SUMMER WALTZ 

 4th story  : Man's and Woman's Dilemma

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電話を挟んで、シンジとアスカしばらく譲り合っていた。

 ついにしびれをきらして、電話に飛びついたのはやはり気の短いアスカの方だった。

 

「はい、もしもし…」

 

 おそるおそる電話を取るアスカ。

 

「おっ、やっと出よった」

 

 無駄に明るい関西弁の男の声がアスカの耳を打つ。

 

<この声はまさか…>

 

 内心の不安を表には出さず、絶対零度の声で返す。

 

「…どちら様でしょうか?」

 

 名前を名乗らない相手への刺を含んだ口調をものともせず、相手は自分のペースを崩さない。

 

「忘れてもうたんか?ワシやワシ、トウジ、鈴原トウジや」

 

 聞かなくてもわかる、ドイツ時代の幼なじみだったトウジの声は覚えていた。

 今、最も会いたくない相手の内の一人の電話にアスカは思わず『ゲッ』と言いかけた。

 

「もうかりまっか?」

 

「……」

 

 脈絡のない言葉にアスカは、ますます顔をしかめる。

 

「なんや、これも忘れてもうたんか?

『もうかりまっか?』と聞かれたら、『ぼちぼちでんな』と返す!

正しい日本語の挨拶をあっちであれほど教え―――」

 

ガチャン!

 

 皆まで言わさず、受話器を力の限り叩きつけた。

 その剣幕に驚いているシンジに、アスカはこめかみをひくつかせながら、無理矢理笑って言った。

 

「間違い電話!」

 

「なんだ」

 

 「Ach,wie dumm bist du!」

 

 ドイツ語、しかも早口の言葉は、意味はわからなかったが、その剣幕に思わずシンジは体を引く。

 

ピンポーン

 その時、チャイムの音が鳴った。

 『こんな時間に家に来る人はいないはず』と訝しがるシンジと、『まさか…』と嫌な予感に金縛りになるアスカ。

 

ピンポーン

 

 もう一度、チャイムの音が家中に鳴り響いた。

 

「あっ、あっ、あの…カオルかもしれない。カオルが戻ってきたかもしれないから、アタシが自分で!」

 

「あ、うん」

 

ピンポーン

 

 しつこく鳴り続けるチャイムにアスカの嫌な、とても嫌な予感は否が応でも高まっていく。

 

 ピンポーン

 

 3度目のチャイムの音が鳴った。

 アスカがそっとドアを開ける。

 すると、ドアノブをグイッと引っ張って開いた先には、鈴原トウジの能天気な明るい笑顔があった。

 

「よおっ!」

 

 声と同時にドアを閉めようとしたアスカだったが、トウジはそれをさせない。

 それでも、力任せになんとか閉めようとするが、敵もさるもの、譲らない。

 と、いきなりトウジがドアノブを離す。

 そのおかげでドアは閉まってくれたが、反動でアスカは転びそうになった。

 しかし、いつの間にか傍に居たシンジがアスカを抱きとめる。

 

「大丈夫?」

 

「…ありがと」

 

 みっともない所を見せてばつが悪いのと、抱きとめられていることの両方に頬が朱に染まる。

 

「そないに嫌がらんでもえぇやんけ。遠路遥々、旧友が会いに来てやったちゅうに…」

 

 またしてもちょっといい感じの二人だったが、外のお客様はそれを知らず、ゆっくりとドアを開けた。

 

「……」

 

「……」

 

 抱き合うシンジとアスカに見つめられるトウジ。

 

「あ、こら失礼。お邪魔やったみたい、や、な……誰や、お前?」

 

 トウジはシンジを見つめ怪訝そうな顔をする。

 この男とは8歳の頃にドイツに留学してきて以来長い付き合いで、カオルとも親友だった。

 アスカとカオルが『許婚』であることも良く知っている。

 トウジの目には、アスカが不貞を働いているように見えているのかもしれない。

 一番説明をしたくない相手の中の一人の出現に、アスカはシンジの腕の中でため息をついた。

 シンジといえば、状況が把握できず、ただ両者の顔を交互に見ていた。

 

 固まる3人の中で、覚悟を決めたアスカがゆっくりと立ち上がる。

 服の埃を払い、居住まいを正すとシンジに『もう大丈夫』と言うと、出切る限り冷静にトウジに話し掛ける。

 

「…どうしたのよ、突然。アンタ5年も音沙汰なくて、ヒカリも心配してたわよ?」

 

「…ヒカリ?あ、忘れとった」

 

 ドアの外に出て、手招きをすると、リボンのついたワインを抱えた女性が笑顔で入ってくる。

 

「おめでとう、アスカ、ナギ…さ、くん?」

 

「…ヒカリ」

 

 アスカのドイツ時代からの親友、洞木ヒカリもシンジを見て固まった。

 そして、懐かしいフレーズを絶叫してくれた。

 

「不潔よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 アスカは、またため息をついた。

 トウジだけだったら、なんとか誤魔化して追い返すこともできたかも知れないが、ヒカリも来てなおかつこの状況。

 説明しないわけにはいかないだろう。

 

 ふと、シンジを見るとリビングルームで人数分のコーヒーを用意していた。

 

「とりあえず上がってもらったら?」

 

「…アンタのそういうとこ、助かるわ」

 

 懐が深いというか、何というか…。

 どんな状況でも結局受け入れてしまうシンジの性格に心の底から感謝した。

 

 アスカのシンジへの第一印象、『頼りない男』という形容は、そんな風に少しずつ変化している。

 そんな慣れた受け答えをする二人を見て、またヒカリは身悶えたりしたのだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 とりあえず席に着いた4人だったが、ヒカリは『新婚そうそう不倫なんて〜!』と身悶えたままだし、トウジはシンジの履いてる

 ジャージを見て『お、STYUSSYやな?ワシのもそうなんやけど、ヨーロッパには店が少なくて…』と言ってジャージ談義に花

 を咲かせる始末。

 シンジのジャージは寝巻きで、トウジのは一張羅だったのだが…。

 

 ともかく、混乱しまくっていた。

 アスカの『で、結局何しに来たわけ?』というもっともな突っ込みがなかったら、朝までこの状況が続いたに違いない。

 ようやく、事の発端であるトウジが説明を始める。

 

「いや、色々あってな…ワシも日本に戻ることになったんや。そしたら、ヒカリも『帰る』言うて…。

いや、ホンマ、偶然なんやで?たまたま…なぁ?」

 

「うん♪」

 

「それはいいから!」

 

 照れながら嬉しそうに受け答えする二人に、アスカの一喝が響く。

 

「…まぁ、それで第三新東京市に戻ってきたら、ヒカリが『アスカも近くに住んでるのよ』って言うもんやから、久しぶりに同窓会で

も開こうかっちゅう話になってな。

で、オマエんとこに電話したら、『現在使われておりません』ってきたわけや。ヒカリが心配してなぁ…。

しゃあないから、リツコはんに電話したんや。リツコはんは相変わらず凛々しいお声で…」

 

「「それはいいから!」」

 

 今度はアスカとヒカリのダブル一喝。

 何故だかシンジまで怯えている。

 

「コホン…、で、『アスカはこの前結婚式があった』と言うやないか!これは祝わないわけにはいかん!『漢』が廃る!

ということで、急いで駆けつけたわけや!」

 

「そうよ、アスカ。なんで連絡してくれなかったの?」

 

「いろいろあったのよ…」

 

 元々、日本での結婚式は渚家、惣流家への顔見せで、本当の式は親しい人間の多いドイツに帰ってからやるつもりであった。

 もちろん、消息不明のトウジはともかく、ヒカリは呼ぶつもりでいた。

 しかし、その前にカオルが逃げてしまった…。

 

 遠い目をして語るアスカ。

 それをどうやら二人は勘違いしたらしい。

 

「そやな、相手がカオルやないんやから、ワシらを呼びにくいっちゅうこともあるやろ…」

 

「へ!?」

 

 どうやらトウジは、シンジをアスカの結婚相手として認識しているらしい。

 そんなボケをかますトウジにヒカリが肘で小突いて、小声で突っ込みを入れくれた。

 流石はヒカリ、アスカの長年の親友なだけあってわかってくれているようだ。

 

「ちょっと、鈴原!」

 

「なんや?」

 

「ダメよ、そんなこと言っちゃ!昔の男の話なんてアスカの旦那様が気にするでしょ!」

 

「おぉ、そうか!」

 

 …訂正、この二人は似たもの同士、おもろい夫婦であるようだ。

 アスカは脱力し、訂正する気も失せてきた。

 突っ込みのいない夫婦漫才は暴走の一途をたどる。

 

「ええと、センセ、お名前は…」

 

「碇シンジです」

 

「ワシは鈴原トウジ、惣流の幼なじみや」

 

「私は洞木ヒカリです。同じくアスカの幼なじみよ」

 

「はぁ…」

 

「センセ、お幾つで?」

 

「えっと、今年で23になります」

  

「あっ、タメや、タメ!よろしくセンセ!」

 

「ホント、同い年ね!奇遇だわ!よろしく碇君!」

 

「あ、よろしく」

 

 シンジは差し出された二人の手を、律儀に交互にとった。

  

「えぇ男やないか、なぁ?」

 

「うん!アスカが羨ましい!」

 

「おっ、ヒカリ!不倫はあかんで?」

 

「もう!そんなわけないじゃない!」

 

「ハハハ…」

 

 間断なく繰り返されるトウジとヒカリのやりとりに、シンジは力なく笑うしかなかった。

 誤解と先走りが満ちた会話であったが、なごやかな雰囲気がこの部屋に取り戻されつつあった。

 だが、そこで迂闊を絵に描いて額縁に飾った男、鈴原トウジが地雷を踏んだ。

 

「いや、しかしボランティアの域や。センセみたいな男がこんな根性ババ色の女と結婚するっちゅうのは、なぁ」

 

 同意を求められてヒカリは困った。

 ハッとしてアスカの方を見ると、小刻みに震えている。

 

<このジャージバカ…せっかく良い記念日になってたのに!>

 

 『まずい…』、切れたアスカの爆発力を知るヒカリはかつての恐怖を思い出し、止めに入る。 

 

「それはちょっと…」

 

「あぁ、根性ババ色っちゅうのは言い過ぎやな。惣流には、なんちゅうか、こう、子供っぽいところがあるんやな。

センセから見れば惚れた弱み、そんな所も可愛く見えるんやろうが…。

でも、ここだけの話、なんと惣流は小学校5年までおね――――」

 

「オマエは喋るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

グワッシャァァァァァァァァァァァァァァン!!!

 

 何の予備動作もなく飛び上がったアスカの蹴りがトウジの顔面にクリーンヒット。

 映画でも中々お目にかかれないほどの派手な吹っ飛び方で壁に叩きつけられるトウジ。

 『紅い閃光』そんな異名がシンジの頭に浮かんだ。

 奇しくもそれは、ヒカリが思い出していたドイツ時代のアスカの二つ名と同じだった。

 

 壁のへこみ具合から見ても、救急車を呼ばないとシャレにならない程の怪我を負っていてもおかしくないが、トウジはあっさりと

 起き上がる。

 こちらも只者ではないようだ。

 単に蹴られ慣れているという話もあるが。

 

「あいたたた…。オンドレ、いきなり何さらすんじゃい!」

 

「1回、本気で死んでみる?」

 

「……・スンマセン」

 

 アスカの瞳の中に『本気』の二文字が光っているのを見て取ったトウジは素直に土下座をした。

 シンジは壁にくっきりと残った人型の凹凸を見ながら、起こったことが信じられず茫然としている。

 見ているアスカの視線に怯え、トウジは蟹のように壁際を移動して、シンジの後に逃げ込んだ。

 

「ハァ…ったく。ねぇ、ヒカリ、アイツのどこがいいわけ?」

 

「へっ?」

 

「一緒に帰ってきたってことは、あっちで連絡取り合ってたんでしょ。付き合ってんの?」

 

「そ、そ、そ、そ、そ、そんなこと!」

 

 力一杯否定するヒカリだが、そのうろたえようでは判り易いにも程がある。

 

「アタシとカオルには一度も連絡こなかったのに〜」

 

「とっ、トウジにもいろいろあって…その…」

 

「へぇ〜ト・ウ・ジねぇ」

 

「ちっ、違う、そういうんじゃなくて、その…」

 

 なんだか、盛り上がっている女二人。

 それを見たトウジはアスカの機嫌が直っているのを確認して、彼も通常の図々しさを取り戻した。

 

「センセ、口ん中切れたんでアルコールで消毒せな。ビールかなんかあるか?」

 

「あ、ごめん、気がつかなくて」

 

 極めて落ち着いて、答えるシンジの頭の中には先ほどの光景は抹消されていた。

 そう、人があれほど吹っ飛ぶわけなどないのだから…。

 

 立ち上がってキッチンに向うシンジに気がついて、アスカも後を追う。

 

「あのさ…すぐ帰らせるから」

 

 怒っているかもしれない、大家さんにおそるおそる話し掛けると、シンジはビールを冷蔵庫から出しながら微笑んでいた。

 

「僕、おもしろいからしばらくアスカの旦那さんになろうかな」

 

「えっ?!」

 

 予想もしてなかった言葉に、アスカは驚いた。

 

「ウソ♪」

 

「なっ…」

 

 何故だかアスカはひどく動揺していた。

 からかわれた事にムッとしたが、立場が弱いので言い返せない。

 

「面白い人だよね、鈴原君も洞木さんも…。いい人みたいだし。

ちょっと早とちりなところとか、人の話を聞かないところとか、アスカに似てるかな。ねぇ、ドイツの人はみんなそうなの?」

 

 シンジは全く怒ってなどおらず、むしろアスカが引け目を感じていることに気付いて、冗談で慰めてくれた。

 それに含まれた、ある意味的を射た分析とあいまって、アスカは何も言えなかった。

 

「へぇ、立派なピアノやんか」

 

 トウジはグランドピアノを見ると、珍しいのかペタペタと触り始めた。

 

「あっ、もう、汚い手で触るんじゃないの!」

 

 シンジが大切にしていていつも磨いているのを知っているだけに、アスカは気が気でない。

 

「鈴原!」

 

 アスカの怒りの声に瞬時に反応し、バネ仕掛けの人形のように両手をあげる。

 恐怖が本能に刻み込まれているらしい。

 その時、ピアノの上に置いてあった、あのスーパーボールに微かに手があたった。

 転がったボールはピアノの端まで行くと、素直に重力に従い落下を始める。

 

「あ…」

 

 それに気がついたシンジが咄嗟にあげた声に、トウジが反応した。

 1メートル弱しかない高さを落ちるボールが床に触れる直前、トウジの右足が伸びた。

 右足の甲がボールを弾く。

 跳ねたボールは垂直に、高く、ゆっくり舞い上がる。

 もう一度戻ってきたボールを今度は腿で跳ね上げ、次に胸、肩の順で綺麗にリフティングを続ける。

 最後に額に弾かれたボールは、元々あった位置で待ち構えていたトウジの右手にすんなりと収まった。

 

「どや?」

 

「…すごい」

 

 シンジは心からほめた。

 小さいスーパーボールでリフティングをしたこともすごいが、なにより流れるようなその動きに惹きつけられた。

 

「キーパーでもこのぐらいはな」

 

「キーパー?」

 

「『元』、がついてまうがな…」

 

 トウジの陽気な顔に、蔭が差す。

 だが、それも一瞬のことで、すぐさま生来の陽気さに覆い隠され、笑顔でシンジからビールを受け取る。

 

「アイツ、なんかあったの?」

 

「…うん、鈴原も色々あったんだよ」

 

 ビールを口にくわえて問うアスカに、ヒカリは俯き加減で応じる。

 その様子から察したアスカも深くは聞かない。

 自分達ももう23歳。

 なにもないまま、この年齢を迎える者などそう多くはないだろうから。

 自分を筆頭に…。

 

 うまく決まって上機嫌のトウジはヒカリに目配せをする。

 

「ヒカリ」

 

「うん」

 

 トウジはシンジに、ヒカリはアスカにそれぞれチケットを差し出す。

 

「まぁ、色々あって今度こっちで店出すことになってな…。結構いい感じのバーなんやで?

来月開店なんやが、その前にオマエの結婚祝いでもやってやろう、思うてな、その招待状や」

 

「ね、どう、アスカ、碇君?」

 

「ええと…」

 

 この、原点から間違っているそれでも純粋な好意に、なんて言ったらいいのか困ったシンジは、アスカの顔を見る。

 

「…もういいわ、ありがとうシンジ。それに、ヒカリと鈴原も…。

ホントに嬉しいけど、これは受け取れない。コイツはアタシの結婚相手なんかじゃないの」

 

「「え?」」

 

 突然の告白に固まるトウジとヒカリ。

 

「私の本当の結婚相手は、やっぱり渚カオルなの」

 

「へ…?じゃあ、カオルはどこにおるんや?」

 

「んなの、アタシが聞きたいわよ…」

 

「あの、じゃあこちらの方は…」

 

 ヒカリはおずおずとシンジを指差す。

 

「カオル君のルームメイトだった碇シンジです」

 

 シンジは困った笑顔を浮かべながら、あっさりと白状した。

 

「惣流、そりゃまずいやろ…。結婚式直前にこっちのセンセに乗り換えたんか?」

 

「…そうじゃなくて」

 

「「やっぱり不倫??」」

 

「…そうでもなくて」

 

「「そうじゃない???」」

 

 トウジとヒカリにはもう訳がわからない。

 アスカは腹を括った。

 

「アタシが逃げられたの!」

 

「「えっ…?」」

 

「結婚式当日にカオルに逃げられたの!!」

 

 何度も繰り返した説明を、また言うはめになった。

 遠くを見ながら、ぶっきらぼうに言い放ったアスカは、ふとあることに気がついた。

 トウジが最初に連絡を取ったリツコが、きちんと説明をしていれば済んだ話だった。

 『アスカはこの前結婚式があった』

 嘘はついてないが、その不自然な言い回しに意図的なものを感じる。

 

<…リツコ、楽しんでるわね?>

 

 リツコの名前が、アスカの『殺すリスト』の2位にランキングする。

 ちなみに1位は渚カオル、3位は時田助教授。

 

 まぁ、勝手に他人に説明されて深刻に気を使われるよりは、自分で言った方が遥かにマシではある。

 『花婿に逃げられた』という事実は、あまりにも出来の悪いジョークで信じることも難しいだろうし…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、シンジがまた母校に行くと、中庭のベンチで昨夜の出来事を話した。

 

「それで、その関西弁なジャージ男が朝まで家にいたわけ?」

 

「オランダでプロのサッカー選手やってたんだって。こんなちっちゃいボールで綺麗にリフティングしてさ、レオナルドなみ」

 

 トウジの見事なボールさばきは、何年か前のJリーグの試合で元ブラジルの10番が見せたデフェンダーをリィフテングで翻弄し、

 ボレーでゴールに叩き込んだ光景を思い出させた。

 

「へぇ…。名のあるやつかな」

 

「いや、もう引退したって言ってた。

2部で3年くらいがんばってて、去年の暮れに1部のけっこう有名なチームにスカウトされた直後に左足の靭帯をやっちゃたんだ。

それで、日本に帰ってきて昼は少年サッカーのコーチ、夜はクラブの雇われオーナー。

『いわゆるプーやな』って笑って言ってたけど、きっとつらいよね。夢が終わっちゃうっていうのはさ…」

 

「そっか…。でもさ、不安定な職業だ、そんなこともあるだろ?

あいつらが黄色い声援で玉蹴りやってる間にオレ達は、つまらないつまらないハノンを毎日弾いてた」

 

「でも、ボクは彼がうらやましい。終わっちゃったっていっても夢の入り口はくぐれたんだから。

ボクは夢の入り口もくぐれないまま、扉の前で立ち尽くすプーだ」

 

 ふとケンスケが視線を上げると、ちょうど綾波レイが視界に入った。

 

「おい、お待ちかねの人、来たぜ」

 

「えっ…別にそんなんじゃ!」

 

 シンジもレイに気付き、途端に顔を赤らめ動揺する。

 

「…わっかりやすいヤツ、いいから潔く散って来い!」

 

 背中を叩かれ、ベンチから立ち上がりレイの後を追う。

 

「それじゃ…」

 

「でも、みっともなくても散りたくないっていうなら、いいものがあるんだけどなぁ?」

 

 含みを持たせた言い方でシンジを引き止めると、バックからチケットを2枚取り出してシンジに渡した。

 

「昨日の電話の失礼を詫びて、そこから流れるようにスマートに、デートに誘うんだ!」

 

「これ、スタルスノフじゃないか」

 

 有名なピアニストのリサイタルのチケットだ。

 

「プラチナチケットだ!たとえオマエに興味がなくても、ピアノやってるやつだったら、絶対に行きたい!」

 

「…いやなこと言うね」

 

 シンジは痛いところをつかれ、顔をしかめる。

 

「1枚1万円になります♪」

 

「……」

 

 泣く泣く、シンジはフリーターの薄い財布から2万円を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シンジはレイの後を追い、西館のピアノ室の方に向った。

 微かなピアノの旋律が聞こえてくる。

 先日、レイが練習していたバッハの平均律クラーヴィア曲集、第1番。

 冬月が指摘した通り、美しいがどこか冷たさを内包しているピアノ。

 とても『綾波らしい』ピアノ。

 シンジはそれが嫌いではなかった。

 

 

 視線を感じてレイは流れるように動いていた手を止め、顔を上げる。

 声をかける前に気がつかれたシンジは、ばつが悪そうに扉の窓越しに手を上げた。

 

「碇君?」

 

 レイは部屋に入ってきたシンジを特に感慨を浮かべず迎えた。

 

「…こんにちは」

 

「どうしたの?」

 

「あ、えっと…きのう、電話くれたろ?何かなって思って」

 

「冬月教授の自宅の電話番号わからなかったから、碇君なら知ってると思ったから」

 

<なんだ…そういう用事か…>

 

 期待していた分だけ、落胆も大きい。

 レイの方から始めてかかってきた電話、期待するなという方が無理だ。

 

「でも、相田君に聞いたら教えてくれた」

 

 素っ気なくレイが言い放つ。

 悲しいことに、誰でもよかったようだ。

 

「そう、それだけ…なんだ」

 

「ええ」

 

 男心に疎い、というか他人の感情に疎いレイは、シンジの落胆の表情に気がつかなかった。

 それにもめげず、シンジは気を取り直すと、アスカの説明だけはしておくことにした。

 

「女の人出たでしょ。電話」

 

「ええ」

 

「あれ、関係ないから」

 

「関係ない?」

 

「あの、なんていうか…、親戚みたいなもの」

 

「そう」

 

「…まるで興味ないね」

 

「えっ…?」

 

「…いや、なんでもない」

 

 彼にしてはかなり頑張った方だ。

 まるで歓心がないレイに、シンジは気が挫けてしまって、部屋を出て行こうとした。

 

 だが、ドアの外には、ケンスケが『行けよ、行け!』という仕種で待ち構えていた。

 どうやら、ずっと聞き耳を立てていたらしい

 

<逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ…>

 

 心の中で繰り返し、シンジは開きかけたドアを閉めると、なけなしの勇気を振り絞って聞いた。

 

「綾波」

 

「なに?」

 

「…今日、暇かな?」

 

「?」

 

 唐突なシンジの問いに、レイは首を傾げる。

 ベタな誘い方、緊張した声、なにより前フリが何もない。

 

<中学生じゃあるまいし…>

 

 顔が良いくせに女の扱いにまるで慣れてない友人に、ドアの影でケンスケは深く嘆息した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『赤城研究室』、通称『金髪魔女のおもちゃ箱』にいつもの主の姿はなかった。

 現在のここの主は、立派な樫の木でできた机を前に本革張りの椅子に座る、この時田助教授である。

 椅子と机、どちらも本当の主より遥かに豪奢なものである。

 

「それで何の用かね?惣流講師」

 

 あえて講師と呼ぶところに、隠し様も無い悪意が見える。

 それを無視してアスカは事務的に答える。

 

「先週任されました赤城博士の講演の草稿、関係各機関への中間報告書、来期の実験計画書等々が終わりましたので

提出に参りました」

 

 時田は机の上に山と詰まれた書類を横目で見る。

 どんなに早く見積もっても2ヶ月はかかる仕事をアスカは僅か1週間で終わらせてみせた。

 しかも、完璧と言っていい内容。

 ミスや不手際、一字一句の誤字脱字さえもない。 

 時田は優秀な部下を持って喜ぶべきはずなのに、何故か不機嫌だった。

 

「アタシ、もうすることなくて暇になっちゃうんですけど〜」

 

 時田の内心を読み取って挑発する。

 言外に『することがないからMAGIの研究チームに呼び戻せ』と言うわけだ。

 もとよりメインスタッフに戻れるとは思っていない。

 雑用でもなんでもいい。

 10代後半から20代前半までの貴重な時間を捧げた仕事を、最後までやり遂げたいという切なる願いである。

 だが、時田はその願いをあっさりと切り捨てた。

 

「今期のメンバーはもう決まっている。君が期待している先月の欠員の補充枠も、既に推薦済みだ」

 

 僅かな希望も断たれて下を向いているアスカに時田は追い討ちをかける。

 

「そんなに暇なら、私の講義を君に任せるとしよう。何分、私は忙しい身でね。お願い出来るかな?」

 

「…わかりました。赤城教授はもっとお忙しいはずですから、教授の講義も私がやっておきます」

 

 リツコはいくら研究が忙しくても、自分の給料を支払う学生をおざなりにすることはない。

 研究を理由に、本来の職務を軽視するなど、本末転倒ではないか。

 リツコを引き合いに出したアスカの嫌味にも時田は気がつかず、これみよがしに指で机を叩く。

 

「そうしてくれると助かる。早速、次の時間の私の講義からお願い出来るかね?先程言ったように私は忙しいのでね」

 

「ああ、そうですね、助教授は役員や重役やらのお相手で忙しいんでしたっけ…。

どうも、お時間を取らせてスミマセンでした!」

 

 時田は実情を知っている職員からは『腰巾着』『太鼓持ち』と呼ばれている。

 実績に裏打ちされた嫌味をぶつけ、頭を大きく下げて時田の前を辞した。

 

「フン、男に逃げられた小娘が…」

 

 時田の呟きは耳に入ったが、立ち止まらない。

 もう一秒だってこの男と同じ空気など吸いたくなかった。

 大股で部屋を出て行こうとするアスカと入れ違いで、講義を終えたリツコが帰ってきた。

 見るからに不機嫌そうなアスカに怪訝な顔をするリツコ。

 

「…どうしたのアスカ」

 

「アンタと時田の講義、しばらくの間アタシがやることになったから。お礼に今夜おごりなさいよ…言っておきたいこともあるし」

 

 見事に座った目で睨まれたリツコは、何も言えずに何度も首を縦に振り、肩を怒らせて出て行くアスカを見送る。

 と、アスカが振り返った。

 

「ヒカリも呼んでおくから」

 

 この前の、トウジへの不完全な説明を怒っているようだ。

 まぁ、当然といえば当然だが。

 

 リツコはアスカが完全に見えなくなると大きく嘆息した。

 

「だいぶ機嫌が悪いみたいね、惣流先生は」

 

「…気になりますか?」

 

「古い付き合いですから。まぁ、妹みたいなものですわ」

 

「ほぅ、それはそれは…」

 

 時田の咎めるような口調を、リツコは一笑した。

 

「私があの娘を特別扱いすると思っていらっしゃるのなら杞憂ですわ、仕事に私情は持ち込みません。

それは、あの娘が最も嫌がることでもあります…信じられませんか?

そういう人間も居るから、メンバーの選抜をあなたに任せたというのに」

 

「……」

 

「私が人事に口を出すことは絶対にありません。でも、不満くらいは言わせて貰っても良いかしら?」

 

「え、ええ」

 

「あなたの推薦した男、まるで使えないわ。直ぐに変わりの人間を探してください」

 

「!?…も、申し訳ありません。ですが、彼は」

 

「いくら父親が大物でも私には関係ないの。

仕事も満足にできないくせにプライドだけは異様に高い人間なんて勘弁して欲しいわね。

付き合いも良いけど、あんなレベルの男を推薦し続けるなら、あなたの評価にも影響することを覚えておいてください」

 

 研究に没頭し過ぎて、社会との接点を見失うのも問題ではあるが、この男は世間ずれしすぎている。

 実際、彼の口座には推薦した研究者の父親から、多額の謝礼が振り込まれていた。

 

「わかりました…ですが、もう少し待ってください。彼も不慣れなところでまだ緊張しているでしょうし、いざとなったら…」

 

「いざとなったら?」

 

「不肖、この時田が代わりに研究のメインスタッフとして参加します!」

 

 リツコは企業の重役や、国連の役員を丸め込む彼の弁舌以外の能力を期待してはいない。 

 研究者としては三流レベルのこの男が、これまで大学にいられたのもその能力に頼った部分が大きかった。

 以前はその事がわかっていたように見えた時田だが、アスカが身を引き望外の助教授の座に着いてしまったことで、彼の自己

 評価は変わってしまったらしい。

 

「それだけは勘弁して欲しいわ…」

 

 拳を握り締め、熱く語る勘違いした時田の熱を冷ますために、親切にも聞こえるように指摘してやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                        第4話:夜、彷徨う想い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンサートホールの前まで来たのに、シンジとレイは中に入れないでいた。

 シンジが『やられた』、という顔でひどく落ち込んでいた。

 レイはコンサートのチケットを確認している。

 

「やっぱり、昨日のチケット…」

 

「ケンスケのやつ…」

 

 確認しなかった自分の迂闊さを呪いながら、シンジは呟く。

 

「今日の当日券…売り切れ。スタルスノフだもの」

 

「ごめんね、綾波」

 

「いい」

 

「どうしようか…」

 

「碇君」

 

 途方にくれているシンジに、レイは声をかけた。

 

「なに?」

 

「私、行きたいところがあるの」

 

 予想もしていなかったレイからの誘いに、シンジは驚いてレイの顔を見つめた。

 だが、彼女の顔は相変わらずの無表情で、何も読み取ることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイの行きたいところとは遊園地だった。

 イメージからは縁遠そうなその場所に、何故彼女が来たがったかはわからないが、シンジは素直に喜ぶことにした。

 久しぶりに乗ったジェットコースターやコーヒーカップに、大分青い顔をさせられてはいたが…。

 しかし、レイと二人だとそれすらも嬉しかった。

 

「これが遊園地というもの…」

 

 見るもの全てを珍しそうに見つめるレイを、シンジは心から愛おしいと思った。

 

「初めて来たの?」

 

「えぇ…ひとりで来るところではないから」

 

「…どういうこと?」

 

「遊園地、一人でくるところではもの。家族、親しい友人、恋人、そういう関係の人達が来るところ。

私にはそういう人いないから」

 

「…えっ…?」

 

 家族ではないシンジは、少なくとも親しい友人、もしかしたら恋人ということになる。

 それに気がつくことが出来たなら、彼は随分と喜んだだろう。

 しかし、シンジは『そういう人いない』というレイの言葉に囚われていた。

 

<綾波って…>

 

 大学でいつも一人だったレイを思い出す。

 真摯にピアノに打ち込むが故の孤高かと思っていたが、家族すらもいないとなると話は違ってくる。

 今更ながら、レイのことを何も知らないのだと思い知らされる。

 

「…ごめん」

 

「いいの、私にはピアノ以外何もないもの」

 

 レイの言葉にシンジの胸は締め付けられる。

 謝ってしまった自分にも、また。

 

 夜の遊園地の照明の所為だけではなく、いつもより儚く見えるレイの手を自然に取る。

 緊張しなかったのは、レイが同い年の女性というより、小さな女の子に思えたから。

 手を繋いだ二人はパラシューターに乗り込む。

 

「綾波…何もないなんて、悲しいこと言うなよ。僕は家族じゃないし、恋人でもないかも知れないけど、綾波の友達だろ?」

 

 誘ってくれたのだから、自分にはそう言って良い資格くらいはあるはずだ。

 

「…ありがとう」

 

 レイは微かに、本当に微かだが、確かに笑った。

 それは、シンジが今まで生きてきた中で、最もキレイなものの一つになった。

 母のピアノ、アスカの涙に匹敵するくらいに…。

 

<なんでここでアスカが出てくるんだ…>

 

 何故か浮かんできた同居人の顔にシンジは動揺した。

 

「ま、またどこか行こうよ!綾波とまたデートできるなら、僕はどこでも嬉しいから…」

 

「デート?」

 

 上がっていく狭いパラシューターの中で、うろたえるシンジの顔をレイはくったくなく覗き込む。

 シンジは、腹を決めた。

 

「これって、…デートじゃないの?」

 

 シンジは、真剣な目でレイを見つめる。

 ずっと繋いでいた手に少しだけ力がこもった。

 その温もりを感じたレイは、言葉の意味を量りかねたように聞き返した。

 

「…デート、なの?」

 

 二人を乗せたパラシューターは、初夏の闇の中をゆっくりと静かに、地上に向けて落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスカとヒカリ、それに少し遅れてリツコの3人は大学にほど近いビリヤード場で落ち合った。

 ビリヤード場のくせに妙に良いお酒が置いてあったり、客の年齢層も高く、バーといった方がいいかもしれない。

 落ち着いた雰囲気がアスカのお気に入りだったが、今日はマスターが不在のようで店内にはいつものジャズではなく、有線の

 ラブソングが流れていた。

 いつもなら気にならない曲、だが今日のアスカには耳障りだった。

 アスカはいらいらしながら、乱暴にキューの先端にチョークを擦りつける。

 

「ねぇ、こういう曲ってなんかムカつかない?」

 

「そう?私、たまにカラオケで歌ったりするけど」

 

 ヒカリはキューを両手で抱えながら、リズムを取っている。

 

「ふーん…ひがんでんのかもね、アタシ」

 

「まぁ…幸せな時に聞く曲ではあるわね」

 

 後でグラスを片手に、隣の台に寄りかかって二人を見ていたリツコが呟く。

 歯に衣着せぬリツコのもの言いに、アスカは不適な笑顔を浮かべリツコを睨んだ。

 

「29にもなってまだ一人身の大人の女性のお言葉には、さすがの含蓄がありますわねぇ?」

 

「いえ、私もまだまだよ。アスカのような貴重な体験をした人には及びもつかないわ」

 

「あら、ご謙遜を」

 

「事実を言ったまでよ」

 

 

 険悪ではあるが深刻ではないこの二人の会話は昔から変わっていない。

 会話を聞かされているヒカリの胃がキリキリと痛むのも変わらない。

 懐かしいことは懐かしいが、思い出に浸っていたのでは胃に穴が空いてしまう。

 

「あ、私ファールしちゃった!ほら、アスカの番!残りは9番だけ!」

 

 かなりわざとらしく大きすぎる声が二人を固まらせ、ついでに周囲の空気も凍りつかせた。

 空虚な空気が3人の間を流れる。

 ドイツ時代の3人に良く見られた光景である。

 そのことに気がついたアスカは我知らず、笑いを浮かべた。

 

「ヒカリ、そんなに大きな声出してどうしたの?」

 

「そうよ、洞木さんみんな見てるわよ」

 

 いけしゃあしゃあとのたまうリツコとアスカに、ヒカリは店内の方々の注目を一身に浴びていることに気がついた。

 顔を真っ赤に染め、全方向に頭を下げて謝罪をし続けるヒカリを見て二人は肩を竦める。

 

「アスカの番なんでしょ?」

 

「あ、そうだった」

 

「もう…いっつもこうなんだから」

 

 紳士淑女の皆さんに謝罪を終えたヒカリが不満そうに呟く。

 さすがに悪いと思ったのかアスカが素直に謝った。

 

「ごめんね、ヒカリ、機嫌直して…リツコがお詫びにおごってくれるって言うし」

 

「…え、良いんですか?」

 

「まぁ…そういうことになってるみたいね」

 

 おごるのはアスカだけかと思っていたリツコの財布は少々心もとなかった。

 

「今日も突然誘っちゃったし…大丈夫だったの?」

 

「ううん、翻訳の仕事って、けっこう時間の融通きくから」

 

 アスカは仕事とその後の予定―――トウジとの約束の有無―――も含めて聞いたのだが、余計なことは言わず『そうなんだ』と

 だけ答え、手玉を突いた。

 ついてない時は些細なところまでついてないらしく、ギリギリで角に弾かれ9番は入らなかった。

 

「あ〜もう、こんなの入れられないなんて…これ、ヒカリの勝ちでいいわよ。

負けたから飲み物持っきてあげる。ヒカリ、何がいい?」

 

「私ビールでいい」

 

「確かここ、アルト置いてあったわね、リツコもそれでいい?」

 

「ええ」

 

 

 

 

 

 店員にビールを3つ頼むと、アスカは椅子に腰を降ろし、カウンターで頬杖をつく。

 ぼうっと棚に並べてある、洋酒の銘柄を見ていたアスカの視界の端に、店から出て行く男の姿が映った。

 はっとしてそちらを見て、アスカは凍りついた。

 銀色の髪の人間などそうそういるはずがない。

 

「カオル!!」

 

  あせったアスカは、ちょうど玉を返しに来た客にぶつかってしまう。

 

「おい!」

 

 その客が怒声を浴びせる。

 

「ごめんなさい!」

 

 アスカは慌てて床の玉を拾い集めようとして、はっとなった。

 もうどこにも、カオルの姿はない。

 ため息をつき、もう一度謝ろうとした客の後に何時の間にかリツコが立っている。

 

「トラブル?」

 

「う、うん」

 

 なぜかリツコは嬉しそうだ。

 

<やばい!>

 

 懐に手を入れるリツコを見て、その思いはますます強くなる。

 

「ヒカリ!」

 

 叫ぶと同時に、リツコが懐から取り出した黒い物体を客の首筋に当てる。

 

「こんなこともあろうかと…」

 

バチッ

 

 小さな光が当てられた首筋に立ち、が前のめりに倒れこむ。

 不運にも、ちょうどビールを持ってきた店員はその光景を目撃してしまう。

 

「お、お客さん…」

 

バチッ

 

 二人目の犠牲者。

 床に倒れこむ二人に、すぐに他の客が気がついたが、その時すでに3人の姿はなかった。

 

 

 

 

 

「リツコ、あれなに!?」

 

「ただのハンドメイドのスタンガン。打たれる直前の記憶を抹消した上、きっかり30分後に目が覚める優れものよ?」

 

「アタシが聞きたいのは、なんであんなものを持ってるのかってこと!」

 

「偶々よ、偶然…」

 

「嘘、ただ単に使いたかっただけでしょうが!」

 

「なんで、こんな目にあうの〜!」

 

 言い争うアスカとリツコ、泣き叫ぶヒカリ。

 誰も全力で疾駆する足を止めようとはしない。

 つまりは、慣れているのだ。

 そして、慣れているだけあって5分後には次に入る店の相談をしていた。

 

 

 

 

 

 

 リツコの財布と相談の結果、以前アスカがシンジに教えてもらった安くてうまいラーメン屋『一風』に入ることになった。

 赤城教授ともあろうお方の財布が薄いのは、ハンドメイドでスタンガンを作るような趣味人であるためなのは言うまでもない。

 

「美味しいわね…」

 

「あったりまえじゃない、アタシのお勧めなのよ?」

 

「あれ、碇君に教えてもらったんじゃなかったっけ?」

 

 先程のことなどなかったように、ラーメンを前にビールを片手に普通に会話する3人。

 恐ろしい限りである。

 雑誌で紹介されたこの店のラーメンは本当に美味しかったので、3人はしばらく黙々とラーメンをすする。

 

 一番最初にラーメンを食べ終えたアスカは、ラーメンと同じように黙々と手酌でビールをやり始めた。

 

「ホントに、カオルだったのよ…」

 

 アスカが言う。

 

「こんなところにいるってことは、渚君…戻ってきたのかな」

 

「あのビリヤード場、二人で行ったことあるんだ」

 

「仮に戻って来たとしたら、アスカ、カオルを許せるの?」

 

 リツコの鋭い指摘に胸をつかれて、アスカは息が出来なかった。

 しばらくして、アスカは言った。

 

「おじさん、ビール、もう一本!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひとしきり遊ぶと、シンジとレイは遊園地を後にした。

 一歩後を何も言わずについてくるレイの方を見ずに、シンジは言った。

  

「あの…ごめん。さっきは変なこと言っちゃって」

 

 レイは何も言わずに黙っている。

 もう一押しなところ引いてしまうのが、ケンスケに『中学生なみ』と言われる由縁だろう。

 『忘れて』とできるだけ軽く言い足すと、話題を変えた。

 

「さて、どうしようか?」

 

「お腹すいた」

 

「そうだね…」

 

 色気も何もない会話だが、そう言われれば食事時だった。

 シンジは困った。

 ケンスケにぼられたチケット代のせいで、もう持ち合わせがない。

 必死に頭の中のデータベースのから、安くておいしい店を検索する。

 該当一件。

 自分の家の近くの、安くて美味しいラーメン屋に向う。

 

 そこで、最悪のサバトがくりひろげられていることも知らずに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サバト―――

 

「ウソ、髪にチョークの粉…気がつかなかった…」

 

 時田の代わりに講義した時の名残が、鏡の中のアスカの髪にしっかりと残っている。

 急いで服を確認すると、さらに肩、袖口、背中の腰の辺りにもチョークの粉が色とりどりにまぶしてあった。

 

「アタシ、女として…終わってる…」

 

 衝撃とアルコールに足元をもつれさせながらトイレから出て来たアスカは、背後からリツコに抱きつく。

 

「リツコ〜」

 

 すっかりベロベロだ。

 抱きつかれ頭の上に顎を乗せられたリツコは、少し眉をしかめただけで特に反応しなかった。

 

「大丈夫、アスカ?」

 

 向かい側のヒカリが、心配して声をかける。

 

「ヒカリ、アタシ達みたいに結婚に失敗した女はね、坂道を転がるように年をとるのよ。

まずチョークの粉をつけたまま平気で街を歩いて、その内白衣なんか着るようになって…」

 

「…私の白衣はポリシーよ」

 

「あれ、リツコ…胸下がったんじゃない?」

 

「あなたの男運ほどじゃないわ」

 

 顎を頭に乗せたまま胸を鷲掴みするアスカに、リツコの血管もさすがに切れそうだ。

 

「アスカ。ここ、自分の家じゃないんだから、ね?」

 

 怒気を敏感に察したヒカリは、リツコの背中からアスカは引き剥がすと、自分の隣に座らせた。

 アスカの様子を座った目で見つめるリツコが、ビールを煽りながら、つい洩らしてしまった。

 

「私だって若いころは…」

 

「リツコ、それ泥沼」

 

「でも…」

 

「もう…」

 

「「あとは階段を一歩ずつ降りていくだけ?」」

 

 ハモる二人にヒカリは嘆息する。

 

「…二人とも、そんな怖いこと言わないでください」

 

 とりあえず、二人のコップにビールをつぐことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒカリ、アタシ、ホントはカオルがいなくなってすっごい参ってんの」

 

 ヒカリの仕事は正しく報われ、すっかりアスカは酔っ払っていた。

 アスカは正しい酔っ払いの具現と化し、ヒカリにからみ始めた。

 

「街で、『あなたの健康と幸せについて祈らせてください』って言われたら、祈ってもらおうかしら?ってくらい参ってんの」

 

 リツコは両手でコップを持って、無言でコクコクと頷いている。

 こちらもかなりキているらしい。

 

「……。アスカ、そう言えば、さっきも交差点で何かもらってたでしょ。いいえって言えなくて…」

 

 心配そうに見ていたヒカリは、話題を変えた。

 

「ん、これ?テッシュとね…あ、ラブホテルのチケットだ」

 

「あ・・そうなんだ」

 

 それを聞いてヒカリの顔は赤くなる。

 ちょっと羨ましそうなのはたぶん気のせいだ。

 

「ふうん…」

 

 アスカはそのけばけばしいチケットを虚ろな目で眺めた。

 

ガラガラガラッ

 

「ここ、チャーシューメンがおいしいんだ」

 

「肉、嫌いなの」

 

 レイの素っ気ない返事とともに、戸を開いたシンジの目に信じられない光景が入ってきた。

 

<あああっっっ!>

 

 ギリギリで絶叫を心の内にとどめ、気付かれないようにそっと戸を閉めようとしたシンジだったが、無駄だった。

 不運にも入り口側を向いていたアスカがすぐに彼を見つけて、目を輝かせた。

 

「おっ、シンジじゃん!おーい、バカシーンージー!こっち、こっち!」

 

「アスカ…でも、デートみたい」

 

 ヒカリがアスカを止めに入る。

 だが、それまで沈黙を保っていたリツコが『デート』の単語に反応し、再起動。

 

「…デート?良い若い者が何言ってるの。いいじゃない、若いんだから」

 

 意味不明な言葉を口走りながら、潤んだ目でシンジをじっと見つめる。

 どうやら、シンジのことを諦めてなかったようだ。

 こうなった二人は誰にも止められない。

 アスカは隣のテーブルを叩き、『ここ、空いてる』と勧めるので、店の主人はそこに水を置いた。

 仕方なくシンジはそこに座った。

 

 アスカはレイを見ると早速からみだした。

 

「お、びっじーん!バカシンジにはもったいないわね。ねぇ、名前は、名前はなんてゆーの?」

 

「アスカ、それじゃオジサン…」

 

 ヒカリがたしなめても、効き目なし。

 

「肌の色しっろーい!美白よね、美白!」

 

「本当…ツルツル」

 

 リツコも加わり、レイの頬を触ったりし始めた。

 

「ごめんなさい!今、この人達酔っ払っちゃてて…」

 

 ヒカリが謝っても、レイは黙りこくったままだ。

 見かねたシンジが口を挟む。

 

「見ればわかりますよ」

 

「あっ、おこった?怒っちゃたの?ねぇ、シ〜ンジ♪」

 

「もう、シンジさんたら人の気も知らないで…」

 

 今度は矛先をシンジに向けたアスカとリツコに、ヒカリは慌ててフォローを入れた。

 

「アスカ…弱いくせにガンガン飲んじゃって…。いつもはこんなことないんだけど」

 

「あっ、そうだ。これを二人にあげよう」

 

 アスカがラブホテルの半額チケットをシンジに渡そうとすると、レイが屈託なく聞いた。

 

「それ、何?」

 

「こ・い・び・と達の必需品!」

 

 アスカは満面の笑顔でそれをレイの手に握らせた。

 

「生娘のくせに何言ってんだか…」

 

「なんか言った!?」

 

 ギャアギャアと言い争う二人にレイは訳がわからず、シンジにチケットを手渡す。

 シンジの顔が青ざめる。

 それを見てどう勘違いしたのか、アスカは満足気に頷いた。

 

「半額はアタシが出しげる。いっつも、シンジにはお世話になってるからね、ウン」

 

 シンジの顔色が益々青ざめて行くのにも気がつかず、アスカは財布からお金を出し始める。

 

「毎回毎回あのマンションじゃムードないでしょ。ここは回るベッドで二人きりのワンダーランド…」

 

 アスカの言葉をじっと聞いていたレイの目から感情が一切消えた。

 

「碇君、ありがとう。楽しかった…」

 

 ちっとも楽しそうじゃない口調で言い残すと店を飛び出していった。

 

「綾波!待って」

 

 シンジが慌てて、彼女の後を追いかけていく。

 

「え…どうして泣くの…?」

 

 実際にはレイは涙一つ流してはいなかったが、アスカにはそう見えた。

 限りなく泣き顔に近い表情をして出て行ったレイに、アスカは訳がわからずきょとんとしている。

 

 

 

 

 走るレイにやっと追いつくと、シンジはレイの腕を掴んだ。

 だが、やっと掴んだその腕を、レイは思いっきり振り払う。

 

「…ごめんなさい。今日は帰るわ」

 

 振り返りもせずに言うと、行ってしまった。

 なす術もなく、シンジはそこに立ちすくむ。

 シンジの目にも、レイは泣いているように見えていた。

 

 

 

 

 仕方なく店に戻ると、手つかずのラーメンが二つある。

 席についたシンジの顔は無表情だったが、普段の暖かい雰囲気とのギャップに明らかに怒っていることがわかる。

 

「あの、よかったら…」

 

 シンジはアスカが差し出したコショウを無言で受け取り、黙々とラーメンに振りつづける。

 完全に怒っている。

 

「…これ、私もヒカリも、もちろんリツコも使わないからよかったら」

 

 どうしてレイが帰ったのかよくわかっていないアスカは、半額チケットも差し出す。

 

「…わからない人だな」

 

「……・」

 

「無神経すぎるよ」

 

 きついもの言いに本当はショックを受けたものの、アスカはそれを顔に出さなかった。

 

「人の気持ちや状況がわからなすぎる」

 

 シンジは言葉を重ねた。

 

「…どういう…ことよ」

 

「綾波はね、アスカとは違うんだ。心の中が繊細で、降ったばかりの雪で出来てるような女の子なんだ。アスカみたいに―――」

 

 どうにかシンジはそこまでで辞めることが出来た。

 これ以上続けたら、何を言ってしまうかわからない。

 だが、そこまででもアスカを怒らせるには充分すぎた。

 

「何よ!悪かったわね。どうせアタシは人の足跡だらけの雪ですよ!

足跡だらけで土にまみれて、春先のスキー場みたいなモンよね!!アンタこそ何かっこつけてんのよ!!

好きなんでしょ?抱きたいんでしょ?だったらホテルでも何でも行けばいいじゃない!」

 

「…そうだね」

 

 これ以上何も話すことはないとばかりにシンジは店を出た。

 

 

 

 

 帰り道の初夏の風がシンジの怒りを段々と覚ましてくれる。

 家に着く頃には、完全に普段のシンジに戻っていた。

 

 少し、言い過ぎたかもしれない。

 アスカに悪気があったわけではないのだ。 

 そこが問題でもあるのだが…。

 

<謝らなきゃ…>

 

 怒りが持続しないのがシンジらしい。

 一方で、もう一人の謝らなければならない相手のことを思う。

 

<…綾波レイ>

 

 今日、新たに知ったレイの顔はシンジの想像よりもずっと純粋だった。

 あまりにも純粋すぎて、まるで子供だった。

 『降ったばかりの雪』

 その言葉にはそういう意味も含んでいた。

 彼女が出て行ったのは、ラブホテルのチケットだけの所為ではない。

 知らない他人と仲良くしている父親を見て、不機嫌になった子供のような。

 そういうレイの幼さを、シンジも朧げながら感じていた。

 

 二人の女性に想いを馳せながら、缶ビールを空けた。

 いつの間にか、一人では広すぎると感じるようになった部屋で飲むビールはやはり美味しくない。

 

 アスカは帰ってこない。

 

 傍らに置いてあったスーパーボールに気がついて、壁に弾ませる。

 月灯りに照らされる緑色のボールはとても綺麗で、それを見つめている間だけは、様々なことを考えなくて済んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リツコは真剣な顔で『悪かったわ』と二人に頭を下げて家路に着いた。

 彼女が謝るなど、本当に珍しい。

 アスカはケンカ別れしたままシンジのマンションに帰るわけにもいかず、ヒカリのマンションに転がり込んだ。

 普段はルームメイトが居るのだが、今月は帰省しているとかで野宿しないで済んだのは幸運だった。

 

 

「ヒカリ…寝た?」

 

「ううん」

 

「ヒカリ、アタシって無神経?」

 

「……」

 

「私って人の気持ちや状況がわからなすぎる?」

 

「……」

 

「人の足跡だらけの…」

 

「…そこまで碇君は言ってないでしょ?」

 

「でも、きっとそういう感じなんだ…」

 

「そんなことないよ」

 

「……」

 

「あんまりうまく言えないけど…アスカは頑張ってるし、色んなことガマンしてると思う。私は…アスカのこと好きだな」

 

 ヒカリの言葉が嬉しくて、アスカはその言葉を噛み締めた。

 

「言葉、足りないね」

 

「…ううん。充分」

 

 そう言うと、アスカは頭から布団をかぶった。

 

「そっか…でも、今日はちょっとやり過ぎたちゃったね」

 

「うん…謝らなくちゃ」

 

 

 

 

 しばらくたって、今度はヒカリが話しかけた。

 だが、応答はなく、見るとアスカはスヤスヤと寝息を立てている。

 

「アスカ、寝たの?」

 

 だが返事はなく、ヒカリは少しはだけていたアスカの布団を直す。

 アスカの頬には涙の後が残っていた。

 

「カオル…」

 

 その寝言はアスカが未だ傷から癒えてないことを確認させた。

 普段からは想像し難い弱々しい姿にヒカリの胸は締め付けられる。

 アスカは傷ついている。

 シンジが大変なのもよくわかるが、もう少しだけいたわってあげて欲しい。

 そりゃデートをあんな風に邪魔されれば怒るのは無理ないが…。

 

「うー、バカシンジ…」

 

 二つ目のアスカの寝言にヒカリは思った。

 あれはもしかして嫉妬だったのかもしれない。

 アスカ本人は自覚してないにしても…。

 

「まさかね…」

 

 寝言くらいでそこまで飛躍するなんてどうかしている。

 ヒカリは全てを久しぶりに飲んだアルコールの所為にすることにした。

 でも、もし当たっていたら、アスカはもっと傷つくことになる。

 

 それが杞憂で終わることを鮮やかな満月に祈った。

 今まで祈りが通じたことなどあったのかは、考えないようにしながら―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Rei

 


 

after word

 

60000〜70000HITおめでとうございます。

もう記念なんだかなんなんだか、さっぱりです。

でも、Urielさんは待っててくれているとおっしゃるので、それを励みに書いています。

 

ご不満のところは多々あると思いますが、どうか広い心で…。

 

今回の反省点

●推敲をしてないので誤字脱字があるかもしれない。

●日本語題がうまくない。

●トウジ君、ヒカリさんのポジションがいまいち。

●リツコさんがひどい人に見えてはいないだろうか。

●っていうか、書くのが遅すぎ。

 

ちゃんとしたい…


テリエさんから頂いたのです。
ありがとうです。

URIコメ

>『もうかりまっか?』と聞かれたら、『ぼちぼちでんな』と返す!

この不景気、全然でんなと返す人の多いはずです(きっと)


>アスカのシンジへの第一印象、『頼りない男』という形容は、そんな風に少しずつ変化している。

まめ、とか鷹揚とか、そんな単語が加わったのでしょう、きっと。


>壁のへこみ具合から見ても、救急車を呼ばないとシャレにならない程の怪我を負っていてもおかしくないが、トウジはあっさりと起き上がる。

人的被害はともかく、家屋の修理が気になる所です。


>「あの、なんていうか…、親戚みたいなもの」
>「そう」

火の粉も煙も、なんにも無いと言う感じです。

>「あなたの推薦した男、まるで使えないわ。直ぐに変わりの人間を探してください」

こう言うのを、類は友を呼ぶと言います。有能は有能を引き寄せますが、その逆もまた然り、と。

>家族ではないシンジは、少なくとも親しい友人、もしかしたら恋人ということになる。

遊園地の、ラストデートに選ばれる回数が最近多くなっている、というのはこの際無粋です…間違いなく。

>「ただのハンドメイドのスタンガン。打たれる直前の記憶を抹消した上、きっかり30分後に目が覚める優れものよ?」

ハンドメイドといえば手のひらサイズのメイ…じゃなくて、刑法に引っかかり気味なのです。

>「仮に戻って来たとしたら、アスカ、カオルを許せるの?」

「ここに、意中の人の真意を引き出せる薬があります。使ってみる?」
と言われても迷っちゃうものです…同じくらいに(多分)

>「おっ、シンジじゃん!おーい、バカシーンージー!こっち、こっち!」

蛸が獲物を見つけ、いっせいに触手を伸ばしたような感じです。

>「綾波はね、アスカとは違うんだ。心の中が繊細で、降ったばかりの雪で出来てるような女の子なんだ。アスカみたいに―――」

とても繊細。
ただ…感情を知るには辛いかもしれません…

 

二人だけの時間から大勢の中に入ると、時として違和感を感じることがあります。
まして、その相手が自分と同性だったりすると…。
妬心とは解らない、でもなんとなく嫌…そんなおぼろげな感情を一度位は、経験したことはありませんか?
誘ったのはシンジですが、それをデートだと言ったのはレイでした。
ピアノ以外持たぬ彼女が、どう変貌していくのか気になる所です。


先頭に戻る。

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