脳血管内治療に関する最新情報を掲載します。


  • くも膜下出血の脳血管内治療は開頭手術より有効か!
    くも膜下出血を起こした破裂脳動脈瘤の治療法において、血管内治療(コイル塞栓術)か、開頭手術(クリッピング術)か、どちらが有効かを決める大規模な国際比較試験が欧米で行われ、その結果が2002年10月(Lancet;1267-1274,360,2002)に報告されました。これは、両方の治療の専門家がどちらでも治療可能であると判断した2143人の患者さんを、無作為に振り分けて、1年後の経過を調べた研究です。その結果は、血管内治療群の方が1年後の死亡または重大な障害を残した割合が、有意に少なかったというものでした。すなわち、死亡または重大な障害を残した割合は、血管内治療群では23.7%、開頭術群では30.6%でした。すべてのくも膜下出血で両方の治療ができるわけではないが、血管内治療の方が治療成績は明らかによかったのです。
     
    もちろん血管内治療では対処できない脳動脈瘤もありますが、適切な症例を選ぶことによって、血管内治療は開頭手術以上のよい成績を出しうることが証明されました。


    「論文要旨」
  • 【目的】離脱型コイルを用いた血管内治療(コイリング)は開頭クリップ術(クリッピング)に代わるものとして破裂脳
    動脈瘤の治療に用いられる機会が増加しているが、両治療法の相対的利得についてはまだ十分明らかでない。両者の安全
    性と有効性を比較するため、どちらの治療法も適当と判断された破裂脳動脈瘤患者について多施設ランダム化比較試験を
    行った。
    【方法】登録された計2143例の破裂脳動脈瘤患者を無作為的に開頭手術群(クリッピング)(1070例)と血管内治療群
    (コイリング)(1073例)に割り付けた(以下、「開頭手術割り付け群」と「血管内治療割り付け群」)。処置2ヶ月後
    ならびに1年後、あるいは再出血ないし死亡時に臨床転帰を評価した。一次転帰の評価には1年後の modifiedRankinScale
    (mRS) 3−6の患者(要介護ないし死亡)の比率を用いた。予定した中間解析時に実行委員会で検討の上、新規登録を停
    止し、結果をプロトコールに従って解析した。
    【解析結果】「血管内治療に割り付けられた群」の1年後の「自立不能ないし死亡」例は801例中190例(23.7%)であり、
    「開頭手術割り付け群」の793例中243例(30.6%)に比べ有意に少なかった(p=0.0019)。「血管内治療」か「開頭手術」
    かに割り付けられた後の相対的あるいは絶対的な「自立不能ないし死亡」リスク減少率はそれぞれ22.6%および6.9%であ
    った。処置後1年以降の再出血は「血管内治療割り付け群」では2/1276患者・年、「開頭手術割り付け群」では0/1081患
    者・年であった。
    【解釈】治療の選択肢として血管内治療(コイリング)および開頭手術(クリッピング)いずれも適応と考えられる破裂
    脳動脈瘤患者においては、「血管内治療割り付け群」の方が1年後の機能障害回避の面で有意に優れていた。現在までの
    データでは「血管内治療割り付け群」で再出血の頻度がやや高い傾向にあるものの、いずれの治療法でも長期的予防効果
    があるといえる。
    「日本脳神経外科学会の見解」
    本研究は外科的処置について大規模なランダム化比較試験を行った貴重なものです。その内容や解釈については本稿に
    述べたような疑問点もありますが、注意深く吟味することにより破裂脳動脈瘤の治療について多くの示唆を与えてくれま
    す。
     「血管内治療では対処できない動脈瘤」や「血管内治療による成績が開頭手術に比べて明らかに不良な動脈瘤」も多く
    あるものの、症例を選ぶことにより血管内治療は開頭手術と同等かそれ以上の成績を出しうることを示唆しているといえ
    ます。 
     ただし、血管内治療は再出血予防効果が開頭手術に劣ることも示唆されていますので、とくに長期的再出血予防効果の
    検討が待たれるところです。
     「血管内治療」の利点は首尾良く治療できた際の低侵襲性にあります。今後、「血管内治療」と「開頭手術」それぞれ
    の長所を生かして脳動脈瘤治療により優れた成績をおさめることができるよう調査、検討を進める予定です。先生方にお
    かれましては、当面は本論文ならびにこれまでに蓄積されたデータ、そしてご自身の経験をもとにして患者さんごとに適
    切に判断し、現時点で最良と考えられる治療にあたっていただけるようお願い申し上げます。

     
    (以上は、日本脳神経外科学会HPより引用)


  • 手術ハイリスク頸動脈狭窄症には、ステント留置の方が予後良好!
  •  頸動脈狭窄症に対しては、標準的な治療として”頸動脈内膜剥離術”が広く行われてきたが、最近ではこの手術では危険性が高いとされていた患者さんに対してはステント留置術が行われています。今回米国の学会で報告されたのは、手術危険患者において、手術群とステント留置術群を、無作為に振り分けて、どちらが有効かを検討した研究結果です。この研究は、SAPPHIRE(Stenting and angioplasty with protection in patients at high risk for endarterectomy)といわれるものです。
     米国の29施設で行われたこの試験の対象は、1)無症候性で80%以上の狭窄、2)症候性で50%以上の狭窄で、手術の危険性が高いと判断された(心不全、冠動脈疾患、肺疾患など)患者さんです。それぞれの治療の専門家がどちらの治療も可能と判断した307人の患者さんを、くじ引き試験で無作為に振り分けました。その結果、30日以内の有害症状(死亡、脳卒中、心筋梗塞)の発生率は、手術群では12.6%、ステント留置術群では5.8%で、ステント留置術群の方が有意に治療成績は良好でした。その内訳は、死亡は手術群では2.0%、ステント留置術群では0.6%で、脳卒中は順に5.3%、3.8%、さらに心筋梗塞は7.3%、2.6%でした。