19世紀中ごろ、欧米で子ども向けの本の新しい分野が登場しました。 少年少女を主人公としていて恋愛は主題ではありません。 本は当時まだ高価で、小さな本でも庶民の数日分の賃金に相当しました。 その教訓を当の子ども達が、時代ごとにどう受け止めたかは別問題ですが、ほとんどの作品が消えていく中で今日まで読みつがれてきたものは、なにか読む価値を持っている作品だけです。それが、子どもにも大人にも納得できる「あるべき姿」を指し示しているのは不思議ではありません。
「ハイジ」はそんな児童文学の古典の一冊で、作者のヨハンナ・スピリ(シュピーリ)は、1827年にチューリッヒ湖近くの農村に生まれました。 ヨハンナは、18歳で堅信礼をうけます。 ただ、「読むことを心得ている人にとっては、私の生活と人となりの歴史は、私の書いたすべてのものに含まれています」という言葉を残しており、ある知人はヨハンナを「森の中の急流のような」人と評しています。 25歳のときチューリッヒ市の書記をつとめた弁護士と結婚。 7冊目の本の 「ハイジ 」は非常に好評で、翌年、読者の要望に応じて続編を書きますが有名になってしまったために実名で発表しました。
「ハイジ 」には繰り返し美しい山の情景が描かれます。 自然の中で素晴らしさを感じる一瞬は、だれもが救われた気持ちになります。 作中のハイジと年齢も性別も、時代も距離も、文化の違いもとびこえて、同じ気持ちになれるのです。 しかし現在の私たちすべてがそうであるように、やがて少女は自分の知らない所に連れていかれ、思いもかけないことを経験します。 山の思い出は少女を苦しめ、足の不自由な新しい友達クララを思いやる気持ちもハイジをおいつめます。 しかし、これは成長するための貴重な機会でもありました。 クララのおばあさんはハイジを理解し、「神さまはわたしたちみんなのお父さまで、なにが私たちのためになるかご存知です」すべてをゆだね、お祈りなさい。と、語りかけます。 やがて山へ帰る日がやってきます。 翌日、ハイジはやはりさびしい思いをしていたペーターの目の不自由なおばあさんを訪ね、ずっと聞きたがっていた古い讃美歌を朗読してあげます。 次の日曜日に、おじいさんは初めてハイジをつれて数年ぶりに村の教会に姿を見せて、すべての人と和解します。 ☆スピリ作品に共通する 「祈り」 都会でのホームシックなどは作者スピリがすごした生活の反映といわれています。そして「子どもがどのように成長し生きていくか」と、作中の「祈り」は、ハイジ以外のスピリ作品に共通する中心テーマです。 産業革命以後の工業化、社会の変化と共に、現在も続いている多くの問題がこの時代のスイスにおしよせました。 「ハイジ」は、多くの読者によって支持され今も読み続けられています。 おそらく将来においても何らかの意味をもつ作品といえるでしょう。 2006/11/20 |
「ハイジとキリスト教」については、簡単に書けるものではありませんが、キリスト新聞社様から思いもかけない機会をいただき、紙面をお借りしてアウトラインを書かせてもらえることになりました。もっともうれしいクリスマスの贈り物となりました。心より感謝いたします。 tshp 2006/12/23 |