのボールがシンジに通った。
 
シンジはフェイントをかけながら、機会をうかがう。
 
「シンジ君!!!!!」
 
カヲルがマークを振り切った。
 
「カヲル君!!!」
 
取りやすいように、バックスピンのボールがカヲルに通った。
 
1対1・・・・この試合、初めての決定的なチャンス・・・
 
いつものカヲルなら、決められるボール。
 
けど、カヲルは初めての感覚を味わっていた。
 
それは、プレッシャー・・・その感覚をFWをやったことのないカヲルは初めて体験した。
 
震える足、心臓の音が大きく響く、何も考えられない・・・
 
「どうしよう・・・」
 
さっきから、そればっかりが頭に浮かぶ。
 
それを、振り払うように無我夢中で右足を大きく、振り上げ、力いっぱい蹴りこむ。
 
ボールはキーパーの脇を通り抜け、バーを直撃した。
 
大きくバウンドしたボールはラインを割り、ゴールキックになる。
 
片膝をつく・・・それを、起き上がらすシンジ・・・
 
「まだまだ、これからだ!」
 
シンジは大きな声で落ち込みかけたチーム全体を叱咤した。
 
 
 
盛り返した双葉校だが、点は全然奪えなかった。
 
再三のピンチを、防ぎきり、気づいた時には、時計の針は5分前を注げていた。
 
「やるぞ」
 
田中が合図を出す。無理とラインを上げる。
 
それを確認すると、カヲルはシンジに通す振りして、無理とパスミスをする・・・
 
カットし、桐光学園は一気にラインを押し上げた。
 
一気に立てパスをする。
 
それを狙っていた双葉校・・・右サイドにいたはずのケンスケが帰ってきていた。
 
足を伸ばす。その時、グラウンドに強い風が吹き抜けた・・・
 
ボールは曲がり、ケンスケの膝に当たった。
 
変なところにあたったボールは大きく跳ね、ラインを割ろうとする。
 
「終わった・・・」
 
皆が思った。4人を除いて・・・
 
「「「カヲル!(君)」」」
 
トウジ、ケンスケ、シンジが同時に叫ぶ。
 
全力疾走で戻っていたカヲル滑り込みながら、ラインぎりぎりのボールを前線に蹴り上げた。
 
勢いあまって、グラウンドの外へ転がる。
 
一気に裏へ抜けたボールをシンジが追いかける。
 
しかし、前半から走り回っていたシンジの足は限界を超えていた。
 
思ったように走れない・・・無常にも前を転がっていくボール・・・
 
諦めかけたその時・・・
 
「シンジ君!頼む!追いついてくれ!」
 
グラウンドの外に転がっていたカヲルが体を半分、おこし、叫ぶ!
 
「シンジ!夢かなえるんでしょ!こんなとこでちんたら走ってる場合じゃないでしょ!!」
 
応援にきていた赤毛の少女が叱咤する。
 
「当たり前!」
 
シンジは一言だけ呟くと、前を向き、スピードを上げた。
 
キーパーと同時に滑り込む。
 
一瞬だけシンジが先に触れたボールがキーパーにあたり、ゴールへと転がっていく。
 
「頼む!入れ!」
 
みんが願う!
 
追いかけていたDFが、ゴール直前、滑り込み、足にあてた。
 
しかし、そのボールは前へと転がらず、ネットにと吸い込まれる。
 
 
「やったぁ〜」
 
全員がシンジへと駆け寄り、シンジは拳を突き上げた。
 
「まだ、同点!一気に逆転すんぞ!」
 
田中の声に、皆は声を揃えて叫ぶ!
 
「当たり前〜!!!」
 
みんなの笑顔がはじけた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ピィ〜」
 
試合が終わった。結果はVゴール負け・・・
 
カヲルの負傷退場・・・シンジはもう走れない・・・
 
その状態で、チームはなんとか、猛攻を防ぎ続けた。
 
しかし、延長終了直前・・・力尽き・・・ゴールを許した。
 
スタジアムに駆け寄り、礼をする。
 
「楽しかったぞ!」
 
「また、見に来るわ」
 
スタジアムに響く歓声・・・涙にぬれた11人の戦士達は、その歓声を聞きながら、グラウンドを後にした。




hot-snowさんに頂きました。


エヴァってさ、一機でも結構何とかなってる訳で、シンちゃん向き。
でもサッカーとかって、共同作業とか必要だからマンドクサイ。


<共同作業が雷の次に苦手な>URIELより。


そんな何かに不適格管理人はともかく。
負けて何かをゲット出来る人もいると聞きます。
次の進化に期待しましょう。




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