SUMMER WALTZ 

 3rd story  : A Transfer

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、起きた時にはもうアスカの姿はなかった。

 

 あの後、力のない笑いを自分に向け、窓の外のくすんだ星空に視線を移し、ただ静かにビールを飲み続けた。

 目の前に居る自分とではなく、昔ここに居た誰かの思い出とともに。

 シンジは何も出来ずに置き物のように座っていただけだ。

 

「もう、お出掛けですか…」

 

 自分の不甲斐なさに頭を掻きながら、冷蔵庫の牛乳を手に取り新聞受けに向う。

 新聞受けには何時も通りの新聞と広告、そして見慣れない茶封筒。

 あて先は『惣流・アスカ・ラングレー』とあった。

 それらを無造作にまとめて、立ち上がろうとした時、茶封筒の中身が滑り出した。

 過去の偉大な物理学者の名前の、シンジでも知っている有名な科学雑誌だ。

 

 『勝手に開けてアスカ、怒るかな?』と思いつつも、破れてしまったものは仕方がない。

 自分とは無縁のものに興味が湧き、パラパラとページをめくる。

 

 深い所まで理解できるわけではないが、意外と面白かった。

 特に、特集を組まれていた『MAGIシステム』は、この世界に疎いシンジでもよく耳にしていた。

 確か、第何世代かのスーパーコンピューターで、人格移植OSとか何とか…。

 とにかくすごいものらしい。

 その設計者のインタビューのページで、手が止まる。

 昨日部屋に来た金髪の女性の写真が載っていた。

 それにも驚いたが、その隣のページの方がよりインパクトがあった。

 赤い髪の見知った顔がメインスタッフとしてインタビューに応えている。

 

「…これも雑用、秘書の仕事?」

 

 もちろん、そんなわけはない。

 アスカの写真の下に書かれていた経歴には、『最年少で博士号取得』とか『○○○賞受賞』とかのやたら景気の良い見出しが踊

 っている。

 

「…やっぱり、僕とは大違いだ」

 

 雑用だの、秘書だの言ったのは自分に気を使ってくれたに違いない。

 少なくともシンジはそう思い、アスカに慰められ、気を使わせていた自分が情けなかった。

 深いため息の後に飲んだ牛乳は、温く、不味かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうちょっと、まともな仕事ないんですか?最近、データ整理とか、報告書のチェックとか、赤城教授の講演の草稿作りとか、

そんなのばっかりじゃないですか」

 

 時田助教授に詰め寄るアスカの声は、冷静を装ってはいたが、臨界点に達している怒気を抑えきることはできなかった。

 だが、時田は机の上の書類に視線を固定したまま、まともに聞いてはいない。

 

「それはまあいいんです。研究室の誰かがやらなくてはいけないことですから。

それよりも問題なのは、なんでプロジェクトの立ち上げから関ってきたアタシがMAGIから手を引かなきゃいけないのかってこと

です!」

 

「既にMAGIプロジェクトは民間の手を離れ、国連の下で研究を続けることになりました。

もう、資金の心配をしなくてもいいんです。つまり、ラングレー・渚家の両スポンサーに媚びる必要がなくなった以上これは、当然

の処置なんだよ、惣流さん。それでも、ご不満なら、赤城教授…いや、お父様にでも泣きついてみたらどうかね?」

 

 思わずアスカは下を向く。

 40代後半でようやく助教授になることができたこの男は、今までアスカがMAGIの研究に携わってこれたのは、彼女の能力や

 実績などではなく、ラングレー家の資金目当ての為だと言い放ったのだ。

 感情のままに爆発してしまわなかったのは、今以上の屈辱をつい最近味わった賜物だった。

 

 経験はともかく、アスカの実績は時田のそれを遥かに凌駕していた。

 幾らでも反論のしようはあったが、できなかった。

 アスカの年齢でプロジェクトの中心に抜擢されたのはラングレー家の威光という側面も確かにあった。

 それがわからないアスカではない。

 『この場は一旦退こう、どうせ直ぐに自分の力が必要になるのだから』と大人しく引き下がろうとした彼女よりも、時田が先に席

 を立った。

 時田の顔には勝ち誇った笑みが浮かんでいた。

 

「大体、君は結婚してドイツに帰るはずじゃなかったのかね?」

 

 残されたアスカは、窓の向こうの茜色に暮れなずむ街に顔を向けた。

 泣いてなんていないし、表情にはその影すら見えない。

 そんな簡単な嫌味で折れてしまうほど、弱くはない。

 だが、痛くないわけではない。

 心が軋む。

 時田の言葉。

 カオルの手紙。 

 そして、思ってもみなかった自分の世界の脆弱さに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せんせいさよなら!」

 

 教え子の女の子が元気よく挨拶して音楽教室を出て行った。

 

「ちゃんと宿題やってきてね」

 

「はーい!」

 

 最後の生徒を送り出し、ピアノの蓋を閉めようとして鍵盤が汚れているのに気がついた。

 シンジはティッシュを撮って来て微かな汚れを丁寧に拭う。

 赤いカバーを鍵盤の上にきちんとかけ、蓋をゆっくりと閉める。

 彼にとってピアノは単なる道具ではなく、慈しむべき対象なのだ。

 お菓子の包みやマンガの本など生徒達が残していった置き土産に気がつき、教室中を片付け始めた。 

 彼にはこういう姿が妙に似合う。

 もしかしたら、ピアノを弾くよりも。

 すっかり綺麗にすると電機を消して、部屋を出た。

 その帰り道にある国立の音楽劇場のウィンドウに貼ってあった、ピアノ・リサイタルのポスター。

 横目でチラリと見て、ため息を一つはき、また家路に急ぐ。

 いつもの帰り道。

 だが、駅の改札に着くと、立ち止まった。

 数回、右手を握り、開き手のひらが汗ばみ始めたところで踵を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特に当てもなく、ふらついていたシンジの足は自然と、母校の音楽大学に向いていた。

 先日のケンスケの話が効いているのかもしれない。

 校門の前で入ろうかどうか躊躇しているシンジの背中から、声が掛かった。

 

「久しぶりだな、シンジ君」

 

「冬月先生…」

 

 振り返ると、恩師の冬月教授が立っていた。

 

「顔を見せないから、心配していたよ」

 

 冬月の声には教え子に向けるだけではない情がこもっていた。

 この二人の付き合いは長く、単に師弟というだけではない。

 仕事で海外に行き、家を空けることの多かった父親に代わり、何かとシンジの面倒を見ていた。

 父と子、いや二人の年齢差を考えれば、祖父と孫という関係がしっくり来る。

 

「…いや、先生に音楽教室紹介してもらったおかげで…どうにか、やってけてます」

 

 久しぶりに来たキャンパスの空気は、懐かしく心地いい。

 何より、ここは夢を見ていられた場所だから。

 

「うちの大学院も定員が少ないからな」

 

「定員の数じゃなくて、僕の実力の問題です」

 

「君はいい弾き手だと思う。父親のことは関係なく、な」

 

「…すいません、その話はやめてもらえませんか」

 

「まだ、だめか…」

 

 冬月はやれやれといった風情で苦笑を浮かべる。

 対してシンジは、珍しく眉をしかめている。

 世界的なピアニストである父親、碇ゲンドウを引き合いに出される時だけ見せる表情である。

 どちらも知っている冬月は二人をなんとか和解させたかったが、それがうまく行きそうな兆しは今の所ない。

 

「まったく、二人とも私から見ればそっくりなんだがな…。

どちらも自分の音には頑固だし、指の力があるから、タッチは誰よりも正確で、力強い。

ただ、キミは感情を込めない」

 

「表現力の問題…でしょうか」

 

 父親の話を止めようとはしないゲンドウにシンジは仕方なく付き合った。

 道を別けた父親との接点を作ろうとしてくれる冬月の好意を、迷惑だと思ったことはない。

 父と和解しようと思ったこともないが…。

 

「いや、昔から思っていたのだが、シンジ君、キミはシャイなんだな」

 

「え?」

 

「自分の感情を剥き出しにすることができない。いや、人前で感情を盛り上げ、創り込むことができない。

普段は血が通っているのか、と疑いたくなるほど仏頂面のあの男が、ピアノを前にするとその想いを爆発させる。

ゲンドウは『技術が全て』と言い切る。しかし、あの男が評価されている点は技術ではなく、ピアノにぶつける静かな激情だ。

それがキミとゲンドウとのピアノの違いだと思うんだが…」

 

「……・」

 

「この間のコンクールの結果はまだ出んのかね?」

 

「ええ、まだ」

 

「人前で弾くのが苦手というのは、上がる、というわけではない。聴き手との間に壁をつくる、ということだ」

 

「僕は誰かのためにピアノを弾いた事がない。ピアノが好きだけど、『誰かに聞かせたい』って思ったことがないんです」

 

「ピアノで女の子を口説いている相田君とは正反対だな」

 

 落ち込みかけたシンジに冬月は笑ってそういった。

 

「それができれば、もてるようになるかもしれませんね」

 

 在学当時はファンクラブまであったにも関らず、この男はそういって苦笑を返した。

 冬月の目には、その鈍感ぶりがかつての教え子ゲンドウに重なる。

 六文儀ゲンドウは、学内一の美女だった碇ユイの4年に渡る余りにもわかりやすいアプローチを、卒業間近まで気がつかなかっ

 た実績を持っていた。 

 

「そう言えばシンジ君は今年で…」

 

「23になります」

 

「…そうか、『約束の時』は今年だったな」

 

「はい」

 

 約束の時―――

 ゲンドウの技術を押し付けるだけのピアノに反抗し、中学生の時にシンジは、『父さんのピアノには納得が出来ない』と言ったこ

 とがある。

 その答えは『従えなければ、出て行け』だった。

 たまに家に帰ってくれば、ピアノのことしか話さない冷酷な父親でもあった。

 シンジはその言葉通り家を出た。

 その時にだされた条件がある。

 

「私がピアニストとして世に出た年齢までに、お前のピアノの形を示してみせろ」

 

 できなければ、ピアノを辞めろと父は言った。

 そのリミットが今年である。

 大学院に落ち、何の実績もなく、ピアニストの卵ともいえないのが今のシンジの状態。

 焦りはある。

 しかし、『引き際かもしれない』とも思ってしまうほど、今のシンジは自信を無くしかけていた。

 

「今度大学院の定期演奏会がある。その練習覗いていかんかね?」

 

「…遠慮しておきます」

 

「そうか…」

 

 ...♪♪...

 

 どこからか、微かにピアノ音色が聞こえてくる。

 

 

「西館のピアノ室だな。あの音色は…」

 

 冬月が目を閉じ、耳を澄ます。

 

「綾波レイ」

 

 シンジにはわかる。

 

「彼女は若手の注目株のようだな」

 

「ええ…」

 

「だが、私は音楽評論家の評価とは別に、彼女のピアノ自体がどうも好きになれん。

類稀な技術。しかし、その寂しさ、冷たさ…。まるで、真冬の夜に一人だけ立ちすくんでいるような気分にさせる。

…似合わんかな?私には」

 

「いえ」

 

 自分のセリフに照れて途中で止めた冬月に、シンジは真顔で答えた。

 冬月は彼女のピアノの技術は認めているのだ。

 しかし、決定的なものが欠けている。

 碇ユイと出会う前の六文儀ゲンドウのピアノに似ていた。

 『技術が全て』の言葉通りに、感情を込めない冷たいピアノ。

 

<それも、当然か…>

 

 苦渋の表情で、シンジの顔を一瞥する。

 冬月の表情に、シンジは不思議そうな顔をした。

 それに気がついた冬月は、努めて表情を覆い隠す。

 このことは自分が言うべきではない。

 

「そろそろ行くよ、仕事が残っているのでな。こんな老骨をこき使うとは、うちの大学も人使いが荒い。

それでは、」

 

 立ち去りかけて、冬月教授は振り返った。

 

「シンジ君、いつか、壁をなくしたキミのピアノを聞かせてくれ」

 

 シンジは少し笑って、頭を下げた。

 

 

 

 

 

 中庭を横切って、西館のピアノ室まで歩いていく。

 ドアの小窓から、ピアノを弾いているレイが見える。

 シンジは一心に弾くレイの横顔を、見つめ続ける。

 見ているだけで、声をかけられない。

 

 レイは、ふと人の気配を感じて窓の外を見た。

 しかし、誰もいない。

 首を傾げ、周りを見渡してもやはり誰も居らず、またテンポを戻して弾き始めた。

 

<なにをやってるんだ、僕は…>

 

 今度こそシンジは家路に向う。

 遠くなるピアノの音を寂しく思いながら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                          第3話 : 鳴らない 電話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西日のあたる部屋に、大量の書類が部屋中に散乱している。

 その真中でアスカは一心腐乱にノートPCのキーボードを打っていた。

 

「えーっと、これでプラットフォームの説明はOKっと」

 

 アンダーラインと注釈で赤く染まった書類をめくり、指折り数えて残りの枚数を勘定してみる。

 

「どんだけまとめても、あと50ページはあるわね…」

 

 先は長い。

 処理済の書類をクリアケースにまとめておこうと思い、机の引出しを探すうち、カオルが残していった手紙を見付けた。

 

「『君との結婚はなかった事にして欲しい、許してくれ、とは言わないよ』、だって。…そのぐらい、言えっつーの。

こんな笑い話にしかならない手紙だけ残して。昔っから勝手なんだから」

 

 手紙を軽く捻ると、ゴミ箱に投げるが、角に弾かれ入らなかった。

 それがなんだかひどく悔しかったが、手紙をもう一度拾うともっと悔しくなりそうだったので、そのままにしておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりっシンジ!」

 

 しばらくして帰ってきたシンジは、アスカがしこたま酔っているのに驚いた。

 なぜか、ボルドーワインがリビングの床に所狭しと転がっている。

 

「どうしたの?これ」

 

「うん?これね、引出物。結婚式の引出物」

 

「ワインが?」

 

「うーん、重いからどうしようかと思ったんだけどさぁ。私の実家に結構いいワイン畑があったから。

ここの1979年物って結構おいしいし、日本人ってワイン好きみたいだから…そうだ、アンタ結婚する予定ないの?

そしたら、同居人価格で売ってあげるけど」

 

「ないよ」

 

「そっか、そりゃ残念ね。あ、そう言えば彼女いないって言ってたっけ。ま、とりあえず飲みましょ!」

 

 アスカはグラスを持ってきてシンジに持たせ、有無を言わさずワインを注ぎ、『未来の名ピアニストに!』と勝手に乾杯してしま

 った。

 

「結婚する予定はなくても、心配することないわよ。アンタ、頼りなさそうだけど、顔はいいし、ピアノも弾けるし、その内いい人見つ

かるわよ。あ、カオルの手紙に『好きな人がいる』って書いてあったわね。ね、誰?どんなコ?やっぱピアノ弾くの?」

 

 座っていたソファーから身を乗り出して迫ってくる彼女に、シンジは顔を背けた。

 質問の内容も原因の一つだが、アスカのタンクトップとホットパンツという無防備な格好の方が彼にとっては大きかった。

 そんなシンジの態度を、無遠慮な質問に辟易している、ととったアスカは声のトーンを落とす。

 

「アタシ、からんじゃってるわね」

 

「もう飲まない方がいいよ」

 

 シンジがグラスを取り上げようとすると、アスカはグラスを両手で胸に抱きしめる。

 

「これだけ、これ、みんな飲んだら、気持ちにケリつくと思うから」

 

「…これ全部?」

 

 シンジは呆れた。

 木箱の中に大量に残っているワインは悠に自分の飲む量の一年分はあったから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

RuRuRuRuRuRuRuRuRuRuRuRuRu…

 

 突然の電話の音にアスカは過剰に反応した。

 受話器を取ったシンジの表情を探っているようだ。

 

「切れた」

 

「ふーん…。レイちゃんだったりして」

 

「まさか」

 

 口につけたワインを噴き出しそうになりながらも、何とかこらえた。

 

 

「ア・ヤ・ナ・ミ・レイ♪」

 

 アスカがにじり寄って来て、シンジの額をピンと弾いた。

 

「やめてよ、もう」

 

 悪態を吐きながらも、既にアスカにされるがままである。

 想い人の名前を教えてしまったのは確実に失敗だった。

 

「で、うまく行きそうなの?」

 

 アスカはからんでいることを自覚したことで、余計に図々しくなっていた。

 

「いや、まだ…まともな会話もできないくらいだし」

 

「なんだ、片思いか」

 

「これからだよ」

 

 アスカの軽い感じの一言が突き刺さりムキになって返してしまう。

 そのシンジの表情を見逃さず、アスカの口元が猫科の笑いを浮かべた。

 大分酔ってきたシンジのグラスにワインを注ぎ、また聞き出そうとしている。

 

「なれ初めは?」

 

 ワインの酔いと、彼女の弱さを垣間見てしまったことで、シンジの口は滑らかになってくる。

 

「もう2年になるかな。大学のピアノ教室に弾きに行ったら、綾波が譲ってくれた。『どうぞ』って言って」

 

「へぇ…」

 

「綾波の素っ気ない『どうぞ』の言い方がなんだか気になって」

 

 追い出したみたいで、なんだか居心地が悪かった。

 それから、大学でレイを見かけた時に、目で追ってしまっている自分。

 わずか半年で、自分がレイに恋をしていると気がついたのは、シンジにしては上出来だった。 

 もっとも、未だに、ただの友人どまりだが。

 それでも、他人を寄せ付けず修行僧のようにピアノを弾くレイにしてみれば、最も近い異性ではあった。

 

「…もう一回やってみて」

 

「どうぞ」

 

「…もう一回」

 

「どうぞ」

 

 最早、完全無敵の酔っ払いに、シンジは健気にも真似をしてあげている。

 

「ぜんぜん、わかんない。でも、いいな。『どうぞ』の3文字で。その省エネ。それだけで好きになれるなんてさ」

 

 要約すると『単純でいいわね』という事になる。

 小さいころからカオルと一緒にいて、他に恋愛対象の居なかったアスカにはとても不思議なことだった。

 酔いで口が軽くなっているシンジは悪気は全くないものの、地雷を踏んでしまった。

 

「アスカは喋りすぎだよね」

 

「――――――」

 

「あ…ごめん」

 

「このバカシンジ!、なんてね、平気平気。アタシはそんなに怒りっぽくないわよ。

…なによ、その疑わしそうな目は」

 

「いや…そんな気は」

 

 圧倒的なアスカペースの会話に、押されっ放しのシンジ。

 でも、どちらも楽しそうだった。

 この部屋の空気はなんだか心地よくて、アスカの心のもやもやが徐々に軽くなってくる。

 こんなに気を使わなくていい相手は、同性でも滅多に居なかった。

 

「ね、ピアノ弾いて」

 

「え…」

 

「ほら、せっかくこんなピアノがあるんだしさ。弾いてみせてよ」

 

「…人前じゃ弾かないんだ」

 

「え?」

 

「悪いけど」

 

 その口調はどこか頑なで、シビアな響きがあったので、アスカもそれ以上は言わなかった。

 

「そう、わかった」 

 

 明るく返したものの、調子に乗りすぎて、居心地の良い空間を壊してしまった自分に悔いていた。

 微妙な空気を、察せないほど子供ではない。

 

 アスカは、ヴィンテージワインのラベルを指差す。

 

「1979年ってね、アタシとカオルが出会った年なんだ」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

<同い年だから、3歳のころからのつきあいか…>

 

 それだけの時間を共有してきた二人を、自分が原因で別れさせた。

 彼が悪いわけではないが、簡単に割り切れるほどシンジはドライではなかった。

 

「カオルが、そうしようって」

 

「……」

 

「同じだけ、この世にいる」

 

「……」

 

 シンジにはもう、なにも言えなかった。

 この前と同じように、ただ聞くことしか出来ない。

 

「19のブラームスの誕生日にね」

 

「……?」

 

「アタシ、落ち込んでたの。ドイツから日本の大学に来て働きだしたばっかでさ、知り合いも居なくて」

 

 革張りのソファにシンジの隣に並んで座りながら、アスカは話を続ける。

 こんな風に、黙ってただ泣き言を聞いてくれる相手は、今まで居なかった。

 

「知らない土地で右も左もわかんないし、周りは10以上離れた年上しかいなくて、ちょっとホームシックにかかってたの。

あぁ、ドイツに帰ろうかな、なんて弱気になってたら夜9時に、カオルから電話がかかってきた」

 

「夜の9時?」

 

「ブラームスの誕生日の夜9時、アタシとカオルが初めて出会った時間」

 

「あぁ…」

 

「それまではいつも一緒に居たんだって。でも、今年からは一緒じゃないから、『今年もよろしく』って電話で」

 

「カオル君らしいね」

 

「誕生日とかは平気で忘れるくせに、そんなとこだけ覚えてて…。

それから、20、21、22のって3回、いつもブラームスの誕生日の夜9時、『今年もよろしく』って」

 

「……」

 

「そんなのが、ずっと続くと思ってた」

 

「……」

 

「おめでたいよね」

 

「……」

 

「ゴメン、しんみりしちゃった」

 

 そう言ってまたグラスにワインを注ぐアスカは、いつものアスカだった。

 それが、なんだか、とても悲しかった。

 彼女を元気づけたい、と痛切に思う。

 だが、どうすれば…。

 

「そうだ」

 

「?」

 

「面白いもの、見せるよ」

 

 シンジは机の上にあったスーパーボールを手に取って立ち上がった。

 

「なに?」

 

 それには答えず、シンジは窓に向う。

 アスカは大した期待もせずに付いていった。

 

「いい?」

 

「どうすんの?」

 

「これを落とすの」

 

「へっ…?それで?」

 

「それだけ」

 

「どこが面白いのよ!」

 

 期待してなかったとは言え、余りの肩透かしにアスカは怒った。 

 いつもなら即座に謝るシンジだが、今回はそうではない。

 

「ちゃんと、戻ってくるんだ。ここに」

 

「ウソ。ここ3階よ」

 

「戻ってくるんだ」

 

「ホント?」

 

 アスカはまるで信じていない。

 

「ホント」

 

 軽い合図をして、シンジはボールを地面に落とした。

 暗がりの中を落ちていくボール。

 地面にぶつかると、同じ軌道で本当に同じ所まで戻ってきた。

 

 アスカの目が子供のように輝き出す。

 

「ね?」

 

 ボールをつかんで、笑顔でアスカを見る。

 動悸が激しくなり、頬が紅潮したのはアルコールの所為だけではない。

 

<なによ…そんな顔すんじゃないわよ>

 

「アタシもやる!」

 

 アスカは、照れ隠しにボールをシンジの手から奪い取った。

 元気であることの充分な証明になるその勢いは、シンジをホッとさせた。

 

「ちょっと勢いをつけて…」

 

 背後に感じるシンジの声に、なんだかドキドキしてしまう。

 

「なんでこんなこと知ってんの?」

 

「子供の頃、やって遊ばなかった?」

 

「ううん」

 

<そっか、アスカは『ドイツのお嬢様』だったっけ>

 

 それに、あの雑誌に書いてあった経歴には『最年少で博士号取得』とあった。

 おそらく、こんなことをして遊ぶ暇なんてなかったんだろう。

 

「僕はこんなことばっかりやってたな。ピアノの練習の合間に、父さんに隠れて…」

 

 どことなく憂いを感じさせる声には艶があった。

 背中越しに感じるシンジの気配に、アスカの動悸は一層激しくなり、顔に血が駆け上がってくる。

 

「思いっきり投げたら、ここより高くあがるかな!?」

 

 裏返った声とともに、力いっぱい下に投げたボールは、コントロールが狂いマンションの向かい側の公園に飛んでいってしまった。

 

「あっ」

 

 慌ててシンジが取りに行こうとするのを、アスカは止めた。

 

「いいの!」

 

「大丈夫、見つかるよ」

 

 それでも行こうとするシンジを、アスカは腕をつかんで止めた。

 

「いいの、別にあんなの」

 

「でも、大事な…」

 

「大事じゃない。もう、大事じゃない」

 

「……」

 

「飲も飲も」

 

 アスカはワインが置いてあるテーブルの方にさっさと行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 翌朝、起きた時にはもうシンジの姿はなかった。

 

 あの後何を話したかは覚えていない。

 延々と飲んで、くだを巻く自分の話をシンジは、静かに聞いていてくれた。

 他人に弱みを見せたことのない、プライドの高い自分が何故彼にはあんなに弱みをさらけ出してしまえるのかがわからなかった。

 タイプでないのは間違いないのに…。

 

 そこで、急に気がついた。

 

 カオル以外の選択肢がなかった自分に元々タイプなどあっただろうか?

 そもそも、誰かに恋愛感情を持ったことなどあっただろうか?

 

『親同士がそう決めたからね』

 

『きっと君も気付いてると思う。それを恋や愛とは呼ばないってことに』

 

 カオルの手紙が思い出される。

 その言葉の意味がやっとわかった。

 しかし、全て納得する気にもなれない。

 恋や愛とは呼べなくても、カオルのことを好きだと思っていた気持ちは本当なのだ。

 20年間の想いを簡単に否定することはできない。

 

 ソファーに深く座り、考え込んでいるアスカの目に、昨日シンジが弾いてくれなかったピアノが目に入った。

 その上に見覚えのあるものが載っている。

 昨日、無くしたはずのスーパーボールだった。

 

「余計なことしちゃって…、バカシンジ」

 

 特別が一つ増えるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕焼けが街を包む頃になっても、アスカはまだ部屋に居た。

 今週は国際学会があり、リツコと時田は研究室を開けていた。

 置いてきぼりになったアスカは、大学に行っても大してやることがないためサボったのだ。

 なにより、今朝の疑問の答えが出ない。

 ソファで膝を抱え、思い詰めた顔で電話を凝視ているしている。

 受話器を持ち上げて、ちゃんと発信音がするのか確かめたりしていた。

 

「壊れてないわね」

 

 受話器を戻して、またソファの上にうずくまって電話をじっと見つめる。

 それは夜のとばりが降りても、アスカは膝を抱えたまま。

 玄関でシンジが帰ってくる音がすると、振り返り元気な声で出迎えてやった。

 

「お帰り!」

 

「ただいま…帰りました」

 

 異様な元気のアスカに、シンジは戸惑う。

 少なくとも、いつものテンションではない。

 

<よけいなことしたかな?>

 

 今朝ボールを勝手に探して来たのは不味かったのだろうか?という疑念が浮かんだが、不機嫌そうでもない。

 

「あのさ、電話あったよ」

 

「え?」

 

 アスカの言葉にシンジの表情が曇る。

 

「電話って…、電話とったの?」

 

「うん」

 

「『うん』じゃないよ。決めたよね?電話は一切取らない。お互いの部屋には絶対入らないって」

 

「お互いの部屋には絶対入らない。お風呂は、7時から9時までがアタシ。10時からがシンジ。

いくらアタシが美人だからってそんなに気を使わなくてもいいのに」

 

 昨日のように、アスカはシンジの微妙な苛立ちを感じることはできなかった。

 そこまで気にする余裕はなくなっていた。

 

 シンジはアスカのからかいに少しムッと来ている。

 その決まりは、線を引かなければ間違いが起きるかもという危惧があった。

 つまりは図星なのだ。

 彼も健康な青年、無理はない。

 

「…なんで出たんだよ」

 

「出てあげようかな、と思って」

 

「なんでそんなこと思うのさ。留守電になってたでしょ?」

 

「留守電だと切っちゃうかもしれないじゃん」

 

「誰が」

 

「いや、誰ってことはないけど…」

 

 なんだか開き直っているアスカに、シンジは問い詰めることを諦めた。

 

「…メッセージを再生してください」

 

「一件目、綾波さんって人から」

 

「綾波さんって…綾波?」

 

「そう、多分アンタの好きな綾波さん」

 

「―――!!」

 

 シンジは愕然としてソファに座り込んだ。

 思いもよらないメッセージに、なんとか声を絞り出す。

 それは、とげとげしさを多分に含んでいた。

 

「…それで」

 

「『碇君はいますか?』と聞かれたので、『まだ帰ってません』って答えた」

 

「そしたら?」

 

「『そう、ならいいです』、ガチャン」

 

 アスカの淡々とした受け答えが、シンジの神経を逆撫でしていく。

 

「…初めて家に電話がかかって来たのに、出たのはアスカ」

 

「女だと思われたかな?」

 

「多分ね」

 

「弁解するわ」

 

「…いいよ、説明できないでしょ、こんなおかしな状況」

 

「…用件2件目です」

 

「えっまだ、あるの?」

 

「芸秀院新人音楽コンクール審査委員会さんから、この間のコンクールの結果。『残念ですが…』とのことでした」

 

「―――――」

 

「アタシが初めて来た時のコンクールだよね、きっと」

 

「アスカがウェディングドレスで、あの扉の前に立っていた時だね」

 

「…残念だったわね」

 

「…伝言、どうもありがとう」

 

 シンジは複雑な顔をしたまま礼を言うと、立ち上がった。

 

「あっ、ちょっと待って」

 

「まだあるの?」

 

「これが最後。六文儀ゲンドウさんって人から」

 

「―――――!!」

 

「なんか偉そうだったから、『あんたダレ?』って怒鳴ったら『父親だ』って。後で謝っといてね」

 

「それで?」

 

「『シンジは居るか?』って聞くから『居ません』って言った。そしたら、『連絡するよう伝えておけ』って」

 

「…わかった」

 

 明らかに不機嫌とわかる顔をして、シンジは部屋のドアを乱暴に閉めた。

 それは、拒絶を表したつもりだったが、アスカには通じない。

 曇りガラスがはめこまれたドア越しに、まだアスカは声をかけてくる。

 

「ねぇ、別にアタシに嘘ついてたことなら、気にしなくていいよ」

 

「嘘?」

 

 そんなもの、ついた覚えはない。

 

「ほら、『ただのピアノ教室の先生』なんて、アタシに気ぃ使っちゃってさ。

六文儀ゲンドウっていうピアニストならアタシでも知ってるもの」

 

「アスカには関係ないだろ、ほっといてよ」

 

 既にシンジの苛立ちは、声に出るほど高まっていた。 

 

「ホント、気にしなくていいわよ?名字も違うし、色々あるみたいだから深くは詮索しないけど。

あ、それに、来月から家賃半分入れるし。あの様子じゃ、あんまり親子仲よくみたいだから、仕送りとかも…。

へぇ、CD多いじゃん」

 

 充分詮索しながら、アスカは部屋に入ってくる。

 部屋の中を物色するアスカにシンジは言った。

 

「入ってこないでよ」

 

「あら…アタシ、アンタがコンクールだめで落ち込んでるだろうと思って元気付けようと…」

 

「余計なお世話だよ」

 

「!!あっ、そう!電話受けたのは悪かったけど、いつまでもウジウジと…。落ちたモンは落ちたのよ!」

 

 鬱陶しいことこの上ないといったシンジの言い草に、アスカも語気を荒げる。

 

「何のこと?」

 

「コンクールのことよ!また受けりゃいいじゃない!」

 

「あれ、4年に一度しかないんだ」

 

「…だいたい、アンタ男らしくないのよ。嘘までついて、人に気ぃ使っちゃってさ!」

 

「自分だって、なにが『雑用ばっかり。秘書みたいなもん』だよ。読んだよ、『MAGIプロジェクトのメインスタッフ』さん」

 

「あ、勝手に見たわね。プライバシーの侵害〜!」

 

「それは、こっちのセリフだよ。大体、僕と父さんとはとっくに親子の関係じゃなくなってる。

…それなのに、親の七光りとか言われるのが一番嫌なんだ!もう、出てってよ!」

 

 そこまで言って、感情的になってしまっている自分に気がついた。

 シンジはフォローを入れようとしたが、時、既に遅し。

 特に最後の部分がいけなかった。

 

「アタシだって、もうMAGIプロジェクトからは外されてるわ!」

 

 爆発したアスカは、乱暴にドアを閉めると自分の部屋に入った。

 クローゼットの奥からボストンバックを取り出すと、手当たり次第に服を詰め込む。

 

「お望み通り出てってやるわよ!荷物はアンタがいない時に取りに来るから!触んじゃないわよ!」

 

 捨てゼリフを残すと、アスカはバックを片手に、玄関のドアを壊れないのが不思議なほどの勢いで閉めて出て行ったしまった。

 『出て行け』と言ったのはシンジの部屋からであって、このマンションからではなかったのだが…。

 呆気に取られたシンジは気を落ち着ける為に、とりあえず煙草に火を点ける。

 灰皿を取りに行って、シンジは隣のカレンダーがアスカの書き込みで埋まっているのを目にした。

 

「まったく、勝手に…。僕のなのに」

 

 愚痴りながらも、アスカの下手くそな日本語を見ているその目には優しさが灯っている。

 日付の所に一際派手な二重丸がある。

 

「なんだこの印?5月7日、…そうかブラームスの誕生日って…今日だよ」

 

 大学で音楽史を学んだことが、やっと役に立った。

 電話を見る。

 アスカが言ってたことを思い出した。

 

「いつもブラームスの誕生日の夜9時、『今年もよろしく』って」

 

「そんなのが、ずっと続くと思ってた」

 

 

 

 

 

 

 

 アスカは唇を噛み締めながら、マンションの前の道を、ずんずん歩いていた。

 

<なによ!なによ!なによ!人がせっかく…・>

 

 抑えきれない怒りを、道端の空き缶にぶつける。

 空き缶は綺麗な放物線を描き、闇の中に消えていった。

 何に怒っているのか、と聞かれれば自分でもよくわからない。

 怒るべきなのは、勝手に電話を取られたシンジの方なのだ。

 

 『もう、出てってよ!』

 

 しかし、その言葉を言われた瞬間、頭が真っ白になった。

 もしかしたら、シンジはずっとそう思ってたのかもしれない。

 『迷惑だ』って。

 『邪魔だ』って。

 そう思ったら急に腹がたった。

 例え様のない心地よかった瞬間すらも、嘘だったような気がしてきたから…。

 

「ねぇ!」

 

 突然、上から降ってきた声。

 見上げると、シンジが部屋の窓から顔を出していた。

 アスカは恥ずかしさから少し涙目になっていることを隠し、怒鳴った。

 

「うっさい!」

 

「戻れば?」

 

「何よ今更…アンタが出てけって言ったんじゃない。迷惑だったんでしょ?邪魔だったんでしょ?

ご心配なく!金輪際アンタには会わないようにするから!」

 

「電話待ってたんでしょ?カオル君からの電話」

 

「…アンタには関係ないでしょ」

 

 何かを言おうとするシンジを置いて、アスカは再び歩き出す。

 絶対に振り返らないつもりだった。

 

 その後姿を見下ろすシンジにとって、彼女は、言った通り迷惑だったし、邪魔だった。

 

<でも、嬉しかったんだ…>

 

 誰かに相談してもらうことが。

 帰ってくる部屋に灯りが点いていることが。

 

 だが、今、それを彼女に言って、伝わるだろうか?

 気持ちを言葉に出すのが苦手な自分では、また失敗するかもしれない。

 それなら――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Would you know my name if I saw you in heaven?♪...

 

 

 流れてくるピアノの曲を、アスカは知っていた。

 エリック・クラプトンの「Tears in Heaven」だ。

 足を止めシンジの部屋を見上げた。

 シンジはアレンジを変え、元の曲がわからないくらいに変化をつけて曲を弾いている。

 『君が居なくなって悲しい』、シンジのピアノは確かにそう歌っていた。

 ぼんやり立ったまま、アスカはその曲に耳を傾ける。

 心が、ゆっくりと暖かくなっていく。

 アスカはしばらくそこから動けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シンジがピアノを引き続ける部屋に、アスカは吸い寄せられるように戻っていった。

 玄関に入ってきた気配を感じたシンジは演奏を終える。

 

「電話、勝手に出ちゃって悪かったわね」

 

「いいよ、僕も言い過ぎた」

 

「他人の前では弾かないんじゃなかったの?」

 

 アスカが訊くと、シンジはさりげなく答えた。

 

「クリスマスと誕生日と、大事な記念日は特別なんだ」

 

「……かっこつけちゃって」

 

「カオル君の電話、待ってたんでしょ?」

 

「連絡あるんだったら、ここだろうと思ってね。でも、一日無駄にしちゃったわ」

 

「まだ、今日は終わらないよ」

 

 アスカが首を振り、恥ずかしそうに言った。

 

「スーパーボール…」

 

「?」

 

「探してきてくれて、ありがとう」

 

「いや、あれは…僕が勝手にやっただけだし」

 

 いつもと違うアスカの態度に、シンジは戸惑う。

 なんていうか、こう、可愛いのだ。

 抱きしめたい、そんな誘惑が沸いてくる。

 照れ合う二人は初々しい恋人同士のようだった。

 

RuRuRuRuRuRuRuRuRuRuRuRuRu…

 

 その時、非常に良い雰囲気の二人を、電話のベルが邪魔をした。

 アスカとシンジは思わず顔を見合わせる。

 時計の秒針は午後9時10秒前。

 

<取ってよ>

 

<アンタの家でしょ>

 

 目線で会話しながらも、二人の意識は電話に集中している。

 そこに、先ほどまでの甘い空気は存在していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Man's and Woman's Dilemma

 


 

after word

50000HIT、おめでとうございます!

なんか、すごいペースのような気が…。

これもUrielさんの驚異の更新ペースと濃い内容の賜物なんでしょう。

で、私はまたお目汚し。

私のせいで来客が減ったりしたら、とか少し心配。

 

前回の『このお話はLASかLRSかLKS(嘘)か決まってません』にメールありがとうございます。

大体、決まりました。

LKSで行きます。

嘘です。

オズさんとKojiさんのご希望を裏切ることはないと思いますのでご安心ください。

 

今回の反省点

●行き当たりばったりになってきてはしないだろうか?

●シンジが花嫁(マナ)に逃げられても良かったかも…

 

今後の改善のためにメールを頂けたら嬉しかったりします


テリエさんに頂いたサードインパクト…もとい第三話目。
とてもありがとうなのです。
実は前回、ここが辺境の辺境なもので、テリエさんにメールが行くか心配でした。
送っていただいた方も、ありがとうなのです。
感想は義務じゃないし強制でもないけれど、方向性の意見があるのは嬉しいものです…きっと、きっと。


URIコメ

>「もう、お出掛けですか…」

こんな時、箒を持ったヒトに見送られると…少し気分が治りますか?それとも?

>雑用だの、秘書だの言ったのは自分に気を使ってくれたに違いない。

自分が取った名誉でも、自分はあまり気に入っていない場合もあります。
はたして彼女の場合は…?

>40代後半でようやく助教授になることができたこの男は、今までアスカがMAGIの研究に携わってこれたのは、彼女の能力や

>実績などではなく、ラングレー家の資金目当ての為だと言い放ったのだ

七光りとかジュニアとか言うヒトには、月の出ている夜に正面からざく!ぐさ!!仕置き完了!!!
とやりたく…はなりませんがかなりやなモンです。

>「大体、君は結婚してドイツに帰るはずじゃなかったのかね?」

花婿じゃなくて、下僕に格下げしておきました…と言えないのがつらい所です(きっと)

>「そう、多分アンタの好きな綾波さん」

珍しく掛けてみたら女が出た…破滅へのプレリュードとなりがちですか、効果は様々です。

>「アタシだって、もうMAGIプロジェクトからは外されてるわ!」

ふむ…一番安く売買できるのが言葉でしょう。
だって…売り言葉に買い言葉って言いますし。

>シンジがピアノを引き続ける部屋に、アスカは吸い寄せられるように戻っていった。

アスカホイホイ、と言えば語感は悪いけれど、そんな感じ。
どうしても吸い寄せられてしまう物、それが食物以外である所が、万物の霊長なのです。

とりあえず一つ屋根になった二人。
そこへの電話が何をもたらすのか、とても気になる所です。


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