− 恐怖の海釣りベスト3  


*ベスト1位
 40馬力の8人乗りの船外機を、全速力で高知県宇佐湾から仁淀川河口に向かって運転していた。それが起こったのは、河口に近づいてパワーを1.2割落としてまもなくだった。仁淀川の河口が左側に見えて、土佐湾が右側に広がっているといった状況で天気は良かった。走っていると船がだんだん海方向に、流されていった。今日は、やけに仁淀川の流れが速いのか、それとも恐ろしく潮の流れが速いのか、舵では調整できずに海側に流されていった。すぐに、パワーを上げて抜け出そうと考えた。舵を切っても反応がない、そのうち船は明らかに回転を始めた。1週まわったあたりから同乗している人の顔つきが変わったのがわかった。船はちょうど、ハンドルをいっぱいに切った状態でまわっている感じになった。こんなに流れが早いのは初めてだった。こんな潮もあるんだなと恐ろしくなった。速度を落とすことは全然考えていなかった、むしろ潮に負けないように速度を上げようと思っていたほどだった。車で最小半径でまわるのと違って、船で速度が出ているとき最小半径でまわると、やたらと船が傾く、水面が目線に近くなり、スクリューで水面が泡立ち、青い渦がわき上がる。非常に危ない状況だった。最初は声も無かった同乗者が、止めろ−。止めろ−と言いだした。声に従ったのはもう1週まわってからだった。やっと止まった。どうなったか全然 わからなかった。流れが速いのに、エンジンを切ったら転覆するのではないかという気持ちもあった。止まって確かめてみると、なんと船外機の方向を決める棒のピンがはずれていた。舵がぜんぜんきかない状態だった。ほんとに危なかった。あんな時は、すぐ止めるんだと怒られたが、ぜんぜん止まることは考えていなかった。免許をとってまもなくだった。帰りはさびきのハリガネを方向舵に巻き付けて釣りをしてから帰った。
*ベスト2位
 その日は、波浪注意報が出ていた。しかしどうしても、行きたい人がいたので出航した。いつものように燃料を確認してすべては通常どおりだった。目的地は、遠くてあまり行かない桂浜方面だった。仁淀川を過ぎたあたりから風が強くなり、おいおい大丈夫かと身の危険を感じるようになってきた。普段は、船酔いするので波とうねりのある時は釣りには出なかった。しかし、せっかくここまで来たので減速して進むことにした。ゆっくり進んでいると、突然エンジンが止まってしまった。原因が分からなかった。強風の中では進んでないと、危ないのは本を読んで知っていた。ある人は、泳いでもみんなを助けると言い出したが、ここでこんなに荒れていては、岸の方は近づけないだろうと思った。しばらく原因を捜した。やっと原因が分かった。ガス欠だった。出航の時、燃料を確認した人が満タンだと言っていたのは予備タンクだった。燃料だとは思わなかった。船体のタンクは、ほとんど空だったようだ。今まで、出航前は予備が空だったことしかなかったのですっかり安心してしまった。エンジンがかかるまで結構時間がかかった。一度空になるとパイプに十分燃料を行き渡せるのに時間がかかる。強風の中で壊れたかと思ったが、どうにか動いてくれた。風が強いのでこれ以上進むのはあきらめて、ゆっくりと帰ることにした。それでも波が船中まで吹き込んでくるので、乗船者を改めて均等に配置し直して慎重に進んだ。戻る途中、風はだいぶあったが、その日は仁淀川河口で釣ることにした。その日は、ムロアジが餌なしで、カブラにおもしろいようにかかってきた。後で思うと、あれ以上進まなくて助かったという結論になった。ムロアジはひものにして食べた。初挑戦にしては上出来だった。
*ベスト3位
 その日はいい天気だった。午後の3時ぐらいだったか、帰るにはまだ少し早くて、もう少しがんばって最後にちょっとだけ釣りたい気分だった。遠くでウサギが飛びはじまった。白波がたつとはこう言うことかと思った。見たのはこれが最初だった。高知弁では”ウサギが跳びゆう”と言う。危ないかも知れないので、急いで切り上げて帰ることにした。それでも片づけが済む頃には状況は一変していた。波が高く、風も強い。いつものように船を真っ直ぐ進ませようとするが、船体がうねってまっすぐ進まない。ちょうど丸めた大きなカーペットがうねっりながら、左の土佐湾側から押し寄せてくる感じだった。海の上をまっすぐ行こうとするが滑り落ちてしまう感じだった。滑り落ちると世界が変わってしまう、海の底に船ごと埋められてしまうのではないかという恐怖感と、次に波の上に押し上げられるときの船の角度といったら、今にも転覆してもおかしくなかった。それでも、時々は静かな波もくるが急激に状況は悪くなった。経験者がジグザグに、沖に向かって、岸に向かってを繰り返して帰るようにアドバイスしてくれた。岸に近づきすぎるとかえって危なかった。この方法は、横波は受けずらく正解かも知れない。時間はかかったがどうにか帰ってこられた。急変とはこんなことをいうのかと納得した。海は恐ろしい。

おまけ

 船宿で船を借りて乗り込むと、燃料が入ってなかった。しばらく待ちぼうけ。”泥棒捕まえて縄を縫い”状態。入れ物を持ってガソリンを買いに行く後ろ姿が目に浮かぶ。次から船を借りるときは、最初に受付で燃料満タンを確認するようにした。行ってみると予備タンクが空のときもあった。船で1日走り回っても予備タンクまでガソリンを使わないので要求はあきらめた。
 普段無くても気にならないが、使うとき無いと困るのが玉編みだ。なんと不幸にも大物が釣れたらなかった。普段はあるのに!ビニールの道具入れですくったら寸前でバレて逃げられた。以後何事も自分で確認するようになった。常識か!?

船宿で