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 ハイジの原画と版画展



 ハイジのキャラクターデザインと作画監督をされた小田部羊一氏の直筆原画や版画の展示会が開催中です。
(この文章は2003/8/24に作成しました)

会期:8月24日(日)〜8月30日(土)
   8月30日午後2時からはサイン会も予定。(サイン会は、会期中会場にて作品・関連書籍をお買い上げの先着100名様対象)

時間:午前10時〜午後8時(最終日は午後5時閉場)入場無料
場所:丸善・東京日本橋店4階ギャラリーBにて開催


 ・・を見てまいりました。いろいろ興味深い点があったので、多少脱線をしつつも、ご報告いたします。

 さて、丸善の外から見えるショーウィンドウにハイジ様ご一行がいらっしゃるのを横目で見つつ、4階まで昇ってみました。
 無料ですが、入り口で記帳をすると、絵葉書が一枚もらえます。
 展示自体は大したボリームはありません。LDやDVDのジャケットで皆様おなじみのイラストの30センチ四方程度の原画が13枚額に入れられ飾られていました。

 あとは版画が少々。1週間前に京都の高島屋で、たまたま見る機会にめぐまれた絵と同じでした。高島屋の展示が8/18に終了したので、今日(24日)までに東京に運ばれたのでしょう。

 他の展示物は即売をかねた版画が数点。値段はちょっと書きにくいほど高額で気軽にはとても手が出ません。

 あとガラスケースがひとつあって、中に高島屋にはなかった小田部さん個人保管の資料が数点はいっていました。
 これがものすごく面白かった。
 会場のスペースの残り半分はヌイグルミやらグッズ、書籍の販売コーナーでした。実際のスイスの資料は皆無に近く、高島屋でも配っていたスイス観光局の赤い表紙の「ハイジの国へようこそ」の小冊子が無料でおかれてありました。あまり多くはないようなので、なくなるかもしれません。(そういえばオークションにこの無料小冊子が出ていて結構な値段がついてました)

 さて、問題のガラスケースの中です。
 むかって左の入り口よりにはハイジの初期設定肉筆スケッチがありました。森やすじさんのパイロットフィルムのハイジ最初期設定は、おさげがみでコロコロしたキャラクターですが、小田部さんの初期設定は森デザインをある程度継承してお下げ髪で、アニメ本編より美少女的雰囲気のある、少し線の多いものでした。森デザインと本編の中間とでもいいましょうか。それにしても小田部さんの絵は品があっていいですね。

 その右にはスケッチブックがありました。スイスへの現地取材に持って行ったもので、雑記メモもかねていて、その中で旅行経過を書いたページがひろげられていました。

 飛行機はアンカレッジ−オルリー空港(パリ)−チューリッヒとありました。それから一度ドイツへいって、マイエンフェルトに入ったとあります。

 そして

「カリジェ原作の「鈴」(実写)、「フルリーナ」(アニメ)を参考視聴」

と書いてあるのを見て、思わずニッコリしてしまいました。

 「カリジェ」はスイスの有名な童話挿絵画家アロイス・カリジュ(Carigiet,Alois  1902-1985)のことで、ハイジの舞台のスイス・グラウビュンデン州トゥルン出身です。TRUNはマイエンフェルトから直線で南西約20キロ、道なりで約30キロ程度の距離にある小さな村で、カリジェの記念展示館もあるそうです。

 彼の代表作に、少年が大きな牛の鈴を山小屋に取りに行く「ウルスリの鈴」とウルスリ少年の妹のフルリーナが小鳥を飼う「フルリーナと山の鳥」があります。

 どちらも短いお話で、二つ合わせて一冊の絵本になっています。

 日本には1952年という早い時期に岩波書店から「アルプスのきょうだい」という題名で紹介され、現在でも購入できます。(!)

 実は前々から、カリジェが高畑ハイジに与えた影響はかなりのものがあると推測していました。

 「フルリーナと山の鳥」を少し紹介しますと、ウルスリとフルリーナのきょうだいは、夏の間、両親と一緒に山の牧場の山小屋に農作業に出かけます。そこでフルリーナは、キツネに巣が襲われて生き残った山鳥のヒナをみつけ、少女はそのヒナを育てて、やがて山に帰すというものです。細部は違いますが、タカに襲われそうになるなど、高畑ハイジのピッチーのエピソードそっくりです。

 そして「ウルスリと鈴」に出てくる鈴は、ハイジとペータがそりにつけて鳴らすあの大きな鈴と形といい、大きさといいほぼ同じです。(ということは、ペーターの家は以前、牛を飼っていたのだ・・)

 また、これらのお話で、子供が山小屋に住むのは珍しいことではないけれど、それは夏の数週間にすぎないこともわかります。

 これで高畑ハイジの資料として、カリジェ作品も参考にされたということもはっきりしたわけです。どうか興味のある方はこの絵本もご覧になられてはいかがでしょうか?
 
 

 さて、さらに少々脱線して、高畑ハイジの底本についてですが、これは「岩波少年文庫旧版 竹山道雄訳」で間違いありません。なぜ断言するかって? まだ完全につきあわせはしてませんが、牧師とおんじが山小屋でハイジの教育について議論する部分を比較していただければはっきりすると思います。
 高畑ハイジのあの緊迫感あるやりとりは、竹山訳ほぼ「そのまま」のセリフまわしなのです。さすが「ビルマの竪琴」の作者だけあるなあ。と私は感じました。竹山さんは一流のドイツ文学者で、宗教的背景にも造詣が深かったのです。

 ただ、製作にあたっては、竹山訳と同時にいろいろな翻訳が参照されたようです。
 ねこバスチャンさまのご指摘により、ハイジがおばあさんに朗読する「宗教詩」は白水社版国松・鈴木訳だということが判明しましたし、パイロットフィルムのとき参照されたのは角川文庫版の関・阿部訳のようです。

 さて、最後になりますが、小田部さんのスケッチブックには、「じいさんの山小屋にハイキング。大いに参考になる。」(だったかな?)とも書いてありました。
 実際にあの山小屋にスタッフの皆さんが登ったのですね。当然といえば当然ですが、なんだか嬉しいです。
 
 ちなみにカリジェの絵本の山小屋は、「アルムじいさんの山小屋」そっくりなんです。
 しかも現実の山小屋はアニメに比べて小さすぎるようですが、カリジェの山小屋は一家が安心して暮らせる広さを持っています。
 窓の配置などもアニメはカリジェの方に近いようで、ここでも影響を感じたりします。
 カリジェはあの山小屋を参考にして、さらにその絵を高畑ハイジが参考にしたのかもしれません・・。

 最後になりますが、サイン会はすでにそうとう予約が入っておりました。
 最終日に行かれたのでは、とてもサインはもらえないようです。
 (私は、予約しませんでした)

 2003/8/24
ひさびさのアップです(^ ^;)