誰よりも綺麗な人へ


ドラマの撮影が立て続けに入っている葛山の携帯電話がなったのは,昼を廻ったところだった。
TV局の控え室で電話を取った葛山の耳に飛びこんできたのは,愛しい男の声で……。
『忙しい所,すみません。あの……今夜,空いてますか?』
「今夜?」
今日のスケジュールを思い出してみる。
「撮影が順調に行けば,10時過ぎには終わるかなあ。なんで?」
受話器の向こうでため息が聞える。
『あのねえ,今日は何日か覚えていますか?』
しばらくの沈黙の後,
「ああ!!」
『そうですよ,葛山さんのお誕生日ですよ』
「……そうかあ」
『だからね,お祝いしようと思って』
いいでしょ? と彼に言われたら拒む事など出来るわけがない。
「判った。そしたらどこで会おうか?」
『TV局の前で待っていますよ。葛山さんと行きたい所があるんです。車でしょ?』
「うん」
『じゃあ,10時頃に』
そう言って,電話は切れた。



予想していたよりも早く仕事が終わった葛山は,慌てて帰り支度をしてTV局の駐車場へ向かう。
するとすでに自分の愛車の前にオダギリは待っていた。走って駆け寄る。
「あ! お疲れ様でした」
にっこり笑うオダギリに,
「いつから待ってたん?」
「う〜ん……」
腕時計を見るが,すぐに目を離し,またにっこりと笑う。
「ま,いいじゃないですか。そんな事は」
「ずっと待ってたんか?」
「いいからいいから。さ,時間が勿体無いですよ」
オダギリに促されて運転席に潜りこみ,エンジンをかける。オダギリは,すでに指定席になってしまっている助手席に座ると,シートベルトを締めた。
「どこか行きたい所があるって言うてたな」
「はい。俺の言う通りに走ってください」
「良いけど……俺,明日も仕事やぞ?」
「俺だって仕事ですよ。大丈夫。ちゃんと帰れる場所ですから」


オダギリに言われるまま車を走らせる葛山。都心部をしばらく走らせていると,
「そこ。そこのビルの駐車場に入ってください」
「え?」
てっきり遠くまで行くのかと思っていた葛山は,オダギリの言葉に驚いてビルを見上げる。そこは都内の中でもかなりの高層ビルだった。大手企業が多数入っているそのビルは,彼らには訪れる機会が少ないと言ってもいいビルだ。
「葛山さん」
「え? ……ああ」
葛山はビルの地下駐車場に車を入れた。そしてオダギリに手を引かれて,エレベーターに乗って最上階まで上がる。
「なあ,勝手に入って良いのか?」
オダギリは腕時計を見る。
「まだ大丈夫ですよ。ここの最上階は展望階になっているんですよ。結構知られていませんけどね」
やがてエレベーターが着いた事を知らせる音がチンとなった。
エレベーターから降りた葛山は眼前に,広がった都会の夜景の美しさに目を奪われた。
「うわあ!」
思わず歓声を上げて窓の傍に走り寄る。長い高速道路に車のテールランプが作る光の帯。高層ビルに灯る窓の明かり。色とりどりのネオン。
大きな目をキラキラと輝かせて見つめる葛山を,オダギリは嬉しそうに見つめる。
「葛山さん」
呼ばれて振り返った彼の目の前にグラスが差し出される。
「え?」
「お祝いしましょう」
そして赤い液体がグラスに注がれる。
「……これ……」
オダギリは自分のグラスにもワインを注ぐと,グラスを愛しい人に差し出す。
「お誕生日おめでとう,信吾さん」
にっこり笑うオダギリ。葛山は瞬間真っ赤になる。
「……あ,ありがとう……でも」
「何?」
「ついに30の大台やぞ?」
「だから何?」
「もうおっさんやんか」
「こんなに可愛くて俺の事を煽れるおっさん,見た事ないですよ?」
「あお……!?」
「だって,貴方のことを考えると,夜も眠れなくなるんだもん」
そして唇を尖らせる。オダギリはゆっくりと窓に近づき,葛山の隣に並ぶ。
「ここね,前に共演した俳優さんに聞いたんですよ。『都内に穴場のデートスポットがある』って。で,貴方と来たいなあって思ってたんだけど,お互いに忙しいでしょ? 今までゆっくり過ごす事も出来なかったし。
で,貴方の誕生日に来ようと思っていたんですよ」
オダギリは夜景に視線を移す。
「天気も良いから夜景が綺麗に見えますね。あ! だけど」
オダギリは葛山を見る。
「1番綺麗なのは信吾さんだよ?」
葛山は真っ赤になったまま,オダギリに近寄り,彼の胸に顔を埋める。
「信吾さん?」
「……お前なア……そういう事は男に言うもんと違うやろ?」
「そう? だって俺は嘘,つけないもん」
葛山の柔らかい髪に顔を埋める。
「もう一度言わせてね」
そして彼の耳にそっと囁く。

「お誕生日おめでとう。産まれて来てくれて,俺と会ってくれて,俺を愛してくれて有難う」


                                    ― END ―


4月7日は葛山信吾さんのお誕生日です。ついに30歳です。おめでとう!!(←嫌味じゃないです)
本当なら,『利家とまつ』を見ている2人を書こうと思ったんですが,ほとんど出ていなかったし(T_T)。
慌てて書いたんで,ジョー君の誕生日話よりもボロボロになりました(大汗)。

しかし毎度毎度タイトルに悩みます。
あ〜,こういう所でボキャブラリーの無さがバレル訳やね(^_^;)。


NOVEL