河協奏曲、西洋風中華音楽

  日本ではギャグ的なイメージが先行している中国の音楽(特に文革時代の音楽)ですが、なかなかどうして、少し恥ずかしい(?)けど泣かせるメロディーや美しい旋律てんこ盛りのいい音楽がそろっているではありませんか。これを食わず嫌いで避けてしまうと、また一つ幸福があなたの手から滑り落ちていきます。malco polo,naxos を率いるHNH International 社長 Klaus Heimann氏とハイマン夫人でもあるヴァイオリニストの西崎崇子氏がレコーディングを通じて積極的にこれら中国のクラシック音楽を紹介しています。

<目次>

・派手なピアノパートと泣かせる旋律の入り交じった傑作、「河協奏曲」
・「河協奏曲」の原曲、壮大なカンタータ「河大合唱」
・中国版「ロミオとジュリエット?」、中華的浪漫的小提琴協奏曲「梁山伯  祝英台」


<本文>

派手なピアノパートと泣かせる旋律の入り交じった傑作、「河協奏曲」
  日ビクター/RCA R4C-2032 (P)1974 (Quadraphonic LP)
     coupled with 労農行進曲(San Pei), Stars ans Stripes forever, Pini di Rome
     Eugene Ormandy/The Philadelphia Orchestra, Daniel Epstein(p), Myrray Panitz(竹笛・Bamboo Flute), Hauman Lee(琵琶・Pipa)
     ※"Yellow River Concerto" also available on 日RCA Red Seal/BMG Funhouse BVCC-38298 (CD)
       
    Left: Jacket, Center: Ormandy  紅青, Right: Daniel Epstein


  香港Naxos 8.554499 (C)1990
     Colourful Clouds, Happy Loso , Red Lines Crimson and Bright, Inner-Mongolian Folk Song, The Mermaid
     Adrian Leaper/Slovak Radio Symphony Orchestra(Brastislava), Yin Chengzong(p)
  英ASV CD CDA 1031 (P)1998
     The Moon's reflection over the second Spring, Chinese Youth Piano Concerto, Ancient & Moderen Chinese Piano Music
     Hu Bing Xu/China Central Philharmonic Orchestra, China Central Traditional Orchestra(*), Eileen Huang(p)
    

  河協奏曲」中央楽団集団創作 
   Yellow River Concerto ,Composed by Yin Chengzong, Chu Wanhua, Sheng Lihong, Liu Zhuang
     河船夫曲 Prelude:The Song of the Yellow River Boatmen
     河頌 Ode to the Yellow River
     河怨 The Yellow River in Anger
     保衛 Defend the Yellow River

  「河大合唱」(Yellow River Cantata)をピアノ協奏曲に編曲したのがこの「河協奏曲」。1970年代当時は作曲者は明らかにされず、「中央楽団集団創作」による作曲とされていた。しかし、10年前に発売されたNaxos盤では複数の作曲者が明記されている。原曲である「河大合唱」は1938〜1940の間に 光未然の詩に星海が曲を付けたものであり、当然のことながら「反日・抗日」「愛国心」の精神が強烈に刻まれており、恐らく日本では今後も殆ど演奏されないと思うので、これらのCDは貴重である。原曲は7曲だが、協奏曲は4曲にまとめられており、原曲に加え「東方紅」と「國際歌」も引用されている。「河大合唱」は発想記号的に「抗日進軍」とか「毛澤東万歳!」というフレーズがちりばめられているということだが、楽譜がないのでどこがそうなっているかはよく分からない。

  「河協奏曲」は、中国情緒と派手なピアノ技巧が盛り込まれた聞きごたえのあるもので、時々苦笑的な展開はあるものの、2曲目の「河頌」や3曲目の「河怨」などのメロディーは胸にぐっと来るものがあり、親しみやすさと感動的な面において傑作だと思う。「反日・抗日」の曲だからといって聴かないのはもったいない。すばらしいメロディーの曲として予備知識がなくても十分楽しめる。しかし、どうせなら歴史的背景を知ってから聴く方がより感動できると思う。

  さて、演奏の方だが私の手持ちは3枚。D.Epstein のormandy/philadelphia盤 と Yin Chengzong の Leaper/Brastislava盤、そして Eileen Huang のHu/China Central Philharmonic Orchestra の3枚。演奏の出来は文句なしに D.Epstein のormandy/philadelphia盤 がトップ。他の2枚も悪くないけど、相手が ormandy/philadelphia では実力の差が歴然。4曲目の颯爽とした快速テンポによる気持ち良さは他の2枚の到底及ぶところでは無い。 中古LPでしか入手出来ないのが残念だが、これは「河協奏曲」ファンなら是非入手したい逸品。1973年にormandy/philadelphia は西側のオーケストラとして初めて中国への演奏旅行を行っており、この演奏はその帰国後に録音されたもの。ormandy と 紅青との写真は歴史の重みを感じさせる。その後の紅青の運命を考えると・・・。
  それ以外のお勧めはYin Chengzong の Leaper/Brastislava演奏の Naxos盤。演奏も良いし、Yin のピアノも元気があるし安くて入手しやすい。もう1枚のEileen Huang のHu/China Central Philharmonic Orchestra はちょっと溌剌さに欠け、どちらかというと幾分穏やかな演奏。値段を考えるとNaxos盤に軍配が上がる。(2001.10.13)





河協奏曲」の原曲、壮大なカンタータ「河大合唱」
  香港Malco Polo 8.223613 (P)(C)1993
  
  上海樂團管弦樂團及合唱團、曹丁・指揮

  河合唱曲(河船夫曲,河頌,水謠,河邊對口曲,河怨,保衛河,怒吼河!)
  東方紅, 義勇軍進行曲, 國際歌, 我的祖國, 血染的風采

  中国の愛国心に満ち溢れたCDがこれ。恐らく日本国内で販売されることは無いであろう貴重盤。といっても近鉄名古屋駅のタワーレコードで注文したら手に入ったので注文すれば入手可能。香港Malco Poloは西洋風中華音楽を数多く紹介しており、これはその代表格(?)となるもの。きっと、香港や中国では人気のある盤だと思う。帯の文句がすごい・・・
  流石に勇ましい曲だが、2曲目の「河頌」はバリトンが泣かせる歌を歌うし「河怨」も感動的だ。分かりやすく感動的なこういう曲は現代では結構貴重だと思うが如何だろうか?その他、「東方紅」「義勇軍進行曲」「國際歌」(所謂、International ですな)「我的祖國」「血染的風采」等、名前をきくとつい引いてしまいがちだが、聴いてみると「なかなか良いじゃん!」という曲が揃っている。中国の長い歴史の中の現代史を紐解くものとしてもっと聴かれても良いのではないかと思う。(2001.10.13)




中国版「ロミオとジュリエット?」、中華的浪漫的小提琴協奏曲「梁山伯  祝英台」
  香港 Naxos 8.554334 (P)1992 (C)1998
      陳 鋼 及 何 占豪:小提琴協奏曲「梁山伯 及 祝英台」(The Butterfly Lovers Violin Concerto)
      民謡「街頭の音楽家」、「春の愛」、「新婚夫婦の別れ」
      西崎崇子(ヴァイオリン)、Fang Chengwe/上海音楽院交響楽団
  英EMI 7243 5 56483 2 7 中國少女
      小提琴協奏曲「梁山伯 及 祝英台」
      小提琴幻想曲 普契尼的歌劇「多特」
      1997年香港回序曲
      Vanessa-Mae, Viktor Fedotov/The Orchestra of The Royal Opera House
     
 「中国の民謡『梁山伯  祝英台』は『現世で結ばれることの無かった恋人たちが死後に蝶となり想いを遂げる』という中国では良く知られた悲恋物語だそうだが、これを題材に上海音楽院在学中の二人の青年―陳 鋼 と 何 占豪― が『中体西洋』の考えで『胡弓』を『ヴァイオリン』に、伴奏を『オーケストラ』に置き換えて越劇の音階を基礎にこのヴァイオリン協奏曲を1959年に作曲した。この伝統的戯曲を愛する若者二人が心血を注いだこの曲も「文化大革命」によって演奏されないまま時が過ぎ去っていった。で、西崎崇子氏によってこの曲が発掘され中国と香港で爆発的な広がりを見せた・・・ 」とブックレットにはある。

  「ちょっとハズカシくて美しい」中華風ロマンティシズム全開のこの曲、人に勧めるにはちょっと躊躇する苦笑的(?)展開部分もあるが、「自分だけの隠れた名曲」として楽しむにはぴったりだと思う。朝のさわやかな目覚めを想起させる導入部から美しいオーボエソロが聴こえると一気にこの「純愛世界」へ引き込まれてしまう。曲が盛り上がってくると例の苦笑的な部分が出てくるが、これは民族性の違いなのだろうか?

  この曲の手持ちは2枚。中国音楽之女王(と現地では呼ばれている)の西崎盤とMae盤(香港返還記念盤?)。入手しやすさと価格からすれば西崎盤に軍配が上がる。演奏も良いし、裏表ペラ1枚の質素だけど日本語の解説が付き、この曲の歴史的経緯や西崎氏との関わりがわかるのでお勧め。(2001.10.13)


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