甦   炎(前編)
 
 
 
 
 
 広い室内に、惜しげもなく月の光が差し込んでいる。
 一人で寝るには、いや四、五人で寝てもまだ余るほどの広いベッドに、眠っている姿が一つ。
 寝息すらも無粋に響きそうな、そんな静けさの中で規則正しい寝息だけが静寂に唯一異を唱えている。
 と、ほんの少し寝顔が横を向いた。眠っている人物が寝返りをうったのだ−その顔だけ。寝ているのは少年であった。
 年のころはまだ二十歳にもなってはいまい。
 どことなく幻想的な顔立ちは、夢の世界で何を見ているのか。
 と、その口元がうっすらと笑った。
「レ…イ…」
 麗?それとも霊?それとも?
 無論事実関係が確認できる筈もないのだが、呟いた直後再度少年の顔は上を向いた。
 部屋の扉が、音も立てずに開いたのはその直後であった。
 重い樫の筈だが、みしりとも音を立てずに開く。
 かすかな衣擦れの音とともに、人影がすっと忍び込んだ。
 抜き足差し足、ガウンを纏っていながら、大泥棒も敵わぬような足取りで一歩一歩進んでいく。その目指す先は、一直線に寝台を。
 数十秒後、滑るような足取りで人影はベッドにたどり着いた。
 そして少しも躊躇うことなく肩に手を当てると、微かな音とともに白いガウンは床にわだかまった。
 人影が部屋に入って来た時、月光が当たっていなかったため分からなかったが、今その人影は裸身の幻影を明らかにしていた。
 存分に突き出した胸に、絞りきったように引き締まった腰。
 すらりと伸びた足に手で軽く握れそうな足首−人影は少女であった。
 月光を白い裸身にたっぷりと浴びさせると、少女は光の中に出た。白い裸身を惜しげもなく晒しながら、そっとブランケットを捲り上げる。
 少年は上半身裸のまま眠っている。気温が暖かいせいかあるいは趣味なのか。
 少女はそれを見ても、少しも驚くことなく中に身体を滑り込ませる。重たげに揺れる胸と、少年の胸とが擦れあった瞬間少女の口から小さな、だが確実に切なげな声が洩れた。
「あん、シンジったらぁ」
 気付いたように慌てて口を塞ぐと、さらに下へと探索を開始した。
 
 
 
 
 
(あ、なんか気持ちいい…この感じは、アスカかな…)
 ぼんやりとそんな事を思った直後、微かに呻きと共に少年の意識は一気に覚醒した。
 主と一緒に眠っている筈の肉竿が、奥まで呑み込まれたのである。
 んくっ…ちゅっ…
 一度咥内一杯に頬張ってから、ゆっくりと吐き出す。愛しげに口付けすると、そっと裏側に舌を這わせた。
「ア、アスカ夜這いは無しって…あうっ」
「あは、大きくなってきた」
 嬉しそうに呟いたアスカが、今度はその下の袋を口に入れたのだ。柔らかな舌がねっとりと二つの玉に絡みつき、愉しそうに転がす。
 何の夢を見ていたのかは不明だが、たちまちシンジの顔が愉悦に歪んできたのを見ると、どうやらそっち系の夢だったらしい。
「ア、アスカ、もう…」
 小さな声だったが、アスカには聞こえたのか、もぞもぞと上がってきた。
 勿論シンジと身体を合わせて上がってくるのは忘れない。ここの所、さんざん揉みまくられたせいか、また少し大きくなった乳房を、ずりずりと押し付けながらゆっくりと上がって来た。
「こんばんはぁ」
 シンジが何か言う前に、アスカは鼻に掛かった声で笑った。
「ア、アスカ…」
 しかし何か言おうにも、アスカの裸の胸が自分の胸にぎゅっと、押し付けられているのだ。こんな状況で何が言えよう−肉竿が既に痛いほど張り詰めている中で。
 一方アスカの方も、さして身長の変わらないシンジに、身体を合わせていると言うのはそれなりのリスクがある。
 真上を向いた状態の肉竿が、アスカの腰を圧迫しているのだ。
 無論中に入ってはいないが、スリットを割って擦りつけられているそれに、蜜が溢れてくるのを抑えるのに懸命であった。
「ど?目ぇ覚めた?」
 横に座っている少年に、甘い声で少女は囁いた。
「アスカ、夜這いはしないって約束したじゃない」
「してないわよ」
「え?」
「一緒に寝に来ただけ」
 平然と言うアスカに、
「な!?」
「でも寝相の悪いシンジに攻撃されるとやだから…」
 にっと笑って、
「起こしたの」
 妖しい声で囁いた。
「だからキス…はんっ」
 膨れ上がった裏筋の尿道が、小陰唇をきゅっと擦ったのだ。
「あ、当たってるじゃないばかっ」
 理不尽なことを言いながらも、その吐息は荒い。
「も、もう止めようよ…」
 膨張の極みにありながらこんな事を口に出来るのは、別にシンジの自制心が圧倒的な訳でも、別に無垢を気取っている訳でもない−危険なのだ。
 
 
 
 
 
 
 今から二年前、量産機を撃退した時…
「レイ、私のユイのところへ導いてくれ」
「……いや」
「…何!?」
「私はあなたの人形じゃ、ないもの。私はあなたじゃ、ないわ」
「レイ!?」
 悲痛な叫びは、妖しい微笑に迎えられた。
「私は碇君の…人形でいたい」
 その数ヶ月前半ば廃墟と化した部屋で、シンジの両手がレイの乳房に触れた時。
 二人の脳裏に何故か懐かしい感情が湧きあがった事を、無論ゲンドウは知らない。
 そして、二人の目から同時に涙がこぼれた事も。
 何よりも、二人がそのまま融合していたことなどは。
 造物主より、自らの情を選んだレイ。
 その後ドイツから赤毛の少女が来日した時。
 ファーストインパクトで互いが気に入った二人は、弐号機に一緒に乗った時、これも融合を遂げていた。
 無論それが穏やかに納まる筈もなく、毎晩のように少年の枕元で、或いは布団の中で睨みあう少女達がおり、彼らの『保護監察官』となった妙齢の美女は、かなり悲惨な目に遭った、とされている。
 とまれ、現時点では毎晩のように二人の少女を侍らせているのが、かつての初号機パイロット碇シンジなのである。
 ただ、これはあくまで仄聞に過ぎない。
 実際の所は、
 『二匹のサッキュバスに飼われている生贄』 
 と、いうのが正解らしいのだがさて。
 シンジが口にした、
「夜這いはしない約束」
 と言うのは、二人まとめて朝まで大暴れというのはさすがに難があるため、週に四日と決まっており、後は安らかに寝かせてあげる事になっている。
 だがなかなかそうも行かないのは、依然としてシンジの寝床付近がしばしば紛争地帯になるからだ。
 安全日ならぬ安眠日の筈なのに、枕元で漂っている殺気に目が覚めた事も一度や二度ではない。
 そしてその度にそこでは、二対の瞳が凄絶な視戦を繰り広げているのだ。
「碇君の人形でいたい」
「ずうっっと、シンジの物にしてね」
 と言った割には、どう見ても所有権争いにしか見えないのが、実態を物語っているのかもしれない。
 その結果が、今のシンジの寝室なのである。
 以前のマンションは二人の私闘の結果、数度に渡って大破し、ネルフがその粋を尽くして作り上げたこの頑丈な部屋に、パイロットとしての報酬と言う形で、半ば強引に移らされたのだ。
 
 
 
「ふうん、シンジはレイが怖いんだ?」
「そ、そうじゃなくて約束したじゃないか…」
「あら、規定は破られるためにあるのよ…って、シンジなにすんのよっ」
「え?」
「え?じゃないわよ、あんた何処触ってんのよ…そ、そこ駄目ぇ」
「そんなにしたいのなら、私がしてあげるわ」
 くぐもった声が聞こえるのと、アスカがびくりと身を震わせるのとが同時であった。
「なっ、レ、レイっ」
「お尻までこんなにして、本当に淫乱ね。もうびしょびしょ」
 言いながら今度は何をしたのか、アスカはシンジの上で身を捩った。
「は…んっ、や、やったわねっ」
 ぐっと歯を食いしばると、身を翻して布団の中に潜り込む。
「ふあっ」
 次に洩れたのは、間違いなくレイの声であった。
「は、離しなさいよっ…あんっ」
「ま、負けないもの…はふぅっ…」
 ぬちゅぬちゅっ。
「ほ、ほらこれでどうっ」
 勝ち誇った声がした次の瞬間。
 ずちゃずちゃっ。
「わ、私のが上よっ」
「はあっ…うっ」
「やっ、あぁっ・・」
 互いの秘所を責め合っているらしいのだが、既にお互いの弱点など知り尽くしているため、みるみる頂点に向かっていった。
 しかも、戦闘地域がシンジの身体を挟んでいるため、シンジが限界に近づいていたのだ。
 と、数秒後。
「『はうっ!』」
 甲高い声が重なり、同時にふっと気配が止んだのは、どうやら相打ちにでもなったらしい。
 そしてその直後。
「で、出るっ…うっ…」
 シンジの体が一瞬びくりと震え、その直後に、
 『「ああんっ」』
 嬉しそうな声が2つ上がった。
 やがてゆっくりと這い出してきた二人の顔は、白濁した液に彩られていたのは言うまでもない。
「ふ、二人とも…ごめん」
 原因はそっちではないのだが、とりあえず謝るのがシンジらしいと言える。
「ちゃあんとお詫びはしてもらうわよ」
 にんまりと笑ったアスカの声に被せるように、
「アスカはイッたばかりでしょう、私がしてもらうわ」
「なっ、なによっ、私にアヌスでイカされたくせにっ」
「それはあなたでしょう、随分と緩いお尻だったわね」
 顔を白く彩ったまま、自分を挟んで睨み合い出した二人に、シンジは一瞬ついていけず、
「お尻?」
 どこか間抜けな声で聞いた。
「アスカが私に指を入れられてあっさりイッたの」
「それはあんたでしょっ、私の人差し指根元まで飲み込んだくせに」
 どうやら止めは、互いのアヌスへの一撃だったらしい。
「じ、じゃあほんとにお尻を…」
 何故か紅くなったシンジを見て、アスカはにんまりと笑った。何かを思いついたらしい。
 睨み合うのを止めて、
「ねえ、レイ」
 と奇妙な声で呼んだ。
「何」
「あんた、シンジの後ろの具合は知ってるの?」
 それを聞いた瞬間、レイもまた笑った−にやあ、と。
「知らないわ」
「じゃあ、検査の必要があるわね」
「そうね」
 自分の話になったと知り、
「なっ、何でだよっ」
「あたし達はお尻に挿れ合ったもん。シンジだけそこが処女ってのは不公平よね」
 物騒なことを言い出したアスカに、
「そうね、もっとよく知り合う必要があるわ」
「レ、レイ冗談は…ちょっとっ」
 しゃれにならないと、慌てて抜け出そうとしたが一瞬遅く、その眼前に四本の生足が突き出された。
「あたし達のにも挿れていいから。でないと不公平でしょ。じゃ行くわよ」
「ア、アスカっ!」
「男の人はここに挿れられると、直ぐに大きくなるって言うわ…愉しみね」
 一人ががっしりと足を掴み、もう一人が股間の愛液を塗りつけていく。
 見事な連携プレーの後。
「ああああっ!」
 ずぶり、と一つの穴が処女を失い、瞬間的にシンジの指が探り当てた穴に侵入する。
「『は、あああんっ』」
 悲鳴ともつかない声は、その数を三つに増やしていた…
 
 
 
 
 
「やっと寝てくれた…」
 リツコは疲れきった口調で言ったが、内心は十分に充たされていた。
 アスカ、そしてシンジとレイ。
 彼らの勧めで、結婚したのは一年前の事である。
 『来襲する使徒』が片付いたのは二年前だが、一年間結婚しなかったのは訳がある。
 『来襲しない使徒もどき』、綾波レイの事だ。
 使徒と等しい存在である彼女を、自分達の手で作り出したと言う負い目は、ゲンドウからもリツコからも消える事はなく、自分たちだけ幸せになる訳には行かない、それが彼らの結婚を躊躇わせていたのだ。
 ところが一年前の今日。
 シンジとレイが副座式のプラグに同乗した時、異変は起きた。
 レイがATフィールドを使えなくなっていたのである。
 二人のシンクロ率が、400%直前まで跳ね上がった時、一体何が起きたのかは分からない。
 ただ結果だけを言うならば、レイの組織体は完全に人間のそれになっており、レイが初潮を迎えたのはその三日後のことであった。
 それを奇跡と言うのか、或いは異常と言うのかは分からない。
 だがそれが起きた事により、碇ゲンドウが再婚したのは事実であり、『使徒もどきの綾波レイ』と言う存在が亡くなったと言ってもいいだろう。
 結婚したゲンドウは、リツコには優しかった。
 不器用で無愛想に見えるゲンドウだが、
「あの人は可愛いところもあるんですよ」
 と、かつての妻ユイが言ったと、冬月に聞かされ最初は耳を疑ったが、結婚後それが真実だと知った。
 仮面の中に見せる優しさ−そして夜も。
 昼間の激務の後なのに、一体どこにそんな力があるのかと思うほど、毎晩リツコは激しく責めたてられた。
 だがそれも以前のような一方的な物ではなく、リツコが幾度も高みに押し上げられるようなものであり、決して自分本位ではなかった。
「私、幸せよね…」
 ぽつりと呟いた時、玄関の方で音がするのに気が付いた。
(風かしら?)
 風はなかった筈だと思いながら、全裸の身体にタオルケットだけを巻きつけて、リツコは寝室のドアを開ける。
 その肩からタオルケットが滑り落ち、床に蟠ったのは次の瞬間であった。
 愛撫の余韻は一気に消え失せ、全身が岩のように硬直する。
「あ、あなたは…」
 凍りつくリツコを前にして、侵入者は妖しく笑った。
 その手がぐいと伸びて彼女の乳房を鷲掴みにした時、リツコは自らの運命を悟ったような気がした。
 
 
 
 
 
 
 三人で、それこそ腰が抜けるほど戯れた後、全員がぐっすりと眠りこんでいた。
 最後は殆ど、空砲を打たされていたような気もするが、広いベッドが愛液やら何やらで、所構わずべたつくようになるまで相手構わず責めたてていた三人。
 自分が愛撫しているのがアスカなのかレイなのか、自分が口にしているのが肉竿なのかクリトリスなのか、それさえもわからなくなるほどやりまくった後、思い切り満足して三人とも果てたのだ。
「ん、シンジぃ…」
 鼻に掛かった声で呟いたアスカ、自分の声で目が覚めた。
「あたし…な!?」
 意識が瞬時に覚醒したのは、次の瞬間であった。
 大股開きのまま、両手足に手錠をかけられている自分。ご開帳などと言っている場合ではない。
「ちょっとシンジっ!こらっ」
 今までに、こんな事をされた事が無いと、頭に浮かぶ余裕はなかった。 
 だが、その顔が横を向いた途端大きく目が見開かれた。
 レイもまた、自分と同じ格好で縛り付けられていたのだ。
 アスカが思わず目を背けたのは、執拗な愛撫に半ば腫れ上がっているようなそこが、ドアップで視界に飛び込んできたからだ。
 自分とレイが縛り付けられているのは、隣の部屋にあった樫のテーブル。それを横に倒した上体にして、ちょうど四本の柱のようになったそれに、自分たちは束縛されているのだ。
 さすがのアスカも、プレイだと理解するより先に怒りが湧いた。
「こらっ、ばかシン…」
 シンジと言おうとした瞬間、その横顔を強烈な平手打ちが襲ったのである。なお、アスカの位置からはシンジの頭部が見えている−つまり、シンジではないという事だ。
「さすがにキョウコの娘だけあって、淫乱そのものね」
 アスカは愕然とした。
 キョウコ?それってママの名前?だ、誰よ…
 無論手は抑えられているから、痛む頬を抑える事も出来ない。
 顔だけ動かしたアスカの視界に、ガウンに身を包んだ女が映った。
「レ、レイ…?」
 思わずアスカが呟いたほど、その人物は綾波レイに似ていた−幾つかの点を除けば。
 レイが今なお少しだけ気にする髪の色、それが漆黒だと言う事と、全身から漂う気は紛れもなく成熟した女の気だという事を別にすれば。
 呆然と見上げるアスカを気にもせず、その女はレイの前に腰を下ろした。そしてアスカと同じように、いや何故かそれ以上の力で、レイの頬を張り飛ばした−それも往復。
 幾ら寝ていても、思い切り頬を張り飛ばされれば目は覚める。まして寝起きのいいレイは、瞬時に我を取り戻した。
「始めまして、かしらね」
 と女は嘲笑った。
「いいえ…久しぶり、と言うべきね、綾波レイ」
 憎悪のこもった口調に、レイの唇が動いた。
「碇…ユイ…」
「え!?」
 アスカは無論ユイの事など知らない。
 ただ、レイのクローン元が碇ユイ、つまりゲンドウの元妻であり、そしてシンジの母親である事は知識としては知っていた。
 だからそれを知った時、初めて分かったのだ。当初、自分がレイに感じていた嫉妬の一因は、二人の妙に親しげな−恋人を超えたようなそれにあった事を。
 しかし初号機は、既に永久凍結処分となっており、コアも取り出されている筈だ。
 それがなぜここに、しかも取り込まれた筈の本人がいるのだ。
「…何をしに来たの」
(この声…戻ってる)
 レイの声は、アスカが当初会った頃によく聞いた、抑揚も感情もない文字通りの人形のようなそれへと戻っていた。
 ただ少し違うのは、その中に凄まじい敵意と憎悪が含まれている事。だとしたら、レイはユイの目的を知っているのだろうか。
「何しにかしらね」
 ユイはレイの赤瞳を真っ向から受け止めた。
 アスカには、静かに互いを見据える二人の間で、不可視の領域が空中に固定されたような気がした−ただし、触れればどんな物でも切断されそうだが。
 方やバスローブ姿、方や手足を束縛された上性器をすべてさらけ出している。
 にも関わらず、二人は互角に憎悪の視線をぶつけ合っていた。
 アスカにしてみれば、クローンとそのクローン元であり、なぜそこまで憎悪し合うのかは分からなかったがふと、
(レイと違って目、紅くないんだ)
 ぼんやりと気が付いた直後、ユイが立ち上がった。
 レイを見据えたまま、
「シンジは返してもらうわよ」
 冷たく言い放つユイから、レイも視線を逸らそうとはしない。
 が、アスカは首を捻った。
 意味が分からないのだ。
 自分が全裸、それも普通なら正視しえないような、あられも無い姿に剥かれているにも関わらず、アスカの思いはそこには無かった。
(シンジを連れ出すなら、わざわざあたし達をこんな風に、縛る事無いじゃない)
 そこまで考えた時、アスカは自らの姿を思い出し真っ赤になった。
 シンジやレイとは体の隅々まで知り合ったとは言え、見知らぬ女にこんな目に会わされる謂れはない。
 文句を言ってやろうと、口を開いた瞬間アスカは固まった。ユイが、ガウンをはらりと脱ぎ捨てたのである。
 白い肌はレイで見慣れている筈のアスカも、思わず息を飲んだほどの純白な裸体であり、成熟しきった女の美がそこにはあった。
 単純に考えれば大卒後、つまり22歳でシンジを生んだとしても、もう既に40近い筈である。
 しかしユイの裸身は、一度だけ共同浴場で見た事のあるマヤよりも、更に若々しく見えた。エヴァの中にいると、いつまでも年を取らない物なのか。
 だがそんな事を思う余裕も無く、アスカは叫んでいた。
「ちょっとあんた!これ外しなさいよっ」
 アスカの本能が、ユイの目的を察していたのかも知れない。
 だが、ユイはアスカに視線を向けようともしない。
 なおも叫ぼうとしたアスカを、レイが止めた。
「アスカ、無駄よ」
「レ。レイ?」
「この女の目的は、私たちの見ている前で碇君を犯す事」
「お、犯す!?…な、何でレイが知っているの」
「私も使徒だったから−この女と同じく」
「え!?」
「この女はずっと、戻るチャンスを窺っていたのよ−コアの中でね」
「知っててなんで止めなかったのよっ」
「止めたわ」
「え?」
「だからこそ、司令にもリツコさんにもコアの破壊を幾度も無く進言したわ。でも私の意見は採用されなかった。ただコアを分離して冷凍保存しておいただけ。でもそれでも良かったのよ」
「ど、どう言うこと?」
「マイナス30度以下なら、コアから自力で戻る事は出来なかった、例えこの女であっても」
 何故かユイが、レイの語りをそのままにしているのが気になったが、
「じゃあ、何でここにいるのよ」
「今日は定期点検の日。リツコさんが温度を設定し忘れたのね」
 そう言ったレイは、何故か顔を背けた。
 その視線を追ったアスカは、それがユイの脱ぎ捨てたガウンに向けられているのに気がついた。
(あれ?このガウンどこかで…あっ)
 以前ゲンドウ邸を早朝に訪れた時、これを羽織ったリツコが頬をうっすらと紅潮させて、少し恥ずかしそうに出てきたのを思い出したのだ−そしてそれを三人でからかった事も。
 顔を紅くして、小娘のように照れているリツコを見て、新しい一面を発見した時のことがまざまざと思い出された。
 だがそのリツコの夫ゲンドウは、かつてユイの夫だった筈。
 それを思った時、背筋に何かが走り抜けた−或いは、直感だったのかも知れない。
「その通りよ、アスカちゃん」
 異様に優しい声でユイが言った。
「人を戻すのに失敗しておいて、他の女を抱くような男。生かしては置けないわ。無論泥棒猫もね」
 それを聞いた時、アスカは慄然とした。
「あ、あんたあの二人を…」
「大丈夫、ちゃんと見送ったわ」
 その言葉を聞いた時、アスカとレイの反応は対照的であった。
 レイはぎりりと歯を噛み鳴らし、アスカは一瞬ぽかんと口を開けたのだ。
「ちゃんと仲良く送り出したわ−あの世に」
 次の瞬間、アスカは反射的に立ち上がろうとして激痛に顔を歪めた。全裸の素肌に、手錠が容赦なく食い込んだのである。
「あらあら」
 ユイは冷たく嗤った。
「お肌が台無しよ、少しはそっちの使徒もどきを見習いなさい」
 ユイの言う通り、レイは微動だにしていない。
「ちょっとレイっ」
 だがレイはアスカの方を見ようともしなかった。
「それでいいのよ」
 ユイは嘲笑うと、ゆっくりとシンジに近寄った。
 胸に妖しく光を受けて、シンジに近づいていくユイをみながら、アスカは自分が泣いているのに気が付いていた。
「シ、シンジぃ…や、止めてよぉ…」
 その表情をよそに、ユイはシンジの真横に上がった。
「シンジ、ほら…起きて」
 だがシンジは起きる気配はない。
 
 
 
 
 シンジは夢の中にいた。
 アスカにレイも加え、三人で抱き合っていた筈だと思ったが、気が付いた時横にはレイしかいなかった。
「あれ、綾波…む…んぐ…」
「レ・イ・って呼んで?」
 赤瞳をうるうると潤ませて、下から見つめるレイにシンジも、
「ご、ごめん…レ、レイ…あっ」
 それを聞いた瞬間、レイがシンジに抱きついたのだ。
「だから好き。シンジは大好き…」
「え?」
 レイはシンジの事を、未だに『シンジ』とは呼ばない。そのレイに名前で呼ばれて、シンジは首を傾げた。
「あれ?僕の事名前で?」
「そうよ…可愛い子」
 次の瞬間、シンジの意識は覚醒した。
 
 
 
 
 
 
「あ、綾波っ…え?誰?」
 レイよりはアスカに近い、だがアスカには無い成熟した色香を持つ、豊かな双の乳房が目の前にあるのにシンジは気付いた。
 レイとよく似た、だが紅くない漆黒の瞳が、じっと自分を覗きこんでいる。
「待ったわ、シンジ…」
 言うが早いかいきなり唇が合わされ、ねっとりと柔らかい舌が口腔に侵入して来る。
 とっさに押し返そうとしたシンジ、何故か既視感を感じて舌を受け入れていた。
(これは最初にレイと抱き合った時に感じたのと同じ…まさか)
 その思いが伝わったのか、すっと舌が引き抜かれて唇が離れた。
「か、母さんなの?」
 ユイは答えずに、黙ってこくりと頷いて見せた。
「で、でも…」
 どうしてこんな事を、と言いかけた時、アスカとレイの姿に気がついた。
「二人ともっ…うっ」
 思わず呻いたのは、ユイが肉竿をきゅっと掴んだせいだ。
「あなたの事は、ずうっと見ていたのよ…シンジ」
 肉竿を握り締めながらユイが囁いた。それも単に握っているだけではなく、親指の腹で鈴口をなぞり、中指を器用に動かして裏側を上下にさすっている。
「シンジが部屋であの二人をイメージしながら、こんな事をしていたのも知っているわよ」
 そう言うと、さするスピードをすっと上げる。
 秘密を暴露されたのと、奇妙な快感とで紅くなったシンジ。
 そのシンジを見つめる、いや正確にはユイを射抜いている二人の視線を、ユイは零下の視線で跳ね返した。
「アスカ、あなたは言ったわね。シンちゃんどお?ママのお腹の中は?って。その答えここで見せてあげるわ」
 その途端アスカの瞳がかっと開かれた。
「や、止めなさいよっ!シンジ!あんたもそんな事されてないで…」
 その言葉が止まったのは、シンジが呻いたのを聞いたからだ−それも明らかに快感と分かる声で。
「ほら見なさい、シンジだって男の子。そんな小娘より私がいいに決まっているでしょう」
 そう言うと、今度はいきり立っている肉竿を躊躇いもなく口に含んだ。
「か、母さん…や、止めてよ…」
 それを聞くと、すっとユイが肉竿を吐き出した。
「私は別に構わないわ。でもねえ」
 ぴうん、と爪の先で肉竿を弾くと、天を向いたそれがぷるぷると揺れた。
「こんなギンギンにしちゃってるのに、説得力は無いわよ」
 妖気さえ伴った視線で見上げられ、思わずシンジは目を逸らした。
 だがその直後。
 かりっ。
 シンジの体がびくりと震えた。
 ユイは肉竿を再度口に含むと、根元まで咥内一杯に頬張ってから、少しだけ吐き出した。そして手を伸ばすとシンジの乳首をきゅっと摘んだのだ。
 シンジが思わず下を見ると、口から少しだけ肉竿を溢れさせているユイと目が合った。思わず目を背けたくなるほど淫蕩で、そして危険な視線なのに、何故かシンジは微塵も目を逸らすことが出来なかった。
(それでいいのよ、シンジ)
 その意志がシンジに伝わった時、シンジは自分が堕ちたのを知った。
 んぐ、んぐっ。
 ずっ…ずるっ…ずる…
 静まり返った部屋中に響くような音で、ユイは実の息子の性器を愛撫し始めた。
 手は軽く抑えているだけ、ただ舌と軽く当てた歯だけで丹念にシンジを責めていく。
(シンジぃ、お願い…イかないで…)
 シンジの顔が恍惚と化していくのを見ながら、アスカは叶わぬ願いと知りつつ祈らずにはいられなかった。
 だがその三十秒後。
「あ…くうっ!」
 堪えきれなくなったシンジの液を、ユイは咥内にたっぷりと受けた。
 しかもそれはアスカとレイが、思わず目を見張るほどの量であり濃さであった。
(あんなに…あたし達がしてもここまでは滅多に出ないのに…)
 ユイの舌技ゆえなのか、それとも背徳が高める相乗効果だったのかは分からない。
 ただそれを見た二人の胸に、壮絶な嫉妬が渦巻いた。
 こく…こく… 
 嚥下する音がした。そんな二人には目もくれず、ユイが一滴も余さずに飲み干したのである。
 うふ、とユイは笑った。
「あとちょっとよ」
 微笑しながら肉竿に手を当て、指でなぞり上げて最後の一滴まで出させる。
 無論それも、音を立てて吸い取ってから、ごくりと嚥下した。
「ご馳走様、シンジ」
 やっと肉竿から口を離すと、ユイは愛しそうに手を伸ばしてシンジの頬を撫でた。
「でもね…まだこ・れ・か・ら・よ」
「あ、あんた…まだ何しようってのよ」
 答えを知りつつ、アスカは言わずにはいられなかった。
 そして。
「胎内回帰」
 思ったような、だが少しだけ違う答えが返ってきた。
「は?」
「セックスよ…本当のね。ぐっちょんぐっちょんになるまでやるところ、見せてあげるわ」
 一語一語を区切るように言うと、ユイは唇についていた精液の残りを、紅い舌でぺろりと舐め取った。
 そしてシンジの肉竿に向き直ると、放出し尽くして少しだけ勢いを失っているそれに、ぴとりと指を密着させたのである。
 どう言う原理なのか、みるみる天を仰いだそれを見て、ユイは満足そうに笑った。
「シンジ…本番行くわよ」
 何故か素直に頷いたシンジを見て、アスカの目から涙がこぼれた。
「も、もう止めてよ…お願い…だから…」
 殆ど声にならない声で呟いたアスカに、
「無理よ、アスカ」
 どこか冷たい声でレイが告げた。
「な…レイあんたっ」
「あの女は碇君に薬を射ったのよ…或いは口移しで内服薬を飲ませたか…」
 愕然とアスカはシンジ達を見た。
 それに気付いたユイが振り向き、部屋の中に哄笑が鳴り響いた。
  
 
 
 
 
(つづく)
「エヴァのナカなら何十億年でも生きられます」
この台詞自体どっかイってる人に見えるんだけど。
自分がその材料になるとは思わなかっただろうけど。